「併せて」と「合わせて」、どちらの漢字を使うべきか悩んだ経験はありませんか?どちらも「あわせて」と読むため、使い分けが少し難しいですよね。
基本的には、複数のことを同時に行うなら「併せて」、何かを一つにまとめるなら「合わせて」と覚えるのが簡単です。ただ、文脈によっては判断が難しい場合もあります。
この記事を読めば、それぞれの言葉の核心的なイメージから具体的な使い分け、さらには公用文での扱いまでスッキリと理解でき、もう迷うことはありません。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「併せて」と「合わせて」の最も重要な違い
基本的には複数の事柄を同時に行う、または付け加える場合は「併せて」、何かを一つにする、合計する、調整する、比較する場合は「合わせて」と使い分けます。迷った場合は、より広い意味を持つ「合わせて」を使うか、ひらがなで「あわせて」と書くのが無難でしょう。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けは大丈夫です。
項目 | 併せて | 合わせて |
---|---|---|
中心的な意味 | 複数の物事を同時に行う、付け加える | 一つにする、合計する、調整する、比較する |
ニュアンス | 並行して、同時に、付け加えて | 合算して、合致させて、適合させて、照合して |
使われる状況 | ・二つ以上の動作を同時に行う時 ・何かを付け加える時 |
・合計する時 ・一致させる、調和させる時 ・基準と比較する時 ・力を一つにする時 |
公用文での扱い | 「合わせて」に書き換えることもある | 広く使われる傾向 |
迷ったらひらがなで「あわせて」と書くのも一つの手ですね。文脈によってはどちらとも取れる場合や、厳密な使い分けが求められない場面では、ひらがな表記が柔らかい印象を与えます。
なぜ違う?漢字の成り立ちからイメージを掴む
「併せて」の「併」は人が並ぶ様子から“同時に行う”イメージです。一方、「合わせて」の「合」は蓋がぴったり合う様子から“一つにする、合致させる”イメージを持つと、意味の違いが分かりやすくなります。
なぜこの二つの言葉に意味の違いが生まれるのか、それぞれの漢字が持つ元々の意味(成り立ち)を知ると、その核心的なイメージが掴みやすくなりますよ。
「併せて」の成り立ち:「併」が表す“並べる・同時に”のイメージ
「併」という漢字は、「亻(にんべん)」、つまり人を表す部首と、「并」という字から成り立っています。「并」は、二人の人が並んでいる様子を表す字です。
このことから、「併」には「並べる」「一緒にする」「同時に行う」といった意味が生まれました。「併合」や「併用」といった熟語を考えると、複数のものが並び立つイメージが湧きやすいでしょう。
つまり、「併せて」は、複数の事柄が並行して存在したり、同時に行われたりするニュアンスを持つんですね。
「合わせて」の成り立ち:「合」が表す“一つにする・ぴったり”のイメージ
一方、「合」という漢字は、「亼」と「口」から成り立っています。「亼」は集める、蓋(ふた)の形を表し、「口」は器や入れ物を表します。
つまり、器とその蓋がぴったりと合う様子から、「あう」「あつめる」「一つにする」といった意味が生まれました。「合計」「合体」「一致」などの熟語からも、物が一つになったり、ぴったり重なったりするイメージが連想されますよね。
このことから、「合わせて」には、別々のものを一つにまとめたり、何かと何かをぴったり一致させたりするニュアンスが含まれているんです。
具体的な例文で使い方をマスターする
資料送付と確認依頼を同時に行うなら「併せてご確認ください」、合計金額を伝えるなら「合わせて1万円です」、意見を調整するなら「意見を合わせてください」のように使い分けます。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番わかりやすいですよね。ビジネスシーンと日常会話、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
どのような状況で「あわせる」のかを意識すると、使い分けが見えてきますよ。
【OK例文:併せて】(複数のことを同時に行う、付け加える)
- 資料をお送りします。併せて、ご確認をお願いいたします。(送付と確認依頼を同時に)
- 本日はご多忙の折、ご参加いただき、併せて貴重なご意見を賜り、誠にありがとうございました。(参加への感謝と意見への感謝を同時に)
- 来週の会議では、通常の議題に併せて、特別報告も行います。(通常の議題に特別報告を付け加える)
- 彼は営業部の部長と、併せてマーケティング部の部長も兼任している。(二つの役職を同時に持つ)
【OK例文:合わせて】(一つにする、合計する、調整する、比較する)
- 送料と手数料を合わせて、合計金額は5,500円となります。(金額を合計する)
- 皆様のスケジュールを合わせて、会議の日程を決めましょう。(スケジュールを調整する)
- 企画書の内容について、関係部署と意見を合わせておいてください。(意見を一致させる)
- この件については、前回の議事録と合わせて確認が必要です。(議事録と比較・照合する)
- チーム全員で力を合わせて、このプロジェクトを成功させましょう。(力を一つにする)
- 新しい規制に合わせて、社内規定を改定する必要があります。(規制に適合させる)
このように、具体的な行動や状態をイメージすると、どちらの漢字が適切か判断しやすくなりますね。
日常会話での使い分け
日常会話でも、基本的な考え方はビジネスシーンと同じです。
【OK例文:併せて】
- 旅行の準備として、荷造りに併せて、お土産も買っておいた。(荷造りとお土産購入を同時に)
- 彼は歌手であり、併せて俳優としても活躍している。(二つの活動を並行して行う)
- 風邪をひいたので、薬を飲むのに併せて、早めに寝ることにした。(薬を飲むことと早寝を同時に)
【OK例文:合わせて】
- 子どもたちの身長を合わせてみたら、少し伸びていた。(身長を比較する)
- 今日の服装は、靴の色に合わせてバッグを選んだ。(色を調和させる)
- みんなで歌うときは、声の大きさを合わせて歌いましょう。(音量を調整する)
- 材料AとBをよく合わせてください。(混ぜて一つにする)
これはNG!間違えやすい使い方
意味が通じることが多いですが、厳密にはどちらか一方がより自然な使い方を見てみましょう。
- 【△】ご要望に併せて対応いたします。
- 【〇】ご要望に合わせて対応いたします。
この場合、「要望」という基準に「対応」を適合させる、調整するという意味合いが強いので、「合わせて」がより自然です。「併せて」だと、要望への対応と何か別のことを同時に行うようなニュアンスにも取られかねません。
- 【△】皆さんの意見を併せて、結論を出しましょう。
- 【〇】皆さんの意見を合わせて、結論を出しましょう。
複数の意見を「一つにまとめる」というニュアンスなので、「合わせて」が適切です。「併せて」だと、意見をまとめるのではなく、ただ並べて置くような印象を与える可能性があります。
文脈によってはどちらを使っても間違いとは言えないケースもありますが、漢字の持つ本来のイメージに近い方を選ぶと、より正確な表現になりますね。
「併せて」と「合わせて」の違いを公用文の観点から解説
文化庁の指針などでは、読みやすさの観点から、同音異義語の使い分けを整理する傾向があります。「併せて」は、文脈によっては「合わせて」に書き換えたり、ひらがなで「あわせて」と表記したりすることが推奨される場合があります。
実は、「併せて」と「合わせて」の使い分けには、公的な文章(公用文)のルールも関わっています。
文化庁が示す「公用文における漢字使用等について」などの指針では、国民にとって分かりやすい文章を目指す観点から、意味が似ていて紛らしい同音異義語の使い分けを整理する方向性が示されています。
その中で、「併せて」と「合わせて」については、完全にどちらかに統一するという明確なルールはありませんが、文脈によっては「併せて」を「合わせて」に書き換えることや、どちらを使うか迷う場合はひらがなで「あわせて」と書くことが、一つの考え方として示唆されています。
例えば、「関係書類を併せて提出してください」のような、単に「一緒に」や「付け加えて」という意味合いが強い場合は、「合わせて」やひらがな表記でも意味が通じやすいと判断されることがあります。
これは、厳密な意味の違いよりも、多くの人にとっての読みやすさや分かりやすさを優先する考え方に基づいています。
もちろん、意味合いを明確に区別したい場合には、漢字を使い分けることが重要ですが、公的な文書などでは、より一般的な「合わせて」や、ひらがな表記が使われる場面も増えていることを知っておくと良いでしょう。詳しくは文化庁のウェブサイトなどでご確認いただけます。
僕が「併せて」と「合わせて」を混同してしまった体験談
僕も新人ライター時代に、この「併せて」と「合わせて」でちょっとした赤っ恥をかいた経験があるんです。
ある企業の広報誌の記事を作成していた時のこと。複数の部署が協力して進めたプロジェクトの成功事例を取材し、その成果をまとめる記事でした。
僕は、それぞれの部署の貢献を強調しつつ、全体としての一体感を表現しようと意気込んでいました。原稿の中で、各部署の取り組みを紹介した後、「これらの取り組みを併せて、今回の成功が実現しました」と書いたんです。「複数の取り組みが同時進行したんだから『併せて』だよな!」と思い込んでいました。
自信満々で提出した原稿に、先輩デスクから赤字が入りました。「ここの『併せて』だけど、複数の取り組みが『合わさって』一つの成果になった、という文脈だから、『合わせて』の方が自然じゃないかな?」
指摘を受けて、ハッとしました。僕は「同時に行われたこと」に意識が向きすぎて、「複数の力が一つになった結果」という視点が抜け落ちていたんです。先輩は、「『併せて』だと、ただ取り組みが並列であっただけで、それがどう結びついて成功に繋がったのか少し分かりにくいかもね」と優しく補足してくれました。
まさに、漢字の成り立ちの違いを理解していなかったための失敗でした。「併」は並ぶこと、「合」は一つになること。この基本的なイメージの違いを、実際の文章作成で意識できていなかったんですね。
この経験から、言葉を選ぶときは、漢字一つ一つの持つニュアンスやイメージを大切にし、文脈全体でどういう意味を伝えたいのかを考えることが本当に重要だと痛感しました。それ以来、同音異義語に出会うたびに、それぞれの漢字の成り立ちを調べる癖がつきました。
「併せて」と「合わせて」に関するよくある質問
「併せて」と「合わせて」、どちらを使うべきか迷ったら?
迷った場合は、より広い意味で使われることが多い「合わせて」を使うか、ひらがなで「あわせて」と書くのが無難です。特に公用文などでは、分かりやすさが重視されるため、「合わせて」やひらがな表記が推奨されることもあります。
資料を送る際に「ご確認お願いします」と付け加えるのはどっち?
この場合は「併せてご確認ください」が一般的です。「資料を送る」という行為と「確認をお願いする」という依頼を同時に行う、付け加えるという意味合いだからです。
力を一つにする場合はどっち?
「力を合わせる」のように、「合わせて」を使います。「合」には「一つにする」という意味があるため、複数の力を結集させる状況に適しています。「力を併せる」という表現も間違いではありませんが、「力を並べる」ようなニュアンスになり、一体感が少し弱まる可能性があります。
「併せて」と「合わせて」の違いのまとめ
「併せて」と「合わせて」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本的な使い分け:「同時に行う・付け加える」なら「併せて」、「一つにする・合計する・調整する・比較する」なら「合わせて」。
- 漢字のイメージ:「併」は人が並ぶ様子(並列・同時)、「合」は蓋が合う様子(合致・統合)。
- 迷ったときの対処法:より一般的な「合わせて」を使うか、ひらがなで「あわせて」と書くのが無難。公用文でもその傾向がある。
言葉の意味は、漢字の成り立ちやイメージと結びつけると、単なる暗記ではなく、感覚的に理解しやすくなりますね。
これからは自信を持って、「併せて」と「合わせて」を使い分けていきましょう。