「係る」と「関わる」、どちらも関係性を示す言葉ですが、そのニュアンスの違いに迷ったことはありませんか?
基本的には、公的なつながりや帰属を示す場合は「係る」、より広範な関係性や主体的な関与を示す場合は「関わる」と使い分けるのが一般的ですが、公用文のルールもあり、少しややこしいですよね。
この記事を読めば、それぞれの言葉が持つ核心的なイメージから、具体的な使い分け、公的なルールまでスッキリ理解でき、もう迷うことはありません。
それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「係る」と「関わる」の最も重要な違い
基本的には、対象との関係性の種類(公的・直接的か、広範・主体的か)で使い分けます。ただし、「係る」は常用漢字表外の読み方であり、公用文では「関する」などへの言い換えが推奨されるため、迷ったら「関わる」を使うか、より平易な言葉に言い換えるのが無難です。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。
これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
項目 | 係る | 関わる |
---|---|---|
中心的な意味 | 関係がある、帰属する、影響が及ぶ | 関係を持つ、参与する、影響を与える |
対象との関係 | 公的、形式的、直接的、原因・結果 | 広範、主体的、間接的 |
ニュアンス | 〜に関係する、〜に属する、〜が原因となる | 〜と関係を持つ、〜に参加する、〜に影響する |
公用文・常用漢字 | 常用漢字表外の読み方。「関する」「関連」などへの言い換え推奨。 | 常用漢字。一般的に使用可能。 |
迷ったとき | 「関する」などに言い換えるか、「関わる」を使う。 | 一般的に使用しやすい。 |
特に重要なのは、「係る」は常用漢字表にない読み方であるという点です。
そのため、公的な文書では「関する」や「関連する」といった言葉への言い換えが推奨されています。
日常的なビジネス文書でも、読みやすさを考慮して「関わる」を使うか、より平易な表現を選ぶのが良いでしょう。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「係」は人がつながり縛られる様子から“関係やつながり”、「関」は門のかんぬきから“かかわりあい”のイメージを持つと、ニュアンスの違いが理解しやすくなります。
なぜこの二つの言葉に意味の違いが生まれるのか、それぞれの漢字の成り立ちを紐解くと、その理由がより深く理解できますよ。
「係る」の成り立ち:「係」が持つ“つながり”のイメージ
「係」という漢字は、「人」と、人が糸で結ばれている様子を示す「系」が組み合わさってできています。
このことから、「つなぐ」「つながり」「関係がある」といった意味合いを持ちます。
「関係」「係員」「係争」といった言葉からも、何かしら「つながっている」状態がイメージできますよね。
したがって、「係る」は、物事や人が互いにつながりを持っている、あるいは何かに属しているという、やや客観的で静的な関係性を示すニュアンスが強いと言えるでしょう。
「関わる」の成り立ち:「関」が持つ“かかわりあい”のイメージ
一方、「関」という漢字は、「門」とその門につけられた「かんぬき(閂)」の形から成り立っています。
門の開け閉めに関わる重要な部分であることから、「かかわりあう」「関係する」という意味が生まれました。
「関所」「関与」「関心」といった言葉からも、何かしらの接点や関係性、主体的な働きかけが感じられますね。
このことから、「関わる」には、人や物事が互いに影響し合ったり、主体的に関係を持ったりするという、より動的で広範な関係性を示すニュアンスが含まれると考えることができます。
漢字の成り立ちを知ると、言葉の持つ微妙な空気感まで掴みやすくなると思いませんか?
具体的な例文で使い方をマスターする
契約や法律など公的・形式的な関係は「係る」、プロジェクトへの参加や人の成長など広範・主体的な関係は「関わる」と使い分けるのが基本です。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
あなたならどう使い分けるか、少し考えてみてください。
ビジネスシーンでの使い分け
公的な文書や契約、規則など、形式的・直接的な関係を示す場合は「係る」が使われることがあります(ただし、前述の通り言い換えが推奨されます)。
一方、プロジェクトへの参加や業務への関与など、より広範で主体的な関係を示す場合は「関わる」が自然です。
【OK例文:係る】(※「関する」等への言い換えがより一般的)
- 本契約に係る諸条件については、別紙をご参照ください。(=本契約に関係する諸条件)
- この度のシステム障害に係る損害は、弊社にて補填いたします。(=システム障害が原因となる損害)
- 人命に係る問題であり、迅速な対応が求められる。(=人命に関係する重要な問題)
【OK例文:関わる】
- 彼は現在、新規プロジェクトの開発に関わっている。(=プロジェクトに参加・関与している)
- 今回の決定は、社員全員の将来に関わる重要な問題だ。(=将来に影響を与える問題)
- マーケティング戦略の立案から実行まで、幅広く関わってきました。(=主体的に関係を持ってきた)
どうでしょう?「係る」の方が少し硬い印象を受けませんか?
日常会話での使い分け
日常会話では、「係る」を使う場面はほとんどありません。
「関わる」を使うのが一般的です。
【OK例文:関わる】
- 子どもの成長に関わるのは、親として当然の喜びだ。
- 彼は地域のボランティア活動に積極的に関わっている。
- その件については、私は一切関わっていません。
もし日常会話で「その件に係る話ですが…」と言うと、少し大げさに聞こえてしまうかもしれませんね。
これはNG!間違えやすい使い方
意味は通じることが多いですが、厳密には使い分けが不自然な例を見てみましょう。
- 【NG】彼の個人的な事情に係ることなので、詮索は控えるべきだ。
- 【OK】彼の個人的な事情に関わることなので、詮索は控えるべきだ。
個人的な事情のようなプライベートな関係性には、「関わる」の方が自然です。「係る」を使うと、公的な問題であるかのような、少し堅苦しい響きになります。
- 【NG】このプロジェクトの成功には、チーム全員の協力が係る。
- 【OK】このプロジェクトの成功には、チーム全員の協力が関わってくる。
プロジェクトの成功という結果に対して、協力が「影響する」という意味合いなので、「関わる」が適切です。「係る」だと、協力が成功に「属している」かのような不自然な表現に聞こえます。
【応用編】似ている言葉「関する」との違いは?
「関する」は、「〜について」「〜に関連する」という意味で、対象との関係性を客観的に示す最も一般的な表現です。「係る」「関わる」よりも適用範囲が広く、迷ったときの言い換え表現としても便利です。
「係る」「関わる」と非常によく似た言葉に「関する」がありますね。
これも使い分けに迷うポイントですが、違いを押さえておくと表現の幅が広がりますよ。
「関する」は、「〜について」「〜に関連する」という意味で使われ、対象との関係性を客観的かつ広範に示す最も一般的な言葉です。
「係る」のような公的・形式的なニュアンスや、「関わる」のような主体的な関与のニュアンスは比較的薄く、単に「関係があること」を指します。
【例文:関する】
- 環境問題に関するレポートを作成した。
- その件に関する資料は、すでに送付済みです。
- 日本文化に関する知識を深めたい。
「係る」「関わる」で迷った場合、「関する」に言い換えてみて意味が通じれば、多くの場合「関する」を使うのが最も無難と言えるでしょう。
特に「係る」は公用文で言い換えが推奨されているため、「〜に関する」を使う場面が増えています。
「係る」と「関わる」の違いを公的な視点から解説
文化庁の指針では、「係る」は常用漢字表外の読み方(表外音訓)であるため、公用文では「関する」「関連」など常用漢字を用いた分かりやすい言葉への言い換えが推奨されています。「関わる」は常用漢字のため、一般的に使用できます。
実は、「係る」と「関わる」の使い分けには、国の定める漢字使用のルールも影響しています。
文化庁が示す「常用漢字表(内閣告示)」には、一般の社会生活で使われる漢字の目安が示されています。
ここで重要なのが、「係る」の「かかる」という読み方は、常用漢字表に掲載されていない読み方(表外音訓)であるという点です。
公用文(法律、公文書、新聞、放送など)では、原則として常用漢字表にある漢字と読み方を使うことになっています。
そのため、文化庁の「公用文における漢字使用等について」では、「係る」のような常用漢字表外の音訓を持つ言葉は、同じ意味の別の言葉(常用漢字表内の言葉)に言い換えるか、ひらがなで書くことが推奨されています。
具体的には、「係る」は「関する」「関連する」「関係がある」「〜についての」などに言い換えるのが一般的です。
一方、「関わる」の「かかわる」は常用漢字表にある正しい読み方なので、公用文でも問題なく使用できます。
こうした背景から、特に公的な文書や報道などでは、「係る」の使用が避けられ、「関する」や「関わる」が使われる傾向が強まっているんですね。
言葉の厳密な意味合いも大切ですが、多くの人に正確に伝わるという「分かりやすさ」も、現代のコミュニケーションでは非常に重要な要素と言えるでしょう。
僕が「係る」と書いて上司に指摘された新人時代の失敗談
僕も新人ライター時代に、「係る」と「関わる」の使い分けで恥ずかしい思いをした経験があります。
入社して数ヶ月、初めてクライアント向けの報告書を作成する機会がありました。
内容は、あるプロジェクトの進捗報告だったのですが、少しでもデキる新人に見せたくて、背伸びして硬い表現を使おうとしたんですね。
特に、プロジェクトの「目的」や「関連部署」について説明する箇所で、「本プロジェクトの目的に係る重要事項」「本件に関わる関連部署との連携」といった感じで、「係る」と「関わる」を意図的に(そして、今思えば誤って)使い分けようとしました。
自分では「使い分けてる俺、かっこいい!」くらいに思っていたのですが、提出前に上司にチェックしてもらったところ、赤ペンでこう書かれていました。
「『係る』は公文書などで使う硬い表現で、常用漢字外の読みでもあるから、基本的には『関する』に言い換えた方が分かりやすいよ。あと、ここの『関わる』は『関連する部署』の方が意味が明確だね。言葉は正確さも大事だけど、相手にスムーズに伝わるのが一番だよ」
上司は丁寧に教えてくれましたが、僕は顔から火が出るほど恥ずかしかったです。
言葉の意味の違いだけでなく、常用漢字かどうか、公的な文書での推奨はどうか、そして何より「相手にとって分かりやすいか」という視点が完全に欠けていたのです。
この経験から、言葉を選ぶときは、辞書的な意味だけでなく、その言葉が使われる文脈や相手への伝わりやすさを常に意識するようになりました。
まさに「書くことは相手への思いやり」だと痛感した出来事でしたね。
「係る」と「関わる」に関するよくある質問
結局、「係る」と「関わる」、どちらを使えばいいですか?
常用漢字や公用文の観点、そして一般的な分かりやすさを考慮すると、迷ったら「関わる」を使うか、「関する」「関連する」など、より平易で一般的な言葉に言い換えるのが最も無難です。「係る」は、特定の法律文書や非常に形式的な文書以外では、使用を避けた方が良いでしょう。
「人命に係る問題」という表現は間違いですか?
間違いではありませんが、常用漢字表外の読み方であるため、公的な文書や報道では「人命に関わる問題」または「人命に関する問題」と表記されるのが一般的です。「係る」を使うことで、事態の重大さや公的な性質を強調する意図で使われることもありますが、現代ではやや古風な、あるいは硬すぎる印象を与える可能性があります。
「係る」をひらがなで「かかる」と書くのはどうですか?
公用文の指針では、常用漢字表外の音訓はひらがなで書くことも認められています。例えば「事柄に係る」を「事柄にかかる」と書くことはルール上可能です。しかし、「かかる」には「時間がかかる」「費用がかかる」「病気にかかる」など他の意味も多く、文脈によっては意味が分かりにくくなる可能性があります。そのため、やはり「関する」などに言い換える方が、誤解が少なくおすすめです。
「係る」と「関わる」の違いのまとめ
「係る」と「関わる」の違い、スッキリ整理できたでしょうか。
最後に、この記事の重要なポイントをまとめておきますね。
- 基本的な使い分け:公的・直接的なつながりは「係る」、広範・主体的なかかわりは「関わる」が本来のニュアンス。
- 公的なルール:「係る」は常用漢字表外の読み方のため、公用文では「関する」などへの言い換えが推奨される。「関わる」は常用漢字。
- 迷ったときの対処法:現代では「関わる」を使うか、「関する」「関連する」といった、より一般的で分かりやすい言葉を選ぶのが最も無難。
言葉の本来持つ意味や成り立ちを知ることは、表現の豊かさにつながります。
しかし同時に、常用漢字のルールや、現代における一般的な使われ方、そして何より「相手への伝わりやすさ」を意識することが、スムーズなコミュニケーションには不可欠ですね。
これからは自信を持って、適切な言葉を選んでいきましょう。