「高速道路でトラックに追突された」「交差点で乗用車同士が衝突した」…
交通事故のニュースで日常的に耳にする「追突(ついとつ)」と「衝突(しょうとつ)」。どちらも車がぶつかる事故を指す言葉ですが、この二つの違いを正確に説明できますか?
「どっちもぶつかることでしょ?」と思いがちですが、実は交通事故の状況を表す上で、どの方向からぶつかったか、そして相手が動いていたか止まっていたかという点で明確に使い分けられているんです。
この記事を読めば、「追突」と「衝突」の基本的な意味の違いから、交通事故における具体的な分類、さらには過失割合への影響、似ている「接触」との違いまでスッキリ理解できます。これで、事故に関するニュースや報告書の内容も、より正確に把握できるようになるでしょう。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「追突」と「衝突」の最も重要な違い
「追突」は、後ろから進行中の車両が前の車両(停止中または進行中)に突き当たることに限定されます。一方、「衝突」は、車両同士や車両と物体が突き当たること全般を指す、より広い意味の言葉です。「追突」は「衝突」の一種と言えます。
まず、結論からお伝えしますね。
「追突」と「衝突」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
項目 | 追突 | 衝突 |
---|---|---|
中心的な意味 | 走行中の車両が、前方にある車両の後部に突き当たること。 | 車両同士、または車両と他の物体が突き当たること全般。 |
方向 | 後ろから前へ | 問わない(前方、側面、後方など様々) |
対象 | 車両 対 車両 (主に自動車) | 車両 対 車両、車両 対 物(電柱、壁など)、車両 対 人など |
前の車両の状態 | 停止中または走行中 | 問わない |
関係性 | 衝突の一形態 | 突き当たる事故の総称 |
過失割合(基本) | 追突した側(後方車両)が100%の場合が多い | 事故の状況により様々 |
英語 | rear-end collision | collision, crash |
「追突」は後ろからぶつかる限定的な状況を指し、「衝突」はぶつかること全般を指す、と覚えるのが分かりやすいですね。だから、ニュースで「衝突事故」と報道されていても、詳しく状況を聞くと「追突事故だった」というケースはよくあります。
交通事故の過失割合を考える上でも、この違いは非常に重要になってきます。
なぜ違う?言葉の意味と漢字の成り立ちからイメージを掴む
「追突」の「追」は“追いかける”、「突」は“突き当たる”意味で、後方から追いかけて突き当たるイメージです。「衝突」の「衝」も「突」も“突き当たる”意味ですが、「衝」には“勢いよくぶつかる”ニュアンスがあり、方向を限定せず広くぶつかる様子を示します。
なぜこの二つの言葉が、ぶつかる状況を区別して示すのか、それぞれの漢字が持つ意味を探ってみると、そのイメージが掴みやすくなりますよ。
「追突」の意味:「後ろから突き当たる」動き
「追突」の「追」は、「追いかける」「後を追う」という意味ですね。「突」は、「勢いよく突き当たる」「ぶつかる」という意味です。
つまり、「追突」とは、文字通り後方から追いかけるように進んできて、前にあるものに勢いよく突き当たるという、一連の動きと方向性を含んだ言葉なのです。
この漢字の組み合わせが、「後ろから前の車にぶつかる」という限定的な状況を示す理由になっているわけですね。
「衝突」の意味:「突き当たること」全般
一方、「衝突」の「衝」は、「突き当たる」「大切な地点」「肝心なところ」といった意味を持っています。「要衝」などの言葉に使われますね。また、「勢いよくぶつかる」というニュアンスも含まれます。「突」は「追突」と同じく「突き当たる」です。
「衝」も「突」も突き当たることを意味しますが、「衝突」という熟語になると、特定の方向性は示さず、物と物とが勢いよく突き当たること全般を表す、より広い意味の言葉となります。
前方からでも、横からでも、物に対してでも、ぶつかればそれは「衝突」と言えるわけです。
具体的な例文で使い方をマスターする
信号待ちで後ろからぶつけられたら「追突」、交差点での出会い頭事故は「衝突」です。比喩的に意見がぶつかることを「衝突」とは言いますが、「追突」とは言いません。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
交通事故の場面を中心に、日常的な比喩表現や間違いやすいNG例も見ていきましょう。
交通事故・法律に関する使い分け
事故の状況を正確に伝える際に重要です。
【OK例文:追突】
- 信号待ちで停車中に、後続車に追突された。
- 高速道路での渋滞の最後尾に気づかず、前のトラックに追突してしまった。
- 追突事故の過失割合は、原則として追突した側に100%あるとされる。
【OK例文:衝突】
- 見通しの悪い交差点で、右方から来た車と衝突した。(出会い頭衝突)
- 対向車線をはみ出してきたトラックと正面衝突した。
- カーブを曲がりきれず、ガードレールに衝突した。
- バイクと歩行者の衝突事故が発生した。
- 脇道から出てきた車に側面から衝突された。
「衝突」は、出会い頭、正面、側面、対物、対人など、様々な状況で使われるのに対し、「追突」は後方からの事故に限定されるのが明確ですね。
日常会話(比喩的表現)での使い分け
物理的にぶつかる以外にも、意見や感情などがぶつかる様子を表現することがあります。
【OK例文:追突】
- (比喩的な使い方は通常しない)
【OK例文:衝突】
- 会議でA部長とB課長の意見が激しく衝突した。
- 古い価値観と新しい考え方が衝突するのは避けられない。
- 感情的な衝突を避けるために、冷静に話し合う必要がある。
- スケジュールが衝突してしまったので、調整が必要だ。(予定が重なる意味)
このように、意見や感情、予定などがぶつかり合う、対立する状況を表すのは「衝突」です。「意見が追突した」とは言いませんね。
これはNG!間違えやすい使い方
交通事故の状況を誤って表現しないように注意しましょう。
- 【NG】交差点で出会い頭に追突した。
- 【OK】交差点で出会い頭に衝突した。
交差点での出会い頭事故は、横方向からのぶつかり合いなので「衝突」です。
- 【NG】電柱に追突してしまった。
- 【OK】電柱に衝突してしまった。
「追突」は基本的に車両同士の事故で、後方からぶつかる場合に用います。電柱のような動かない物にぶつかる場合は「衝突」です。(ただし、前の車が電柱に衝突し、その後ろにいた車がその車にぶつかった場合は「追突」になります)
【応用編】似ている言葉「接触」との違いは?
「接触(せっしょく)」は、車などが軽く触れたり、かすったりする程度の軽い事故を指すことが多いです。「衝突」や「追突」が比較的大きな衝撃を伴う事故を想起させるのに対し、「接触」は損傷が軽微な場合に用いられる傾向があります。
「衝突」や「追突」と似た状況で使われる言葉に「接触(せっしょく)」があります。これも区別しておきましょう。
「接触」は、文字通り「触れ合うこと」「触れること」を意味します。
交通事故の文脈で使われる場合は、車同士や車と物が、軽く触れたり、かすったりする程度の比較的軽微な事故を指すことが多いです。
- 衝突・追突:ある程度の衝撃や損傷を伴う、勢いよくぶつかる事故。
- 接触:衝撃や損傷が比較的小さい、軽く触れる・かすめる程度の事故。
例えば、駐車場で隣の車にドアミラーを軽く当ててしまった、狭い道ですれ違いざまにボディをかすってしまった、といった状況は「接触事故」と呼ばれることが多いですね。
ただし、これは程度の問題であり、明確な法的定義があるわけではありません。「衝突」という言葉は広い意味を持つため、軽い接触事故を「軽微な衝突」と表現することも可能です。しかし、一般的には損傷の度合いによって「接触」と「衝突・追突」を使い分ける傾向がある、と覚えておくと良いでしょう。
交通事故における「追突」と「衝突」の違いと過失割合
交通事故の過失割合において、「追突」事故は原則として追突した後方車両に100%の過失があるとされます。一方、「衝突」事故は、正面衝突、出会い頭衝突、側面衝突など多様な形態があり、事故の状況に応じて過失割合が大きく変動します。
「追突」と「衝突」の区別は、交通事故の責任、特に「過失割合」を判断する上で非常に重要になります。
「追突」事故の過失割合:
道路交通法では、後方を走行する車両は、前方の車両が急ブレーキをかけた場合でも追突しないように、十分な車間距離を保つ義務があると定められています(道路交通法第26条 車間距離の保持)。
そのため、追突事故が発生した場合、原則として追突した後方車両に100%の過失があると判断されます。前の車が理由のない急ブレーキをかけたなど、特別な事情がない限り、追突された側(前方車両)に過失はないとされるのが一般的です。
「衝突」事故の過失割合:
一方、「衝突」事故の過失割合は、その形態によって大きく異なります。
- 正面衝突:センターラインをはみ出した側に大きな過失(多くの場合100%)があるとされます。
- 出会い頭衝突(交差点など):信号機の有無、一時停止の有無、道路の優先関係、速度超過の有無など、多くの要素を考慮して過失割合が決定されます。(例:信号無視なら無視した側が100%、同程度の道幅で一時停止無視なら無視した側が80%など)
- 側面衝突:車線変更時の事故や、駐車場内での事故など、状況は様々です。車線変更時の場合は、変更した側に70%程度の過失があるとされることが多いですが、合図の有無などで修正されます。
- 右直事故(交差点で右折車と直進車が衝突):原則として右折車側の過失が大きい(例:信号が青の場合、右折車80%:直進車20%)とされますが、信号の色や速度違反などで割合は変わります。
このように、「衝突」と一言で言っても、事故のパターンは無数にあり、それぞれの状況に応じて過失割合が細かく判断されます。判例タイムズなどで類型化された基準がありますが、個別の事故状況によって修正されることが多いため、専門家(弁護士や保険会社)への相談が必要になるケースがほとんどです。
「追突」が原則100:0であるのに対し、「衝突」は状況次第で過失割合が大きく変動する、という点が大きな違いですね。
僕がニュースを見て「衝突事故」と「追突事故」を混同していた話
以前、交通事故のニュース速報を見て、「え?なんでこれが衝突なの?」と一瞬混乱したことがあります。
それは、高速道路での多重事故のニュースでした。映像には、何台もの車が数珠つなぎになっている様子が映し出され、テロップには「〇〇高速道路で衝突事故発生、複数台が絡む模様」と出ていました。
僕はその映像を見て、「これって、どう見ても前の車に次々ぶつかってるから『追突』じゃないの?なんで『衝突』って言うんだろう?」と不思議に思ったんです。自分の中では、「後ろからぶつかる=追突」という知識があったからです。
しかし、その後の詳しい報道を見て納得しました。事故の発端は、一番先頭の車がスピンして中央分離帯にぶつかり(これは「衝突」)、後続の車がそれを避けようとして別の車にぶつかり(これも「衝突」)、さらにその後ろの車が次々と前の車にぶつかっていった(これは「追突」)…という複雑な状況だったのです。
最初の報道では、詳細な状況がまだ判明していなかったため、事故全体を包括的に表す「衝突事故」という言葉を使ったのでしょう。そして、個々のぶつかり方に注目すれば、「衝突」と「追突」の両方が発生していたわけです。
この経験から、「衝突」は事故全体を指す広い言葉としても使われること、そして一つの事故の中でも状況によって「衝突」と「追突」が混在することがあるのだと理解しました。言葉の定義を知っているつもりでも、実際の使われ方や文脈を考えないと、情報を誤解してしまうことがあるんですよね。それ以来、事故のニュースを見るときは、「これは具体的にどういう状況での『衝突』や『追突』なんだろう?」と、少し詳しく考えるようになりました。
「追突」と「衝突」に関するよくある質問
「追突」と「衝突」、どちらの事故がより重大ですか?
一概には言えません。どちらの事故も、速度や状況によっては軽微なものから死亡事故に至るまで様々です。一般的に、高速道路での追突事故や、正面衝突事故は、衝撃が大きくなりやすく、重大な結果につながる可能性が高いと言われています。
自動車保険では「追突」と「衝突」で扱いは変わりますか?
保険金の支払い自体は、事故の形態(追突か衝突か)だけで決まるわけではなく、契約内容(車両保険の有無など)や過失割合によって決まります。ただし、前述の通り、「追突」は過失割合が100:0になるケースが多いため、結果的に相手への賠償責任の有無や自身の保険(車両保険など)を使うかどうかの判断に影響が出やすいと言えます。
自転車同士や自転車と歩行者の場合は「追突」「衝突」どちらを使いますか?
どちらの言葉も使われます。自転車が前を走る自転車の後ろにぶつかれば「追突」ですし、出会い頭にぶつかれば「衝突」です。自転車が歩行者にぶつかる場合も、一般的には「衝突」と表現されることが多いですが、状況によっては(例えば、歩行者の後ろから気づかずにぶつかるなど)「追突」と表現される可能性もあります。ただし、自動車事故ほど厳密な過失割合の類型化はされていません。
「追突」と「衝突」の違いのまとめ
「追突」と「衝突」の違い、そして交通事故における意味合いについて、ご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 追突は「後ろから」限定:走行中の車が前の車(停止中または走行中)の後部に突き当たること。
- 衝突は「ぶつかること全般」:方向や対象を問わず、車や物が突き当たることの総称。「追突」は「衝突」の一種。
- 過失割合への影響:「追突」は原則として追突した側に100%の過失。「衝突」は状況により様々。
- 「接触」は軽微な事故:軽く触れる・かすめる程度の事故を指すことが多い。
これらの言葉は、交通事故の状況を正確に理解し、伝えるために重要です。特に過失割合に関わる場面では、その違いが大きな意味を持つこともあります。
ニュースや報告書を読む際、あるいは万が一事故に遭われた際に、これらの言葉の違いを意識することで、状況をより正確に把握する助けとなるでしょう。言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、法律・制度関連の言葉の違いをまとめたページもぜひご覧ください。