「居宅(きょたく)」と「在宅(ざいたく)」、どちらも「家にいる」ことに関連する言葉ですが、そのニュアンスの違い、正しく説明できますか?
特に法律や介護保険などの分野では、これらの言葉は明確に使い分けられていますよね。
「あれ、この場合はどっちだっけ?」と迷ってしまうこともあるでしょう。実はこの二つ、家そのもの(場所・拠点)を指すか、家で何かをする(状態)を指すかで使い分けるのが基本なんです。
この記事を読めば、「居宅」と「在宅」の核心的な意味の違いから、法律や日常での具体的な使い分けまでスッキリ理解でき、もう書類作成などで迷うことはありません。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「居宅」と「在宅」の最も重要な違い
基本的には、「居宅」は生活の拠点となる“家そのもの”、「在宅」は家で何かをする“状態”を指します。介護保険サービスなどでは「居宅サービス」、リモートワークなどは「在宅勤務」のように使い分けられます。
まず、結論からお伝えしますね。
「居宅」と「在宅」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
項目 | 居宅 | 在宅 |
---|---|---|
中心的な意味 | 人が住んでいる家、生活の本拠としての建物・場所。 | 家にいること、家にいながら何かをすること(状態)。 |
焦点 | 場所・建物(生活の基盤) | 状態・活動(家で行われること) |
使われる主な分野 | 法律、行政、介護保険、不動産など(公的な文脈が多い) | 医療、福祉、ビジネス(働き方)、教育など |
ニュアンス | 住居、住まい、生活の拠点 | 家にいる、家で行う |
英語 | one’s house, one’s home, residence | being at home, working from home (in context) |
簡単に言うと、介護保険サービスのように、その人の住まいをベースに提供されるサービスなどを指す場合は「居宅サービス」、家で仕事をする、家で医療を受けるといった状況を指す場合は「在宅勤務」「在宅医療」というイメージですね。
どちらも「家」に関わりますが、焦点を当てている部分が違うのがポイントです。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「居」は“そこにいる、住む”、「宅」は“いえ”を意味し、「居宅」は人が定住する“家そのもの”を強く示します。「在」は“ある場所に存在する”状態を示し、「在宅」は“家にいる状態”や“家で行う活動”のニュアンスが強くなります。
なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いが生まれるのか、それぞれの漢字が持つ意味を探ると、その理由がより深く理解できますよ。
「居宅」の成り立ち:「居」と「宅」が示す“生活の拠点”
「居」という漢字は、「いる」「すむ」「かまえる」といった意味を持ち、人がそこに定住している様子を表します。
「宅」は、「いえ」「やけ」とも読み、建物としての家、住居を意味しますね。
この二つが組み合わさることで、「居宅」は人が普段生活している家、生活の本拠地としての建物そのものを強く指し示す言葉となるわけです。
法律や制度の文脈で「あなたの居宅はどこですか?」と聞かれた場合、それは「あなたが主に住んでいる家はどこですか?」という意味合いになりますね。
「在宅」の成り立ち:「在」が示す“その場所にいる状態”
一方、「在」という漢字は、「存在する」「いる」「その場所にある」といった意味を持ちます。
「健在」や「不在」といった言葉を考えると、その場所における存在の状態を表すニュアンスが掴みやすいでしょう。
これに「宅(いえ)」が組み合わさることで、「在宅」は、家という建物自体よりも、「家にいる」という状態や、家にいながら何か特定の活動を行う状況を指す意味合いが強くなります。
「在宅ワーク」なら家で仕事をする状態、「在宅介護」なら家で介護を受ける(または行う)状態、といった具合です。
具体的な例文で使い方をマスターする
「居宅サービス計画書」のように、住まいを基盤とする介護保険サービスでは「居宅」が使われます。「在宅医療」「在宅勤務」のように、家で特定の活動を行う場合は「在宅」が一般的です。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
特に重要な法律・介護分野と、ビジネス・日常シーンに分けて見ていきましょう。
法律・介護・福祉分野での使い分け
これらの分野では、制度上の定義に基づいて使い分けられていることが多いですね。
【OK例文:居宅】
- 介護保険の居宅サービスを利用するには申請が必要です。
- ケアマネージャーが居宅サービス計画書(ケアプラン)を作成します。
- 居宅療養管理指導は、医師などが利用者の居宅を訪問して行います。
- 被告人は居宅にて保護観察処分となった。(法律用語として)
【OK例文:在宅】
- 高齢の母は、在宅で訪問看護を受けています。
- 退院後は、在宅酸素療法が必要になる見込みです。
- 障害を持つ子どものために、在宅介護サービスを探しています。
- 事件後、彼は在宅のまま捜査を受けた。(逮捕・勾留されずに)
特に介護保険法では、「居宅サービス」「居宅介護支援」のように「居宅」が用いられるのが特徴的です。これは、サービス提供の基準となる場所が利用者の「住まい(居宅)」であることを示しています。一方、「在宅医療」や「在宅看護」のように、家という場所で「行われる活動」に焦点を当てる場合は「在宅」が使われる傾向があります。
ビジネス・日常生活での使い分け
ビジネスや日常では、「在宅」の方が使われる場面が多いかもしれません。
【OK例文:居宅】
- (不動産)この物件は広々とした居宅部分が魅力です。
- (古語・文学)彼は静かな山里に居宅を構えた。
【OK例文:在宅】
- 感染症対策のため、多くの企業が在宅勤務(テレワーク)を導入した。
- 今日は体調が悪いため、会社を休み在宅しています。
- 子供が熱を出したので、本日は在宅にて業務を行います。
- オンラインで在宅学習を進めている。
日常生活で「私の居宅は…」のように言うことは少なく、通常は「自宅」や「家」を使いますね。「居宅」は少し硬い、あるいは公的な響きを持つことが多いです。
これはNG!間違えやすい使い方
意味が通じないわけではありませんが、一般的な用法からすると少し不自然に聞こえる使い方です。
- 【NG】今日は居宅で仕事をします。
- 【OK】今日は在宅で仕事(勤務)をします。
家で仕事をする「状態」なので、「在宅勤務」や「在宅ワーク」が一般的です。「居宅で仕事」だと、まるで家という建物自体が仕事をしているかのような、奇妙な印象を与えかねません。
- 【NG】介護保険の在宅サービス計画書を作成します。
- 【OK】介護保険の居宅サービス計画書を作成します。
介護保険法に基づくサービス計画は、利用者の「居宅」を基準とするため、制度上「居宅サービス計画書」が正しい用語となります。
【応用編】似ている言葉「自宅」との違いは?
「自宅」は“自分の家”を指す最も一般的な言葉です。「居宅」は法律や制度上の“生活の本拠”、「在宅」は“家にいる状態”を指すのに対し、「自宅」はより広く、日常会話で自分の家を指す際に使われます。
「居宅」「在宅」と似ていて、日常的によく使う言葉に「自宅(じたく)」がありますね。これらの違いも整理しておきましょう。
「自宅」は、「自分の家」「自分の住んでいる家」を指す、最も一般的で広い意味を持つ言葉です。
- 居宅:法律や制度の文脈で使われることが多く、「生活の本拠地」としての家を指す、やや硬い表現。
- 在宅:「家にいる」という状態や、「家で行う活動」に焦点を当てた言葉。
- 自宅:単に「自分の家」を指す、日常会話で最もよく使われる一般的な言葉。
例えば、「自宅に帰る」「自宅で過ごす」のように使います。「居宅に帰る」や「在宅に帰る」とは普通言いませんよね。
文脈によって使い分けが必要です。
- 介護保険の申請書類には「居宅」と書く。
- 会社にリモートワークの連絡をする際は「本日は在宅勤務します」と言う。
- 友人との会話では「週末は自宅でゆっくりするよ」と言う。
このように、TPOに合わせて最も自然な言葉を選ぶことが大切ですね。
「居宅」と「在宅」の違いを法律・制度の視点から解説
特に介護保険法において、「居宅」は利用者が日常生活を営む住居を指し、訪問介護や通所介護など、この居宅を拠点として提供される多様なサービス群(居宅サービス)の根幹概念となっています。「在宅」も類似の文脈で使われますが、法律上は「居宅」が基本用語として定義されています。
「居宅」と「在宅」の使い分けは、特に法律や行政の分野、中でも介護保険制度において重要な意味を持ちます。
介護保険法では、「居宅」とは、利用者が日常生活を営んでいる住居のことを指します。そして、この「居宅」において、あるいはこの「居宅」を拠点として提供されるサービスを総称して「居宅サービス」と呼んでいます。
これには、ホームヘルパーが自宅を訪問する「訪問介護」、デイサービスセンターなどに通う「通所介護」、短期間施設に宿泊する「短期入所生活介護」、福祉用具を借りる「福祉用具貸与」など、非常に多くの種類のサービスが含まれます。
つまり、介護保険制度における「居宅サービス」という言葉は、単に「家で行われるサービス」という意味だけでなく、利用者が住み慣れた地域や家で生活を継続できるように支援するための、多様なサービス群全体を指す包括的な概念なのです。
一方で、「在宅」という言葉も介護や医療の現場で広く使われます。「在宅医療」「在宅看護」「在宅介護」などですね。これらは、「病院や施設ではなく、家(自宅)において行われる医療や介護」という状態や活動内容に焦点を当てた表現と言えます。
法律(特に介護保険法)の条文や公的な文書では、「居宅」が定義された基本用語として用いられることが多いですが、現場レベルや一般的な説明では、「在宅」も同様の意味合いで使われることがあります。この辺りの使い分けは、文脈や、どの法律・制度に基づいているかによって判断する必要がありますね。より正確な情報は、厚生労働省のウェブサイトなどで確認すると良いでしょう。
僕が「在宅」と書くべき書類で「居宅」と書いてしまった体験談
実は僕も、以前勤めていた会社でこの「居宅」と「在宅」を混同して、ちょっとした指摘を受けた経験があるんです。
当時、僕は人事部に所属していて、社員の多様な働き方をサポートする制度作りに携わっていました。その一環で、育児や介護を理由に自宅で勤務する社員のための新しい申請書類のフォーマットを作成していたんです。
書類の項目に「勤務場所」という欄があり、選択肢として「本社」「支社」と並べて、「自宅での勤務」を示す選択肢をどう書くか悩みました。なんとなく「居宅」の方が公的な書類っぽいかな、という安易な考えで、「□ 居宅」と記載してドラフトを作成し、上司に確認をお願いしました。
すると、すぐに上司から内線が。
「この勤務場所の『居宅』だけど、うちは介護保険事業者じゃないんだから、ここは『在宅』の方が自然じゃないかな?『居宅』だと、なんだか堅苦しいし、介護関係の書類みたいに見えちゃうよ。うちはあくまで『家で仕事をする状態』を指したいわけだから、『在宅』で統一しよう」
確かにその通りでした。介護保険の文脈なら「居宅」が適切ですが、一般的な企業の勤務形態を示すのに「居宅勤務」とは言いませんよね。完全に言葉の持つ背景やニュアンスを理解していなかったんです。
「言葉は、使われる分野や文脈によって意味合いが変わる。見た目の堅さだけで選んではいけないんだな」と反省しました。それ以来、特に公的な響きのある言葉を使うときは、その言葉が法律や特定の制度でどう定義されているか、少し立ち止まって考えるようになりました。あの時の上司の的確な指摘には、今でも感謝しています。
「居宅」と「在宅」に関するよくある質問
「居宅介護」と「在宅介護」は同じ意味ですか?
ほぼ同じ意味で使われることが多いですが、厳密には異なります。「居宅介護」は主に介護保険法に基づくサービス(訪問介護など)を指す場合に用いられ、「居宅」という生活の場を強調します。「在宅介護」はより広く、家で行われる介護全般(家族による介護も含む)を指す場合に使われる傾向があります。
「在宅勤務」を「居宅勤務」とは言わないのですか?
一般的には言いません。「在宅勤務」や「在宅ワーク」「テレワーク」「リモートワーク」が普通です。「勤務」は家という場所で行われる「活動」や「状態」なので、「在宅」を使うのが自然です。「居宅勤務」だと不自然な響きになります。
訪問サービスは「居宅」「在宅」どちらを使いますか?
文脈によります。介護保険法に基づく訪問介護などは「居宅サービス」の一部とされます。一方、医療従事者が家を訪れる場合は「在宅医療」「訪問診療」「訪問看護」のように「在宅」や「訪問」が使われることが多いです。サービスを提供する法律や制度の用語を確認するのが確実です。
「居宅」と「在宅」の違いのまとめ
「居宅」と「在宅」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は焦点で使い分け:生活の拠点となる“家そのもの”なら「居宅」、家で何かをする“状態”なら「在宅」。
- 漢字のイメージが鍵:「居」+「宅」は“住む家”、「在」+「宅」は“家にいる状態”。
- 分野による傾向:法律や介護保険では「居宅」(居宅サービスなど)、医療や働き方では「在宅」(在宅医療、在宅勤務など)が使われることが多い。
- 「自宅」はより一般的:日常会話では「自宅」を使うのが最も自然。
特に法律や制度が関わる場面では、その定義に従って正確に使い分けることが大切ですね。言葉の背景にある意味を理解すると、自信を持って適切な言葉を選べるようになります。
これから書類作成やコミュニケーションで迷うことがなくなるはずです。言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、法律・制度関連の言葉の違いをまとめたページもぜひご覧ください。