「結構な品を拝領いたしました」「メールを拝受しました」
ビジネスメールやお礼状などで見かける「拝領」と「拝受」。どちらも相手から何かを「もらう」「受け取る」際に使う謙譲語ですが、その違い、正しく説明できますか?
「どちらも『もらう』の丁寧な言い方でしょ?」と思いがちですが、実は受け取る対象や状況、そして言葉の持つニュアンスに違いがあるんです。使い分けを間違えると、少し古風に聞こえたり、場面にそぐわない表現になったりすることも。
この記事を読めば、「拝領」と「拝受」それぞれの意味の中心から、具体的な使い分け、類語との違い、敬語としての正確な位置づけまで、スッキリと理解できます。もう迷わず、感謝の気持ちを込めて、適切な言葉を選べるようになりますよ。
それでは、まず最も重要な違いから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「拝領」と「拝受」の最も重要な違い
「拝領」は高位の人から貴重な物や官位などを「いただく」意味の謙譲語Ⅰで、やや古風な響きがあります。「拝受」は物や書状などを「受け取る」意味の謙譲語Ⅰで、「拝領」よりやや一般的・事務的な場面でも使われます。
まず結論として、「拝領」と「拝受」の最も重要な違いを一覧表にまとめました。このポイントを押さえておけば、基本的な使い分けは大丈夫でしょう。
| 項目 | 拝領(はいりょう) | 拝受(はいじゅ) |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | (高位の人から物などを)ありがたくいただくこと。 | (ありがたく)受け取ること。 |
| 元の動詞 | 領する(自分のものにする)、いただく | 受ける、受け取る |
| 敬語の種類 | 謙譲語Ⅰ | 謙譲語Ⅰ |
| 受け取る対象 | 金品、物品、官位、称号、名前など。特に貴重・高価なもの。 | 金品、物品、書状、メール、書類など。比較的幅広く使える。 |
| ニュアンス | 非常に敬意が高い、やや古風、儀礼的。 | 敬意が高い、やや事務的な場面でも使う。 |
| 相手への敬意 | 与える相手(高位の人)への強い敬意。 | 与える相手への敬意。 |
どちらも相手への敬意を示す謙譲語Ⅰ(自分側の動作をへりくだり、相手を高める)ですが、「拝領」の方がより相手への敬意が高く、受け取る物も貴重なものというニュアンスが強いですね。また、現代では少し古風に聞こえることもあります。
一方、「拝受」は「受け取る」という行為そのものに焦点があり、「拝領」に比べるとやや事務的な場面でも使いやすく、対象も幅広いのが特徴です。メールや書類を受け取った際の返信などでよく使われます。
簡単に言うと、とても目上の方から特別な贈り物をいただいた時は「拝領」、ビジネスメールを受け取った確認なら「拝受」といったイメージでしょうか。
なぜ違う?言葉の成り立ちからイメージを掴む
「領」は自分の領域に取り込むこと、「受」は手で受け止めることを意味します。「拝領」は相手からのものを自分のものとしてありがたく頂戴するイメージ、「拝受」は相手からのものを物理的・形式的に受け取るイメージが、漢字の成り立ちから読み取れます。
「拝領」と「拝受」のニュアンスの違いは、それぞれの漢字が持つ元々の意味を探ることで、より深く理解することができますよ。「拝」はどちらも「おがむ」という意味で、相手への敬意を示しています。
「拝領」の成り立ち:「領(いただく)」の意味
「領」という漢字は、「令(命令、良い)」と「頁(あたま)」を組み合わせた形です。頭(頁)の良い人、つまり指導者が治める「領域」や、大切な「要点」といった意味を持ちます。そこから転じて、自分の領域に収める、つまり「自分のものにする」「受け取る」という意味でも使われるようになりました。「領収書」「占領」などの言葉がありますね。
「拝領」は、相手(特に高位の人)から与えられたものを、敬意をもって自分の領域(所有)にするというイメージです。単に受け取るだけでなく、それを自分のものとしてありがたく頂戴するという、重みのあるニュアンスが感じられます。
「拝受」の成り立ち:「受(うける)」の意味
「受」という漢字は、上の「爪(手の形)」と下の「舟(舟の形、あるいは物を載せる器)」、そして中央の「(わたす)」から成り立っていると言われ、手で何かを受け渡す様子を表しています。「受け取る」「引き受ける」「授かる」といった意味があります。「受付」「受験」などの言葉でお馴染みですね。
「拝受」は、相手から差し出されたものを、敬意をもって手で受け止めるという、比較的具体的な動作や行為に焦点が当たっているイメージです。「拝領」が「自分のものにする」という結果に重きがあるのに対し、「拝受」は「受け取る」という行為そのものを丁重に表現するニュアンスが強いと言えるでしょう。
具体的な例文で使い方をマスターする
高価な贈り物や社長からの記念品は「拝領」、メールや書類の受け取り確認は「拝受」が一般的です。日常会話で「拝領」を使うと大げさになることが多いでしょう。自分から相手に物を渡す際に使うのは誤りです。
言葉の違いは、具体的な使い方を例文で確認するのが一番ですね。ビジネスシーンと日常会話、そして避けるべきNG例を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
相手との関係性や受け取るものの性質によって使い分けます。
【OK例文:拝領】
- この度は、結構なお品を拝領し、誠に恐縮に存じます。(高価な贈り物や記念品など)
- 社長より直々に激励のお言葉を拝領いたしました。(言葉をありがたくいただく場合)
- 長年の功績を認められ、名誉ある称号を拝領する運びとなりました。(称号など)
- (やや古風な表現として)辞令を拝領いたしました。
【OK例文:拝受】
- 昨日お送りいただいた資料、確かに拝受いたしました。(書類やデータの受領確認)
- ご多忙の折とは存じますが、ご招待状を拝受できますと幸いです。(受け取りたい意向)
- メール(ご指示、ご連絡)を拝受しました。内容を確認後、改めてご連絡いたします。(メール受領確認)
- 先日ご注文いただいた商品代金を拝受いたしました。(金銭の受け取り)
「拝受」は、メールや書類の受け取り連絡など、比較的定型的なコミュニケーションで頻繁に使われますね。「拝領」は、より特別な場面や、相手への強い敬意を示したい場合に適しています。
日常会話での使い分け
日常会話でこれらの言葉を使う場面は限られます。特に「拝領」はかなり硬い印象になります。
【OK例文:拝領】(使う場面は非常に限定的)
- (恩師から貴重な品をもらった時など)先生からこのような貴重な品を拝領し、感激しております。
【OK例文:拝受】(やや改まった手紙やメールなど)
- 先日は、ご丁寧なお手紙を拝受し、ありがとうございました。
- ご恵送いただきました書籍、ありがたく拝受いたしました。
親しい間柄であれば、「いただきました」「受け取りました」で十分な場合がほとんどでしょう。
これはNG!間違えやすい使い方
謙譲語は自分の動作に使う言葉なので、相手の動作に使ったり、与える側に使ったりするのは誤りです。
- 【NG】部長から資料を拝領(拝受)してください。
- 【OK】部長から資料をお受け取りください。/部長が資料をくださいます。
相手(資料を受け取る人)の動作には尊敬語を使います。
- 【NG】記念品を皆様に拝領(拝受)いたします。
- 【OK】記念品を皆様にお渡しいたします/贈呈いたします。
自分(与える側)の動作に「拝領」「拝受」は使えません。この場合は「渡す」「贈る」の謙譲語や丁寧語を使います。
- 【NG】(同僚からの事務連絡メールに)メールを拝領しました。
- 【OK】(同僚からの事務連絡メールに)メールを拝受しました。/メールを受け取りました。
「拝領」は高位の人からいただく場合に使うのが基本です。同僚からの事務的なメールに対して使うのは過剰な敬意となり、不自然です。この場合は「拝受」または、より一般的な「受け取りました」で十分でしょう。
【応用編】似ている言葉「頂戴」「賜る」との違いは?
「頂戴する」は「もらう・食べる・飲む」の謙譲語で、「拝受」よりやや柔らかく、「拝領」より一般的です。「賜る」は「もらう」の最上級の謙譲語Ⅰですが、「与える」の尊敬語としても使われるため注意が必要です。
「拝領」「拝受」と似た意味で使われる謙譲語に「頂戴(ちょうだい)する」や「賜る(たまわる)」があります。これらの言葉との違いも整理しておきましょう。
| 言葉 | 元の動詞 | 敬語の種類 | 受け取る対象 | ニュアンス |
|---|---|---|---|---|
| 拝領 | 領する、いただく | 謙譲語Ⅰ | 貴重な物、官位など | 非常に敬意が高い、古風 |
| 拝受 | 受ける、受け取る | 謙譲語Ⅰ | 物品、書状、メールなど | 敬意が高い、やや事務的 |
| 頂戴する | もらう、食べる、飲む | 謙譲語Ⅰ・Ⅱ | 物品、飲食物、時間など | やや柔らかい、「食べる・飲む」にも使う |
| 賜る | もらう(与える) | 謙譲語Ⅰ(尊敬語) | 貴重な物、恩恵、言葉など | 最上級の敬意、尊敬語としても使う |
「頂戴(ちょうだい)する」との違い
「頂戴する」は、「もらう」の謙譲語Ⅰとして物品などを受け取る意味でも使いますが、「食べる」「飲む」の謙譲語Ⅰ・Ⅱとしても使われるのが大きな特徴です(例:「お菓子を頂戴します」)。
「もらう」の意味で使う場合、「拝受」よりやや柔らかい響きがあり、「拝領」ほど古風ではありません。ビジネスメールで「資料を頂戴しました」のように、「拝受しました」の代わりに使われることもあります。また、「お時間を頂戴できますでしょうか」のように、時間をもらう場合にも使えます。
「賜る(たまわる)」との違い
「賜る」は、「もらう」の謙譲語Ⅰとして使われる場合、非常に高貴な相手や神仏などから、恩恵として何かをいただくという意味合いを持つ、最上級の敬意を示す言葉です(例:「過分なるお言葉を賜り、恐縮です」)。「拝領」よりもさらに敬意が高く、使われる場面はより限定されます。
注意が必要なのは、「賜る」が「与える」の尊敬語としても使われる点です(例:「陛下よりお言葉を賜る」=陛下がお言葉をお与えになる)。文脈によって謙譲語か尊敬語か判断する必要があります。
敬意の度合いで言うと、一般的には「頂戴する ≒ 拝受 < 拝領 < 賜る(謙譲語)」のようなイメージでしょうか。
「拝領」と「拝受」の違いを敬語の種類から解説
「拝領」も「拝受」も、自分側の「受け取る」という動作をへりくだることで、動作の対象(与え手)への敬意を示す謙譲語Ⅰに分類されます。謙譲語Ⅱ(丁重語)のように、聞き手への丁重さを示す用法は通常ありません。
「結論」の部分でも触れましたが、「拝領」と「拝受」の敬語としての性質を、文化庁の『敬語の指針』に基づいた「謙譲語Ⅰ」と「謙譲語Ⅱ(丁重語)」の分類から、もう少し詳しく見てみましょう。
- 謙譲語Ⅰ:自分側の動作・ものごとなどを、それが向かう先の相手を高めることで、間接的に相手への敬意を表す言葉。
- 謙譲語Ⅱ(丁重語):自分側の動作・ものごとなどを、話や文章の相手(聞き手・読み手)に対して丁重に述べることで敬意を表す言葉。
この分類に基づくと、「拝領」も「拝受」も、どちらも典型的な「謙譲語Ⅰ」に分類されます。
つまり、これらの言葉を使うときは、常に「物をくれた相手」「書状を送ってくれた相手」など、動作が向かう先の相手に対する敬意が示されていることになります。
例えば、「社長から記念品を拝領いたしました」という文では、「拝領する」という自分側の動作をへりくだることで、記念品をくれた「社長」を高めています。
同様に、「〇〇様からのメールを拝受いたしました」という文では、「拝受する」という自分の動作をへりくだることで、メールを送ってくれた「〇〇様」を高めているのです。
「参る」のように、単に聞き手に対して自分の動作を丁重に述べる謙譲語Ⅱ(丁重語)としての用法は、「拝領」「拝受」には通常ありません。
この点を理解しておくと、「誰に対する敬意を表しているのか」を明確に意識して、これらの言葉を使うことができますね。
僕が「拝領」を連発して、先輩に苦笑された新人時代
敬語って、丁寧すぎてもかえって相手に違和感を与えてしまうことがありますよね。僕も新人時代、背伸びして難しい言葉を使おうとして、空回りしてしまった経験があります。それが「拝領」の使いすぎでした。
配属された部署では、取引先とのメールのやり取りが多く、丁寧な言葉遣いを心がけるように指導されていました。僕は「拝受」という言葉をメールで使うことを覚え、「受け取りました」より格段に丁寧に見える!と感動しました。
さらに敬語を勉強する中で、「拝領」という、「拝受」よりもさらに敬意が高そうな言葉を知り、「これを使いこなせたら、もっとデキるビジネスマンに見えるはず!」と思い込んでしまったんです。
それからの僕は、取引先から送られてくる資料やメールに対して、ことあるごとに「資料を拝領いたしました」「メール、拝領しました」と返信するようになりました。相手が役職者であろうとなかろうと、送られてきたものが重要資料であろうと単なる事務連絡であろうと、とにかく「拝領」を使えば最高に丁寧だろう、と。
ある日、僕が送ったメールを見た先輩が、隣の席から苦笑いしながら声をかけてきました。
「なあ、最近メールで『拝領しました』ってよく使ってるけど、ちょっと堅苦しすぎないか?『拝領』ってのは、もっと位の高い人からすごく貴重な物をもらった時とかに使うイメージだよ。普通のビジネスメールの受け取り確認なら、『拝受しました』か、もっとシンプルに『受け取りました』『確認いたしました』で十分なことが多いぞ。毎回『拝領』だと、逆に慇懃無礼というか、ちょっと大げさに聞こえちゃうかもな」
僕はハッとしました。良かれと思って使っていた「拝領」が、場面によっては過剰で不自然に響いていた可能性があることに気づいたのです。言葉の持つ本来の重みや使われるべき状況を考えずに、ただ「丁寧そうだから」という理由だけで選んでいた自分の浅はかさが恥ずかしくなりました。
確かに、日常的なメールのやり取りで毎回「拝領」と言われたら、受け取った側も少し構えてしまうかもしれませんよね。この経験から、敬語は丁寧さの度合いだけでなく、その言葉が持つニュアンスや、使う場面との「釣り合い」を考えることが重要だと学びました。背伸びせず、状況に合った適切な言葉を選ぶこと。簡単なようで、とても大切なことですよね。
「拝領」と「拝受」に関するよくある質問
Q1: 「拝領いたしました」と「拝受いたしました」、メール返信ではどちらを使うべきですか?
A1: 一般的なビジネスメールや添付ファイルの受け取り確認であれば、「拝受いたしました」を使うのが最も無難で広く使われています。「拝領いたしました」は、相手が非常に目上の方であったり、受け取ったものが特別な価値を持つものである場合を除き、少し大げさに聞こえる可能性があります。
Q2: 「拝」をつけずに「領収しました」「受領しました」と言うのはどう違いますか?
A2: 「領収(りょうしゅう)しました」は金銭を受け取ったこと、「受領(じゅりょう)しました」は物品や書類などを受け取ったことを示す、事務的な表現です。これらは謙譲語ではなく、事実を客観的に伝える言葉なので、相手への敬意を示すニュアンスは「拝領」「拝受」ほど強くありません。社内での報告や、単なる受け取りの事実記録などに使われます。
Q3: プレゼントをもらった時のお礼状には、「拝領」と「拝受」どちらが適切ですか?
A3: 贈ってくれた相手やプレゼントの内容によります。相手が非常に目上の方で、高価な品物や貴重な品物であれば「拝領いたしました」を使うと深い敬意と感謝が伝わります。一般的な贈り物であれば、「拝受いたしました」でも丁寧ですが、より柔らかく感謝を伝えたい場合は「頂戴いたしました」「ありがたくいただきました」といった表現の方が自然かもしれません。「拝領」「拝受」はやや硬い表現なので、お礼状全体のトーンに合わせて選ぶと良いでしょう。
「拝領」と「拝受」の違いのまとめ
「拝領」と「拝受」、二つの謙譲語の違いと使い分け、しっかりご理解いただけたでしょうか?
最後に、この記事のポイントをまとめておきましょう。
- 敬語の種類:「拝領」「拝受」ともに、与え手への敬意を示す謙譲語Ⅰ。
- 意味と対象:「拝領」は高位の人から貴重な物・称号などをありがたくいただくこと。「拝受」は物・書状・メールなどを受け取ること。
- ニュアンス:「拝領」は敬意が非常に高く、やや古風。「拝受」は敬意が高く、やや事務的な場面でも使える。
- 使い分け:特別な贈り物や恩恵には「拝領」、一般的な受け取り確認(特にメールや書類)には「拝受」が適している。
- 注意点:どちらも自分の動作に使う言葉。相手の動作や、物を「与える」動作には使えない。
言葉の持つ格式やニュアンスを理解し、相手や状況に合わせて適切な言葉を選ぶことが、敬語を使いこなす上で大切ですね。「拝領」と「拝受」を正しく使い分けることで、あなたの敬意や感謝の気持ちがより正確に伝わるはずです。
敬語の表現は奥が深いですが、一つ一つ確認していくことで、自信を持って使えるようになります。他の敬語表現についてさらに知りたい方は、敬語の違いをまとめたページもぜひご覧になってみてください。