「濫用」と「乱用」、どちらも「らんよう」と読みますが、意味の違いや使い分けに迷った経験はありませんか?
この2つの言葉は、「与えられた権限や権利を度を超して使う」のか、「ルールや基準を無視して無秩序に、または不適切に使う」のかで使い分けるのが基本です。
この記事を読めば、それぞれの言葉の核心的なイメージから具体的な使い分け、法律での使われ方までスッキリと理解でき、もう二度と迷うことはありません。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「濫用」と「乱用」の最も重要な違い
基本的には、権限や権利の度を超した行使なら「濫用」、薬物や制度などの不適切な使用なら「乱用」と覚えるのが簡単です。特に法律用語としては明確に区別されることが多いですね。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
項目 | 濫用(らんよう) | 乱用(らんよう) |
---|---|---|
中心的な意味 | 与えられた権限や権利などを度を超して使うこと。みだりに使うこと。 | むやみに使うこと。特に、社会的なルールや基準から外れて不適切に使うこと。 |
対象 | 権限、権利、職権、地位、法律知識など | 薬物、権力、制度、標準語など |
ニュアンス | 正当な範囲・限度を超える、逸脱する | 無秩序に使う、不適切・有害な使い方をする |
使われ方の傾向 | 法律用語(権利の濫用など)や、職権・地位に関する文脈で使われることが多い。 | 薬物や、社会的な規範・ルールから外れた使い方に対して使われることが多い。 |
一番大切なポイントは、「濫用」は権限や権利の“度を超す”こと、「乱用」は薬物やルールなどの“不適切な使い方”とイメージすることですね。
特に法律の世界では「権利の濫用」のように「濫用」が特定の意味で使われることが多いので、注意が必要です。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「濫用」の「濫」は水があふれる様子から“度を超す”イメージ、「乱用」の「乱」は物事がもつれる様子から“秩序なく使う”イメージを持つと、意味の違いが分かりやすくなります。
なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
「濫用」の成り立ち:「濫」が表す“度を超す”イメージ
「濫」という漢字は、「氵(さんずい)」と「監」から成り立っています。
「監」は、人が水盤(盥・たらい)の水を上から見ている様子を表し、「よく見る」「取り締まる」という意味がありますね。「さんずい」は水を表します。
そこから「濫」は、水盤から水があふれ出る様子、転じて「物事の限度を超える」「みだりに」といった意味を持つようになりました。
「放濫(ほうらん)」という言葉も、しまりなく度を越している状態を指します。
つまり、「濫用」とは与えられた範囲や権限を“超えて”使う、行き過ぎた使い方というイメージで捉えると分かりやすいでしょう。
「乱用」の成り立ち:「乱」が表す“無秩序に使う”イメージ
一方、「乱」という漢字は、もともと糸がもつれた状態を表す象形文字から来ています。
もつれた糸のように、「物事の秩序がなくなる」「入り乱れる」「治まらない」といった意味を持っていますね。
「混乱(こんらん)」や「乱雑(らんざつ)」といった言葉を思い浮かべると、そのイメージが掴みやすいでしょう。
このことから、「乱用」には、決まったルールや正しい使い方を無視して、“無秩序に”または“不適切に”使うというニュアンスが含まれるんですね。
具体的な例文で使い方をマスターする
職権を越えた指示は「職権濫用」、薬の不適切な使用は「薬物乱用」のように、対象に応じて使い分けるのが基本です。「権力の乱用」のように、どちらも使える場合もありますが、ニュアンスが異なります。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
どのような対象に対して使われているかに注目すると、使い分けが見えてきますね。
【OK例文:濫用】
- 彼は部長としての職権を濫用し、部下に私的な用事を言いつけた。
- 権利の濫用にあたるため、その要求は認められない。
- 自己の地位を濫用して不当な利益を得てはならない。
- 彼は法的な知識を濫用して、契約の隙をつこうとした。
【OK例文:乱用】
- 彼は権力を乱用し、反対派を弾圧した。(「権力の濫用」も使いますが、「乱用」はより無秩序・横暴なニュアンス)
- 彼は会社の経費を乱用して、私物を購入していたことが発覚した。
- 専門用語を乱用すると、かえってコミュニケーションが取りにくくなる。
- 安易な解雇は解雇権の乱用とみなされる可能性がある。(法律用語としては「濫用」が使われる)
このように、「濫用」は主に与えられた権限や権利の範囲を超える場合に、「乱用」はルールや規範から外れた使い方をする場合に用いられることが多いですね。「権力」のようにどちらも使われる言葉もありますが、「濫用」なら度を超す、「乱用」なら無秩序に振りかざす、といったニュアンスの違いがあります。
日常会話での使い分け
日常会話でも、基本的な考え方は同じです。
【OK例文:濫用】
- 親の権利を濫用して、子供のプライバシーを侵害するのは良くない。
- インターネット上の表現の自由も、権利の濫用とならない範囲で行使すべきだ。
【OK例文:乱用】
- 睡眠薬の乱用は、深刻な健康被害を引き起こす。
- 彼は親から与えられた小遣いを乱用し、すぐに使い果たしてしまった。
- SNSでの言葉の乱用が、いじめ問題につながることがある。
- 流行語を乱用するのは、少し幼稚に聞こえるかもしれない。
これはNG!間違えやすい使い方
意味が全く通じなくなるわけではありませんが、一般的な用法からすると不自然に聞こえる使い方を見てみましょう。
- 【NG】薬物の濫用は、絶対にやめなければならない。
- 【OK】薬物の乱用は、絶対にやめなければならない。
薬物のように、社会的なルールや健康上の観点から「不適切な使用」が問題となる場合は、「乱用」を使うのが一般的です。「濫用」だと、まるで薬物を使う権利や権限があるかのような、少し奇妙な響きになってしまいますね。
- 【NG】裁判官が法廷で権力を濫用し、被告に不当な扱いをした。
- 【OK】裁判官が法廷で職権を濫用し、被告に不当な扱いをした。(または「権力を乱用し」)
裁判官が持つのは「職権」であり、その範囲を超える行為は「職権濫用」と表現するのが最も適切です。「権力」という言葉を使うなら、「乱用」の方が無秩序なイメージに合いますが、「濫用」が全く間違いとは言えません。しかし、より正確なのは「職権濫用」でしょう。
【応用編】似ている言葉「悪用」との違いは?
「悪用(あくよう)」は、「濫用」や「乱用」と異なり、明確に「悪い目的で」使うというニュアンスが強い言葉です。不正行為や犯罪に結びつくような使い方を指します。
「濫用」「乱用」と似た言葉に「悪用(あくよう)」があります。これも押さえておくと、言葉の理解がさらに深まりますよ。
「悪用」は、文字通り「悪(わる)く用(もち)いる」こと、つまり「悪い目的のために使うこと」を意味します。
「濫用」や「乱用」も結果的に悪い事態を招くことが多いですが、「悪用」ほど明確に「悪意」や「不正な意図」を含んでいるとは限りません。
例えば、「職権濫用」は度を超した権限行使ですが、必ずしも悪意があるとは限りません(もちろん、悪意がある場合もあります)。「薬物乱用」も不適切ですが、本人の意図とは別に依存症などが原因の場合もあります。
しかし、「個人情報を悪用する」「立場を悪用して詐欺を働く」のように、「悪用」は明確に不正な目的や犯罪的な意図を持って使われる場合が多いですね。
【例文:悪用】
- 彼は会社の機密情報を悪用して、ライバル企業に情報を漏洩させた。
- 拾ったクレジットカードを悪用し、不正に買い物をした。
- その政治家は影響力を悪用し、自身の利益を図った。
「濫用」と「乱用」の違いを法律や公的な視点から解説
法律分野では、特に「権利の濫用」という概念が重要です。これは、形式的には権利の範囲内であっても、社会的に許容されないような方法で権利を行使することを禁じる法理です。「乱用」も薬物関連法などで使われますが、「濫用」ほど特定の法理を指す用語ではありません。
「濫用」と「乱用」は、特に法律の分野で使い分けが意識されることがあります。
最も代表的なのが、「権利の濫用」という法律用語です。
これは、民法第1条第3項に定められている「権利は、濫用してはならない。」という規定に基づく考え方で、たとえ自分に与えられた正当な権利であっても、それを社会的な常識や倫理(信義誠実の原則)に反するような形で使うことは許されない、という法理を指します。
例えば、些細な損害に対して法外な損害賠償を請求したり、嫌がらせ目的で訴訟を起こしたりする行為は、「権利の濫用」と判断される可能性があります。
このように、法律の世界では「濫用」が特定の重要な概念として定着していますね。
一方、「乱用」も法律で使われることがあり、特に「薬物乱用」は麻薬及び向精神薬取締法などの薬物関連法規で重要なキーワードとなります。これは、医薬品などを本来の目的や用法から逸脱して使用することを指します。
公的な文書においても、これらの使い分けはある程度意識されていますが、「配布」と「配付」のように統一する動きは今のところ見られません(Source 41参照)。それぞれの言葉が持つニュアンスと、特に法律上の定義を理解しておくことが大切でしょう。
より詳しい法律上の定義については、e-Gov法令検索などで民法や関連法規をご確認いただけます。
僕が「権限の乱用」と書いて赤面した体験談
僕も新人ライター時代、この「濫用」と「乱用」の使い分けで恥ずかしい思いをしたことがあるんです。
ある企業の不祥事に関する記事を担当していた時のこと。その企業のある部署の部長が、自身の判断で部下に不正な指示を出していた、という内容でした。
僕は記事の中で、「部長による権限の乱用が問題の原因である」と書きました。「権限」という言葉には「乱用」がしっくりくるだろう、と単純に考えてしまったんですね。
原稿を提出すると、デスク(編集者)からすぐに内線電話がかかってきました。
「この記事の『権限の乱用』だけどさ、このケースは役職者が持っている権限の範囲を超えて指示を出しているわけだから、『職権濫用』の方がより正確じゃないかな?『権力の乱用』ならまだしも、『権限の乱用』は少し一般的じゃないかもね。法律用語でも『職権濫用罪』ってあるし」
デスクは冷静に指摘してくれましたが、僕は言葉の背景や法律的な使われ方まで考えが及んでいなかったことに気づき、顔が熱くなるのを感じました。「なんとなく」で言葉を選んでしまった自分を猛省しましたね。
この経験から、言葉を使うときは、その言葉が使われる文脈や背景、特に専門分野での定義を意識することが、正確な表現には不可欠だと痛感しました。それ以来、言葉の意味を辞書だけでなく、様々な角度から調べる癖がついたように思います。
「濫用」と「乱用」に関するよくある質問
「濫用」と「乱用」、結局どちらを使えばいいですか?
対象が「権限」や「権利」で、その範囲を超える場合は「濫用」、対象が「薬物」や「制度」などで、ルールや基準から外れた不適切な使い方をする場合は「乱用」を使うのが基本です。迷った場合は、辞書でそれぞれの言葉がどのような対象に使われているかを確認すると良いでしょう。
「権力の濫用」と「権力の乱用」はどう違いますか?
どちらも使われる表現ですが、ニュアンスが異なります。「権力の濫用」は、与えられた権力の範囲や限度を超えて行使するイメージです。一方、「権力の乱用」は、権力を無秩序に、または不当に振りかざすイメージが強くなります。文脈によって、より適切な方を選びましょう。
法律では「濫用」と「乱用」は明確に区別されますか?
はい、特に「権利の濫用」は民法上の重要な法理として確立されています。これは形式的な権利行使であっても、社会的に許容されない方法での行使を禁じるものです。「乱用」も薬物関連法などで使われますが、「濫用」ほど特定の法理を示す用語ではありません。
「濫用」と「乱用」の違いのまとめ
「濫用」と「乱用」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 対象とニュアンスで使い分け:「濫用」は権限や権利の度を超すこと、「乱用」は薬物やルールなどの不適切な使用。
- 漢字のイメージが鍵:「濫」は水が“あふれる”=度を超す、「乱」は糸が“もつれる”=無秩序・不適切。
- 法律用語に注意:「権利の濫用」は特定の法理を指す重要な法律用語。
どちらも「らんよう」と読むだけに混同しやすいですが、漢字のイメージと使われる対象を意識すれば、自信を持って使い分けられるようになります。
これからは迷わず、的確な言葉を選んでいきましょう。