「離縁(りえん)」と「離婚(りこん)」、どちらも法的な関係を解消する際に使われる言葉ですが、この二つの違いを正確に説明できますか?
ニュースやドラマなどで耳にすることもありますが、「どちらも別れることでしょ?」と、つい混同してしまいがちですよね。
実は、「離縁」と「離婚」は、解消する対象となる「関係性」が全く異なります。親子関係(養親と養子)なのか、夫婦関係なのか、そこが決定的な違いなんです。
この記事を読めば、「離縁」と「離婚」のそれぞれの意味、法律上の手続きや効果の違い、そして似ている言葉「絶縁」との違いまで、スッキリと理解できます。もう、これらの言葉の使い分けで迷うことはありません。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「離縁」と「離婚」の最も重要な違い
「離縁」は、養子縁組によって成立した法律上の親子関係を解消することです。一方、「離婚」は、婚姻によって成立した夫婦関係を解消することです。対象となる関係性が「養親子」か「夫婦」かが根本的に異なります。
まず、結論からお伝えしますね。
「離縁」と「離婚」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
項目 | 離縁 | 離婚 |
---|---|---|
中心的な意味 | 養子縁組によって生じた法律上の親子関係を解消すること。 | 婚姻によって生じた夫婦関係を解消すること。 |
対象となる関係 | 養親と養子 | 夫と妻 |
根拠法規(主なもの) | 民法 第811条~第817条の2 | 民法 第763条~第771条 |
主な手続き | 協議離縁、調停離縁、審判離縁、裁判離縁 | 協議離婚、調停離婚、審判離婚、裁判離婚 |
届け出 | 離縁届 | 離婚届 |
効果(主なもの) | 養親子関係及び親族関係の終了、氏の変動(原則復氏)など | 夫婦関係及び姻族関係の終了、氏の変動(原則復氏)、財産分与、慰謝料、養育費など |
英語 | dissolution of adoptive relation | divorce |
このように、「離縁」は養子縁組の解消、「離婚」は婚姻の解消と、対象とする法律関係が全く異なることがお分かりいただけると思います。
手続きや効果にも違いがありますが、まずはこの根本的な関係性の違いをしっかりと押さえておくことが重要ですね。
なぜ違う?言葉の意味と漢字の成り立ちからイメージを掴む
「離縁」の「縁」は血縁や養子縁組による“つながり”を意味し、それを“離れる”ことを示します。「離婚」の「婚」は“婚姻”を意味し、その関係から“離れる”ことを示します。漢字が示す関係性の違いが、言葉の意味の違いに直結しています。
なぜこの二つの言葉が異なる関係性の解消を指すのか、それぞれの言葉の意味と漢字の成り立ちを見ていくと、そのイメージがよりはっきりとしますよ。
「離縁」の意味:「養子縁組」の関係を断ち切る
「離縁」の「離」は「はなれる、わかれる」ですね。「縁」は「えん、えにし、つながり」を意味します。血縁関係だけでなく、婚姻や養子縁組などによって生じる法的なつながりも「縁」に含まれます。
つまり「離縁」とは、養子縁組という法律行為によって意図的に作られた親子としての「縁」を、「離れる」ことによって解消するという意味合いになります。
実の親子関係(自然血族)は、原則として法律で断ち切ることはできませんが、養子縁組による親子関係(法定血族)は、当事者の合意や裁判手続きによって解消することができる、そのための言葉が「離縁」なのです。
「離婚」の意味:「婚姻」の関係を解消する
一方、「離婚」の「離」も「はなれる、わかれる」ですが、「婚」は「婚姻」、つまり結婚を意味します。
したがって、「離婚」とは、婚姻届を提出することによって法的に成立した夫婦としての「婚」姻関係から、「離れる」ことによって解消することを指します。
こちらは、夫婦間の関係解消に限定して使われる言葉ですね。
このように、使われている漢字自体が、解消する対象(「縁」組か「婚」姻か)を示していると考えると、違いが明確にイメージできるのではないでしょうか。
具体的な例文で使い方をマスターする
養親と養子の関係を解消する手続きについては「離縁届」「協議離縁」、夫婦関係を解消する場合は「離婚届」「協議離婚」のように使い分けます。日常会話で使う場面は限られますが、関係性を正しく認識して使うことが重要です。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
法律・手続きの場面と、日常会話の場面に分けて見ていきましょう。
法律・手続きに関する使い分け
役所での手続きや法律相談などで使われる場面です。
【OK例文:離縁】
- 養親と養子の間で話し合い、協議離縁することになりました。
- 家庭裁判所に離縁の調停を申し立てました。
- 離縁届を市役所に提出する必要があります。
- 離縁後、養子の氏は原則として縁組前の氏に戻ります。(復氏)
【OK例文:離婚】
- 夫婦で話し合い、協議離婚することに合意しました。
- 離婚に伴う財産分与について弁護士に相談した。
- 離婚届には証人2名の署名が必要です。
- 離婚後、子供の親権者を定めなければならない。
このように、対象となる関係性に応じて、関連する法律用語(協議離縁/協議離婚、離縁届/離婚届など)も明確に使い分けられていますね。
日常会話での使い分け
日常会話で「離縁」を使う場面は、「離婚」に比べてかなり少ないですが、使う場合は関係性を正確に表現する必要があります。
【OK例文:離縁】
- 彼は幼い頃に養子になったが、成人後に養親と離縁したそうだ。
- (ドラマなどで)「お前とは今日限りで離縁だ!」
【OK例文:離婚】
- 友人が先日、離婚したと聞いた。
- 離婚して、今は実家で暮らしている。
- 子供の養育費について、元夫と話し合っている。
日常会話では、養子縁組に関わる話でない限り、「離縁」を使うことはまずありません。夫婦関係の解消は、常に「離婚」ですね。
これはNG!間違えやすい使い方
対象となる関係性を混同すると、全く意味が通じなくなってしまいます。
- 【NG】結婚して10年になるが、夫との離縁を考えている。
- 【OK】結婚して10年になるが、夫との離婚を考えている。
夫との関係は婚姻関係なので、「離婚」が適切です。「離縁」では意味が通りません。
- 【NG】彼は養親との関係が悪化し、先日離婚した。
- 【OK】彼は養親との関係が悪化し、先日離縁した。
養親との関係は養子縁組による親子関係なので、「離縁」が適切です。「離婚」は夫婦関係にしか使えません。
【応用編】似ている言葉「絶縁」との違いは?
「絶縁(ぜつえん)」は、親子や親族、友人などとの関係を断ち切ることを意味しますが、法律上の効力はありません。「離縁」や「離婚」が法的な手続きを経て関係を解消するのに対し、「絶縁」はあくまで感情的・社会的な関係断絶を示す言葉です。
「離縁」と似たニュアンスで使われることがある言葉に「絶縁(ぜつえん)」があります。これも違いを明確にしておきましょう。
「絶縁」は、親子、兄弟、親戚、友人など、様々な人間関係において、そのつながりを断ち切ることを意味します。「勘当(かんどう)」もほぼ同じ意味合いで使われますね。
「離縁」や「離婚」との決定的な違いは、「絶縁」には法律上の効果が一切ないという点です。
- 離縁・離婚:法律に基づき、特定の関係(養親子・夫婦)を法的に解消する手続き。戸籍にも記載され、相続権などに影響する。
- 絶縁:当事者間の感情的な宣言や意思表示であり、法的な関係(親子関係、相続権など)には影響しない。
例えば、親が子に対して「お前とは絶縁だ!」と言ったとしても、法律上の親子関係はなくなりませんし、相続権もなくなりません。実の親子関係は、原則として法律で断ち切ることはできないのです。(ただし、虐待など極めて例外的な場合に、家庭裁判所が関与して親子関係不存在確認や親権喪失の審判がなされることはあります)。
「絶縁」はあくまで、「もうあなたとは関わりません」という強い意思表示や、社会的な関係の断絶を意味する言葉だと理解しておきましょう。
「離縁」と「離婚」の違いを法律・制度の視点から解説
日本の民法では、「離縁」は第811条以下に、「離婚」は第763条以下に、それぞれ手続きや効果が定められています。どちらも当事者の話し合いによる「協議」が原則ですが、合意できない場合は家庭裁判所での「調停」「審判」「裁判」へと移行します。
「離縁」と「離婚」は、日本の民法において、それぞれ別の条文で手続きや効果が定められています。
「離縁」について(民法 第四編 親族 第四章 養子 第二節 離縁):
離縁は、養子縁組によって成立した法定の親子関係を将来に向かって解消する制度です。
- 協議離縁(第811条):養親と養子(養子が15歳未満の場合は離縁後の法定代理人となるべき者)が話し合いで合意し、離縁届を市区町村役場に提出することで成立します。最も一般的な方法です。
- 調停離縁・審判離縁:協議で合意できない場合に、家庭裁判所に調停または審判を申し立てます。
- 裁判離縁(第814条):調停・審判でも解決しない場合や、一方当事者からの悪意の遺棄、生死不明、その他縁組を継続し難い重大な事由がある場合に、家庭裁判所に訴訟を提起します。
- 効果(第816条など):離縁により、養親子関係およびそれに基づく親族関係は終了します。養子の氏は、原則として縁組前の氏に戻ります(復氏)。
「離婚」について(民法 第四編 親族 第二章 婚姻 第四節 離婚):
離婚は、有効に成立した婚姻関係を将来に向かって解消する制度です。
- 協議離婚(第763条):夫婦間の話し合いで合意し、離婚届を市区町村役場に提出することで成立します。日本の離婚の約9割が協議離婚です。未成年の子がいる場合は、親権者を定める必要があります(第766条)。
- 調停離婚・審判離婚:協議で合意できない場合に、家庭裁判所に調停または審判を申し立てます。離婚自体に加え、親権、養育費、財産分与、慰謝料などについても話し合われます。
- 裁判離婚(第770条):調停・審判でも解決しない場合や、法定の離婚原因(不貞行為、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、回復の見込みのない強度の精神病、その他婚姻を継続し難い重大な事由)がある場合に、家庭裁判所に訴訟を提起します。
- 効果(第768条、第769条など):離婚により、夫婦関係および姻族関係は終了します。婚姻によって氏を改めた者は、原則として婚姻前の氏に戻ります(復氏)。財産分与請求権や、事情によっては慰謝料請求権が発生します。
このように、離縁も離婚も「協議」が基本ですが、合意に至らない場合は家庭裁判所の手続き(調停・審判・裁判)が必要になる点は共通しています。しかし、解消する関係性が異なるため、その効果や付随する問題(親権、財産分与など)には大きな違いがありますね。法律に関する正確な情報は、e-Gov法令検索などで条文を確認することをおすすめします。
ニュースで「離縁」と聞き、「離婚」と勘違いした僕の話
少し前のことですが、芸能ニュースを見ていて「離縁」という言葉を聞き、完全に「離婚」のことだと勘違いしてしまった経験があります。
そのニュースは、ある有名な俳優さんが、長年連れ添った奥さんではなく、実業家の方と養子縁組をしていたけれど、その関係を解消した、という内容でした。ワイドショーのコメンテーターが「〇〇さん、離縁されたそうですね…」と話していたのです。
僕はそれを聞いて、「え?あの俳優さん、離婚したの!?奥さんとは仲が良さそうだったのに…」と早合点してしまいました。その俳優さんには奥さんがいることを知っていたので、「離縁=離婚」だと勝手に結びつけてしまったんですね。
しばらくして、別のニュース記事で詳細を読み、「あ、奥さんとの話じゃなくて、養子縁組を解消した話だったのか!」と気づきました。「離縁」が養子縁組の解消を指す言葉だということを、その時初めて意識したんです。
「そうか、『縁』を切るといっても、夫婦の縁を切るのは『離婚』で、養子としての縁を切るのが『離縁』なんだな…」
普段あまり使わない言葉だけに、その正確な意味を知らないと、情報を全く誤って解釈してしまう可能性があることを痛感しました。特に法律が絡む言葉は、その言葉が指し示す「対象」や「関係性」を正しく理解することが、誤解を防ぐ第一歩だと学びました。それ以来、ニュースなどで法律用語が出てくると、「これはどういう意味だろう?」と辞書やネットで確認するクセがつきましたね。
「離縁」と「離婚」に関するよくある質問
離縁したら戸籍はどうなりますか?
離縁が成立すると、離縁届が受理された後、戸籍にその旨が記載されます。養子は原則として縁組前の戸籍に戻るか、新しい戸籍が作られます。氏も縁組前の氏に戻ります(復氏)。ただし、縁組期間が7年以上の場合は、離縁後3か月以内に届け出ることで縁組中の氏を使い続けることも可能です。
離婚と離縁は同時にできますか?
状況によりますが、手続きは別々に行う必要があります。例えば、夫婦の一方がもう一方の連れ子と養子縁組をしている場合、夫婦が離婚するだけでは養親子関係は解消されません。養親子関係も解消したい場合は、離婚の手続きとは別に、離縁の手続き(協議離縁届の提出や家庭裁判所での手続き)が必要です。
事実婚の解消は「離婚」にあたりますか?
法律上の「離婚」にはあたりません。「離婚」は、婚姻届を提出して法律上の夫婦となった関係を解消することです。婚姻届を出していない事実婚(内縁関係)の場合、関係を解消しても法律上の離婚手続きは不要です。ただし、財産分与や慰謝料、子供の認知・養育費などについては、法律婚に準じて解決が図られる場合があります。
「離縁」と「離婚」の違いのまとめ
「離縁」と「離婚」の違い、そして関連する法律上の扱いについて、ご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 対象が違う:「離縁」は養親子関係の解消、「離婚」は夫婦関係の解消。
- 法律上の根拠が違う:民法でそれぞれ別の条文に規定されている。
- 手続きは似ている:どちらも「協議」が基本で、合意できなければ「調停」「審判」「裁判」へ。
- 「絶縁」とは違う:「絶縁」には法的効力がない。
これらの言葉は、家族に関する法律関係を理解する上で基本となるものです。意味を正確に把握しておくことで、ニュースの理解が深まるだけでなく、自身の生活に関わる場面でも役立つ知識となるでしょう。
言葉の正確な意味を知ることは、社会のルールや仕組みを理解する上でとても大切ですね。言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、法律・制度関連の言葉の違いをまとめたページもぜひご覧ください。