「志望(しぼう)」と「希望(きぼう)」、どちらも何かを「のぞむ」気持ちを表す言葉ですが、そのニュアンスには明確な違いがありますよね。
特に就職活動や進学の場面でよく使われるため、「どちらを書くべき…?」と迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。
簡単に言うと、強い意志を持って特定の目標を目指すのが「志望」、こうなればいいなと漠然と願うのが「希望」です。この違いを理解すれば、あなたの気持ちをより正確に表現できるようになります。
この記事では、「志望」と「希望」の意味の違い、漢字の成り立ち、具体的な使い分け、そして類語との比較まで、分かりやすく解説していきます。これを読めば、もう迷うことはありません。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「志望」と「希望」の最も重要な違い
基本的には、特定の対象(学校、職、地位など)を目標とし、それを実現したいと強く願うのが「志望」、将来のことについて、こうあってほしい、こうしたいと願うのが「希望」です。「志望」には強い意志と具体的な目標が伴いますが、「希望」はより漠然とした願いや期待を表します。
まず、結論からお伝えしますね。
「志望」と「希望」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
項目 | 志望 (しぼう) | 希望 (きぼう) |
---|---|---|
中心的な意味 | 特定の対象(学校、会社、職種、地位など)を得ようと、強く願い目指すこと。 | こうなってほしい、こうしたいと望むこと。将来に対する願いや期待。 |
意志の強さ | 強い意志や覚悟、決意を伴う。 | 意志の強さは問わない。漠然とした願いも含む。 |
対象の具体性 | 具体的(例:〇〇大学、営業職) | 具体的でも漠然としていても良い(例:昇進、平和) |
ニュアンス | 目指す、目標とする、狙う、熱望する。 | 願う、望む、期待する、〜したいと思う。 |
使われる場面 | 就職活動、受験、昇進試験など、目標達成が明確な場面。 | 将来の展望、要望、願望など、幅広い場面。 |
一番のポイントは、「志望」には「必ずそれを成し遂げたい!」という強い意志が含まれるのに対し、「希望」は「そうなったらいいな」という程度の軽い願いも含む、という点ですね。
だからこそ、入学試験や就職活動など、強い意志を示すべき場面では「志望」が使われることが多いのです。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「志望」の「志」は“心の向かう目標”、「望」は“遠くを眺め願う”ことを意味し、目標への強い意志を表します。「希望」の「希」は“まれ、ねがう”、「望」は“のぞむ”で、実現が確かでない未来への願いというニュアンスが強まります。
なぜこの二つの言葉に異なるニュアンスがあるのか、漢字の成り立ちを探ってみると、その理由がより深く理解できますよ。
「志望」の成り立ち:「志」に込める強い意志
「志望」の「志」という漢字は、「士(行く)」と「心」を組み合わせたもので、心がある方向へ向かうこと、目標、目的意識を意味します。「意志」「志(こころざし)」といった言葉からも、強い思いや決意が感じられますよね。
「望」は、遠くを眺める、待ち望む、願い求めるという意味です。
この二つが合わさることで、「志望」は、自分の心を特定の目標にしっかりと向け、それを強く願い求めるという、明確な目的意識と強い意志を伴う言葉となるのです。
「希望」の成り立ち:「希」う未来への「望」み
一方、「希望」の「希」という漢字は、織り目が粗い布を表し、そこから「まれ」「少ない」という意味が生まれました。転じて、「こいねがう」という意味も持つようになりました。
「望」は「志望」と同じく、願う、のぞむという意味です。
「希」が持つ「まれである=実現が確かではない」というニュアンスから、「希望」は、まだ実現していない未来のことについて、こうなってほしいと願う気持ちを表す言葉として使われます。必ずしも強い意志を伴わず、漠然とした期待感や明るい見通しといった意味合いも含む、より広範な「のぞみ」を表現するのです。
漢字の成り立ちを知ると、「志望」の持つ目標への強いベクトルと、「希望」の持つ未来への漠然とした願い、というニュアンスの違いがよりはっきりとしますね。
具体的な例文で使い方をマスターする
就職活動で「第一志望は御社です」と強い意志を示す一方、「希望勤務地は〇〇です」と要望を伝えます。日常では「医者を志望する」と目標を定め、「平和な世の中を希望する」と願います。意志の強さと対象の具体性で使い分けましょう。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスシーンや日常会話での使い方、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
「強い意志で目指す」のか、「こうなればいいなと願う」のかを考えれば、使い分けは難しくありません。
ビジネスシーンでの使い分け(就職・転職・異動など)
キャリアに関する場面では、意志の強さが問われることが多いですね。
【OK例文:志望】
- 貴社への入社を強く志望しております。
- 私が営業職を志望する理由は、〇〇だからです。
- 彼は次期リーダーのポストを志望している。
- いくつか内定をいただきましたが、第一志望の企業に決めました。
【OK例文:希望】
- 希望する勤務地は、首都圏エリアです。
- 来年度の異動について、人事部への異動を希望しています。
- フレックスタイム制度の導入を希望する声が多い。
- いくつか条件を提示しましたが、あくまで希望ですので、ご検討ください。
- 早期退職を希望し、会社に申し出た。
就職活動などで特定の企業や職種を目指す場合は「志望」、勤務地や部署、制度などについての要望や願いを伝える場合は「希望」を使うのが一般的です。ただし、「異動希望」のように要望を伝える場合でも、その実現への意志が非常に強い場合は、「異動を強く志望しています」と表現することも可能です。
日常会話・進路選択での使い分け
将来の目標や願望について話す際にも、意志の度合いで使い分けられます。
【OK例文:志望】
- 息子は医学部進学を志望し、毎日勉学に励んでいる。
- 幼い頃から、パイロットになることを志望していました。
- 彼女は難関の〇〇大学を志望校に定めた。
【OK例文:希望】
- 家族全員が健康であることを希望します。
- 明日は晴れることを希望している。
- 子供たちの明るい未来を希望します。
- もう少し時間があればいいのに、と希望する。
- 全員参加を希望しますが、難しい場合はご相談ください。
具体的な進路や職業目標には「志望」、一般的な願い事や「〜だったらいいな」という気持ちには「希望」を使うと自然ですね。
これはNG!間違えやすい使い方
意味が通じそうで、少し不自然に聞こえるかもしれない使い方を見てみましょう。
- 【NG】世界平和を志望します。
- 【OK】世界平和を希望します。(または「願います」)
世界平和は個人的な努力だけで達成できる具体的な目標とは言いにくいため、「志望」を使うと少し違和感があります。これは人類共通の「願い」なので「希望」が適切です。
- 【NG】第一希望の大学に合格しました。
- 【OK】第一志望の大学に合格しました。
大学受験は、強い意志を持って特定の大学を目指す行為なので、「志望」を使うのが一般的です。「希望」だと、「もし入れたらいいなと思っていた大学」のような軽いニュアンスに聞こえてしまう可能性があります。
- 【NG】特に志望はありません。(面接で聞かれた場合)
- 【OK】現時点では、特定の部署への強い希望はありませんが、どの部署でも貢献したいと考えております。
- 【△】特に希望はありません。(場合によっては意欲がないと捉えられる可能性も)
面接などで「希望部署は?」と聞かれた際に、「特に志望はありません」と答えるのは不自然です。「志望」はその会社や職種全体への意志を示す言葉だからです。部署などの具体的な要望について聞かれているので「希望」を使うのが適切ですが、「特に希望はない」と答える場合でも、意欲がないと受け取られないような配慮が必要でしょう。
【応用編】似ている言葉「要望」「願望」との違いは?
「要望」は他者に対して何かを求めること、「願望」は強くこうありたいと願う心の中の望みです。「希望」は広く「のぞむ」ことを意味し、「要望」も「願望」も希望の一種と言えますが、「志望」はこれらとは異なり、目標達成への強い意志を伴う点で区別されます。
「志望」や「希望」と似たような「のぞむ」気持ちを表す言葉に「要望(ようぼう)」や「願望(がんぼう)」があります。これらの違いも整理しておきましょう。
言葉 | 意味 | 対象・ニュアンス | 例文 |
---|---|---|---|
志望 (しぼう) | 特定の対象を得ようと強く願い目指すこと。 | 目標達成への強い意志。対象は具体的。 | 第一志望の企業。営業職を志望する。 |
希望 (きぼう) | こうなってほしい、こうしたいと望むこと。 | 将来への願い・期待。意志の強さ・具体性は問わない。 | 昇進を希望する。平和を希望する。 |
要望 (ようぼう) | 実現してほしいと他者に強く求めること。 | 相手への要求。実現を期待する。 | 顧客からの要望に応える。改善を要望する。 |
願望 (がんぼう) | こうあってほしいと心の中で強く願うこと。 | 内面的な強い願い。実現可能性は問わない。 | 長年の願望が叶う。成功への願望を抱く。 |
「希望」が最も広い意味での「のぞみ」を表し、「要望」と「願望」はその中に含まれると言えます。
- 要望:ベクトルが他者に向かい、「〜してほしい」と求める気持ちが強い。
- 願望:ベクトルが自己の内面に向かい、「〜でありたい」「〜がほしい」と強く願う気持ちが強い。
そして「志望」は、これらの言葉とは異なり、具体的な目標を設定し、それを達成しようとする強い「意志」が核となる点で区別されますね。
「志望」と「希望」の違いを心理学・キャリア論から解説
心理学やキャリア論では、「志望」は目標設定理論における具体的で困難な目標へのコミットメントや、自己決定理論における内発的動機づけに基づく選択と関連づけられます。一方、「希望」は一般的な楽観性や未来への期待感(Hope Theory)に近い概念と捉えられます。「志望」は行動計画を伴うことが多いですが、「希望」は必ずしも行動に結びつくとは限りません。
「志望」と「希望」の違いを、心理学やキャリア選択の理論から見ると、さらに深い理解が得られます。
「志望」は、心理学における目標設定理論(Goal-Setting Theory)と深く関連しています。この理論では、明確で具体的、かつ達成が困難な目標を設定することが、高いモチベーションとパフォーマンスに繋がるとされています。「第一志望の大学に合格する」「営業職に就く」といった「志望」は、まさにこのような具体的で挑戦的な目標設定であり、それを達成しようとする強いコミットメント(関与)を示唆します。
キャリア論においても、「志望」は特定の職業や役割に対する強い動機付けや、職業的アイデンティティの形成と結びつけて考えられます。自己決定理論では、自らの価値観に基づいて主体的に選択された目標(=志望)は、内発的な動機付けを高めるとされています。
一方、「希望」は、心理学における希望学(Hope Theory)や、一般的な楽観性に近い概念と捉えられます。希望学では、希望を「目標達成への意欲(Agency)」と「目標達成経路の認識(Pathways)」から成ると考えますが、日常的な「希望」は、必ずしも具体的な経路設定や強い意志を伴わない、漠然とした未来へのポジティブな期待感も含まれます。
「平和を希望する」「健康でありたいと希望する」といった場合、それは価値ある状態への願いではありますが、それを実現するための具体的な計画や強い意志決定とは少し異なります。
このように、「志望」が目標達成に向けた具体的な意志決定や行動計画と結びつきやすいのに対し、「希望」はより広範な、未来に対するポジティブな感情や期待を表すことが多いと言えるでしょう。就職活動などで「志望理由」が重要視されるのは、単なる願望(希望)ではなく、目標達成への具体的な意志と計画性を確認したいという企業側の意図があるからなのですね。
僕が「志望」と「希望」を混同して赤面した就活体験談
僕自身の就職活動時代にも、「志望」と「希望」を混同して恥ずかしい思いをした経験があります。
初めて書く履歴書に、意気揚々と自己PRやガクチカ(学生時代に力を入れたこと)を書き連ねていました。そして、「希望職種」という欄に差し掛かったとき、ふと手が止まりました。
「希望職種か…。特にこれじゃなきゃダメっていうのは無いんだけど、いくつか書いておいた方が意欲的に見えるかな?」
そんな軽い気持ちで、僕はその会社のウェブサイトで見かけた、なんとなく響きがカッコいい部署名を3つほど、その欄に書き連ねてしまいました。しかも、見栄を張って「希望職種」ではなく、「志望職種」と書き換えて…。なぜ「志望」にしたのか? その時の僕は、「希望より志望の方が、なんかやる気ありそうじゃない?」くらいの、浅はかな考えしか持っていませんでした。
そして迎えた面接の日。面接官は僕の履歴書を見ながら、穏やかに質問を始めました。自己PRなどについては順調に答えられたのですが、問題はあの「志望職種」について聞かれた時でした。
「〇〇部、△△部、□□部を志望されていますが、特に強く志望されているのはどちらですか? また、その理由を教えていただけますか?」
僕は一瞬、頭が真っ白になりました。特に強い意志があって書いたわけではなかったので、具体的な理由など用意していません。「えっと…その…どの部署も魅力的で…」としどろもどろになっている僕を見て、面接官は少し苦笑いを浮かべ、こう言いました。
「なるほど。もしかしたら、『希望』されている、ということの方が近いかもしれませんね。『志望』というのは、強い意志を持ってそれを目指す、という意味ですから。」
その瞬間、僕は自分の言葉選びの軽率さを悟り、顔がカッと熱くなるのを感じました。ただ意欲的に見せたい一心で使った「志望」という言葉の重みを、全く理解していなかったのです。
この経験を通して、僕は言葉にはそれぞれ適切な重みやニュアンスがあり、特に自分の意志を示す場面では、その言葉が自分の本当の気持ちと一致しているか慎重に考える必要があることを痛感しました。「志望」と書くからには、なぜそれを目指すのか、具体的な理由と熱意が伴っていなければならない。安易に使うべき言葉ではなかったのです。
今でも履歴書やエントリーシートを見るたびに、あの時の赤面した自分を思い出し、言葉の選択には細心の注意を払うようにしています。
「志望」と「希望」に関するよくある質問
履歴書やエントリーシートではどちらを使うべきですか?
応募する企業や職種に対する強い意志を示す場合は「志望」を使います(例:「貴社を第一志望としております」「営業職を志望します」)。一方、勤務地、部署、待遇など、条件面での要望を伝える場合は「希望」を使います(例:「希望勤務地:〇〇」「希望年収:〇〇万円」)。使い分けることで、熱意と具体的な要望を的確に伝えることができます。
「第一志望」とは言いますが「第一希望」とはあまり言わないのはなぜですか?
「第一志望」は、数ある選択肢の中で最も強く意志を持って目指している対象(学校や企業など)を指します。受験や就職活動は、目標達成への強い意志が前提となるため、「志望」が使われます。「第一希望」という言い方も間違いではありませんが、「もし叶うなら一番嬉しい選択肢」といったニュアンスになり、「志望」ほどの強い意志や覚悟が感じられにくいため、重要な選択の場面では「第一志望」の方が一般的です。
単に「〜したい」という場合はどちらを使いますか?
具体的な目標達成への強い意志が伴わない、単なる願望や軽い気持ちの「〜したい」であれば、「希望」を使うのが自然です。「旅行に行きたいと希望している」「もう少し休みが欲しいと希望する」などです。「〜したいと志望する」という言い方は、通常あまりしません。「〜することを志望する」のように、具体的な目標(行為)を対象とします。
「志望」と「希望」の違いのまとめ
「志望」と「希望」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は意志の強さと具体性で使い分け:強い意志で具体的な目標を目指すなら「志望」、漠然とした願いや要望なら「希望」。
- 漢字のイメージが鍵:「志」は“心の目標”、「希」は“まれな願い”。
- 就活・受験では「志望」:熱意と決意を示す重要な場面では「志望」が適切。
- 条件・要望は「希望」:勤務地や待遇などの願いは「希望」で伝えるのが一般的。
- 類語との違いも意識:「要望」は他者への要求、「願望」は内面の強い願いであり、「志望」の意志とは異なる。
どちらも「のぞむ」気持ちを表しますが、その強さや対象によって使い分けることが大切ですね。特に、自分の将来に関わる重要な場面では、言葉の選択一つで相手に与える印象が変わってきます。
これから自信を持って、「志望」と「希望」を使い分け、あなたの本当の気持ちを的確に表現していきましょう。言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、心理・感情の言葉の違いをまとめたページもぜひご覧ください。