「制定」と「施行」の違いとは?法律成立から効力発生まで

「〇〇法が制定されました」「来月から新しい条例が施行されます」といったニュース、よく耳にしますよね。

「制定(せいてい)」と「施行(しこう、せこう)」、どちらも法律やルールに関連する言葉ですが、これらの違いを正確に説明できますか?

似ているようで、実は明確なプロセス上の違いがあるんです。「法律ができた日?それとも実際に効力を持つ日?」と混乱してしまうこともあるかもしれませんね。この二つの言葉は、法律やルールを「作る」段階なのか、それとも「実際に効力を持たせる」段階なのかという点で使い分けられます。

この記事を読めば、「制定」と「施行」の意味の違い、関連する「公布」との違い、そして具体的な使い分けまでスッキリ理解できます。これで、法律や制度に関するニュースも、より深く理解できるようになるでしょう。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「制定」と「施行」の最も重要な違い

【要点】

「制定」は法律やルールを“新しく定めること”(作るプロセス)を指し、「施行」はその定められた法律やルールを“実際に効力を持たせること”(使うプロセス)を指します。法律ができるまでには、「制定」され、国民に「公布」され、そして「施行」されるという流れがあります。

まず、結論からお伝えしますね。

「制定」と「施行」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目 制定 施行
中心的な意味 法律・規則などを新しく定めること。 定められた法律・規則などの効力を発生させること。
段階 作る段階(成立) 使う段階(効力発生)
タイミング 法律案が国会で可決された時など。 法律などで定められた特定の開始日。
関連語 成立、議決 実施、発効、適用
プロセス上の位置づけ 法律ができるプロセスの一部。 制定された法律が実際に動き出すスタート地点。
英語 enactment, establishment enforcement, coming into effect (force)

簡単に言うと、新しい法律やルールを作り上げるのが「制定」で、その作られた法律やルールが実際に世の中で効力を持ち始めるのが「施行」というイメージですね。

例えば、国会で新しい法律が可決されたら、それは「制定」されたことになります。そして、その法律に「〇年〇月〇日から施行する」と書かれていれば、その日から法律の内容が実際に適用される、ということです。

なぜ違う?言葉の意味と漢字の成り立ちからイメージを掴む

【要点】

「制定」の「制」も「定」も“定める”意味を持ち、“新しく作り定める”ニュアンスがあります。「施行」の「施」も「行」も“おこなう”意味を持ち、“実際に行う、効力を持たせる”というアクションのイメージが強くなります。

なぜこの二つの言葉が異なる段階を示すのか、それぞれの言葉の意味と漢字の成り立ちを探ると、イメージが掴みやすくなりますよ。

「制定」の意味:「新たに定める」プロセス

「制定」は、「新しく基準や規則などを定めること」を意味します。

漢字を見ると、「制」には「物事を作り上げる」「定める」といった意味があります。「憲法を制定する」の「制」ですね。「定」にも「物事をはっきりと決める」「定める」という意味があります。

つまり、「制定」とは、これまでなかった法律や規則などを、新しく作り定める行為そのものを指しているわけです。国会で法律が可決・成立する、まさにそのプロセスが「制定」にあたります。

「施行」の意味:「効力を発生させる」アクション

一方、「施行」は、「定められた法令などの効力を実際に発生させ、行うこと」を意味します。「しこう」とも「せこう」とも読みますが、法律関係では「しこう」と読むのが一般的です。

漢字を見ると、「施」には「ほどこす」「広く行き渡らせる」「実行する」といった意味があります。「行」はもちろん「おこなう」「実行する」ですね。

この二つが合わさることで、「施行」は、既に定められた(制定された)ルールを、実際に世の中に適用し、その効力を発揮させるアクションを示す言葉となります。法律が現実に動き出すスタート、と考えると分かりやすいでしょう。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

「〇〇法が制定された」は法律が成立したことを、「〇〇法は来年4月1日から施行される」は法律の効力が始まる日を示します。社内ルールでも「新しい服務規程を制定し、来月から施行します」のように使えます。

言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。

法律・条例に関する場面と、もう少し身近な社内規則などの場面に分けて見ていきましょう。

法律・条例に関する使い分け

ニュースなどで最もよく目にする使い方ですね。

【OK例文:制定】

  • 本日、国会において新しい労働法が制定されました。
  • この条例は、市民の安全を守る目的で制定されたものです。
  • 憲法制定の歴史について学ぶ。

【OK例文:施行】

  • 改正された消費税法は、〇月〇日より施行されます。
  • 新しい条例の施行に伴い、いくつかの手続きが変更になります。
  • この法律の施行期日は、政令で定めることとされている。

このように、「制定」は過去の事実として、「施行」は未来の開始日や現在の効力発生を示すことが多いですね。

社内規則・ルールに関する使い分け

会社や団体などの内部ルールを定める際にも使われます。

【OK例文:制定】

  • 当社は、情報セキュリティに関する新たな内部規定を制定しました。
  • この行動規範は、全従業員の意見を反映して制定されたものです。
  • 規約制定の趣旨についてご説明します。

【OK例文:施行】

  • 制定された新しい服務規程は、来月1日より施行します。
  • このルールの施行により、経費精算の方法が変わります。
  • 就業規則の変更点の施行は、従業員への周知期間を考慮して決定された。

法律ほど厳密ではありませんが、ルール作りのプロセスと、そのルールが実際に効力を持ち始めるタイミングを区別して表現できますね。

これはNG!間違えやすい使い方

意味合いを取り違えると、不自然な表現になってしまいます。

  • 【NG】この法律は来週から制定されます。
  • 【OK】この法律は来週から施行されます。

「制定」はルールを作る行為そのものを指すので、「来週から制定される」というのは不自然です。効力が始まることを言いたいのであれば「施行」が適切です。

  • 【NG】新しい規則の制定日は明日です。
  • 【OK】新しい規則の施行日は明日です。

ルールが実際に効力を持ち始める日を指す場合は「施行日」です。「制定日」は、そのルールが正式に定められた(例えば、取締役会で承認された)日を指します。

【応用編】似ている言葉「公布」との違いは?

【要点】

「公布(こうふ)」は、制定された法律の内容を国民に広く知らせる行為です。法律ができるプロセスは、①国会などで「制定」され、②官報などで国民に「公布」され、③定められた日から「施行」される、という流れになります。

「制定」と「施行」を理解する上で、もう一つ知っておきたい重要な言葉が「公布(こうふ)」です。

「公布」とは、成立した法律や政令などの内容を、国民に公式に知らせる手続きのことを指します。

法律ができるまでの流れは、一般的に以下のようになります。

  1. 制定:国会などで法律案が可決され、法律として成立すること。
  2. 公布:成立した法律の内容を、官報などに掲載して国民に知らせること。(日本国憲法では天皇の国事行為とされています)
  3. 施行:公布された法律が、実際に効力を持ち始めること。

つまり、「公布」は「制定」と「施行」の間に位置する重要なプロセスなのです。

  • 制定:法律が「できる」こと。
  • 公布:できた法律を「知らせる」こと。
  • 施行:知らせた法律が「使われ始める」こと。

このように段階を追って理解すると、それぞれの言葉の役割が明確になりますね。

「制定」と「施行」の違いを法律・制度の視点から解説

【要点】

日本国憲法下では、法律は国会での議決によって「制定(成立)」され、その後、天皇が国民の名において「公布」します。そして、法律に定められた日(または政令で定める日)から「施行」され、法的な効力が発生します。この制定・公布・施行の一連の流れが、法治国家の基本プロセスです。

「制定」と「施行」の違いは、日本の法律ができるプロセスを理解すると、より明確になります。

日本国憲法では、法律を作る基本的な流れが定められています。

  1. 法律案の提出:内閣または国会議員が法律案を作成し、国会(衆議院または参議院)に提出します。
  2. 国会での審議・議決(=制定):提出された法律案は、衆議院と参議院の両方で審議され、原則として両院で可決されると法律として制定(成立)します。
  3. 公布:成立した法律は、内閣の助言と承認により、天皇が国民の名において公布します。これは、法律の内容を国民に広く知らせるための手続きで、通常「官報」という国の機関紙に掲載されます。公布は、法律成立後30日以内に行われます。
  4. 施行:公布された法律は、その法律自体に定められた日(例:「この法律は、公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」など)から施行され、実際に効力を持ち始めます。施行日が特に定められていない場合は、公布の日から起算して20日を経過した日から施行されるのが原則です(法の適用に関する通則法)。

このように、法律は「制定」されただけではまだ効力を持たず、「公布」という手続きを経て国民に知らされ、定められた「施行日」が来て初めて、社会の中で実際に適用されるルールとなるわけです。

「制定」「公布」「施行」は、法治国家におけるルールの確立と適用のための、明確に区別された重要なステップなんですね。法律に関する正確な情報は、e-Gov法令検索などで確認することができます。

僕が社内規定の「施行日」を勘違いして注意された体験談

以前、会社で新しい経費精算システムが導入された時のことです。僕はその変更に関する社内規定の改定作業に関わっていました。

規定の変更案自体は、꽤スムーズに経営会議で承認され、「〇月△日付で新規定を制定する」という決定がなされました。僕はその決定を受けて、すぐに新しい規定に基づいた精算方法の準備を進めようとしたんです。

ところが、数日後、経理部の先輩から「ちょっと待った!」と声をかけられました。

「君、もう新しいやり方で精算伝票作ってるの?あの規定の施行日は来月の1日からだよ。経営会議で『制定』されたのは〇月△日だけど、実際にルールが変わるのは来月から。それまでは旧ルールで処理しないと、システム側も対応できないし、混乱するから気をつけてね。」

僕はハッとしました。「制定」された日と「施行」される日が違うことを、すっかり失念していたのです。確かに、規定の末尾には「この規定は×年×月1日から施行する」と明記されていました。決定(制定)されたからといって、すぐに効力が発生するわけではない、という基本を完全に見落としていたんですね。

「あぶない、あぶない。勝手にフライングして、経理部に迷惑をかけるところだった…」と冷や汗をかきました。

この経験から、ルールや法律の変更に際しては、「いつ決まったか(制定)」だけでなく、「いつから適用されるか(施行)」を正確に確認することの重要性を痛感しました。言葉の意味を正しく理解していないと、実務で思わぬミスにつながる可能性があるんですよね。それ以来、施行日には特に注意を払うようになりました。

「制定」と「施行」に関するよくある質問

「制定日」と「施行日」は同じ日ですか?

異なる場合が多いです。「制定日」は法律や規則が正式に成立・決定された日を指します。一方、「施行日」はその法律や規則が実際に効力を持ち始める日です。周知期間や準備期間が必要なため、制定日から期間を空けて施行日が設定されるのが一般的です。

法律は「制定」されたらすぐに「施行」されるのですか?

すぐには施行されません。まず国民に内容を知らせる「公布」の手続きがあり、その後、法律で定められた「施行日」から効力が発生します。施行日が明記されていない場合は、公布日から20日後に施行されるのが原則です。

会社のルールを決める場合も「制定」「施行」を使いますか?

はい、使われます。社内規定や就業規則などを新しく作成・決定することを「制定」、そのルールが実際に適用され始めることを「施行」と表現します。法律ほど厳密な手続きはありませんが、プロセスを示す言葉として適切です。

「制定」と「施行」の違いのまとめ

「制定」と「施行」の違い、そして関連する「公布」についてもご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 制定は「作る」段階:法律やルールを新しく定めること。
  2. 施行は「使う」段階:定められた法律やルールが実際に効力を持ち始めること。
  3. 公布は「知らせる」段階:制定された内容を国民に広く知らせる手続きで、制定と施行の間に入る。
  4. 法律のプロセス:制定 → 公布 → 施行 の順で進むのが基本。

これらの言葉は、法律や制度を理解する上で非常に重要です。ニュースや公的な文書を読む際に、これらの違いを意識することで、内容の理解度が格段に深まるはずです。

言葉の正確な意味を知ることで、社会の仕組みへの理解も深まりますね。言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、法律・制度関連の言葉の違いをまとめたページもぜひご覧ください。