「新しいマーケティング手法を取り入れる」「この問題を解決する方法は?」
ビジネスシーンなどでよく耳にする「手法」と「方法」。どちらも何かを行うための「やり方」を指す言葉ですが、その違いを正確に説明できますか? なんとなく使い分けているけれど、実は意味合いが異なるんです。
この二つの言葉は、体系化されているか、より具体的・個別的かという点で使い分けられます。
この記事を読めば、「手法」と「方法」それぞれのニュアンス、言葉の成り立ち、そしてビジネスや日常での具体的な使い分けがはっきりとわかります。もう、資料作成や会話の中で迷うことはありません。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「手法」と「方法」の最も重要な違い
「手法」はある目的を達成するための、体系化された技術や方式を指します。一方、「方法」は物事を行うための具体的なやり方や手段を指し、「手法」よりも個別具体的で広い意味を持ちます。
まずは結論から。二つの言葉の最も重要な違いを以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
項目 | 手法(しゅほう) | 方法(ほうほう) |
---|---|---|
中心的な意味 | ある目的を達成するための、体系化された技術・方式。決まったやり方。 | 物事を行うための具体的なやり方・手段。仕方。てだて。 |
焦点 | システムや理論に基づいた、確立されたやり方。専門性・技術性。 | 個別の手順や手段。How to。 |
範囲 | 比較的限定的。特定の分野や目的における確立されたやり方。 | 広範。一般的な「やり方」全般。 |
具体性 | やや抽象的な概念(〇〇手法、〇〇メソッド)。 | より具体的な手順や行動。 |
ニュアンス | 専門的、技術的、体系的、確立されている。 | 一般的、具体的、実用的、手段的。 |
英語 | technique, method, approach, methodology | method, way, means, procedure |
簡単に言うと、名前がついていたり、ある程度確立されていたりする「型」のようなものが「手法」、もっと一般的な「やり方」全般や具体的な手順が「方法」というイメージですね。
例えば、「SWOT分析」は確立された分析の「手法」ですが、その分析を行うための具体的な手順やデータの集め方は「方法」と言えます。
なぜ違う?言葉の成り立ちからイメージを掴む
「手法」の「手」は技術や技巧、「方法」の「方」は方向や手段を示唆します。この漢字の違いが、体系的な技術と具体的なやり方というニュアンスの違いを生んでいます。
なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いがあるのか、漢字の成り立ちを見るとイメージが湧きやすくなりますよ。
「手法」の成り立ち:「手」+「法」=技術や体系的なやり方
「手法」の「手」は、文字通り「て」ですが、ここでは「技術」「技巧」「手段」といった意味合いを持ちます。「手際が良い」「手慣れたもの」といった表現にも、そのニュアンスが含まれていますね。「法」は「のり」「きまり」「やり方」を意味します。
つまり、「手法」とは、特定の目的を達成するための、技術に基づいた確立されたやり方、方式といった意味合いが元になっています。単なる思いつきのやり方ではなく、ある程度の専門性や体系性を伴う「手の内」のようなイメージです。
「方法」の成り立ち:「方」+「法」=具体的なやり方・手段
一方、「方法」の「方」は、「方向」「方面」といった意味の他に、「やり方」「仕方」「手段」という意味を持ちます。「方法」と同じ意味で「方途(ほうと)」という言葉もありますね。「法」は「手法」と同じく「やり方」です。
これから、「方法」とは、物事をある方向(目的)に進めるための具体的なやり方や手段を広く指す言葉であることがわかります。「手法」が持つような専門性や体系性への言及は薄く、より一般的で広範な「やり方」全般を示すイメージですね。
具体的な例文で使い方をマスターする
確立された分析の型は「分析手法」、具体的な会議の進め方は「会議の方法」のように使い分けます。「解決方法」は一般的ですが、「解決手法」は特定の確立されたやり方を指します。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。ビジネスシーンと日常会話での使い方を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
体系化されたやり方か、具体的な手順かを意識すると分かりやすいです。
【OK例文:手法】
- 「新しい市場を開拓するために、最新のマーケティング手法を導入した。」(体系化されたマーケティングのやり方)
- 「競合分析には、PEST分析という手法を用いることにした。」(確立された分析の型)
- 「彼は独特の交渉手法で、難しい案件を次々とまとめていく。」(彼独自の確立された技術・やり方)
- 「このソフトウェア開発では、アジャイル開発手法を採用しています。」(特定の開発方式)
- 「犯罪手法が巧妙化しており、対策が急がれる。」(犯罪を行うための特定の技術・やり口)
【OK例文:方法】
- 「この問題を解決するための具体的な方法をいくつか提案してください。」(個別の解決手順・手段)
- 「会議を効率的に進めるための良い方法はありませんか?」(会議の進め方、やり方)
- 「アンケート調査の実施方法について、詳細を詰める必要がある。」(調査を行う具体的な手順)
- 「彼に連絡を取る方法が分からない。」(連絡する手段)
- 「この機械の操作方法を教えていただけますか?」(操作の具体的な手順)
「解決方法」は一般的な問題解決のやり方を広く指しますが、「解決手法」と言うと、何か特定の名前がついた解決メソッドや、確立された問題解決の型を指すニュアンスになりますね。
日常会話での使い分け
日常会話でも考え方は同じです。「手法」は少し硬い響きになることがあります。
【OK例文:手法】
- 「彼の料理は、伝統的なフランス料理の手法に基づいている。」(確立された料理の技術・スタイル)
- 「彼女独特の表現手法が、多くの読者を魅了している。」(芸術的な表現の技術・スタイル)
- 「この庭園は、借景という造園手法を取り入れている。」(特定の造園技術)
【OK例文:方法】
- 「駅までの最も早い行き方法を教えてください。」(具体的な行き方・手段)
- 「このシミを落とす良い方法を知りませんか?」(シミ抜きの具体的なやり方)
- 「もっと簡単な計算方法があるはずだ。」(計算のやり方)
- 「彼と仲直りする方法を考えている。」(仲直りのための具体的な手段)
日常的な「やり方」については、ほとんどの場合「方法」を使う方が自然ですね。「手法」を使うと、少し専門的だったり、改まった響きになったりします。
これはNG!間違えやすい使い方
意味が逆になったり、不自然になったりする例を見てみましょう。
- 【△】「この問題の具体的な解決手法を教えてください。」
- 【OK】「この問題の具体的な解決方法を教えてください。」
具体的な個別の手順を求めているのであれば、「方法」が適切です。「手法」を使うと、何か確立された問題解決のフレームワーク(例:ロジックツリー、なぜなぜ分析など)を尋ねているようなニュアンスになります。
- 【△】「我が社は新しいマーケティング方法を導入した。」
- 【OK】「我が社は新しいマーケティング手法を導入した。」
マーケティング戦略として体系化されたやり方を導入する場合は、「手法」の方がより専門的で的確な表現になります。「方法」でも間違いではありませんが、少し曖昧で一般的な印象を与える可能性があります。
- 【NG】「駅までの行き手法は?」
- 【OK】「駅までの行き方法は?」(または「行き方は?」)
日常的な移動手段について「手法」を使うのは非常に不自然です。「方法」または「やり方」「行き方」などを使うのが適切です。
【応用編】似ている言葉「手段」「プロセス」との違いは?
「手段」は目的達成のための具体的な道具や行為、「プロセス」は目的達成までの一連の流れや工程を指します。「方法」は手段を含むより広い「やり方」、「手法」は確立されたやり方の体系という点で異なります。
「手法」や「方法」と似た文脈で使われる言葉に「手段(しゅだん)」や「プロセス(process)」があります。これらの違いも整理しておきましょう。
- 手段(Means):ある目的を達成するために用いる具体的な道具、道具的な行為、手立てを指します。「方法」と非常に似ていますが、「方法」がやり方全体を指すのに対し、「手段」はその中の具体的なアクションやツールというニュアンスが強いです。
- 例:「目的のためなら手段を選ばない」「コミュニケーション手段としてメールを使う」「最終手段」
- 関係性:「方法」>「手段」(方法は手段を含むことがある)
- プロセス(Process):ある結果に至るまでの一連の手順、工程、過程を指します。「方法」が個々のやり方やステップを指すのに対し、「プロセス」はそれらが連なった全体の流れを意識した言葉です。
- 例:「製造プロセスを見直す」「意思決定のプロセスを明確にする」「思考プロセス」
- 関係性:「プロセス」は複数の「方法」や「手順」から構成されることが多い。
まとめると、
- 手法:体系化された技術・方式
- 方法:具体的なやり方・手順(広範)
- 手段:目的のための具体的な道具・行為
- プロセス:一連の流れ・工程
という関係性になりますね。これらの言葉を使い分けることで、より精緻な表現が可能になります。
「手法」と「方法」の違いを経営学・PMの視点から解説
経営学やプロジェクトマネジメント(PM)では、「手法(Methodology)」は特定の原則や理論に基づいた体系的なアプローチを指し、「方法(Method/Technique)」はその中で用いられる具体的な技術や手順を指すことが多いです。
ビジネスの文脈、特に経営学やプロジェクトマネジメント(PM)の世界では、「手法」と「方法」は、しばしば異なる階層の概念として使い分けられます。
手法(Methodology / Approach):
これは、特定の哲学、原則、理論に基づいた、目標達成のための包括的で体系的なアプローチ全体を指すことが多いです。単なる手順の集まりではなく、その背景にある考え方や価値観を含みます。
- 例:アジャイル開発手法、リーン生産方式(手法)、シックスシグマ(品質管理手法)、デザイン思考(問題解決手法)
これらの「手法」は、特定の状況下でプロジェクトを進めたり、問題を解決したりするための、確立された枠組みや考え方のセットと言えます。
方法(Method / Technique / Procedure):
これは、上記のような大きな「手法(Methodology)」の枠組みの中で、実際にタスクを実行するための、より具体的で実践的な技術、手順、やり方を指します。
- 例:ブレインストーミング(アイデア出しの方法)、ガントチャート(進捗管理の方法)、インタビュー調査(情報収集の方法)、コーディング規約(プログラミングの具体的方法)
例えば、「アジャイル開発手法」という大きな枠組み(Methodology)の中で、「スクラム」(開発の進め方)や「ペアプログラミング」(具体的な開発方法/Technique)といった具体的な「方法」が用いられる、という関係性になります。
このように、専門分野においては、「手法」がより上位の概念(考え方や体系)を、「方法」がより下位の具体的な実行手段を指す、という使い分けが意識されることがあります。日常会話での使い分けと必ずしも一致するわけではありませんが、ビジネス文書などでこれらの言葉に触れる際には、こうした背景を理解しておくと役立つでしょう。
僕が「手法」と「方法」を混同して先輩に指摘された話
新人時代、あるプロジェクトの計画書を作成していた時のことです。僕は、プロジェクトの各段階で実施すべきことをリストアップし、「実施方法」という項目を立てて、具体的な作業手順を書き連ねていました。
例えば、「市場調査の実施方法」として、「①アンケート項目作成、②調査対象者リストアップ、③アンケート送付、④回答集計…」といった具合です。
自信満々で作成した計画書を先輩に見せたところ、すぐに赤ペンが入りました。
「ここの『実施方法』って書いてあるけど、これは単なる作業手順、つまり具体的な『方法』だよね。このプロジェクト全体を進める上での、もっと大きな『手法』、つまりどんなアプローチで進めるのか、っていう視点が抜けてるんじゃないか?」
先輩は続けました。「例えば、市場調査だって、ただアンケートを取るだけじゃなくて、どんな分析『手法』(例えば、クラスター分析とかコンジョイント分析とか)を用いるのか、あるいはインタビュー調査や文献調査といった他の調査『手法』とどう組み合わせるのか、そういう全体的な方針を示すのが『手法』だよ。君が書いたのは、その中のごく一部の具体的な『方法』に過ぎない。」
僕はハッとしました。たしかに、具体的な作業手順(方法)ばかりに目が行っていて、プロジェクト全体を貫く方針や体系的なアプローチ(手法)について、全く考えが及んでいなかったのです。
「『手法』と『方法』は違うんだぞ。『手法』は戦略レベルの話、『方法』は戦術レベルの話だと思え」という先輩の言葉が、強く印象に残りました。
それ以来、計画を立てる際には、まず「どんな手法(アプローチ)で臨むのか」という大枠を考え、その上で「具体的な方法(手順)」を詰めていく、という思考のステップを意識するようになりました。言葉の違いを理解することで、物事を考える際の視点そのものが変わった、貴重な経験でした。
「手法」と「方法」に関するよくある質問
迷ったときはどちらを使えばいいですか?
一般的な「やり方」や具体的な手順を指す場合は、より広い意味を持つ「方法」を使うのが無難です。「手法」は、ある程度体系化されていたり、専門的な技術や方式を指す場合に限定して使う方が、誤解が少ないでしょう。文脈から判断がつかない場合や、相手に専門的な知識がない可能性がある場合は、「方法」や、より平易な「やり方」を使うのが良いかもしれません。
「やり方」とはどう違いますか?
「やり方」は、「方法」とほぼ同じ意味で、物事を行うための手順や仕方を指す、最も一般的で口語的な表現です。「方法」よりもさらに広い範囲で使われ、特別な技術や体系性を意識しない場合が多いです。「手法」>「方法」>「やり方」の順に、専門性・体系性の度合いが低くなり、一般性が高くなると言えるでしょう。
英語で「手法」と「方法」はどう表現しますか?
文脈によって様々ですが、一般的に「方法」は method や way、「手法」は technique や method, approach などと訳されます。経営学や研究の文脈では、体系的なアプローチ全体を指す「手法」を methodology、その中の具体的な技術や手順としての「方法」を method や technique と区別することがあります。
「手法」と「方法」の違いのまとめ
「手法」と「方法」の違い、これで明確になりましたね!
最後に、この記事のポイントをまとめておきましょう。
- 核心的な違い:「手法」は体系化された技術・方式、「方法」は具体的なやり方・手段。
- 焦点の違い:「手法」はシステムや理論、「方法」は個別の手順。
- 範囲の違い:「手法」は限定的、「方法」は広範。
- 具体性の違い:「手法」はやや抽象的、「方法」はより具体的。
- 似た言葉との関係:「手段」は道具・行為、「プロセス」は流れ・工程。
- ビジネスでの使い分け:「手法(Methodology)」は戦略的アプローチ、「方法(Method/Technique)」は戦術的実行手順として区別されることも。
「手法」と「方法」は、似ているようでいて、その言葉が持つスコープやニュアンスが異なります。特にビジネス文書や専門的な会話では、この違いを意識することで、より的確で誤解のないコミュニケーションが可能になります。
これらの違いを理解し、自信を持って使い分けていきましょう。ビジネス用語の使い分けについて、さらに深く知りたい方は、ビジネス用語の違いまとめページもぜひ参考にしてください。