「はかる」という言葉を聞いたとき、「図る」と「諮る」、どちらの漢字を思い浮かべますか?
意味が全く異なるこの二つの言葉ですが、意外と混同して使ってしまいがちですよね。
計画や企てを進めるのか、それとも誰かに意見を求めるのか、この違いを理解すれば、もう迷うことはありません。この記事では、「図る」と「諮る」の核心的な意味から、具体的な使い分け、さらには「測る」「計る」「量る」といった他の「はかる」との違いまで、分かりやすく解説していきます。
これを読めば、あなたの日本語表現が一段と正確になること間違いなしですよ。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「図る」と「諮る」の最も重要な違い
基本的には、目的達成のために計画したり試みたりするのが「図る」、特定の相手に意見を求めたり相談したりするのが「諮る」と覚えるのが簡単です。「図る」は行動や計画が中心、「諮る」はコミュニケーションが中心とイメージすると良いでしょう。
まず、結論からお伝えしますね。
「図る」と「諮る」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
項目 | 図る | 諮る |
---|---|---|
中心的な意味 | ある事が実現するように企てる。計画する。試みる。 | ある事について、意見を尋ね求めたり、相談したりする。 |
行為の対象 | 目的、計画、解決策など | 人、会議、委員会など(相談相手) |
ニュアンス | 目的達成への意図、企て、試み | 意見交換、相談、問いかけ |
関連する言葉 | 計画する、企てる、目指す、試みる | 相談する、尋ねる、問う、意見を求める |
簡単に言うと、何かを達成しようと計画したり、やってみたりするのが「図る」で、誰かに「どう思いますか?」と意見を聞いたり相談したりするのが「諮る」というイメージですね。
例えば、会社の業績を上げるために合理化を「図る」必要があり、その具体的な方法について役員会に「諮る」といった使い分けになります。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「図る」の「図」は地図や設計図のように“計画する”意味合いを持ちます。「諮る」の「諮」は“言葉で問い訪ねる”ことを意味し、相談や意見交換のニュアンスが強いです。漢字の成り立ちを知ると、意味の違いがより深く理解できますね。
なぜこの二つの「はかる」に違いが生まれるのか、それぞれの漢字が持つ意味を探ると、その理由がより鮮明になりますよ。
「図る」の成り立ち:「図」が示す“計画を立てる”イメージ
「図る」の「図」という漢字は、もともと地図や設計図のように、物事を計画したり、目指す形を描いたりすることを意味します。
「意図」「構図」「図面」といった言葉からも、計画性や目的意識が感じられますよね。
このことから、「図る」には、目標を達成するために計画を立て、それを実行しようと試みるというニュアンスが強く込められているのです。
何かを実現しようとする強い意志や、企てといった意味合いを持つと考えると分かりやすいでしょう。
「諮る」の成り立ち:「諮」が示す“問い訪ねる”イメージ
一方、「諮る」の「諮」という漢字は、「言(ごんべん)」に「次」が組み合わさっています。
これは、言葉(言)を交わして、物事の筋道(次)を立てる、つまり「問い訪ねる」「相談する」という意味を表しています。
「諮問(しもん)」という言葉が、専門家などに意見を求めることを意味するように、「諮る」は相手に意見やアドバイスを求め、共に考えるというコミュニケーションの側面が強い言葉なのです。
漢字の成り立ちを考えると、行動や計画に重きを置く「図る」と、相談や意見交換に重きを置く「諮る」の違いが、よりイメージしやすくなったのではないでしょうか。
具体的な例文で使い方をマスターする
ビジネスでは、目標達成に向けた施策は「合理化を図る」、会議での意見交換は「委員会に諮る」のように使い分けます。日常では、「解決を図る」のように問題解決を試みる場合、「専門家に諮る」のように相談する場合に使います。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスシーンと日常会話、そして間違いやすいNG例を通して、使い方をしっかりマスターしましょう。
「計画するか、相談するか」を意識すれば、使い分けは難しくありませんよ。
ビジネスシーンでの使い分け
目的達成のための行動なのか、意見を求める行為なのかを考えましょう。
【OK例文:図る】
- コスト削減を図るため、新たな仕入れ先を開拓した。
- 業務効率化を図るべく、RPAの導入を検討している。
- 早期の市場投入を図り、競合他社に先んじたい。
- 関係各所との連携を図り、プロジェクトを成功に導く。
- 社員のスキルアップを図る目的で、研修制度を充実させた。
【OK例文:諮る】
- 新規事業の展開について、経営会議に諮る予定だ。
- この件に関しては、まず法務部の意見に諮るべきだろう。
- 予算案の承認を得るため、役員会に諮ります。
- 広く意見を募るため、全社員にアンケートで諮ることにした。
- 最終決定の前に、顧問弁護士に諮ってアドバイスを求める。
「図る」は具体的な行動や計画の実行を伴うことが多いのに対し、「諮る」は意思決定の前段階として、他者の意見を求める場面で使われるのが特徴ですね。
日常会話での使い分け
日常会話でも、基本的な考え方は同じです。
【OK例文:図る】
- 近隣トラブルの円満な解決を図るため、話し合いの場を設けた。
- 健康増進を図るために、毎日ウォーキングを始めた。
- 不用品の再利用を図り、ゴミの減量に努めている。
- 彼は自己の利益を図ることしか考えていない。
- 自殺を図る(※このような重い意味合いで使われることもあります)
【OK例文:諮る】
- 子供の進路について、担任の先生に諮った。
- 大きな買い物の前に、家族に諮って同意を得た。
- どちらの旅行プランが良いか、友人に諮ってみた。
- この問題は、一度専門家に諮る必要があるかもしれない。
- 地域の活性化策について、住民集会で諮ることになった。
「図る」は目的を達成しようとする試み、「諮る」は誰かに意見を求める行為、という使い分けがここでも見て取れますね。
これはNG!間違えやすい使い方
意味が通じそうで、実は不自然になってしまう使い方を見てみましょう。
- 【NG】会議の参加者に、資料の配布を諮る。
- 【OK】会議の参加者に、資料の配布方法について諮る。
- 【OK】会議の参加者に、資料を配付する。(※「配付」がより適切)
資料を配るという行為そのものは、意見を求める対象ではありませんよね。「どのように配るか」という方法について意見を求めるなら「諮る」を使えます。
ちなみに、会議の参加者という特定の人に配るのであれば、「配付」の方がより適切な漢字になりますね。(詳細は「配布」と「配付」の違いの記事で詳しく解説しています。)
- 【NG】プロジェクトの成功を諮る。
- 【OK】プロジェクトの成功を図る。
- 【OK】プロジェクトの進め方について、チームメンバーに諮る。
プロジェクトの成功は、計画し、目指し、試みるものなので「図る」が適切です。「諮る」を使うなら、誰に何を相談するのかを明確にする必要があります。
【応用編】似ている言葉「測る」「計る」「量る」との違いは?
同じ「はかる」でも、「測る」は長さ・高さ・面積などを、「計る」は時間・数・程度などを、「量る」は重さ・容積などを調べる際に使います。これらは具体的な数値を調べる行為であり、計画や相談を意味する「図る」「諮る」とは根本的に異なります。
「はかる」と読む漢字は、「図る」「諮る」以外にもたくさんありますよね。
特に「測る」「計る」「量る」は、日常生活でもよく使うのではないでしょうか。
これらの違いも整理しておきましょう。
- 測る(はかる):長さ、高さ、深さ、広さ、面積、距離、角度、速度、温度などを調べる場合に用います。(例:身長を測る、土地の面積を測る、角度を測る)
- 計る(はかる):時間、時刻、数量、人数、程度、タイミングなどを数えたり、見当をつけたりする場合に用います。(例:時間を計る、人数を計る、タイミングを計る)
- 量る(はかる):重さ、容積、体積などを調べる場合に用います。(例:体重を量る、米の量を量る)
これらの「はかる」は、いずれも具体的な数値を調べたり、見積もったりする行為を指します。
目的達成を企てる「図る」や、意見を求める「諮る」とは、意味が全く異なることが分かりますね。
「図る」と「諮る」の違いを公的な視点から解説
公用文、つまり役所などが作成する文書においては、言葉の使い分けが国民にとって分かりにくい場合があるため、類似の言葉はどちらか一方に統一したり、より平易な表現に言い換えたりする傾向があります。文化庁の指針などでは、「諮る」は場合によって「相談する」「意見を聞く」など、より分かりやすい言葉への言い換えが推奨されることがあります。
実は、「図る」と「諮る」の使い分けは、公用文(法律、条例、役所の文書など)の世界でも意識されています。
公用文は、国民全体に正確に、かつ分かりやすく情報を伝えることを目的としています。そのため、意味が似ていて混同しやすい言葉については、使い方に一定のルールや指針が示されることがあります。
文化庁が示す「公用文作成の考え方」などによると、専門用語や紛らわしい言葉は避け、できるだけ平易な表現を用いることが推奨されています。
「図る」については、「解決を図る」「合理化を図る」のように、計画や目的達成の意図を示す際に使われますが、文脈によっては「~することを目指す」「~しようと努める」のような言い換えも検討されます。
一方、「諮る」は、やや硬い表現と捉えられることがあり、「相談する」「意見を聞く」「検討をお願いする」といった、より日常的な言葉に言い換えられることが多いようです。
例えば、「審議会に諮る」は「審議会で相談する」や「審議会に意見を求める」と言い換えることで、より多くの人に意味が伝わりやすくなりますよね。
言葉の厳密な使い分けも大切ですが、公的な文書においては特に「相手にどう伝わるか」という分かりやすさの視点が重要視されるわけですね。詳しくは文化庁の国語施策のページなどでご確認いただけます。
僕が「図る」と「諮る」を混同して赤面した体験談
僕も新人時代、「図る」と「諮る」の使い分けで恥ずかしい思いをした経験があります。
配属された部署で、初めて大きなプロジェクトの企画書を作成することになったときのことです。企画内容は練りに練って自信があったのですが、承認を得るためには、関係部署の部長クラスの方々に事前に根回しをしておく必要があると先輩からアドバイスを受けました。
そこで僕は、各部長にアポイントを取り、企画内容を説明して回りました。そして、その結果をまとめた報告書の最後に、こう書いたのです。
「本企画の実施に向けて、関係各部長への説明を図りました」
自分としては、「計画を進めるために行動した」というニュアンスで「図る」を使ったつもりでした。しかし、報告書を読んだ上司からは、少し困ったような顔でこう指摘されました。
「うーん、君がやったのは、企画内容を説明して、部長たちの『意見を聞いた』り『相談した』りしたんだろ?それなら、ここは『図る』じゃなくて『諮る』を使うべきじゃないかな。『図る』だと、君が一方的に計画を進めようとした、みたいにも読めてしまうよ」
指摘されて初めて、自分の言葉選びが状況に全く合っていなかったことに気づきました。「計画」と「相談」の意味合いを取り違えていたのです。各部長に丁寧に説明して回ったつもりが、報告書上ではなんだか強引な進め方をしたかのように受け取られかねない…。そう思うと、顔から火が出るほど恥ずかしかったですね。
この経験から、言葉一つで相手に与える印象が大きく変わってしまうこと、そして行動そのものだけでなく、その行動の意図や目的を正確に表現することの重要性を痛感しました。
それ以来、特にビジネス文書では、言葉のニュアンスをより慎重に吟味するようになりました。
「図る」と「諮る」に関するよくある質問
「問題解決を図る」と「問題解決を諮る」はどちらが正しいですか?
「問題解決を図る」が一般的で自然な表現です。「図る」には「実現しようと試みる」という意味があるため、問題解決に向けて計画し、行動することを表します。「問題解決を諮る」だと、「問題解決という事柄について誰かに相談する」という意味になり、文脈によっては使えますが、解決行動そのものを指す場合は「図る」が適切です。
目上の人に意見を求める場合はどちらを使いますか?
目上の人に意見を求めたり相談したりする場合は「諮る」を使います。「諮」には「問い訪ねる」という意味が含まれており、相手に敬意を払いながら意見を尋ねるニュアンスに適しています。「課長に企画内容を諮る」のように使います。
「便宜を図る」の「はかる」はどちらの漢字ですか?
「便宜を図る」と書きます。これは、相手にとって都合が良いように、うまく取り計らってあげる、手助けをする、という意味合いで使われます。「便宜」という目的を実現するために「企てる・取り計らう」ニュアンスから「図る」が用いられます。
「図る」と「諮る」の違いのまとめ
「図る」と「諮る」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は行為の内容で使い分け:目的達成のための計画や試みなら「図る」、他者への相談や意見求めなら「諮る」。
- 漢字のイメージが鍵:「図」は“計画”、“企て”、「諮」は“問い訪ねる”、“相談”のイメージ。
- 迷ったら文脈で判断:「計画・試みる」意図が強ければ「図る」、「相談・意見を求める」意図が強ければ「諮る」。
- 他の「はかる」との違いも意識:「測る」(長さ等)、「計る」(時間・数等)、「量る」(重さ等)は具体的な数値を調べる行為であり、「図る」「諮る」とは異なる。
言葉の背景にある漢字のイメージを掴むと、機械的な暗記ではなく、感覚的に使い分けられるようになりますね。特にビジネスシーンでは、この二つの言葉を的確に使い分けることで、あなたの意図がより正確に伝わるはずです。
これから自信を持って、適切な「はかる」を選んでいきましょう。言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、漢字の使い分けの違いをまとめたページもぜひご覧ください。