「思う」と「想う」、どちらの「おもう」を使うべきか、キーボードの前で手が止まってしまった経験はありませんか?
実はこの2つの言葉、頭で論理的に考えるか、心で感情的に描くかで使い分けるのが基本です。この記事を読めば、それぞれの言葉が持つ核心的なイメージから具体的な使い分けまでスッキリと理解でき、もう二度と迷うことはありません。
それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「思う」と「想う」の最も重要な違い
基本的には一般的な思考や意見なら「思う」、特定の対象への感情や追憶なら「想う」と覚えるのが簡単です。公的な文書やビジネスシーンでは「思う」を使うのが一般的で、迷ったら「思う」を選べばまず間違いありません。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
項目 | 思う | 想う |
---|---|---|
中心的な意味 | 考えを持つ、判断する、感じる(広範囲) | 心に特定の対象を思い描く、深く感じる |
対象 | 物事全般(不特定) | 特定の人、場所、過去の出来事など |
ニュアンス | 頭で考える、論理的、客観的、一時的 | 心で描く、感情的、主観的、継続的 |
使われる場面 | 意見、推量、判断、一般的な思考 | 恋愛、郷愁、追憶、祈り、願い |
公的な使用 | 常用漢字。公用文ではこちらに統一。 | 常用漢字外の読み方。私的・文学的な表現。 |
一番大切なポイントは、ビジネスや公的な文章で迷ったら「思う」を選んでおけば、まず問題ないということですね。
個人的な手紙や作品などで、特別な感情を表現したいときに「想う」を使う、と覚えておくと良いでしょう。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「思う」の「田」は脳を、「心」は心臓を表し、頭と心の両方で考えるイメージです。一方、「想う」の「相」は相手を意味し、特定の相手に心を向けるイメージを持つと、対象の違いが分かりやすくなります。
なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
「思う」の成り立ち:「頭(脳)」と「心」で考えるイメージ
「思う」という漢字は、上半分が「田」の形をしていますが、これは頭、特に脳の象形文字が変化したものと言われています。そして下半分は、そのまま「心臓」の形を表す「心」です。
つまり、「思う」は頭(理性)と心(感情)の両方を使って考える、幅広い思考活動全般を示しているんですね。「考える」「感じる」「判断する」「願う」など、多くの意味で使われるのも納得です。
「想う」の成り立ち:「相手」に「心」を向けるイメージ
一方、「想う」は「相」と「心」から成り立っています。
「相」という漢字には「相手」や「対象」という意味がありますよね。「相談」や「首相」といった言葉を考えると分かりやすいでしょう。
このことから、「想う」は特定の相手や対象に対して、心を深く向けている状態を表します。遠くにいる人を心に描いたり、故郷の風景を懐かしんだり、特定の誰かの身を案じたり…といった、感情的でパーソナルなニュアンスが含まれるんです。
具体的な例文で使い方をマスターする
ビジネスでの意見表明は「思う」、プライベートで恋人をしのぶのは「想う」と使い分けるのが基本です。思考か感情か、対象が不特定か特定かを意識すると分かりやすいでしょう。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
【OK例文:思う】
- このプロジェクトは成功すると思う。
- ご提案の件、前向きに検討すべきだと思う。
- 明日の会議は長引くと思うので、覚悟しておこう。
このように、客観的な意見、予測、判断を示す場合は「思う」が適切です。
【OK例文:想う】
- 会社の未来を想うと、今こそ変革が必要です。
- 被災地の一日も早い復興を想う。
- 海外赴任中の同僚の無事を想う。
会社の将来や社会問題など、特定の対象に対して憂いたり願ったりする、感情的な文脈で使われます。ただ、ビジネス文書では少し情緒的すぎる場合もあるので、「考える」「願う」などに言い換えるのが無難なことも多いですね。
日常会話での使い分け
日常会話でも、考え方は同じです。
【OK例文:思う】
- 今日の夕食、何にしようかなと思う。
- あの映画、結構面白いと思うよ。
- 明日は晴れると思うけど、傘は持っていこう。
【OK例文:想う】
- 遠くに住む恋人のことを想う。
- 亡くなった祖母との楽しかった日々を想う。
- 故郷の美しい景色を想うと、胸が熱くなる。
これはNG!間違えやすい使い方
意味は通じることが多いですが、厳密には正しくない使い方を見てみましょう。
- 【NG】今後の経済動向を想うと、株価は上昇するだろう。
- 【OK】今後の経済動向を思うに、株価は上昇するだろう。
株価の予測は個人的な感情ではなく、データや情報に基づく客観的な「思考」や「推量」ですよね。そのため、ここは「思う」が適切です。「想う」を使うと、まるで株価に恋しているかのような、少し不自然な響きに聞こえるかもしれません。
【応用編】似ている言葉「惟う」「念う」との違いは?
同じ「おもう」でも、「惟う」は物事の道理について“じっくり深く考える”、「念う」は神仏に“ひたすら祈り願う”というニュアンスを持ちます。いずれも現代ではあまり使われない古風な表現です。
「思う」「想う」以外にも、「おもう」と読む言葉があります。これらも押さえておくと、言葉の理解がさらに深まりますよ。
・惟う(おもう)
これは「じっくりと思いを巡らす」「深く考える」という意味です。「思惟(しい)」という言葉があるように、物事の道理や本質について深く考える、といった哲学的なニュアンスがあります。現代の日常会話やビジネスで使うことはまずありません。
・念う(おもう)
これは「一心に願う」「祈る」といった意味が強い言葉です。「信念」「念願」といった熟語からもわかるように、心の中でひたすら何かを願う、神仏に祈るといった場面で使われます。これも古風な表現で、現代では「念じる」や「願う」を使うのが一般的ですね。
「思う」と「想う」の違いを公的な視点から解説
文化庁が示す常用漢字表では、「思う」は公式な読み方として認められていますが、「想う」の「おもう」という読みは「付表」に記載される許容範囲の読み方です。そのため、公用文では分かりやすさを優先し「思う」に統一するよう定められています。
実は、この「思う」と「想う」の使い分けには、国の方針も大きく関わっているんです。
文化庁が定めている「常用漢字表」には、現代の国語を書き表すための漢字の目安が示されています。
この中で、「思う」は「おもう」という読み方が公式に認められています。しかし、「想」という漢字の「おもう」という読み方は、常用漢字表の「(付)許容されるもの」として、いわば補足的に記載されているに過ぎません。
さらに、役所などが作る文章のルールを定めた「公用文における漢字使用等について」では、意味の似た同音の漢字の使い分けは分かりにくさを生むため、「想う」は「思う」と書き換える、と定められています。
このため、現在では官公庁の文書や新聞などでは、本来「想う」が使われていたような感情的な文脈でも「思う」と表記されるのが一般的になっています。言葉の厳密な意味合いも大切ですが、こうした「伝わりやすさ」を重視する大きな流れがあることも、知っておくと良いでしょう。詳しくは文化庁のウェブサイトなどでご確認いただけます。
僕が「想う」と書いて、顔から火が出た恋人へのメール
僕も若い頃、この「思う」と「想う」で恥ずかしい思いをしたことがあるんです。
大学時代、初めて遠距離恋愛をしていた時のことです。慣れない土地で頑張っている彼女を元気づけようと、毎日のようにメールを送っていました。ある晩、レポート課題に追われていた僕は、少し雑な気持ちでメールを書いてしまったんです。
「レポート大変だけど、君のことをいつも思って頑張ってるよ。」
自分では応援しているつもりでした。でも、翌朝に届いた彼女からの返信を見て、僕は凍りつきました。
「『想って』じゃなくて、『思って』なんだね。なんだか、頭の片隅で考えられてるみたいで、少し寂しいな。」
ガツンと頭を殴られたような衝撃でした。彼女は、僕がただ頭の中で「彼女の存在」をタスクのように認識している、と感じてしまったんですね。僕が伝えたかったのは、心の中で彼女の姿を描き、彼女を愛しく感じる、まさしく「想う」気持ちだったのに。
その一件以来、言葉を選ぶときには、その漢字が持つ本来のイメージや温度感を大切にすることを強く意識するようになりました。特に、人の感情に関わる言葉は、一つ間違えるだけで、意図しないナイフになってしまう。あの時の彼女の寂しそうな言葉は、今でも僕のライターとしての原点になっています。
「思う」と「想う」に関するよくある質問
結局、「思う」と「想う」はどちらを使えばいいですか?
ビジネス文書や一般的な文章では、常に「思う」を使用することをおすすめします。「思う」は公用文でも推奨されており、意味の範囲も広いため、まず間違いありません。詩や手紙などで特別な感情を表現したい場合に限り、「想う」を意図的に使うと良いでしょう。
好きな人のことを考えるのは「思う」「想う」どっち?
恋愛感情を込めて、相手のことを心に描く場合は「想う」がより気持ちを表現するのに適しています。「あなたのことを想っています」と伝えることで、より深く、感情的なつながりを表現できます。ただし、「思う」を使っても間違いではありません。
なぜ公用文では「思う」に統一されているのですか?
言葉の細かい使い分けが、かえってコミュニケーションの妨げになったり、文章を分かりにくくしたりすることを避けるためです。文化庁の指針により、国民にとって分かりやすい文章を目指す一環として、同様の同音異義語の整理が進められています。
「思う」と「想う」の違いのまとめ
「思う」と「想う」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は思考か感情か:頭で考える論理的な思考は「思う」、心で描く感情的な気持ちは「想う」。
- 迷ったら「思う」:公用文やビジネスでは「思う」が標準。意味も広くカバーしているため安全。
- 漢字のイメージが鍵:「思う」は頭(田)+心、「想う」は相手(相)+心。
言葉の背景にある漢字のイメージを掴むと、機械的な暗記ではなく、感覚的に使い分けられるようになります。
これからは自信を持って、あなたの「おもう」気持ちにピッタリの漢字を選んでいきましょう。