「教示」と「教授」、どちらも「教える」という意味合いで使われますが、そのニュアンスや使われる場面には明確な違いがありますよね。特にビジネス文書などでどちらを使うべきか迷った経験、あなたにもありませんか?
基本的には、具体的な方法や手順を「教え示す」のが「教示」、学問や専門的な技術などを体系的に「教え授ける」のが「教授」と覚えておくと分かりやすいでしょう。
この記事を読めば、それぞれの言葉が持つ核心的なイメージから、具体的な使い分け、さらには類義語との違いまでスッキリと理解できます。もう迷うことなく、自信を持ってこれらの言葉を使いこなせるようになりますよ。
それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「教示」と「教授」の最も重要な違い
「教示」は具体的な方法や手順、情報などを指し示すように教えること。「教授」は学問や専門的な技術などを体系立てて教え授けることを指します。対象や教える内容の専門性・体系性で使い分けるのが基本です。
まず、結論からお伝えしますね。
「教示」と「教授」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
項目 | 教示(きょうじ) | 教授(きょうじゅ) |
---|---|---|
中心的な意味 | 教え示すこと | 教え授けること |
教える内容 | 具体的な方法、手順、情報、知識など | 学問、技芸、専門的な知識・技術など(体系的なもの) |
対象 | 特定・不特定を問わないが、具体的な指示や情報伝達の相手 | 主に生徒や弟子など、学ぶ側 |
ニュアンス | 指し示す、知らせる、指示する | 体系的に授ける、学術的に教える、専門性を伝える |
使われる場面 | ビジネスでの指示、操作説明、情報提供など比較的広範囲 | 大学などの教育機関、専門分野の指導、弟子への伝授など |
ポイントは、何を教えるかという点ですね。
操作方法のような具体的な手順なら「教示」、大学で専門分野を教えるなら「教授」がしっくりきます。
「教授」の方が、より専門的で体系的な内容を、時間をかけて伝えるイメージがありますね。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「教示」の「示」は指し示す、見せるという意味。「教授」の「授」は手渡す、与えるという意味。漢字の成り立ちを知ると、「指し示す」教示と「手渡す」教授のニュアンスの違いが掴みやすくなります。
なぜこの二つの言葉に意味の違いが生まれるのか、それぞれの漢字の成り立ちを紐解くと、その理由がより深く理解できますよ。
「教示」の成り立ち:「示」が表す“指し示す”イメージ
「教示」の「示」という漢字は、「しめす」と読みますよね。
この漢字は、神様へのお供え物を置く台の形から成り立っており、「見せる」「明らかにする」「指し示す」といった意味を持っています。
「提示」「明示」「暗示」といった言葉を思い浮かべると、そのイメージが掴みやすいでしょう。
つまり、「教示」とは具体的な何かを指し示しながら、あるいは見せながら教えるというニュアンスを持っている、と考えると分かりやすいですね。
「教授」の成り立ち:「授」が表す“手渡す”イメージ
一方、「教授」の「授」という漢字は「さずける」と読みますね。
この漢字は、「手」と「受」が組み合わさっており、「手渡す」「与える」「授ける」という意味を持っています。
「授与」「授業」「伝授」といった言葉からも、何か価値あるものを相手に与えるイメージが伝わってきます。
このことから、「教授」には、知識や技術などを、相手が受け取れるように手渡すように教える、特に学問や専門的な技芸などを体系的に授けるというニュアンスが含まれるんですね。
具体的な例文で使い方をマスターする
ビジネスメールで手順を伝えるのは「教示」、大学で専門科目を教えるのは「教授」のように、場面と内容に応じて使い分けます。「教授」を日常的な簡単な事柄に使うと、やや大げさな印象になることがあります。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスシーンと日常的な場面、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
ビジネスシーンでは、具体的な指示や情報伝達の場面で「教示」がよく使われますね。「教授」は、専門的な研修や指導の文脈で使われることがあります。
【OK例文:教示】
- ソフトウェアの詳しい操作手順について、別途メールにて教示いたします。
- 先日お問い合わせいただいた件につきまして、担当者より回答を教示させます。
- 改善すべき点があれば、遠慮なくご教示ください。
- 部下に新しい業務の進め方を教示した。
【OK例文:教授】
- 新入社員向けに、業界の専門知識を教授する研修を実施します。
- 彼は長年にわたり、その分野の技術を若手社員に教授してきた。
- 〇〇先生には、特別顧問として経営戦略についてご教授いただいております。(尊敬の意味合いを含む場合)
特に目上の方にアドバイスを求める際に「ご教授ください」と言うことがありますが、これは「専門的な知識や見解を教えてください」という敬意を込めた表現ですね。
ただし、日常的な簡単なアドバイスを求める際に使うと少し硬すぎる印象になるかもしれません。「ご教示ください」の方がより一般的に使えるでしょう。
日常会話や一般的な場面での使い分け
日常会話では「教示」も「教授」もあまり頻繁には使われないかもしれませんが、意味合いとしては以下のようになります。
【OK例文:教示】
- スマートフォンの設定方法が分からず、店員さんに教示してもらった。
- 地図アプリが、目的地までの最適なルートを教示してくれた。
- 祖母に編み物の基本的な編み方を教示する。
【OK例文:教授】
- 彼は大学で歴史学を教授している。
- 有名な棋士が、弟子たちに将棋の奥義を教授する。
- 料理教室で、フランス料理の技術を教授する。
やはり「教授」は、ある程度専門的で体系的な内容に使われるのが自然ですね。
これはNG!間違えやすい使い方
意味が通じなくはないですが、少し不自然に聞こえたり、大げさに感じられたりする使い方を見てみましょう。
- 【NG】子供に自転車の乗り方を教授する。
- 【OK】子供に自転車の乗り方を教える。(または「指導する」)
自転車の乗り方は技芸ではありますが、「教授」を使うほど体系的・専門的とは言えず、やや大げさです。「教える」や「指導する」が適切ですね。
- 【NG】会議室の場所が分からないので、同僚に教授してもらった。
- 【OK】会議室の場所が分からないので、同僚に教えてもらった。(または「案内してもらった」、「教示してもらった」)
場所を尋ねるような簡単な情報伝達に「教授」は不適切です。「教える」や、少し硬い表現なら「教示」が良いでしょう。
- 【NG】部下にメールの書き方について教授した。
- 【OK】部下にメールの書き方について指導した。(または「教示」した)
ビジネススキルとしてのメールの書き方は、「指導」や具体的なポイントを「教示」する方がしっくりきます。「教授」だと学問的なニュアンスが強すぎますね。
【応用編】似ている言葉「指導」との違いは?
「指導」は、目的達成のために教え導くというニュアンスが強く、実践的なスキルや行動に焦点を当てることが多いです。「教示」は情報伝達、「教授」は体系的知識伝達、「指導」は実践的・目標達成志向の教え、と区別できます。
「教示」「教授」と似た言葉に「指導(しどう)」がありますね。これも使い分けを押さえておくと、表現の幅が広がりますよ。
「指導」は、「ある目的・方向に向かって教え導くこと」を意味します。
「教示」が具体的な情報の伝達、「教授」が体系的な知識・技術の伝達に重きを置くのに対し、「指導」は、相手をある目標に到達させるために、実践的に教えたり、アドバイスしたり、導いたりするニュアンスが強いです。
言葉 | 主な意味合い | 例 |
---|---|---|
教示 | 具体的な方法・手順・情報を教え示す | 操作方法を教示する |
教授 | 学問・技芸などを体系的に教え授ける | 大学で法律を教授する |
指導 | 目的・方向に向け、実践的に教え導く | 部下の営業スキルを指導する、論文作成を指導する |
例えば、部下に新しいソフトウェアの使い方を伝えるのは「教示」ですが、そのソフトウェアを使ってより効率的に業務を進められるようにアドバイスしたり、実践させたりするのは「指導」と言えます。
また、大学の先生が生徒に専門知識を講義するのは「教授」ですが、研究の進め方や論文の書き方を個別にアドバイスするのは「指導」の側面が強いですね。
「指導」には、相手の成長を促し、目標達成をサポートするという、より能動的で継続的な関与のイメージが含まれることが多いでしょう。
「教示」と「教授」の違いを教育学の視点から解説
教育学の分野では、「教示(Instruction)」は特定の知識やスキルを効率的に伝達するプロセスを指すことが多いです。一方、「教授(Teaching)」は、学習者の内面的な理解や思考力、時には人格形成まで含めた、より広範で深い教育活動を指す概念として使われることがあります。
少し専門的な視点になりますが、「教示」と「教授」は教育学の世界でも重要な概念として扱われています。
一般的に、英語の「Instruction」が「教示」、「Teaching」が「教授」に対応すると考えられています。
「教示(Instruction)」は、特定の知識やスキル、手順などを、明確かつ効率的に学習者に伝達するプロセスや方法論を指すことが多いようです。
例えば、マニュアルに基づいた機械の操作方法のトレーニングや、プログラミング言語の基本的な文法の説明などは、「教示」の側面が強いと言えるでしょう。学習目標が明確で、その達成度を測定しやすいのが特徴です。
一方で、「教授(Teaching)」は、単なる知識伝達にとどまらず、学習者の思考力や理解力、応用力を育んだり、時には価値観や人間性の形成に関わったりするような、より広範で複雑な教育活動全般を指す概念として使われます。
教師と学習者の相互作用や、学習環境のデザイン、学習意欲の喚起なども「教授」の重要な要素と考えられています。
もちろん、これは一つの考え方であり、研究者によって定義は異なりますが、「教示」が比較的限定的で目標指向的な教える行為、「教授」がより包括的で人間的な教育活動、という対比で捉えると、両者のニュアンスの違いがより深く理解できるかもしれませんね。
普段私たちが何気なく使っている言葉にも、学術的な背景があると思うと、少し面白いですよね。
僕が「教授」と書いてしまい、冷や汗をかいた新人時代の失敗談
言葉の使い分けって、本当に難しいですよね。僕も新人時代に「教示」と「教授」で、ちょっと恥ずかしい思いをしたことがあるんです。
配属された部署で、初めて社内システムのマニュアル作成を任された時のことです。
先輩が丁寧に操作方法を教えてくれたので、僕はその内容を分かりやすくまとめようと意気込んでいました。
そして、マニュアルの冒頭に「本マニュアルは、〇〇システムの操作方法を教授することを目的としています」と書いてしまったんです。
自分なりに「しっかり教えるぞ!」という気持ちを込めて、少しかしこまった「教授」という言葉を選んだつもりでした。
完成したマニュアルを自信満々で先輩に提出すると、先輩は苦笑いしながらこう言いました。
「気持ちは分かるけど、ここでは『教授』は大げさかな。『教示』の方がしっくりくるよ。『教授』は大学の先生とか、もっと専門的なことを教えるイメージだからね」
その瞬間、顔から火が出るほど恥ずかしかったのを覚えています。
たしかに、システム操作という具体的な手順を伝える場面で「教授」は堅苦しすぎますし、言葉の重みが内容と釣り合っていませんでした。
この経験から、言葉を選ぶときは、意味だけでなく、その言葉が持つニュアンスや使われる場面の“格”のようなものも意識しないといけないんだな、と痛感しました。
それ以来、特にビジネス文書では、言葉の選び方に慎重になり、迷ったときは辞書で意味だけでなく例文もしっかり確認するクセがつきましたね。
あなたも、もし迷ったら、その言葉が使われている具体的な場面を想像してみると、適切な言葉が見つかりやすくなるかもしれませんよ。
「教示」と「教授」に関するよくある質問
「教示」と「教授」、簡単に覚える方法はありますか?
漢字のイメージで覚えるのがおすすめです。「示」は“指し示す”なので、具体的な手順や方法を示すのが「教示」。「授」は“授ける”なので、学問や技術などを体系的に授けるのが「教授」と覚えると分かりやすいでしょう。
ビジネスメールで上司にアドバイスを求める時はどちらを使いますか?
「ご教示いただけますでしょうか」または「ご指導いただけますでしょうか」が一般的です。「ご教授いただけますでしょうか」も間違いではありませんが、相手がその分野の専門家で深い知見を求める場合や、非常に敬意を示したい場合に使うのが適切でしょう。日常的な業務のアドバイスであれば「ご教示」が無難です。
学校の先生が生徒に勉強を教えるのは「教授」ですか?
学校教育の文脈では「教授」が使われることもありますが、日常的には「教える」「指導する」の方が一般的です。「教授」は特に大学の先生(プロフェッサー)が専門分野を教える場合によく使われる言葉です。小学校や中学校の先生が生徒に算数や国語を教えることを「教授」と言うと、少し硬い印象になるかもしれません。
「教示」と「教授」の違いのまとめ
「教示」と「教授」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 教える内容で使い分け:具体的な方法・手順なら「教示」、学問・専門技術なら「教授」。
- 漢字のイメージが鍵:「示」は指し示す、「授」は授ける・手渡すイメージ。
- 場面を意識する:「教授」は大学や専門分野など、やや限定的な場面で使われることが多い。「教示」はビジネスでの指示など、より広範囲。
似ているようで、使われる場面やニュアンスが異なる「教示」と「教授」。
それぞれの言葉の背景にあるイメージを掴むことで、より的確に使い分けることができるようになります。
これからは自信を持って、適切な言葉を選んでいきましょう。言葉の正確な使い分けは、あなたのコミュニケーションをより円滑にし、知的な印象を与えてくれるはずですよ。
より詳しい語源や用法については、信頼できる辞書サイトなども参考にしてみてくださいね。