「省みる」と「顧みる」の違いは反省か回顧か?正しい使い分けをマスター

「省みる」と「顧みる」、どちらも過去を振り返る意味で使いますが、どう使い分けるか迷うことはありませんか?

実は「省みる」は反省、「顧みる」は回顧や配慮のニュアンスが強いんです。

この記事を読めば、それぞれの言葉の核心的なイメージから具体的な使い分け、類語との違いまでスッキリ理解でき、自信を持って使い分けられるようになりますよ。

それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。


結論:一覧表でわかる「省みる」と「顧みる」の最も重要な違い

【要点】

基本的には反省の意を含むなら「省みる」、過去を思い返したり気にかけたりするなら「顧みる」と覚えるのが簡単です。「省」は自分の行動をよく見る、「顧」は首を回して後ろを見るイメージを持つと分かりやすいでしょう。

まず、結論からお伝えしますね。

この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目 省みる(かえりみる) 顧みる(かえりみる)
中心的な意味 自分のしたことを反省して考える 過去を思い返す気にかける振り返って見る
対象 自分自身の言動・行為 過去の出来事、歴史、他者、物理的な後方
ニュアンス 内省的、改善点を探す、戒める 回顧的、配慮する、心配する、物理的に見る
よく使われる表現 わが身を省みる、過去の過ちを省みる 青春時代を顧みる、歴史を顧みる、家庭を顧みる、後ろを顧みる

一番大切なポイントは、反省の意味合いがあるかどうかですね。

自分の行動を振り返って「これでよかったのか」「改善すべき点はなかったか」と考える場合は「省みる」を使います。

一方、単純に過去の出来事を思い出したり、誰かや何かを気にかけたり、物理的に後ろを振り向いたりする場合は「顧みる」を使う、と覚えておくと良いでしょう。


なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む

【要点】

「省」は目を細めて“よく見る”ことから反省の意味が生まれました。「顧」は頭(頁)を回して“振り返る”様子から、過去を思う、気にかけるという意味が派生しました。漢字の成り立ちが意味の違いを理解する鍵ですね。

なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。

言葉の語源を知ると、丸暗記ではなく、イメージで意味を捉えられるようになりますよね。

「省みる」の成り立ち:「省」が表す“よく見て反省する”イメージ

「省」という漢字は、「少」と「目」を組み合わせた形声文字です。

「少」には「小さい」という意味の他に、「ちらっと見る」「かすかに見る」という意味があり、「目」と合わさることで「目を細めてよく見る」「注意深く調べる」という意味を表します。

そこから、自分の行いをよく見て調べる、つまり「反省する」という意味が生まれました。

「内省」や「反省」という言葉を思い浮かべると、そのイメージが掴みやすいでしょう。

つまり、「省みる」とは自分自身の行動や心の状態を注意深く見つめ、良くなかった点を考えるという、内面に向かう行為を表しているんですね。

「顧みる」の成り立ち:「顧」が表す“振り返って気にかける”イメージ

一方、「顧」という漢字は、「雇(コ)」と「頁(おおがい)」を組み合わせた形声文字です。

「雇」はここでは音を表す部分(諸説あり)で、「頁」は「頭」や「顔」を意味します。

この二つが合わさることで、「首を回して後ろを見る」「振り返る」という意味を表しています。

この「振り返る」という動作から派生して、「過去を思い返す(回顧する)」、「気にかける(配慮する)」、「心配する」といった意味が生まれました。

「回顧」や「顧客」(店が常に気を配る相手)という言葉を考えるとイメージしやすいかもしれませんね。

このことから、「顧みる」には、過ぎ去った出来事を思い返したり、他者や物事を気にかけたり、物理的に後ろを見たりするという、より広い範囲の「振り返る」行為が含まれるんですね。


具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

仕事での失敗を次に活かすために考えるのは「省みる」、学生時代を懐かしく思い出すのは「顧みる」、家庭を大切にするのは「家庭を顧みる」のように使い分けます。反省なら「省」、そうでなければ「顧」が基本ですね。

言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。

ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。

ビジネスシーンでの使い分け

特にビジネスシーンでは、「反省」の意図を明確にするために「省みる」が使われることが多いでしょう。

【OK例文:省みる】

  • 今回のプロジェクトの失敗原因を省みて、次回の計画に活かしたい。
  • 部下の意見に耳を傾けなかった自身の態度を省みる必要がある。
  • 常に自身の行動を省みることで、成長につなげることができる。
  • 年末には一年間の業務を省みて、来期の目標を設定します。

【OK例文:顧みる】

  • 創業当時の苦労を顧みると、感慨深いものがある。(過去を思い返す)
  • 過去の成功事例を顧みて、現在の戦略を見直す。(過去を思い返す)
  • 彼は仕事ばかりで、家庭を顧みることが少なかった。(気にかける、配慮する)
  • リスクを顧みず、果敢に新しい市場に挑戦した。(気にかける、考慮する)
  • 彼は一度も後ろを顧みずに、会場を後にした。(物理的に振り返る)

このように、自分の行動の是非を問う場合は「省みる」、過去の出来事や他者の状況、リスクなどを対象とする場合は「顧みる」が適切ですね。

日常会話での使い分け

日常会話でも、考え方は同じです。

【OK例文:省みる】

  • つい感情的に言いすぎてしまったことを省みている。
  • 自分の行動を省みると、改善すべき点がたくさん見つかる。
  • 子どもの前で夫婦喧嘩をしてしまったことを省みた

【OK例文:顧みる】

  • 学生時代の楽しい思い出を顧みる
  • 故郷の両親の健康を顧みる
  • 彼は周囲の迷惑も顧みず、大声で話し続けている。
  • 彼女は私を一度も顧みずに去っていった。

これはNG!間違えやすい使い方

意味が全く通じなくなることは少ないかもしれませんが、厳密には正しくない使い方や、不自然に聞こえる使い方を見てみましょう。

  • 【NG】楽しかった旅行の思い出を省みる
  • 【OK】楽しかった旅行の思い出を顧みる

旅行の思い出は反省の対象ではないため、「顧みる」が適切です。「省みる」を使うと、旅行中に何か反省すべき点があったのか?と少し不自然に聞こえますね。

  • 【NG】彼は家族を省みず仕事に没頭した。
  • 【OK】彼は家族を顧みず仕事に没頭した。

家族を「気にかける」という意味合いなので、「顧みる」が自然です。「省みる」だと、家族について何か反省することがある、という意味合いになり、文脈に合いません。

  • 【NG】自分の過去の失敗を顧みる。(反省の意味で使う場合)
  • 【OK】自分の過去の失敗を省みる

失敗を次に活かすために振り返る、つまり反省するというニュアンスであれば「省みる」がより的確です。「顧みる」でも間違いではありませんが、「あの時は失敗したなあ」と単に思い返しているだけ、というニュアンスにも取れます。


【応用編】似ている言葉「反省する」との違いは?

【要点】

「省みる」は自分の行動を振り返って考えること全般を指しますが、「反省する」は特に良くなかった点を認め、改めようとする気持ちがより強く含まれます。「省みる」は過程、「反省する」は結果や決意に近いニュアンスですね。

「省みる」と非常によく似た言葉に「反省する」がありますね。この違いも押さえておきましょう。

「反省」は、「自分のしてきた言動を振り返って、その可否を改めて考えること」という意味です。特に、「自分の良くなかった点を認め、改めようと考えること」を指す場合が多いですね。

「省みる」も自分の言動を振り返って考える点では共通していますが、「反省する」ほど「良くなかった点の認識」や「改めようとする意志」が必須ではありません。

【「省みる」を使う場合】

  • これまでの自分のキャリアを省みて、今後の方向性を考えたい。(必ずしも反省点を探すわけではない)
  • 彼のアドバイスを受けて、自分の考え方を省みた。(良し悪しを判断する前の段階)

【「反省する」を使う場合】

  • 遅刻したことを深く反省し、明日は早く起きようと決めた。(良くなかった点を認め、改善しようとしている)
  • 今回の失敗を反省し、二度と同じ過ちを繰り返さないようにします。(良くなかった点を認め、改善しようとしている)

つまり、「省みる」は振り返って考える“過程”に重きがあり、「反省する」はその結果として良くなかった点を認識し、改めようとする“意志”や“結論”に近いニュアンスがあると言えるでしょう。

もちろん、「過去の過ちを省みる」のように、「省みる」が反省の意味で使われることも多いので、文脈で判断することが大切ですね。


「省みる」と「顧みる」の違いを国語学の視点から解説

【要点】

国語学的には、「省みる」は内省的な自己評価、「顧みる」は過去の事象への視点移動や他者への配慮を示す傾向があります。漢字の語源「省(よく見る)」と「顧(振り返る)」が、意味の中心的な違いを生み出していると考えられます。

少し専門的な話になりますが、「省みる」と「顧みる」の違いは、国語学の観点からも興味深いですよ。

両語とも「かへりみる」という和語に漢字を当てたもので、古くから使われてきました。平安時代の文献などを見ると、必ずしも現代のような明確な使い分けがなされていたわけではないようですが、漢字の持つ本来の意味が、徐々に意味の分化を促したと考えられます。

「省」の字が持つ「自分の行動をよく見る、調べる」という意味合いから、「省みる」は自己の内部に向けられた視線、内省的な自己評価というニュアンスを強く帯びるようになりました。

一方、「顧」の字が持つ「首を回して後ろを見る」という物理的な動作から、「顧みる」は時間的・空間的に過去の事象への視点移動や、他者・状況への配慮・関心を示す用法へと広がっていきました。

意味論的には、「省みる」の対象は主に「自己の行為や状態」に限定されやすいのに対し、「顧みる」の対象は「過去の出来事」「他者」「状況」「物理的な後方」など、より多岐にわたります。

語用論(言葉が実際に使われる場面での意味)の観点から見ても、「省みる」は反省や改善を促す文脈で使われやすく、「顧みる」は回想、配慮、警告、あるいは単なる視線の動きを表す文脈で使われることが多いと言えるでしょう。

このように、もとは同じ「かへりみる」でも、当てられる漢字によって、その意味の中心や使われる場面が少しずつ変化してきたのですね。言葉の歴史を考えると、使い分けへの理解も深まります。


僕が「顧みる」と書いて赤面した新人時代の体験談

僕も新人ライターだった頃、この「省みる」と「顧みる」で恥ずかしい思いをした経験があるんです。

入社して半年ほど経った頃、ある取材記事で大きなミスをしてしまい、クライアントから厳しい指摘を受けました。上司からも当然、厳しく指導され、僕は文字通り凹んでいました。

その反省を込めて、僕は上司に提出する日報にこう書いたんです。

「本日の取材での失敗を深く顧みて、今後は確認作業を徹底いたします。」

自分なりに、失敗を振り返って次に活かすぞ、という気持ちを込めたつもりでした。当時は、「顧みる」の方がなんとなく文学的で、深い反省を示せるような気がしていたんですね…今思うと、本当に恥ずかしい勘違いです。

日報を読んだ上司は、僕を呼び出すと、赤ペンで「顧みて」の部分を二重線で消し、隣に「省みて」と書き加えて、こう言いました。

「気持ちはわかるけど、自分の失敗を振り返って反省するなら、『省みる』が適切だよ。『顧みる』だと、ただ昔の失敗を思い出してるだけ、みたいに聞こえちゃうこともあるからな。特にビジネス文書では、言葉のニュアンスは正確に使い分けないと、意図が正しく伝わらないぞ。」

上司は呆れたような、でも少し優しい目で僕を見ていました。僕は自分の言葉選びの甘さと、表面的なイメージで言葉を使っていたことが恥ずかしくて、顔がカッと熱くなるのを感じました。

この経験から、言葉を使うときは、漢字の成り立ちや本来の意味まで意識して、その場に最もふさわしい言葉を選ぶことの大切さを痛感しました。それ以来、少しでも迷ったら辞書を引いたり、類語との違いを調べたりする癖がついたように思います。あの時の赤面体験が、今の僕のライターとしての姿勢の基礎になっているのかもしれませんね。


「省みる」と「顧みる」に関するよくある質問

「省みる」と「顧みる」、どっちを使うか迷ったら?

自分の行動について「反省」する意味合いが少しでもあれば「省みる」を選びましょう。単に過去を思い出したり、何かを気にかけたりする場合は「顧みる」が適切です。迷う場合は、より具体的な動詞(例:「反省する」「思い出す」「配慮する」「振り返る」)に言い換えてみて、しっくりくる方を選ぶのも良い方法です。

「歴史をかえりみる」はどっちの漢字ですか?

一般的には「歴史を顧みる」と書きます。歴史上の出来事を客観的に振り返り、思い返すという意味合いが強いからです。もし歴史から教訓を得て、現代の我々の行動を反省するという文脈であれば「歴史に学び、現代を省みる」のような表現も可能ですが、「歴史」自体を対象にする場合は「顧みる」が自然です。

「家庭をかえりみない」はなぜ「顧みない」と書くのですか?

この場合の「かえりみない」は、「家族のことを気にかけない、配慮しない」という意味で使われています。「顧みる」には「気にかける、配慮する」という意味があるため、「家庭を顧みない」と表記するのが適切です。「省みる」にはこの意味合いはありません。


「省みる」と「顧みる」の違いのまとめ

「省みる」と「顧みる」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 意味の中心で使い分け:「省みる」は反省、「顧みる」は回顧・配慮・振り返り
  2. 対象の違い:「省みる」は主に自分の言動、「顧みる」は過去の事柄、他者、後方など対象が広い。
  3. 漢字のイメージが鍵:「省」は“よく見て調べる”、「顧」は“首を回して後ろを見る”イメージ。
  4. 迷ったら反省の有無で判断:自分の行動の良し悪しを考えるなら「省みる」、そうでなければ「顧みる」。

どちらも過去を振り返るという点では共通していますが、その視点や目的が異なります。

特に「省みる」の持つ「反省」のニュアンスをしっかり掴むことが、使い分けの最大のポイントですね。

これからは自信を持って、的確な言葉を選んでいきましょう。