座学は「講習」?実践は「研修」?意味の違いを理解する

「講習(こうしゅう)」と「研修(けんしゅう)」、どちらも何かを学ぶ場を指す言葉ですが、そのニュアンスや目的には違いがありますよね。

ビジネスシーンで案内状を作成したり、自身のスキルアップについて話したりする際に、「あれ、どっちを使うのが適切だっけ?」と迷った経験はありませんか?

知識や技術を教え授かるのが「講習」、職務に必要なスキルを実践的に磨くのが「研修」、この基本的な違いを押さえることがポイントです。

この記事では、「講習」と「研修」の核心的な意味の違いから、漢字の成り立ち、具体的な使い分け、さらには「セミナー」などの類語との比較まで、分かりやすく解説していきます。これを読めば、もう二度と迷うことなく、状況に応じて適切な言葉を選べるようになりますよ。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「講習」と「研修」の最も重要な違い

【要点】

基本的には、特定の知識や技術を座学中心で学ぶのが「講習」、業務に必要なスキルや能力を実践を通して身につけるのが「研修」です。「講習」は知識の伝達、「研修」は能力開発・スキルアップに主眼が置かれています。

まず、結論からお伝えしますね。

「講習」と「研修」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目 講習 (こうしゅう) 研修 (けんしゅう)
中心的な意味 学問・技芸などを教え授けること。 職務上必要とされる知識や技能を高めるために、ある期間特別に勉強や実習をすること。
主な目的 特定の知識や技術の伝達・習得。 職務遂行能力の向上、スキルアップ、知識・技術の深化。
形式・内容 座学、講義形式が中心。特定のテーマについて学ぶ。 講義に加え、実習、演習、グループワーク、OJTなど実践的な内容を含むことが多い。
対象 特定の資格取得希望者、一般市民、初心者など幅広い。 企業の従業員、専門職など、特定の職務に就いている(就く予定の)人。
期間 比較的短期間(数時間~数日)が多い。 短期間のものから長期間(数週間~数ヶ月)にわたるものまで様々。
ニュアンス 教わる、学ぶ、知識を得る。 磨く、修める、実践する、能力を高める。

一番分かりやすい違いは、「講習」が主に座学で知識を“教わる”場であるのに対し、「研修」は実習などを通してスキルを“磨き修める”場である、という点ですね。

例えば、運転免許を取得するための学科の時間は「講習」、新入社員が配属先で先輩について仕事を覚えるのは「研修(OJT)」といったイメージです。

なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む

【要点】

「講習」の「講」は“説明する”、「習」は“ならう”で、知識伝達の側面が強いです。「研修」の「研」は“磨く”、「修」は“修める”で、能力を磨き上げる実践的な側面が強調されます。漢字の意味が、それぞれの言葉のニュアンスの違いをよく表していますね。

なぜこの二つの言葉に違いが生まれるのか、それぞれの漢字が持つ意味を探ると、その理由がより鮮明になりますよ。

「講習」の成り立ち:「講」じて「習」う知識伝達のイメージ

「講習」の「講」という漢字は、「講義(こうぎ)」「講演(こうえん)」といった言葉にも使われるように、「物事の意味や道理を説き明かす」「説明する」という意味を持っています。

「習」は、「学習(がくしゅう)」「練習(れんしゅう)」のように、「ならう」「まなぶ」という意味ですね。

つまり、「講習」は、先生や講師が説明する(講じる)内容を、参加者が習う(習う)という、知識や技術が一方通行で伝達されるイメージが強い言葉なのです。

「研修」の成り立ち:「研」き「修」めるスキル習得のイメージ

一方、「研修」の「研」という漢字は、「研究(けんきゅう)」「研磨(けんま)」のように、「とぐ」「みがく」「物事を深くきわめる」という意味を持っています。

「修」は、「修了(しゅうりょう)」「修得(しゅうとく)」「修行(しゅぎょう)」のように、「おさめる」「身につける」「正しくする」といった意味合いがあります。

この二つの漢字が組み合わさることで、「研修」は、単に知識を受け取るだけでなく、自ら深く探求し(研)、実践を通して技術や学問をしっかりと自分のものにする(修める)という、より能動的で実践的な学びのニュアンスが生まれるのです。

漢字の成り立ちを知ると、「講習」の座学的なイメージと、「研修」の実践的なイメージの違いが、よりはっきりと感じられるのではないでしょうか。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

ビジネスでは、新技術の説明会は「講習」、新入社員のOJTは「研修」と使い分けます。日常では、料理教室は「講習」、インターンシップは「研修」のような使い方が一般的です。「講習」を実践的なスキル習得の場に使うのは不自然です。

言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。

ビジネスシーンと日常会話、そして間違いやすいNG例を通して、使い方をしっかりマスターしましょう。

「知識を教わるのか、スキルを磨くのか」を意識すれば簡単ですよ。

ビジネスシーンでの使い分け

従業員の学びの場について話すとき、その目的や形式に合わせて使い分けましょう。

【OK例文:講習】

  • 新しく導入された会計ソフトの操作講習を受ける。
  • 情報セキュリティに関する全社員必須の講習会が開催される。
  • フォークリフトの運転資格を取得するための講習に参加した。
  • コンプライアンス講習で、企業倫理について学んだ。

【OK例文:研修】

  • 新入社員研修で、ビジネスマナーの基本を学んだ。(座学+ロールプレイングなど)
  • 海外赴任予定者向けの語学研修が実施される。
  • リーダーシップ研修を通して、マネジメント能力を高めたい。
  • 配属後は、OJT(On-the-Job Training)による実務研修が中心となる。
  • 専門知識を深めるため、外部機関での研修に参加する。

「講習」は特定の知識や操作方法を学ぶ場面、「研修」はより広範な能力開発や実践的なスキル習得を目指す場面で使われることが多いですね。

日常会話・学びの場での使い分け

日常生活や習い事などでも、この使い分けは同様です。

【OK例文:講習】

  • 地域の公民館で、初心者向けのパソコン講習が開かれている。
  • 運転免許更新時の高齢者講習を受けた。
  • 応急手当の方法を学ぶ救命講習に参加した。
  • 料理教室で、プロの技を学ぶ特別講習が開催されるそうだ。

【OK例文:研修】

  • 医学生は、大学病院で臨床研修を受ける。
  • 教師になるために、教育実習という名の研修期間がある。
  • インターンシップは、学生にとって貴重な職業研修の機会だ。
  • ボランティアスタッフ向けの事前研修が行われた。(説明+実技など)

資格取得や特定の技術・知識の習得が目的の場合は「講習」、職業訓練や実践的な能力向上が目的の場合は「研修」と考えると分かりやすいですね。

これはNG!間違えやすい使い方

意味が通じそうで、実は不自然に聞こえるかもしれない使い方を見てみましょう。

  • 【NG】新入社員に、電話応対の講習を受けさせる。
  • 【OK】新入社員に、電話応対の研修を受けさせる。

電話応対は、知識だけでなく、実際にやってみるロールプレイングなどの実践が重要ですよね。そのため、「研修」の方がより適切な表現です。「講習」だと、座学で電話のかけ方の説明を聞くだけ、というイメージになってしまいます。

  • 【NG】安全運転研修の案内が届いた。(免許更新時の義務的なもの)
  • 【OK】安全運転講習の案内が届いた。
  • 【OK】プロドライバー向けの運転技術向上研修。(実践的なトレーニング)

免許更新時に義務付けられているものは、主に交通法規の確認や適性検査など、知識の再確認や指導が中心のため「講習」が一般的です。もし、運転技術そのものを実践的に向上させるトレーニングであれば「研修」となります。

このように、内容が座学中心か、実践を含むかで使い分けるのが基本ですが、時には慣習的に使われている場合もあるので、少し注意が必要ですね。

【応用編】似ている言葉「セミナー」「勉強会」との違いは?

【要点】

「セミナー」は特定のテーマについて専門家が講演し、参加者との質疑応答も含むことが多い形式です。「勉強会」は参加者同士が主体的に学び合う、より小規模で双方向性の高い集まりを指します。「講習」は一方的な知識伝達、「研修」は実践的スキル習得、「セミナー」は専門テーマの講演・質疑応答、「勉強会」は参加者主体の学び合い、と区別できます。

「講習」や「研修」と似たような学びの場を指す言葉に、「セミナー」や「勉強会」がありますね。これらの違いも理解しておくと、より適切な言葉を選べます。

  • セミナー:特定のテーマについて、専門家や経験者が講演形式で知識や情報を提供する集まりを指すことが多いです。「講習」と似ていますが、「セミナー」の方が質疑応答やディスカッションなど、参加者との双方向的なやり取りが含まれる場合があります。また、比較的新しい知識やトレンド、専門的なノウハウを扱うことが多い傾向があります。(例:最新マーケティングセミナー、資産運用セミナー)
  • 勉強会:特定のテーマに関心を持つ人々が自主的に集まり、互いに知識や経験を共有し、学び合う場を指します。「講習」や「セミナー」のような明確な講師・生徒の関係ではなく、参加者全員が主体的に関与する、よりインフォーマルで小規模な集まりであることが多いです。(例:プログラミング勉強会、読書勉強会)

使い分けをまとめると、

  • 講習:先生から生徒へ、特定の知識・技術を教わる場(座学中心)。
  • 研修:職務に必要なスキルを、実践を通して磨き修める場。
  • セミナー:専門家から特定のテーマについて学び、質疑応答も行う場。
  • 勉強会:参加者同士が主体的に学び合う、比較的小規模な場。

といったニュアンスの違いがあります。目的や形式、参加者の関与の仕方によって、これらの言葉を使い分けることができますね。

「講習」と「研修」の違いを人材育成の観点から解説

【要点】

人材育成の観点では、「講習」は特定の知識やルールを効率的に伝達する(ティーチング)のに適しています。一方、「研修」は、座学に加えて実践や経験を通して、受講者の気づきや行動変容を促し、持続的な能力開発(ディベロップメント)を目指す場合に用いられます。目的とする学習レベルや求める成果によって使い分けられます。

企業における人材育成の文脈で「講習」と「研修」を捉えると、その目的や期待される効果の違いがより明確になります。

「講習」は、主に特定の知識、情報、ルール、手順などを効率的に、かつ均一に伝達することを目的として行われます。

例えば、新しい社内規定の説明会、法改正に関する知識のアップデート、特定のツールの操作方法の習得などがこれに当たります。講師から受講者へという一方向的な情報の流れ(ティーチング)が中心となり、受講者は主に「知る」「覚える」といった学習レベルが期待されます。

一方、「研修」は、知識の伝達に留まらず、受講者のスキル向上、意識改革、行動変容を促し、最終的には組織全体のパフォーマンス向上に繋げることを目指します。

座学だけでなく、グループワーク、ロールプレイング、ケーススタディ、現場での実習(OJT)など、多様な手法が用いられ、受講者自身の気づきや主体的な学び(ディベロップメント)が重視されます。単に知識を得るだけでなく、「できる」ようになること、そしてそれを実際の業務で「実践する」ようになることがゴールとなります。

人材育成計画を立てる際には、育成したい能力や求める学習効果に応じて、「講習」と「研修」のどちらがより適切か、あるいは両者をどのように組み合わせるかを検討することが重要になりますね。

僕が「研修」を「講習」と勘違いして恥をかいた体験談

僕も社会人になりたての頃、「講習」と「研修」の違いをよく理解しておらず、恥ずかしい思いをしたことがあります。

入社してすぐ、人事部から「新人研修のお知らせ」という案内が届きました。そこには数日間にわたるスケジュールが書かれており、「ビジネスマナー」「業界知識」「社内システム操作」といった項目が並んでいました。

僕はそれを見て、「ふむふむ、学生時代の授業みたいに、色々なことを教えてもらえるんだな。まさに『講習』だな!」と勝手に思い込んでしまったのです。

そして研修初日。最初のビジネスマナーのセッションで、講師の方が「では、早速ですが隣の人とペアになって、名刺交換のロールプレイングをしてみましょう!」と言いました。

僕は「えっ!?いきなり実践?」と面食らってしまいました。座って話を聞くだけの「講習」だと思っていたので、心の準備が全くできていなかったのです。

慌てて名刺入れを探し、ぎこちない動きでロールプレイングに参加しましたが、頭が真っ白で、うまく言葉が出てきません。周りの同期がスムーズにこなしているのを見て、さらに焦ってしまいました。

その後のセッションでも、グループディスカッションやプレゼンテーションの実践など、座学だけでなく参加型のプログラムが多く、「これは『講習』じゃなくて、まさに『研修』なんだ…!」とその違いを身をもって痛感しました。

事前に「研修」の意味をしっかり理解し、単に知識を受け取るだけでなく、積極的に参加し、スキルを習得する場なのだと心構えをしておけば、あんなに焦ることもなかったはずです。

この経験から、言葉の意味を正確に理解しておくことは、その場に臨む姿勢や準備にも影響するのだと学びました。それ以来、案内などで「講習」と「研修」の文字を見るときは、その内容や目的をより注意深く確認するようになりましたね。

「講習」と「研修」に関するよくある質問

新人向けはどちらを使いますか?

一般的に「新人研修」という言葉が使われることが多いです。新入社員には、ビジネスマナー、企業理念、基本的な業務知識など、座学だけでなく、ロールプレイングやグループワークなどを通して実践的に身につけてもらう必要があるため、「研修」がより適切な表現となります。

資格取得のための学びはどちらですか?

特定の資格取得に必要な知識や技能を学ぶ場合は、「講習」と呼ばれることが多いです。例えば、「フォークリフト運転技能講習」や「食品衛生責任者養成講習会」などがあります。試験合格に必要な知識の伝達が主な目的となるためです。

オンライン形式の場合はどう呼びますか?

オンライン形式であっても、内容や目的によって「オンライン講習」と「オンライン研修」を使い分けます。録画された講義動画を視聴する形式で知識習得が目的なら「オンライン講習」、ライブ配信でのグループワークやディスカッション、実践的な課題への取り組みなどが含まれ、スキルアップを目指すなら「オンライン研修」と呼ぶのが適切でしょう。形式ではなく、あくまで中身で判断します。

「講習」と「研修」の違いのまとめ

「講習」と「研修」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 基本は目的と形式で使い分け:知識・技術の伝達(座学中心)なら「講習」、職務スキル向上(実践含む)なら「研修」。
  2. 漢字のイメージが鍵:「講」じて「習」うのが講習、「研」き「修」めるのが研修。
  3. 対象者の違い:「講習」は幅広く、「研修」は主に職務に関連する人。
  4. 類語との違いも意識:「セミナー」は双方向性、「勉強会」は参加者主体。
  5. 人材育成での意味合い:「講習」は知識付与(ティーチング)、「研修」は能力開発(ディベロップメント)。

どちらも「学ぶ」という点では共通していますが、その目的や方法に明確な違いがあることが分かりましたね。ビジネスシーンにおいては、これらの言葉を正しく使い分けることで、意図を正確に伝え、誤解を防ぐことができます。

これからは自信を持って、「講習」と「研修」を使い分けていきましょう。言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、ビジネス用語の違いをまとめたページもぜひご覧ください。