不屈の精神?苦悶の叫び?「七転び八起き」「七転八倒」の違い

「七転び八起き(ななころびやおき)」と「七転八倒(しちてんばっとう)」。

どちらも「転ぶ」という字が入っていて、なんだか大変そうな状況を表す言葉ですよね。でも、この二つ、似ているようで実は意味合いが大きく異なります。あなたは正しく使い分けられていますか?

もしかしたら、励ますつもりで言った言葉が、相手をさらに落ち込ませるようなニュアンスになってしまっているかも…? 実は、「七転び八起き」が不屈の精神を表すポジティブな言葉なのに対し、「七転八倒」は苦しみもがく様子を表すネガティブな言葉なんです。この記事を読めば、それぞれの言葉の正確な意味、成り立ち、具体的な使い分け、さらには類語との違いまでスッキリ理解できます。もう迷うことはありません。

それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「七転び八起き」と「七転八倒」の最も重要な違い

【要点】

基本的には、「七転び八起き」は何度失敗しても立ち上がる不屈の精神や人生の浮き沈みを表すポジティブな言葉です。一方、「七転八倒」は激しい苦痛や困難の中で転げ回り、苦しみもがく様子を表すネガティブな言葉です。「起き上がる」か「倒れる」かが大きな違いと覚えるのが簡単です。

まず、結論からお伝えしますね。

「七転び八起き」と「七転八倒」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目 七転び八起き(ななころびやおき) 七転八倒(しちてんばっとう)
中心的な意味 何度失敗しても屈せずに立ち上がること。人生の浮き沈みが激しいことのたとえ。 激しい苦痛などで、何度も転げ回って苦しむこと。その様子。
焦点 立ち上がる力、不屈の精神、再起。 苦痛・苦悶、もがき苦しむ状態。
ニュアンス ポジティブ、前向き、粘り強い、人生訓。 ネガティブ、苦しい、辛い、困難な状況。
結果 最終的に起き上がることを示唆。 苦しみが続いている状態を示唆。
使われ方 人を励ます時、座右の銘、人生の教訓など。 ひどい苦しみや困難な状況を描写する時。
英語(近い表現) Fall down seven times, get up eight. Perseverance. Resilience. Writhe in agony. Tossing about in great pain.

一番大切なポイントは、最後に「起き上がる」のが「七転び八起き」、「倒れて苦しむ」のが「七転八倒」という点ですね。

「七転び八起き」は、だるまのように何度倒れても起き上がるイメージ。「七転八倒」は、お腹が痛くて転げ回っているようなイメージ、と考えると分かりやすいかもしれません。

なぜ違う?言葉の意味と成り立ちからイメージを掴む

【要点】

「七転び八起き」は文字通り「七回転んでも八回起き上がる」で、必ず最後に起き上がる不屈さを表します。「七転八倒」は「七回転んで八回倒れる」で、何度も倒れて苦しむ様子を強調します。「起」と「倒」の漢字の違いが意味の違いを生んでいます。

なぜこれほど意味が異なるのか、それぞれの言葉の成り立ちや漢字の意味を見ていくと、その理由がより深く理解できますよ。

「七転び八起き」の意味:何度失敗しても屈しない不屈の精神

「七転び八起き」は、「七度(ななたび)転んでも、八度(やたび)起き上がる」という意味です。

ここで使われる「七」や「八」は、具体的な回数というよりも「何度も」「たくさん」という意味の比喩的な数字です。つまり、「何度転んで失敗しても、その度に必ず起き上がる」という、くじけない心、粘り強さ、不屈の精神を表しています。

転んだ回数(七)よりも起き上がる回数(八)が一つ多いのは、最後に必ず起き上がる、決して倒れたままでは終わらない、という前向きな姿勢を強調していると言えますね。人生には浮き沈みがあるものだ、という教訓としても使われます。

「七転八倒」の意味:激しい苦痛で転げ回る様子

一方、「七転八倒」は、「七度転び、八度倒れる(たおれる)」と書きます。こちらの読み方は「しちてんばっとう」です。

「七」「八」が「何度も」を意味するのは「七転び八起き」と同じですが、最後に「起きる」のではなく「倒れる」となっている点が決定的に違います。

これは、激しい苦痛や困難の中で、何度も何度も転んだり倒れたりして、のたうち回り、ひどく苦しむ様子を表す言葉です。例えば、ひどい腹痛で転げ回るような状況や、どうにもならない困難に直面してもがき苦しむ状況を描写する際に使われます。

最後の漢字が「起」か「倒」か。この一文字の違いが、ポジティブとネガティブという、全く逆のニュアンスを生み出しているわけですね。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

「七転び八起きの精神で挑戦し続ける」のように、不屈の姿勢を表す場合は「七転び八起き」。「食中毒で七転八倒の苦しみを味わった」のように、激しい苦痛を表す場合は「七転八倒」を使います。

言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。

どのような場面で「七転び八起き」と「七転八倒」が使われるのか、見ていきましょう。

「七転び八起き」を使う場面

失敗や困難に負けずに努力し続ける姿勢や、人生の浮き沈みを乗り越えていく様子を表す、ポジティブな文脈で使われます。人を励ます言葉としてもよく使われます。

  • 彼は七転び八起きの精神で、夢に向かって挑戦し続けている。
  • 人生は山あり谷あり、まさに七転び八起きだ。
  • 何度挫折しても諦めない、七転び八起きの粘り強さが彼の魅力だ。
  • 七転び八起きだよ! 次はきっとうまくいくさ」と友人を励ました。
  • 私の座右の銘は「七転び八起き」です。

「精神」「挑戦」「粘り強さ」「励ます」といった前向きな言葉と結びつきやすいですね。

「七転八倒」を使う場面

激しい肉体的な苦痛や、どうにもならない困難な状況の中でもがき苦しむ様子を表す、ネガティブな文脈で使われます。

  • ひどい腹痛に襲われ、一晩中七転八倒の苦しみを味わった。
  • 慣れない仕事と人間関係のストレスで、七転八倒する毎日だ。
  • 突然の解雇通知を受け、彼は七転八倒して次の職を探した。
  • 借金取りに追われ、七転八倒の逃亡生活を送る羽目になった。
  • その難問を解決するために、研究者たちは七転八倒の努力を続けた。(※苦労の大きさを強調する場合)

「苦しみ」「ストレス」「困難」といったネガティブな言葉と結びつきやすいですね。

これはNG!間違えやすい使い方

意味を取り違えて使うと、意図が全く伝わらなくなる可能性のある例を見てみましょう。

  • 【NG】食中毒で苦しむ友人に対し、「七転び八起きで頑張れ!」と励ました。
  • 【OK】食中毒で苦しむ友人に対し、「早く良くなるといいね」と見舞いの言葉をかけた。
  • 【OK】(友人の苦しむ様子を第三者に伝えるなら)食中毒で七転八倒の苦しみだったそうだ。

苦しんでいる人に「七転び八起き」を使うのは不適切です。本人は苦しみもがいている(七転八倒している)のに、「起き上がれ」と言うのは無神経に聞こえます。

  • 【NG】彼は事業に失敗し七転び八起きの生活を送っている。(=苦しんでいる、という意味で使っている場合)
  • 【OK】彼は事業に失敗したが、七転び八起きの精神で再起を図っている。(=立ち上がろうとしている、という意味ならOK)
  • 【OK】彼は事業に失敗し、資金繰りに七転八倒している。(=苦しんでいる、という意味ならこちら)

失敗して苦しい状況にあることを伝えたいなら「七転八倒」が適切です。「七転び八起き」を使うと、失敗にもめげずに頑張っている、というポジティブな意味になってしまいます。

二つの言葉は意味が大きく異なるため、文脈に合わせて正しく使い分けることが非常に重要ですね。

【応用編】似ている言葉「悪戦苦闘」「四苦八苦」との違いは?

【要点】

「悪戦苦闘」は困難な状況で苦しみながらも努力奮闘する様子。「四苦八苦」は仏教由来の言葉で、あらゆる非常に強い苦しみを表します。「七転八倒」が苦痛でのたうち回る様子に焦点を当てるのに対し、「悪戦苦闘」は努力の側面、「四苦八苦」は苦しみの多さや深刻さを強調します。

「七転八倒」のように、苦しい状況を表す言葉として「悪戦苦闘(あくせんくとう)」や「四苦八苦(しくはっく)」がありますね。これらの言葉とのニュアンスの違いも見ておきましょう。

「悪戦苦闘」との違い

「悪戦苦闘」は、非常に困難な状況の中で、苦しみながらも必死に努力することを意味します。「悪戦」は不利な戦い、「苦闘」は苦しみながら戦うことです。

「七転八倒」が苦痛そのものや、もがき苦しむ様子に焦点があるのに対し、「悪戦苦闘」は困難な状況に立ち向かい、なんとかしようと努力・奮闘するという側面に焦点があります。苦しいながらも、目標達成に向けた「戦い」のニュアンスが含まれます。

  • 締め切り間際、悪戦苦闘しながらレポートを書き上げた。
  • 初心者のチームは、強豪相手に悪戦苦闘したが、最後まで諦めなかった。

「七転八倒」ほどの、のたうち回るような激しい苦痛のイメージは薄いかもしれません。

「四苦八苦」との違い

「四苦八苦」は、元々は仏教用語で、人間が生きていく上で避けられないとされる根本的な苦しみ(生・老・病・死の四苦と、愛別離苦・怨憎会苦・求不得苦・五蘊盛苦の八苦)を指しました。そこから転じて、非常に苦しむこと、ひどく苦労すること全般を意味するようになりました。

「七転八倒」が転げ回るほどの激しい苦しみを視覚的に表すのに対し、「四苦八苦」はより精神的な苦しみや、物事がうまくいかずに苦労する様子を表すことが多いです。また、「あらゆる苦しみ」という語源から、苦しみの種類が多かったり、程度が深刻であることを示すニュアンスもあります。

  • 初めての育児に四苦八苦している。
  • 慣れないパソコン操作に四苦八苦する。

「七転八倒」するほどの身体的な苦痛ではないけれど、精神的に追い詰められたり、思うようにいかず苦労したりする状況に使われることが多いでしょう。

まとめると、

  • 七転八倒:激しい苦痛で転げ回る様子。
  • 悪戦苦闘:困難な状況で、苦しみながらも努力奮闘する様子。
  • 四苦八苦:非常に苦しむこと。苦労すること。

というニュアンスの違いがありますね。

「七転び八起き」と「七転八倒」の違いを人生観・精神性の視点から解説

【要点】

「七転び八起き」は、失敗や逆境を乗り越える人間の強さやレジリエンス(回復力)を象徴し、前向きな人生観を示唆します。一方、「七転八倒」は、人生における避けがたい苦難や試練、人間の弱さや脆さといった側面を映し出す言葉と言えます。

「七転び八起き」と「七転八倒」は、単なる言葉の意味の違いだけでなく、人生に対する捉え方や精神性のあり方についても示唆を与えてくれます。

「七転び八起き」は、まさに楽観主義や不屈の精神を象徴する言葉です。人生には失敗や困難(転ぶこと)がつきものであることを認めつつも、それに打ちひしがれることなく、必ず再び立ち上がる(起きる)ことができるという、人間の持つ強さや可能性への信頼が根底にあります。近年注目される心理学の概念であるレジリエンス(精神的な回復力、弾力性)とも深く通じる考え方と言えるでしょう。失敗を糧にして成長し、何度でも挑戦し続ける前向きな生き方を奨励する、希望に満ちた言葉です。

ことわざや座右の銘として広く親しまれていることからも、多くの人々がこの言葉に励まされ、困難を乗り越える力をもらってきたことがうかがえます。

一方、「七転八倒」は、人生における苦難や試練の厳しさ、そしてそれに翻弄される人間の姿を映し出します。病気、貧困、人間関係のトラブル、避けられない災害など、自分の力だけではどうにもならない困難に直面し、ただただ苦しみにもがくしかない状況。それは、人生の不条理さや、人間の弱さ、脆さといった側面を私たちに突きつけます。

しかし、この言葉は単に絶望を表すだけではありません。「七転八倒」するほどの苦しみを経験したからこそ得られる共感力や、困難な状況の中でも生き抜こうとする生命力といった、逆説的な強さを感じさせる場合もあります。文学作品などで、登場人物が経験する過酷な運命や深い苦悩を描写する際に用いられることもありますね。

「七転び八起き」が光の部分を照らし出すとすれば、「七転八倒」は影の部分、人間の苦悩の深淵を覗き込ませる言葉と言えるかもしれません。この二つの言葉は、人生の持つ二つの側面、すなわち希望と試練、強さと弱さを、対照的な形で私たちに示してくれているようです。

僕が応援メッセージで混同しかけた「七転び八起き」と「七転八倒」の体験談

僕が社会人になりたての頃、大きなプロジェクトで失敗して落ち込んでいた同期に、励ましのメッセージを送ろうとして、危うく「七転び八起き」と「七転八倒」を混同しかけたことがあります。

同期は、数ヶ月かけて準備してきたプレゼンで思うような結果が出せず、かなり落ち込んでいました。責任感の強い彼のこと、きっと自分を責めているだろうと思い、何か元気づける言葉を送りたいと考えました。

そこで思いついたのが、「失敗しても、また立ち上がればいい!」という励ましの意味を込めた四字熟語でした。頭に浮かんだのは、「ななころび…」というフレーズ。そして、自信満々にこう書きかけたのです。

「プレゼン、お疲れ様。結果は残念だったけど、七転八倒してまた頑張ろうぜ!」

書きながら、「あれ?」と一瞬手が止まりました。「ななころびやおき」だったような気もする…。「しちてんばっとう」とも読むような…? どっちが励ます言葉だっけ??

急に不安になり、慌ててスマートフォンで検索してみました。すると、

  • 七転び八起き:何度失敗しても屈せず立ち上がること。
  • 七転八倒:苦痛で転げ回ること。

…危ない!!! まったく逆の意味の言葉を送るところでした。落ち込んでいる同期に「苦しみ転げ回ってまた頑張ろうぜ!」なんてメッセージを送っていたら、目も当てられません。火に油を注ぐどころの話ではありませんでした。

字面が似ているというだけで、意味も同じだろうと思い込んでしまった自分の浅はかさに、冷や汗が出ました。特に、人を励ますつもりの言葉が、使い方を間違えると相手を深く傷つける凶器にもなり得るのだと、改めて言葉の怖さを感じました。

結局、メッセージは「今回の経験をバネにして、また次頑張ろう! 七転び八起きだよ!」と、正しく修正して送りました。同期からも「ありがとう、元気出たよ」と返信があり、ホッと胸をなでおろしました。

この一件以来、特に慣用句やことわざを使う際には、その正確な意味やニュアンスをしっかり確認するようになりました。知ったかぶりは禁物ですね。

「七転び八起き」と「七転八倒」に関するよくある質問

どちらがポジティブな意味で使われますか?

「七転び八起き」がポジティブな意味で使われます。何度失敗しても諦めずに立ち上がる、不屈の精神や粘り強さを表し、人を励ます際にも用いられます。

「七転八倒」の読み方は?

しちてんばっとう」と読みます。「ななころびはっとう」や「しちてんはっとう」ではありませんので注意しましょう。

「七」や「八」の数字に特別な意味はありますか?

ここでの「七」や「八」は、具体的な回数ではなく、「何度も」「たくさん」ということを表す比喩的な数字です。日本語では、しばしば「八」を漠然と多い数を表すのに使うことがあります(例:八百屋、八百万の神)。「七転び八起き」では、転ぶ回数より起きる回数を一つ多くすることで、必ず立ち直ることを強調しています。

「七転び八起き」と「七転八倒」の違いのまとめ

「七転び八起き」と「七転八倒」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 核心的な違い:「七転び八起き」は失敗しても立ち上がる不屈の精神(ポジティブ)、「七転八倒」は苦痛で転げ回る様子(ネガティブ)
  2. 焦点:「七転び八起き」は起き上がる力、「七転八倒」は苦しむ状態
  3. 成り立ち:「七転び八起き」と「七転八倒」の最後の漢字が意味を分ける。
  4. 数字の意味:「七」「八」は「何度も」の比喩。
  5. 類語:「悪戦苦闘」は苦しみながらも努力・奮闘、「四苦八苦」は非常に苦労する様子。
  6. 使い分け:励ますなら「七転び八起き」、苦境を描写するなら「七転八倒」。混同すると大変な誤解を生む可能性あり。

似ているようで全く逆の意味を持つ、興味深い言葉の組み合わせでしたね。特に誰かを励ます場面などでは、間違っても「七転八倒」を使わないように気をつけたいものです。

これからは自信を持って、的確な言葉を選んでいきましょう。言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、生活・行動の言葉の違いをまとめたページもぜひご覧ください。