「ファルセット」と「裏声」の違いとは?歌での使い分けを解説

歌を歌うとき、「ファルセット」と「裏声」、どちらを使えばいいか迷ったことはありませんか?

どちらも高い声を出すテクニックですが、実は声帯の使い方や息の量、そして何より響きが異なります

この記事を読めば、「ファルセット」と「裏声」の根本的な違いから、それぞれの効果的な使い方、さらには音声学的な解説までスッキリ理解でき、あなたの歌の表現力が格段にアップするでしょう。

それではまず、一番大切な違いから見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「ファルセット」と「裏声」の最も重要な違い

【要点】

基本的には「ファルセット」は息漏れが多く弱々しい響き、「裏声」は息漏れが少なく芯のある響きを持つことが多いと区別されます。ただし、「裏声」は文脈によって「ファルセット」を含む高音域の声全般を指す場合もあるため注意が必要です。

まず結論として、この二つの言葉の最も重要な違いを表にまとめました。

これさえ押さえれば、基本的な使い分けは大丈夫でしょう。

項目 ファルセット 裏声
基本的な意味 息漏れが多く、柔らかく弱い高音を出す特定の発声法 地声(表声)とは異なる高音域の声。文脈により、ファルセットを含む場合と、含まない芯のある高音(ヘッドボイスなど)を指す場合がある。
声帯の状態 声帯の一部(主に縁)だけが振動し、隙間が大きいことが多い 声帯が薄く引き伸ばされて振動。ファルセットよりもしっかり閉じていることが多い(※芯のある裏声の場合)
息漏れ 多い 少ない(※芯のある裏声の場合)
響き・声色 柔らかい、軽い、か細い、エアリー 透明感がある、芯がある、鋭い(※芯のある裏声の場合)
主に使われる場面 歌唱表現(囁くように、優しく) 歌唱表現(高音域全般、力強く、または繊細に)

少しややこしいのは、「裏声」という言葉が指す範囲が広いことですね。

文脈によっては「ファルセット」も「裏声」の一種として扱われることがあります。

しかし、歌唱テクニックとして使い分ける場合は、表にあるような息漏れや響きの違いで区別するのが一般的です。

「ファルセット」「裏声」とは?基本的な意味と語源

【要点】

「ファルセット」はイタリア語で「偽声」を意味する言葉が語源で、特定の弱々しい高音発声を指します。「裏声」は日本語で「地声(表声)ではない声」という意味合いを持ち、高音域の声全般、または芯のある特定の高音発声を指します。

なぜこの二つの言葉に違いが生まれるのか、それぞれの言葉の成り立ちを見ていくと、そのイメージが掴みやすくなりますよ。

「ファルセット」の意味と語源:イタリア語由来の「偽りの声」

「ファルセット(Falsetto)」は、イタリア語の「falso(偽の、誤った)」に由来する言葉です。

文字通り「偽りの声」や「つくった声」といったニュアンスがありますね。

これは、地声(自然な話し声)とは異なる、人工的な(ように聞こえる)高い声を指していたことから来ています。

特に、男性が女性のような高い声を出す場合に使われることが多かったようです。

音楽用語としては、声帯の一部だけを振動させ、息漏れを伴う特定の弱々しく柔らかい高音発声法を指すのが一般的です。

「裏声」の意味と成り立ち:日本語における高音域の声

一方、「裏声(うらごえ)」は日本語固有の言葉です。

「裏」には「表ではない方」「隠れた部分」といった意味がありますよね。

つまり、「裏声」は普段話すときの声である「表声(おもてごえ)=地声」ではない、高い音域の声という広い意味合いを持っています。

このため、文脈によってはファルセットのように息漏れの多い声だけでなく、オペラ歌手が出すような芯のあるしっかりとした高音(ヘッドボイスと呼ばれることもあります)まで、「裏声」という言葉で表現されることがあります。

「ファルセット」が特定の「発声法」を指すのに対し、「裏声」はより広い「声の区分」や、ファルセットとは異なる「芯のある高音発声法」を指す場合がある、と理解すると良いでしょう。

発声の仕組みから見る「ファルセット」と「裏声」の違い

【要点】

「ファルセット」は声帯の縁だけが振動し隙間が大きいため息漏れが多くなります。一方、芯のある「裏声」(ヘッドボイスなど)は声帯全体が薄く伸びてしっかりと閉じ気味に振動するため、息漏れが少なくクリアな響きになります。

見た目では分かりませんが、ファルセットと裏声(ここでは芯のある裏声を指します)では、喉の中、特に声帯の使われ方が大きく異なります。

この違いが、聞こえる声の違いを生み出しているんですね。

声帯の振動の違い

声を出すとき、肺からの息が声帯を振動させ、それが音になります。

地声(表声)では、声帯全体が比較的厚みを持ってしっかりと振動します。

ファルセットの場合、声帯はあまり閉じず、声帯の縁(ふち)の薄い部分だけが、息によって軽く振動します。声帯の筋肉はあまり活動していません。

一方、芯のある裏声(ヘッドボイスなど)では、声帯全体が薄く引き伸ばされた状態で、ファルセットよりも閉鎖が強めに振動します。声帯周りの筋肉が活動し、張力を保っています。

この声帯の振動様式の違いが、音質を決定づける大きな要因となるわけです。

息漏れの量の違い

声帯の閉じ具合は、息漏れの量に直結します。

ファルセットは声帯の隙間が大きいため、声にならなかった息が多く漏れます。これにより、エアリーで、囁くような、か細い響きが生まれます。

一方、芯のある裏声(ヘッドボイスなど)は声帯が比較的しっかりと閉じているため、息漏れは少なく、効率よく息が声に変換されます。これにより、クリアで芯のある響きが得られます。

マイクに息が「フゥー」と多くかかるのがファルセット、あまりかからないのが芯のある裏声、とイメージすると分かりやすいかもしれませんね。

響きと声色の違い

声帯の振動と息漏れの量の違いは、最終的に聞こえる響きや声色に影響します。

ファルセットは、息漏れが多く、声帯の振動も弱いため、柔らかく、軽く、儚げな、エアリーな響きになります。音量もあまり大きく出せません。

芯のある裏声(ヘッドボイスなど)は、息漏れが少なく、声帯が効率よく振動するため、透明感があり、芯のある、時には鋭く強い響きになります。ファルセットよりも音量を出しやすく、地声に近い力強さを持つこともあります。

どちらが良い悪いではなく、曲の雰囲気や表現したい感情に合わせて使い分けることが重要ですね。

具体的な使い方・使い分けをマスターする

【要点】

歌唱では、ファルセットは優しさや儚さを表現したい時に、芯のある裏声は高音域を力強く、またはクリアに響かせたい時に使われます。ジャンルによっても使い分けの傾向が異なります。

理論的な違いが分かったところで、実際にどのように使い分けるのか、具体的な場面を見ていきましょう。

歌唱における使い分け(ポップス、クラシックなど)

歌において、ファルセットと裏声(芯のある裏声)は、表現の幅を広げるための重要なテクニックです。

【ファルセットが効果的な場面】

  • 囁くように、優しく歌いたいとき
  • 儚さ、切なさ、悲しみを表現したいとき
  • 夢見心地のような、浮遊感を表現したいとき
  • バラードの静かな部分や、ウィスパーボイスに近い表現
  • (例)男性歌手が非常に高い音域を柔らかく歌う部分、コーラスの上のパートなど

【芯のある裏声(ヘッドボイスなど)が効果的な場面】

  • 高音域を力強く、クリアに響かせたいとき
  • 伸びやかさ、開放感を表現したいとき
  • 地声から高音へスムーズに移行したいとき(ミックスボイスと関連)
  • クラシック(特に女声やカウンターテナー)、ポップスのサビの高音部分など
  • (例)ポップスでサビで突き抜けるような高音、オペラのアリアなど

ジャンルによる傾向の違い:

一般的に、ポップスやR&Bではファルセットが表現の選択肢として多く使われる傾向があります。一方、クラシックの声楽では、息漏れの少ない、よく響く芯のある裏声(ヘッドボイス)が基本とされ、ファルセットが使われることは限定的です(特定の表現効果を狙う場合を除く)。

もちろん、これはあくまで一般的な傾向であり、歌手や楽曲によって使い方は様々ですね。

日常会話での使われ方(限定的)

日常会話で「ファルセット」や「裏声」を意識的に使う場面は、歌唱に比べると非常に少ないでしょう。

ただし、以下のような状況で、意図せず、あるいは意図的に使われる可能性はあります。

【裏声(広い意味で)】

  • 驚いたときや興奮したときに、思わず甲高い声が出る。
  • ふざけて高い声でモノマネをするとき。
  • 遠くにいる人を呼ぶときに、無意識に裏声に近い高い声になる。

【ファルセット】

  • ひそひそ話をするときに、息漏れの多い声になる。(厳密にはファルセットとは異なりますが、響きが近い)
  • 体調が悪く、声帯に力が入らないときに、かすれたような高い声になる。

このように、日常会話では発声法として明確に区別して使うというよりは、感情表現や状況に応じて無意識的に声色が変わる結果として、裏声やファルセットに近い響きになることが多いと言えるでしょう。

混同しやすい使い方(NG例)

歌唱指導やボイストレーニングの文脈以外で、厳密な使い分けが求められることは少ないですが、知識として誤用しやすい例を知っておくと良いでしょう。

  • 【NG】オペラ歌手のような力強い高音を指して「彼はきれいなファルセットを使うね」と言う。
  • 【説明】オペラで使われる芯のある高音は、通常ファルセットとは区別される裏声(ヘッドボイス)です。「ファルセット」は息漏れの多い弱々しい声を指すのが一般的なため、この文脈では不適切です。
  • 【NG】息漏れが多くか細いだけの高音を「しっかりした裏声が出ている」と評価する。
  • 【説明】文脈にもよりますが、「しっかりした裏声」と言う場合、通常は芯のある響きを指します。単に息漏れの多い高音(ファルセット)を指して「しっかりした」と表現するのは誤解を招く可能性があります。

重要なのは、特に歌唱テクニックの話をしている際には、「ファルセット」と「(芯のある)裏声」を区別する意識を持つことですね。

【応用編】似ている言葉「ミックスボイス」との違いは?

【要点】

「ミックスボイス」は、地声(チェストボイス)と裏声(ヘッドボイスやファルセット成分を含むことも)を滑らかにつなぎ、両方の響きを混ぜ合わせたような声です。ファルセットや裏声が特定の声区や発声法を指すのに対し、ミックスボイスは声区の移行をスムーズにするテクニックやその結果生まれる声質を指します。

ファルセットや裏声と共によく聞かれる言葉に「ミックスボイス」があります。

これも整理しておきましょう。

ミックスボイスとは、文字通り「混ぜ合わされた声」という意味で、地声(チェストボイス)と裏声(主にヘッドボイス)の声区を滑らかにつなぎ、あたかも一つの声区のように聞こえさせるテクニック、またはその結果生まれる声質を指します。

地声から裏声に切り替わる際に声がひっくり返ったり、音質の差が目立ったりするのを防ぎ、低音から高音まで一貫した響きで歌うことを可能にします。

ファルセットや裏声(ヘッドボイス)が、それぞれ特定の声帯の振動パターンや響きを持つ「声の種類」や「発声法」であるのに対し、ミックスボイスは、それらの声区を「移行する技術」や「ブレンドされた声質」というニュアンスが強いです。

ミックスボイスを習得する過程で、しっかりとした裏声(ヘッドボイス)のトレーニングが重要になることが多いですね。

「ファルセット」と「裏声」の違いを音声学的に解説

【要点】

音声学的には、声帯の振動様式(声区)と共鳴の仕方が「ファルセット」と芯のある「裏声」(ヘッドボイス)の主な違いです。ファルセットは声帯振動が単純で高次倍音が少なく、裏声はより複雑な振動で高次倍音を豊かに含む傾向があります。共鳴腔の使い方も異なり、それが音色の違いを生みます。

少し専門的になりますが、音声学の観点から「ファルセット」と「裏声(芯のあるヘッドボイス)」の違いを見てみましょう。

主な違いは、声帯の振動様式(レジスター/声区)声道の共鳴にあります。

声帯振動:

声帯の振動パターンは、出す声の高さや強さによって変化します。地声(チェストボイス/様式1またはM1)では声帯全体が厚く振動しますが、高音になるにつれて声帯は引き伸ばされ、振動様式が変わります。

  • ファルセット(様式2またはM2の一部、あるいは別様式):多くの場合、声帯粘膜の縁(エッジ)部分のみが振動し、声門(声帯の隙間)が完全に閉じないか、閉鎖時間が非常に短い状態です。振動は比較的単純で、基音(音の高さ)に対する倍音(音色を構成する成分)のうち、特に高次の倍音が少ない傾向があります。これが、響きが少なく、柔らかい音色になる理由の一つです。
  • 芯のある裏声/ヘッドボイス(様式2またはM2):声帯が薄く引き伸ばされた状態で、声門閉鎖がファルセットよりも強く、しっかりと行われます。声帯振動はファルセットよりも複雑で、高次の倍音、特に歌手のフォルマントと呼ばれる特定の周波数帯域が豊かに含まれることがあります。これが、芯があり、よく響く声になる理由です。

共鳴:

声帯で生まれた音は、喉、口、鼻などの空間(声道、共鳴腔)で響き、増幅されて声になります。

ファルセットと芯のある裏声では、この共鳴腔の使い方も異なると考えられています。芯のある裏声では、より効率的に高次倍音を響かせるような声道の形が作られることが多いです。

音声学的な分類や用語は研究者によって異なる場合もありますが、声帯の振動の仕方と共鳴の仕方の違いが、「ファルセット」と「芯のある裏声」の音色の違いを生み出す根本的な原因であることは共通の理解と言えるでしょう。

より専門的な情報に興味がある方は、音声学や音響学に関する書籍や、日本音響学会などのウェブサイトを調べてみると、さらに深い知識が得られるかもしれませんね。

僕が「裏声」と「ファルセット」を混同して赤面したカラオケでの体験談

僕も昔、この「ファルセット」と「裏声」の違いがよく分かっていなかった頃、友人とカラオケで恥ずかしい思いをした経験があるんです。

当時、好きだった男性アーティストの曲を練習していて、サビで非常に高いキーが出てくる部分がありました。

原曲では、その部分は力強く張り上げるのではなく、少し息が混じったような、それでいて切ない響きの声で歌われていたんです。

僕はそれを真似しようと、自分なりに「裏声」の練習をしていました。そして、友人たちとのカラオケで意気揚々とその曲を披露したんです。

歌い終わった後、音楽経験のある友人から「サビの部分、惜しいな!もっと芯のある裏声が出せると、原曲の雰囲気にもっと近づくと思うよ。今の感じだと、ちょっとファルセットっぽくて弱々しく聞こえちゃうかも」と言われたんです。

僕は「え?裏声で歌ってるつもりだったんだけど…ファルセットって何が違うの?」と聞き返してしまいました。

友人は丁寧に、「ファルセットは息漏れが多くて軽い感じの声で、裏声の中でも特に芯のあるやつはヘッドボイスって言って、もっとクリアで響く声なんだよ。君が出してたのは前者の方かな」と教えてくれました。

その時初めて、自分が「裏声」という言葉で一括りにしていたものの中に、息漏れの多い「ファルセット」と、芯のある「裏声(ヘッドボイス)」という違いがあることを知りました。

原曲の歌手が使っていたのは、おそらく意図的なファルセット、あるいはファルセット気味のミックスボイスだったのかもしれませんが、当時の僕はその区別が全くついていなかったんですね。

言葉の定義を曖昧なままにしておくと、目指す表現にたどり着けない、ということを痛感した出来事でした。

それ以来、歌うときには「今出しているのはファルセットか?芯のある裏声か?」と意識するようになり、表現の引き出しが少し増えたように感じています。

「ファルセット」と「裏声」に関するよくある質問

ファルセットと裏声、自分で聞き分けるコツはありますか?

息漏れの量を意識するのが分かりやすいでしょう。声を出すときに、手のひらを口の前にかざしてみてください。ファルセットは息が多く手に当たる感じがするはずです。一方、芯のある裏声は息の量が少なく、あまり手に息がかからないでしょう。また、ファルセットは比較的楽に出せる一方、芯のある裏声は喉周りの筋肉を使う感覚があるかもしれません。

ミックスボイスは裏声の一種ですか?

ミックスボイスは地声と裏声(主にヘッドボイス)を混ぜ合わせた声、またはそれらをスムーズにつなぐ技術です。そのため、「裏声の成分を含んでいる」とは言えますが、「裏声の一種」と単純に言うのは少し語弊があるかもしれません。地声の響きも裏声の響きも併せ持つ中間的な声質、と捉えるのが良いでしょう。

男性と女性でファルセットや裏声の出し方に違いはありますか?

基本的な発声の仕組み(声帯の振動様式)は男女で同じです。ただし、声帯の長さや厚さが異なるため、声の高さや響きは当然異なります。一般的に、男性の方が地声とファルセットの音色の差が明確に感じられやすいと言われています。女性の場合、地声と裏声(ヘッドボイス)の移行が比較的スムーズな人もいます。

「ファルセット」と「裏声」の違いのまとめ

「ファルセット」と「裏声」の違い、そして関連するミックスボイスについて、ご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事の重要なポイントをまとめておきますね。

  1. 定義の違いファルセットは「息漏れの多い特定の弱々しい高音発声法」。裏声は「地声(表声)以外の高音域の声」で、文脈によりファルセットを含む場合と、含まない「芯のある高音(ヘッドボイスなど)」を指す場合がある。
  2. 発声の違いファルセットは声帯の縁が振動し息漏れが多い。芯のある裏声は声帯が薄く伸びてしっかり閉じ気味に振動し息漏れが少ない。
  3. 響きの違いファルセットは柔らかくエアリー。芯のある裏声はクリアで芯がある。
  4. 使い分け:歌唱表現において、表現したいニュアンス(優しさ、力強さなど)によって使い分ける。
  5. ミックスボイス:地声と裏声を滑らかにつなぐ技術、またはその声質。

これらの違いを理解し、意識的に使い分けることで、あなたの歌の表現力はきっと向上するはずです。

これからは自信を持って、ファルセットと裏声を使いこなしていきましょう!