「有る」と「在る」、どちらも「ある」と読むけれど、どう使い分けるか迷った経験はありませんか?一方は物の存在や所有を示し、もう一方は特定の場所に存在することを示すんですよね。
この記事を読めば、「有る」と「在る」の核心的な意味の違いから具体的な使い分け、さらにはひらがなで「ある」と書くケースまでスッキリ理解でき、もう迷うことはありません。
それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「有る」と「在る」の最も重要な違い
基本的には物や概念の存在・所有なら「有る」、人や物が特定の場所に存在するなら「在る」と覚えるのが簡単です。ただし、ひらがなで「ある」と書くことも一般的です。迷ったら文脈で判断するか、ひらがなを使うのが無難でしょう。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
項目 | 有る | 在る |
---|---|---|
読み方 | ある | ある |
中心的な意味 | 物や概念が存在する、所有している | 人や物が特定の場所に存在する |
対象(基本) | 無生物(物)、抽象的な概念 | 生物・無生物(場所を強調) |
ニュアンス | 存在そのもの、持っていること | 特定の場所に居ること、存在場所 |
英語の対応(参考) | There is/are, have | exist at/in, be located at/in |
使い分けのポイント | 存在・所有を伝えたい時 | 存在場所・所在を明確にしたい時 |
ひらがな表記 | 補助動詞(〜してある)や形式名詞(〜ことがある)の場合、また使い分けに迷う場合や、文体を柔らかくしたい場合は、ひらがなで「ある」と書くのが一般的です。 |
ポイントは、存在そのものか、特定の場所にあるかという視点で考えると分かりやすいですね。
ただ、現代では意図的に漢字を使い分ける場面以外は、ひらがなで「ある」と書くことも非常に多いです。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「有」は手に肉を持つ形から「所有・存在」のイメージ、「在」は土の上に芽が出る形から「特定の場所での存在」のイメージを持つと、意味の違いが理解しやすくなります。
なぜこの二つの「ある」に意味の違いが生まれるのか、それぞれの漢字の成り立ちを見てみると、その核心的なイメージが見えてきますよ。
「有る」の成り立ち:「手」に「肉」を持つ=所有・存在
「有」という漢字は、元々は「月(にくづき=肉)」と「又(ゆう=手)」を組み合わせた形でした。
これは、人が手に肉を持っている様子を表しており、「持つ」「所有する」という意味から、「存在する」「〜を持っている状態」という意味が生まれました。
物や概念が存在すること自体や、誰かが何かを所有している状態を示すのにピッタリのイメージですよね。
「在る」の成り立ち:「土」の上に「芽」が出る=特定の場所に存在する
一方、「在」という漢字は、「土」と「才(草木の芽が出る様子や、それを守る囲い)」を組み合わせた形です。
これは、大地(土)の上に草木が存在する様子を表しており、「特定の場所に存在する」「〜に居る」という意味を持っています。
人や物がどこに存在しているのか、その「場所」に焦点を当てたイメージが湧いてきませんか?
このように漢字の成り立ちを知ると、「有る」は存在や所有そのもの、「在る」は特定の場所での存在、というニュアンスの違いが、より深く理解できるでしょう。
具体的な例文で使い方をマスターする
「机の上に本が有る(存在する)」、「問題が有る(存在する)」、「彼は才能が有る(所有している)」のように使います。一方、「彼は東京に在る(存在する場所)」、「本社は大阪に在る(存在する場所)」のように使います。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
「有る」と「在る」の使い方が明確になる例文を、ビジネスシーンと日常会話、そして間違いやすいNG例で見ていきましょう。
「有る」を使う場合(存在・所有)
物や抽象的な概念の存在、または人や物が何かを持っている(所有している)状態を示します。
ビジネスシーン
- その件については、いくつか懸念事項が有る。
- 我が社には、長年培ってきた技術力が有る。
- 彼にはこのプロジェクトを成功させる能力が有ると信じている。
- 提示された条件には、検討の余地が有る。
- 机の上に参考資料が有るので、確認してください。(存在)
存在そのものや、能力・技術といった所有しているものを指していますね。
日常会話
- 棚の上に埃が有るよ。
- 私には、将来実現したい夢が有る。
- あのレストランには、独特の雰囲気が有る。
- 何か面白い話は有るかい?
- 庭にはたくさんの花が有る。(存在)
夢や雰囲気といった抽象的なものの存在や、具体的な物の存在を示しています。
「在る」を使う場合(所在・存在場所)
人や物が、特定の場所に存在していることを強調する場合に使います。生物にも無生物にも使えますが、「場所」がポイントです。
ビジネスシーン
- 社長は現在、役員室に在る。
- 本社ビルは、主要駅から徒歩5分の便利な場所に在る。
- その重要な書類は、金庫の中に在るはずだ。
- 問題の核心は、コミュニケーション不足に在ると考える。(比喩的な場所)
- 当社の支店は全国各地に在る。
人や建物、書類などが「どこに」存在するのかを示しています。「問題の核心」のように、比喩的に場所を示すこともありますね。
日常会話
- 猫はこたつの上に在る。
- 私の故郷は、美しい山々に囲まれた場所に在る。
- 幸福は、物質的な豊かさの中にのみ在るわけではない。(比喩的な場所)
- 鍵は、いつも玄関の棚の上に在る。
- その寺は、静かな森の中に在る。
猫や鍵、寺などが「どこに」いるのか、存在するのかを明確にしています。
これはNG!間違えやすい使い方
意味が通じなくはないですが、本来の使い分けからすると不自然になる例です。
- 【NG】机の上に本が在る。(「存在場所」を強調したい意図がなければ、「有る」が一般的です。「東京に在る本」のように場所を特定する場合はOK)
- 【OK】机の上に本が有る。
- 【NG】彼には才能が在る。(才能は「所有」しているものなので、「有る」が適切です。「彼の中に才能が在る」のように、比喩的に場所を示すなら可)
- 【OK】彼には才能が有る。
- 【NG】本社は大阪に有る。(場所を明確に示しているので、「在る」がより適切です。「本社を持つ」という意味なら「有る」も使えますが、通常は所在を示すので「在る」を使います)
- 【OK】本社は大阪に在る。
特に「本社は大阪に有る」は、間違いとは言い切れないものの、「在る」を使った方が「大阪という場所に存在している」というニュアンスが明確になりますね。
【応用編】似ている言葉「居る」との違いは?
「居る(いる)」は、基本的に人や動物など、意志を持って動くことができる生物が存在する場合に使います。「有る」「在る」は主に無生物に使いますが、「在る」は場所に焦点が当たれば生物に使うこともあります。
「ある」と読む「有る」「在る」の他に、存在を表す言葉として「居る(いる)」がありますよね。この違いも整理しておきましょう。
最も大きな違いは、対象が生物か無生物かという点です。
- 居る(いる):人や動物など、意志を持って動く生物が存在する場合に使います。
- 例:弟が部屋に居る。/庭に猫が居る。
- 有る(ある):物や概念など、意志を持たない無生物が存在する場合や、所有を示す場合に使います。
- 例:机の上に本が有る。/彼には夢が有る。
- 在る(ある):物や人が特定の場所に存在することを強調する場合に使います。無生物が主ですが、場所に焦点が当たれば生物に使うこともあります(ただし、「居る」の方が一般的)。
- 例:本社は東京に在る。/(古風な表現などで)神は天に在る。
基本的には、「人や動物なら居る、物や事柄なら有る/在る」と覚えておけば、日常会話ではほとんど問題ないでしょう。「在る」は少し硬い表現で、場所を明確に示したいときに使う、と意識しておくと良いですね。
たまに「お客様がレジに在られます」のような尊敬語表現を見かけますが、これは「お客様がレジにいらっしゃいます」の「いらっしゃる(居るの尊敬語)」を「在る」で表現した少し特殊な例かもしれません。
「有る」と「在る」の違いを日本語の観点から解説
「有る」は存在の有無や所有を広く表すのに対し、「在る」は存在の「場所」や「様態」に焦点を当てる傾向があります。補助動詞や形式名詞ではひらがな表記「ある」が一般的であり、文脈によっては漢字の使い分けが意味の明確化に寄与します。
少し専門的な視点から、「有る」と「在る」の違いを見てみましょう。
言語学的に見ると、「有る」は存在(existence)や所有(possession)という広い概念をカバーする動詞です。具体的な物だけでなく、「可能性が有る」「興味が有る」のように抽象的な概念にも使われます。
一方、「在る」は所在(location)や現存(presence)に重点を置く動詞です。「〜に在る」という形で、特定の場所における存在を示す場合によく用いられます。「東京に在る」「心に在る」「窮地に在る」のように、具体的な場所だけでなく、状態や状況といった比喩的な「場所」を示すこともあります。
また、日本語では動詞の後に付いて補助的な意味を加える「補助動詞」や、本来の意味が薄れて名詞のように使われる「形式名詞」があります。これらの場合は、漢字本来の意味が薄れるため、「有る」「在る」のどちらかに関わらず、ひらがなで「ある」と書くのが一般的です。
- 補助動詞の例:準備がしてある。(「準備がして有る/在る」とはあまり書かない)
- 形式名詞の例:昔に行ったことがある。(「昔に行った事が有る/在る」とはあまり書かない)
このように、文法的な役割によっても表記が変わるんですね。
現代日本語では、常用漢字表の改定などを経て、公的な文書などでは表記の簡略化や統一が進む傾向にありますが、文学作品や個人の表現においては、書き手が意図的に「有る」と「在る」を使い分けることで、存在の様態や場所に込められたニュアンスを表現することもあります。
例えば、「ただ物がそこに有る」のと、「意識や意味を持ってそこに在る」のでは、受ける印象が異なりますよね。
僕が「在る」べき場所に「有る」と書いてしまった話
僕も以前、この「有る」と「在る」の使い分けで、ちょっと恥ずかしい思いをしたことがあるんです。
あるクライアントに提出する重要な報告書を作成していた時のことです。報告書の中に、競合他社の本社所在地について触れる部分がありました。「競合A社の本社は、港区に有る」と、僕は無意識に書いてしまったんですね。「本社が存在する」のだから「有る」で良いだろう、と。
提出前に上司にチェックをお願いしたところ、すぐに赤ペンが入りました。
「ここの『有る』だけど、『港区』っていう具体的な場所を示しているから、『在る』の方がより適切じゃないかな。『有る』だと、単に本社という組織が存在する、という意味合いが強くなるけど、ここでは場所を伝えたいんだろう?」
指摘されて、ハッとしました。確かにその通りです。僕が伝えたかったのは「本社という組織の存在」ではなく、「本社が港区という場所に存在していること」でした。漢字の成り立ちで学んだ、「在」が持つ「特定の場所」というイメージが、まさにこの文脈に合致していたのです。
幸い、提出前だったので事なきを得ましたが、あの時「在る」を使うべき場面で「有る」を使ってしまったことで、文章の意図が少しぼやけてしまうところでした。
この経験から、言葉を選ぶときは、単に「存在する」だけでなく、「どのように存在するのか」「どこに存在するのか」というニュアンスまで意識することが、正確で伝わる文章には不可欠だと痛感しました。それ以来、特に場所を示す「ある」には、「在る」が適切かどうか、一呼吸置いて考えるようになりましたね。
「有る」と「在る」に関するよくある質問
Q1:「有る」と「在る」、結局どちらを使えばいいですか?
基本的には、物の存在や所有は「有る」、特定の場所にあることを示したい場合は「在る」と使い分けます。ただし、迷った場合や、補助動詞(〜してある)、形式名詞(〜ことがある)として使う場合は、ひらがなで「ある」と書くのが一般的で無難です。
Q2:物は「有る」で、人や動物は「居る」と習いましたが、「在る」はどう使い分けるのですか?
その理解で基本的には正しいです。「居る」は意志を持つ生物に使います。「有る」は主に物や概念に使います。「在る」は物にも人にも使えますが、「特定の場所に存在する」ことを強調したい場合に用います。例えば「社長は役員室に在る」のように使いますが、「社長は役員室に居る」の方が一般的です。
Q3:ひらがなで「ある」と書くのはなぜですか?
一つは、「〜してある」「〜ことがある」のように、補助動詞や形式名詞として使われる場合、漢字本来の意味が薄れるため、ひらがなで書くのが通例だからです。もう一つは、「有る」と「在る」の使い分けに迷う場合や、文体を柔らかく見せたい場合に、意図的にひらがな表記が選ばれることもあります。
「有る」と「在る」の違いのまとめ
「有る」と「在る」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は意味で使い分け:存在・所有なら「有る」、特定の場所での存在(所在)なら「在る」。
- 漢字のイメージが鍵:「有」は手に肉を持つイメージ(持つ、存在する)、「在」は土に芽が出るイメージ(〜に存在する)。
- 「居る」との違い:「居る」は人や動物など意志のある生物に使う。
- 迷ったらひらがな:補助動詞や形式名詞の場合、使い分けに迷う場合、文体を和らげたい場合は「ある」とひらがなで書くのが一般的。
言葉の背景にある漢字のイメージを掴むと、機械的な暗記ではなく、感覚的に使い分けられるようになりますよね。
これからは自信を持って、「有る」と「在る」、そして「ある」を的確に選んでいきましょう。