「申し上げます」と「致します」の違いとは?正しい敬語の使い方

「申し上げます」と「致します」、どちらも丁寧な言葉ですが、ビジネスメールなどでどちらを使うべきか迷った経験はありませんか?

似ているようで、実は敬語としての種類や元になる動詞が異なるんです。

「感謝致します」と「感謝申し上げます」、どちらが適切…?使い分けを間違えると、意図せず失礼になってしまう可能性も。この二つは、「言う」に関わることか、「する」に関わることか、そして相手への敬意の方向性で使い分けられます。この記事を読めば、「申し上げます」と「致します」の敬語としての性質の違いから、具体的な使い分け、注意点までスッキリ理解でき、自信を持って適切な表現を選べるようになります。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「申し上げます」と「致します」の最も重要な違い

【要点】

基本的には、「申し上げます」は「言う」の謙譲語で、自分の「言う」行為をへりくだって相手への敬意を示します。一方、「致します」は「する」の謙譲語(丁重語)で、自分の「する」行為を丁重に表現します。また、「~致します」の形で補助動詞として使われる場合は丁寧語になります。「何を」へりくだるかが使い分けのポイントです。

まず、結論からお伝えしますね。

「申し上げます」と「致します」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目 申し上げます 致します
中心的な意味 「言う」ことをへりくだる 「する」ことを丁重に行う・「~する」を丁寧にする
元の動詞 言う する
敬語の種類 謙譲語Ⅰ(相手への敬意) 謙譲語Ⅱ(丁重語)(聞き手への丁寧さ)
または丁寧語(補助動詞の場合)
主な使い方 自分の「言う」行為について(意見、感謝、依頼など) 自分の「する」行為について(確認、送付、対応など)
動詞の後につけて丁寧にする(確認いたします等)
意見を申し上げます
感謝申し上げます
お願い申し上げます
確認致します
送付致します
対応致します
確認いたします
使い分けのポイント 「言う」内容を伝えたい時 「する」行為を伝えたい時、または動作を丁寧に表現したい時

「言う」の代わりに使うのが「申し上げます」、「する」の代わりに使うのが「致します」と覚えるのが基本ですね。

ただし、「致します」は「確認いたします」のように、他の動詞の後ろについて丁寧さを加える補助動詞としての役割も持っています。この場合は謙譲語ではなく丁寧語に分類され、より広く使われます(この場合、公用文などではひらがなで「いたします」と書くのが一般的です)。

なぜ違う?言葉の意味と敬語の種類からイメージを掴む

【要点】

「申し上げる」は「言う」対象(内容を聞く相手)を高める謙譲語Ⅰ、「致す」は聞き手に対して自分の行為を丁重に述べる謙譲語Ⅱ(丁重語)です。敬意の方向性が異なります。補助動詞「~いたします」は、動作全体を丁寧に表現する丁寧語として機能します。

なぜこの二つの言葉に違いが生まれるのか、それぞれの言葉の意味と敬語としての分類を詳しく見ていきましょう。

「申し上げます」は「言う」の謙譲語

「申し上げる(もうしあげる)」は、「言う」の謙譲語です。

謙譲語の中でも、自分の行為が向かう先の相手を高める「謙譲語Ⅰ」に分類されます。つまり、「私が(あなたに)意見を申し上げる」という場合、「言う」という自分の行為をへりくだることで、その意見を聞く相手(あなた)への敬意を表しています。

「申し」は「申す(言うの謙譲語)」、「上げる」は相手を高める意を表す補助動詞です。この二つが組み合わさることで、「言う」相手への強い敬意を示す表現となっています。

感謝や依頼、意見表明など、「言う」ことによって何かを伝えたい場面で使われます。

「致します」は「する」の謙譲語・丁寧語

「致す(いたす)」は、「する」の謙譲語です。

謙譲語の中でも、自分の行為を、話や文章の聞き手に対して丁重に述べる「謙譲語Ⅱ(丁重語)」に分類されます。「私が確認致します」という場合、確認行為が向かう先(例えば確認対象の情報)を高めるのではなく、その報告を聞いている相手に対して「確認します」という行為を丁重に伝えています。

さらに、「致します(いたします)」は、「確認いたします」「送付いたします」のように、他の動詞の後ろについて、その動作全体を丁寧にする補助動詞としての用法もあります。この場合は丁寧語として機能し、特定の相手を高めるのではなく、聞き手に対して丁寧な印象を与えます。ビジネスシーンなどで非常に広く使われるのは、主にこの補助動詞としての用法ですね。(公用文などでは、補助動詞の場合「いたします」とひらがなで表記するのが原則とされています。)

このように、「申し上げる」が「言う」相手への敬意を示すのに対し、「致す」は「する」行為を聞き手に丁重に伝える、または動作を丁寧にする、という違いがあるわけです。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

「御礼申し上げます」「お願い申し上げます」のように「言う」内容を伝える際は「申し上げます」。「確認致します」「対応致します」のように「する」行為を伝える際は「致します」。「確認いたします」のように補助動詞として使う場合は「いたします(致します)」。「確認申し上げます」は基本的に誤用です。

言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。

ビジネスシーンと日常会話、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。

ビジネスシーンでの使い分け

メールや報告、依頼など、様々な場面での使い方を見てみましょう。

【OK例文:申し上げます】(「言う」の謙譲語)

  • 先日は誠にありがとうございました。改めて御礼申し上げます
  • 本件に関する弊社の見解を申し上げます
  • 甚だ恐縮ではございますが、何卒ご検討お願い申し上げます
  • プロジェクトへのご協力、誠に感謝申し上げます

【OK例文:致します】(「する」の謙譲語・丁寧語)

  • 資料の内容を確認致します(いたします)。
  • ご注文の商品は、明日発送致します(いたします)。
  • お問い合わせの件につきましては、担当部署にて対応致します(いたします)。
  • 明日の会議には、私も出席致します(いたします)。
  • ご期待に沿えるよう、精一杯努力致す所存です。(謙譲語Ⅱとしての用法)

「言う」内容を伝えたいのか、「する」行為を伝えたいのかを意識すれば、自然と使い分けられますね。

日常会話での使い分け

日常会話では、「申し上げます」を使う場面はかなり限定されます。一方、「致します(いたします)」は比較的使われます。

【OK例文:申し上げます】

  • (地域の方へのスピーチなどで)本日はお集まりいただき、厚く御礼申し上げます
  • (目上の方への改まった依頼)ご無理をお願い申し上げます

【OK例文:致します(いたします)】

  • (お店の予約などで)予約は私の方で致します(いたします)。
  • (手伝いを申し出る時)何かお手伝い致しましょうか?
  • (丁寧な返事)はい、承知致しました(いたしました)。

日常会話では、「申し上げます」を使うと堅苦しくなりすぎる場合が多いので注意が必要ですね。「致します(いたします)」は、丁寧さを出したいときに便利に使えます。

これはNG!間違えやすい使い方

最もよく見られる間違いは、「する」行為に対して「申し上げます」を使ってしまうケースです。

  • 【NG】資料の内容を確認申し上げます
  • 【OK】資料の内容を確認致します(いたします)。

「確認する」のは「言う」行為ではなく「する」行為なので、「申し上げます」は使えません。「確認致します(いたします)」が適切です。

  • 【NG】明日、改めてご連絡申し上げます
  • 【OK】明日、改めてご連絡致します(いたします)。

「連絡する」のも「する」行為なので、「致します(いたします)」を使いましょう。「ご連絡を差し上げます」という言い方もあります。

  • 【NG】ご挨拶致します
  • 【OK】ご挨拶申し上げます

少しややこしいですが、「挨拶」は元々言葉を含む行為であり、「挨拶を言う」という意味合いが強いため、「ご挨拶申し上げます」の方が一般的で自然な表現とされています。ただし、「挨拶をする」という意味で「ご挨拶致します(いたします)」を使うことも間違いではありません。

「~申し上げます」は「言う」こと、「~致します(いたします)」は「する」こと、とシンプルに覚えておけば、多くの間違いは防げるはずです。

【応用編】似ている言葉「申します」との違いは?

【要点】

「申します」も「言う」の謙譲語ですが、「申し上げます」よりも敬意の度合いは低くなります。「申し上げます」が相手への敬意を示す謙譲語Ⅰなのに対し、「申します」は聞き手への丁寧さを示す謙譲語Ⅱ(丁重語)に分類されます。自己紹介などで使うのが一般的です。

「申し上げます」と似た言葉に「申します(もうします)」がありますね。これも押さえておきましょう。

「申します」も「言う」の謙譲語ですが、「申し上げます」と比較すると、敬意の度合いはやや低くなります

敬語の分類では、「申し上げます」が相手への敬意を示す「謙譲語Ⅰ」なのに対し、「申します」は聞き手に対して丁重に述べる「謙譲語Ⅱ(丁重語)」に分類されます。

【OK例文:申します】

  • 私、営業部の田中と申します。(自己紹介)
  • 部長がよろしくと申しておりました。(伝言)
  • その件については、後ほど担当よりご説明申します

自分の名前を名乗る場合や、単に「言う」という行為を丁重に伝えたい場合に使われます。

「感謝申します」や「お願い申します」とは通常言いませんね。感謝や依頼のように、相手への敬意を特に強く示したい場合は「感謝申し上げます」「お願い申し上げます」を使います。

敬意の度合い:申し上げます > 申します

この違いも覚えておくと、より適切な敬語表現ができますね。

「申し上げます」と「致します」の違いを専門的に解説(敬語の分類から)

【要点】

文化庁「敬語の指針」によると、「申し上げる」は特定の相手に向かう行為で、その相手を高める謙譲語Ⅰです。「致す」は、自分の行為を単に聞き手に対して丁重に述べる謙譲語Ⅱ(丁重語)です。敬意が向かう先が異なります。また、「~(いた)します」は、動詞に付いて丁寧さを加える補助動詞(丁寧語)としても広く使われます。

敬語の専門的な分類に基づいて、「申し上げます」と「致します」の違いをさらに詳しく見てみましょう。

文化庁が示す「敬語の指針」(平成19年)では、謙譲語が「謙譲語Ⅰ」と「謙譲語Ⅱ(丁重語)」の2種類に分けられています。

  • 謙譲語Ⅰ:自分側の行為・ものごとなどを、それが向かう先の相手を高める(立てる)ことで、相手への敬意を表す。
    • 例:「伺う」(行く先の人を高める)、「申し上げる」(言う相手を高める)、「差し上げる」(受け取る相手を高める)
  • 謙譲語Ⅱ(丁重語):自分側の行為・ものごとなどを、話や文章の聞き手に対して丁重に述べることで、敬意を表す。特定の相手を高めるわけではない。
    • 例:「参る」(聞き手に「行きます」と丁重に言う)、「申す」(聞き手に「言います」と丁重に言う)、「致す」(聞き手に「します」と丁重に言う)

この分類に基づくと、「申し上げる」は、「言う」という行為が向かう相手(話を聞く人)を高める謙譲語Ⅰです。例えば、「社長に意見を申し上げる」では、社長への敬意が直接的に示されています。

一方、「致す」は、「する」という行為を、聞き手に対して丁重に述べる謙譲語Ⅱ(丁重語)です。「私が致します」と言った場合、何か特定の相手を高めているわけではなく、聞き手に対して自分の行為を丁寧に伝えています。

さらに、「~(いた)します」という補助動詞の形は、現代では非常に広く使われ、これは謙譲語というよりは丁寧語としての機能が強いとされています。「確認いたします」は、「確認します」をより丁寧にした表現であり、聞き手への丁寧さを示しています。

このように、「申し上げます」と「致します」は、敬意の示し方(相手を高めるか、聞き手に丁重に述べるか)が異なるため、使う場面を選ぶ必要があるのです。「致します(いたします)」が広く使われるのは、謙譲語Ⅱ(丁重語)および丁寧語としての汎用性の高さゆえと言えるでしょう。

私が「致します」の多用に気づいた瞬間

僕もライターとして文章を書く中で、「致します(いたします)」の便利さについ頼ってしまうことがあります。

以前、あるクライアントへの提案メールを作成していた時のことです。提案内容の説明から、今後のスケジュール、見積もり提示まで、様々な「~する」という表現が出てきました。

「つきましては、以下の通りご提案いたします
「詳細については、別途資料を送付いたします
「お打ち合わせの日程は、改めて調整いたします
「ご不明な点がございましたら、何なりとお申し付けください。迅速に対応いたします

書き終えて読み返してみると、メール全体が「~いたします」だらけになっていることに気づきました。丁寧ではあるけれど、なんだか単調で、少し機械的な印象を受けるな…と感じたんです。

もちろん、間違いではありません。補助動詞としての「~いたします」は非常に便利ですし、丁寧さも伝わります。でも、もう少し表現に幅を持たせられないか、と考えました。

例えば、「別途資料を送付いたします」は、「別途資料をお送りします」や「別途資料をお届けします」でも十分丁寧さが伝わります。「迅速に対応いたします」も、「迅速に対応します」「迅速に対応させていただきます」など、他の表現も可能です。

特に意識したのは、「致す」が本来持っている「心を込めて行う」というニュアンスです。「~いたします」を多用することで、その本来の意味が薄れ、単なる丁寧語の記号のようになってしまっているのではないか、と感じたのです。

この経験から、僕は「~いたします」を使う際にも、「本当にこの表現が最適か?」「もっと気持ちが伝わる他の言い方はないか?」と一度立ち止まって考えるようになりました。丁寧さだけでなく、表現の豊かさや、言葉に込める気持ちも大切にしたいと思うようになったきっかけです。

「致します(いたします)」は便利な言葉ですが、頼りすぎると文章が単調になる可能性もあります。他の丁寧な表現とバランス良く使い分けることを意識すると、より洗練された印象の文章になるかもしれませんね。

「申し上げます」と「致します」に関するよくある質問

どちらを使うのがより丁寧ですか?

一般的に、「申し上げます」の方が特定の相手への敬意を強く示すため、より丁寧(というより敬意度が高い)とされます。これは「申し上げます」が謙譲語Ⅰだからです。「致します」も謙譲語Ⅱ(丁重語)として丁寧な表現ですが、「~いたします」の形で補助動詞として使う場合は丁寧語となり、敬意の度合いとしては「申し上げます」に劣ると考えられます。ただし、場面によっては「申し上げます」が過剰な敬語になることもあります。

メールで「~いたします」とひらがなで書くのはなぜ?

「致します」が「確認いたします」のように補助動詞として使われる場合、公用文に関する慣例などから、ひらがなで「いたします」と表記することが推奨されています。これは、補助動詞であることを分かりやすくするためです。一方、「私が致します」のように「する」の謙譲語として使う場合は、漢字で「致します」と書くのが一般的です。どちらの表記でも意味は通じますが、ビジネスメールなどでは補助動詞の場合「いたします」とひらがなで書く方が、より一般的で柔らかい印象を与えることが多いでしょう。

「お願い申し上げます」と「お願いいたします」はどちらが良い?

どちらも正しい敬語表現ですが、敬意の度合いが異なります。「お願い申し上げます」は「言う」相手への敬意を込めた謙譲語Ⅰで、非常に丁寧な依頼表現です。目上の方や改まった場面に適しています。「お願いいたします」は「お願いする」に補助動詞「いたす」が付いた丁寧語で、広く一般的に使える丁寧な依頼表現です。相手との関係性や状況に応じて使い分けるのが良いでしょう。迷ったら「お願いいたします」の方が汎用性は高いです。

「申し上げます」と「致します」の違いのまとめ

「申し上げます」と「致します」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 元の動詞が違う:「申し上げます」は「言う」の謙譲語、「致します」は「する」の謙譲語(丁重語)。
  2. 敬語の種類が違う:「申し上げます」は相手を高める謙譲語Ⅰ、「致します」は聞き手に丁重に述べる謙譲語Ⅱ(丁重語)。
  3. 補助動詞の用法:「致します(いたします)」は「~いたします」の形で動詞に付き、丁寧語としても広く使われる。
  4. 使い分け:「言う」内容には「申し上げます」、「する」行為や丁寧表現には「致します(いたします)」を使うのが基本。

敬語は相手への敬意を表す大切なツールですが、使い方を間違えると逆効果になることもあります。

それぞれの言葉が持つ意味や敬意の度合いを正しく理解し、場面や相手に応じて使い分けることで、あなたのコミュニケーションはより円滑で、心のこもったものになるはずです。これからは自信を持って、適切な言葉を選んでいきましょう。言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、敬語関連の言葉の違いをまとめたページもぜひご覧ください。