音楽の授業や合唱コンクールなどで耳にする「斉唱(せいしょう)」と「合唱(がっしょう)」。
どちらも複数人で歌うことを指しますが、その違いを正確に説明できますか?
「みんなで同じメロディーを歌うのはどっちだっけ?」と、ふと疑問に思うこともあるかもしれませんね。実はこの二つ、歌うメロディー(旋律)が一つなのか、それとも複数のパートに分かれているのかという点で明確に区別されるんです。
この記事を読めば、「斉唱」と「合唱」それぞれの言葉が持つ音楽的な意味、漢字の成り立ちからくるイメージ、そして具体的な使い分けまでスッキリ理解できます。もう、これらの言葉の違いに迷うことはありません。
それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「斉唱」と「合唱」の最も重要な違い
「斉唱」は全員が同じ旋律(メロディー)を歌うこと(ユニゾン)です。一方、「合唱」は複数の声部(パート)に分かれて、異なる旋律や和音(ハーモニー)を歌うことです。「斉唱」はメロディーが一つ、「合唱」はメロディーが複数(パート)と覚えるのが基本です。
まず、結論として「斉唱」と「合唱」の最も重要な違いを表にまとめました。
項目 | 斉唱(せいしょう) | 合唱(がっしょう) |
---|---|---|
中心的な意味 | 大勢の人が同じ旋律を一緒に歌うこと。 | 複数の声部(パート)に分かれて同時に歌うこと。 |
歌う旋律(メロディー) | 一つ(単旋律)。全員が同じメロディー。 | 複数。パートごとに異なるメロディーやリズム。 |
和音(ハーモニー) | 原則として生じない(ユニゾン)。 | 生じることが基本。 |
音楽用語 | ユニゾン(Unison) | コーラス(Chorus) |
具体例 | 校歌、国歌、応援歌、童謡など。合唱曲の一部。 | 混声合唱、女声合唱、男声合唱、合唱コンクールの曲など。 |
英語 | singing in unison | choral singing, chorus |
一番のポイントは、歌っているメロディーが一つ(全員同じ)なら「斉唱」、複数(パートに分かれている)なら「合唱」という点です。「斉唱」は音楽用語で言う「ユニゾン」、「合唱」は「コーラス」にあたります。
学校の校歌や国歌のように、みんなで同じメロディーを歌うのは「斉唱」ですね。一方、ソプラノ、アルト、テノール、バスのようにパートが分かれてハーモニーを奏でるのは「合唱」です。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「斉唱」の「斉」は“等しい、揃える”意味で、全員が同じ高さ・旋律で揃って歌うイメージ。「合唱」の「合」は“合わせる、一緒になる”意味で、異なるパートが合わさって一つの音楽を作り上げるイメージです。
なぜこの二つの言葉に意味の違いがあるのか、それぞれの漢字が持つ元々の意味を探ると、その音楽的なイメージが掴みやすくなりますよ。
「斉唱」の成り立ち:「斉」が表す“そろって同じ”イメージ
「斉唱」の「斉(セイ)」という漢字は、元々、穀物の穂が揃って垂れている様子や、物がきちんと整列している様子を表す文字でした。そこから、「等しい」「揃える」「整える」といった意味を持つようになりました。「一斉に」「斉整」などの言葉に使われますね。
「唱」は「となえる、歌う」という意味です。
したがって、「斉唱」とは、大勢の人が「等しく」「揃って」同じ旋律を歌うこと、というイメージが漢字からも伝わってきます。全員が完全に同じものを歌う、まさにユニゾン(unison = uni-「一つの」+ sonus「音」)の状態を表しています。
「合唱」の成り立ち:「合」が表す“合わせる・重なる”イメージ
一方、「合唱」の「合(ゴウ)」という漢字は、「亼(あつまる)」と「口」を組み合わせた形で、蓋と本体がぴったり合う様子を表しています。そこから、「合わせる」「一緒になる」「重なる」「調和する」といった意味を持つようになりました。「合体」「集合」「調合」などの言葉があります。
「唱」は「歌う」ですから、「合唱」とは、異なる複数の声部(パート)が「合わさって」「重なり合って」一つの音楽を作り上げること、というイメージが浮かびます。それぞれのパートは違う旋律やリズムを歌っていても、それらが組み合わさって調和(ハーモニー)を生み出す様子を表しているのですね。
具体的な例文で使い方をマスターする
全員で同じメロディーを歌う場面は「斉唱」(例:国歌斉唱、校歌斉唱)。パートに分かれてハーモニーを奏でる場合は「合唱」(例:混声四部合唱、合唱コンクール)。合唱曲の中にも、全員が同じメロディーを歌う「斉唱」の部分が含まれることがあります。
言葉の違いをしっかり掴むには、具体的な例文で確認するのが一番です。
音楽の場面を中心に、「斉唱」と「合唱」がそれぞれどのように使われるか見ていきましょう。
「斉唱」を使う具体的なケース
全員が同じ旋律を歌う場合に使われます。
【OK例文:斉唱】
- 開会式で国歌斉唱が行われた。
- 卒業式では、全校生徒で校歌を斉唱した。
- 応援団のリードに合わせて、応援歌を斉唱する。
- 音楽の授業で、新しい歌をまず斉唱で練習した。
- この合唱曲の冒頭部分は、全員による力強い斉唱で始まる。
- ミサ(カトリックの典礼)では、会衆斉唱の聖歌が歌われることがある。(グレゴリオ聖歌など)
式典での国歌や校歌、みんなで歌う応援歌など、一体感を出す場面でよく使われますね。合唱曲の一部として、特定の効果を狙って斉唱が用いられることもあります。
「合唱」を使う具体的なケース
複数のパートに分かれて歌う場合に使われます。
【OK例文:合唱】
- 中学校の合唱コンクールに向けて練習に励んでいる。
- 彼は大学で混声四部合唱のサークルに所属している。
- ベートーヴェンの第九(交響曲第9番)の第4楽章は、壮大な合唱で有名だ。
- この曲は女声三部合唱のために編曲された。
- 教会で聖歌隊の美しい合唱を聞いた。
- オペラには、登場人物たちが心情を歌い上げる合唱シーンが多くある。
パート(ソプラノ、アルト、テノール、バスなど)に分かれて、和音(ハーモニー)を形成するのが合唱の基本的な特徴です。
これはNG!間違えやすい使い方
音楽的な意味を誤解していると、不自然な表現になることがあります。
- 【NG】みんなで校歌を合唱した。(パート分けがない場合)
- 【OK】みんなで校歌を斉唱した。
校歌は通常、全員が同じメロディーを歌うので「斉唱」が適切です。もしパート分けして歌う特別なアレンジがあれば「合唱」でも良いですが、一般的ではありません。
- 【NG】アカペラグループが美しい斉唱を披露した。(ハーモニーがある場合)
- 【OK】アカペラグループが美しい合唱(重唱)を披露した。
アカペラは通常、複数の声部でハーモニーを奏でるため、「合唱」または「重唱」が適切です。「斉唱」だと、全員が同じメロディーだけを歌っていることになり、アカペラの魅力であるハーモニーが表現できません。
- 【NG】一人で歌うことを斉唱という。
- 【OK】一人で歌うことを独唱(ソロ)という。
「斉唱」は「大勢の人」が歌うことが前提です。一人で歌うことは「独唱(どくしょう)」または「ソロ(solo)」と言います。
【応用編】似ている言葉「重唱」との違いは?
「重唱(じゅうしょう)」も複数のパートで歌う点は「合唱」と同じですが、各パートを一人ずつが担当する形態を指します。「合唱」は各パートを複数人で歌うのが一般的です。二重唱、三重唱、四重唱などが「重唱」にあたります。
「合唱」と似て非なるものに「重唱(じゅうしょう)」があります。これも複数の声部で歌う形態ですが、参加人数に違いがあります。
- 合唱(Chorus):複数の声部(パート)に分かれ、各パートをそれぞれ複数人の歌手が担当して歌う形態。
- 重唱(Ensemble singing):複数の声部(パート)に分かれ、各パートをそれぞれ一人ずつの歌手が担当して歌う形態。
つまり、「合唱」はパートごとに人数がいるのに対し、「重唱」は各パート一人ずつ、という違いです。
重唱は、参加人数によって呼び方が変わります。
- 二重唱(デュエット Duet):2人で歌う
- 三重唱(トリオ Trio):3人で歌う
- 四重唱(カルテット Quartet):4人で歌う
- 五重唱(クインテット Quintet):5人で歌う
- …以下、六重唱(セクステット)、七重唱(セプテット)、八重唱(オクテット)など
オペラのアリア(独唱)に対して、登場人物二人がそれぞれの思いを歌い上げる場面は「二重唱」ですね。ゴスペラーズのようなヴォーカルグループは「五重唱」にあたります。
「合唱」と「重唱」は、パートごとの人数が違う、と覚えておきましょう。
「斉唱」と「合唱」の違いを音楽的に解説
音楽理論上、「斉唱」は単旋律音楽(モノフォニー)の形態であり、全員が同じ音高・リズムで歌います(オクターブ違いも含む)。「合唱」は多声音楽(ポリフォニー)の一形態であり、複数の独立した旋律線や和声(ホモフォニー)によって構成されます。音の厚みや響きの豊かさが「合唱」の魅力となります。
「斉唱」と「合唱」の違いを、もう少し音楽理論的な視点から見てみましょう。
「斉唱」は、音楽のテクスチュア(音の組み合わせ方、織り成され方)の分類でいうと、「単旋律音楽(モノフォニー Monophony)」にあたります。これは、旋律が一つだけで、和音や対旋律(主旋律と絡み合う別の旋律)を伴わない音楽のことです。グレゴリオ聖歌などが代表例ですね。複数人で歌う場合でも、全員が全く同じメロディーを歌う(厳密には、男性と女性のように1オクターブ違いで歌う場合もユニゾン=斉唱とみなされます)のが特徴です。
一方、「合唱」は、「多声音楽(ポリフォニー Polyphony)」の一形態です。ポリフォニーは、複数の独立した旋律線が同時に進行する音楽を指します。ルネサンス時代のモテットや、バッハのフーガなどが代表的です。また、一つの主旋律を和音(コード)で支える「和声音楽(ホモフォニー Homophony)」も広義のポリフォニーに含まれ、現代の多くの合唱曲はこのホモフォニーの形式をとっています(例:主旋律をソプラノが歌い、アルト・テノール・バスが和音で支える)。
つまり、音楽的には、
- 斉唱:単一のメロディーライン(モノフォニー)
- 合唱:複数のメロディーライン、または主旋律と和声(ポリフォニー/ホモフォニー)
という違いになります。「合唱」は、複数の声部が組み合わさることで、音に厚みが生まれ、豊かな響きや複雑な表現が可能になるのが大きな魅力と言えるでしょう。「斉唱」には、力強さや一体感を表現するのに適しているという特徴があります。
僕が音楽の授業で恥ずかしかった「斉唱」と「合唱」の勘違い
僕も中学生の頃、音楽の授業で「斉唱」と「合唱」を勘違いして、クラスメートの前で恥ずかしい思いをしたことがあります。
それは、合唱コンクールの練習をしていた時のことでした。僕たちのクラスが選んだ曲は、途中で男女に分かれて別のメロディーを歌う部分と、全員で同じメロディーを力強く歌う部分がある、変化に富んだ曲でした。
練習中、音楽の先生が「はい、じゃあ次はサビの部分、全員で斉唱ね!」と言いました。当時の僕は、「斉唱」も「合唱」も、なんとなく「みんなで歌うこと」くらいの認識しかなく、特に違いを意識していませんでした。
そして、サビの部分。僕は隣の席の女子(アルトパート)が、僕(テノールパート)とは違うメロディーを歌い始めたのを聴いて、「あれ?先生、斉唱って言ったのに、違うメロディー歌ってるぞ?」と不思議に思いました。そして、良かれと思って、つい、その女子に小声で言ってしまったのです。
「おい、ここ斉唱だって。メロディー違うぞ。」
すると、その女子はキョトンとした顔で、「え? ここは合唱だよ? 斉唱は最後の部分でしょ?」と。周りの他のパートの生徒たちも、「そうだよ、ここはハモるところだよ」と口々に言います。
先生が歌を止めて、「どうしたの?」と尋ねました。僕が「いえ、斉唱なのに違うメロディーを歌ってる人が…」と言いかけると、先生は楽譜のその部分を指差して、「あぁ、藤吉くん、ここはパートが分かれてるから『合唱』だよ。先生がさっき『斉唱』って言ったのは、曲の一番最後の、全員で同じメロディーを歌う部分のことね」と優しく教えてくれました。
クラス中からクスクス笑いが漏れ、僕は顔から火が出るほど恥ずかしかったです。「斉唱」は全員が同じメロディー、「合唱」はパートに分かれて違うメロディー(ハーモニー)という、基本的な違いを全く理解していなかったのです。
この一件以来、音楽用語に限らず、言葉の意味を正確に理解することの大切さを学びました。知っているつもりでも、実はちゃんと分かっていなかった、なんてことは意外と多いのかもしれませんね。
「斉唱」と「合唱」に関するよくある質問
校歌を歌うのは「斉唱」「合唱」どちらですか?
一般的に、校歌は全員が同じメロディーを歌うため、「斉唱」です。特別な行事などでパート分けされたアレンジで歌われる場合は「合唱」になりますが、通常は「斉唱」です。
合唱曲の中に斉唱の部分はありますか?
はい、あります。多くの合唱曲では、曲の表現効果を高めるために、パートごとに異なるメロディーを歌う部分(合唱)と、全員が同じメロディーを歌う部分(斉唱)が組み合わされています。斉唱の部分は、歌詞の内容を強調したり、力強さを表現したりする目的で使われることが多いです。
どちらの方が難しいですか?
一概には言えませんが、一般的には「合唱」の方が難しいとされることが多いです。「合唱」では、自分のパートのメロディーやリズムを正確に保ちつつ、他のパートの音を聞き、全体のハーモニーを作り上げる必要があるため、より高度な技術と協調性が求められます。「斉唱」も、全員の音程やタイミング、表現を揃えるためには練習が必要ですが、音楽的な複雑さでは「合唱」の方が高いと言えるでしょう。
「斉唱」と「合唱」の違いのまとめ
「斉唱」と「合唱」の違い、これでスッキリ整理できたでしょうか?
最後に、この記事のポイントをまとめておきましょう。
- 歌うメロディーの数:「斉唱」は一つ(全員同じメロディー、ユニゾン)。「合唱」は複数(パートに分かれて異なるメロディー、ハーモニー)。
- 漢字のイメージ:「斉唱」の「斉」は“揃って同じ”。「合唱」の「合」は“合わせる・重なる”。
- 音楽用語:「斉唱」はモノフォニー(単旋律)。「合唱」はポリフォニー/ホモフォニー(多声・和声)。
- 具体例:校歌・国歌は「斉唱」。合唱コンクールの曲は「合唱」。
- 類義語「重唱」:「合唱」と似るが、各パートを一人ずつが担当する形態。
音楽の基本的な歌唱形態である「斉唱」と「合唱」。それぞれの特徴を理解することで、音楽を聴く楽しみが深まったり、実際に歌う際の意識が変わったりするかもしれませんね。
これからは自信を持って、二つの言葉を使い分けていきましょう。言葉の使い分けについてさらに深く知りたい方は、社会・関係に関する言葉の違いをまとめたページもぜひ参考にしてみてください。