「世論」という言葉、ニュースなどで見聞きする際、「せろん」と読まれたり「よろん」と読まれたり…「どっちが正しいの?」「なんで読み方が二つあるの?」と疑問に思ったことはありませんか?
結論から言うと、どちらの読み方も間違いではありませんが、本来の読み方や公的な場面での推奨は「よろん」とされています。しかし、「せろん」も広く一般的に使われている慣用読みなのです。
この記事を読めば、なぜ「世論」に二つの読み方が存在するのか、その歴史的背景から現代での使い分けの状況、さらには関連する言葉との違いまで、スッキリと理解できます。もう「せろん?よろん?」と迷うことはなくなりますよ。
それでは、まず二つの読み方の違いを整理してみましょう。
結論:「せろん」と「よろん」、読み方の違い早わかり表
「世論」の読み方は「よろん」がより伝統的で、放送など公的な場面で推奨されています。一方、「せろん」は広く使われるようになった慣用読みであり、間違いではありません。どちらを使うかは文脈や場面によりますが、迷ったら「よろん」を使うのが無難と言えるでしょう。
まずは、「せろん」と「よろん」の主な違いを一覧表で確認しましょう。
読み方 | 位置づけ | 使われる場面 | 備考 |
---|---|---|---|
よろん | 伝統的な読み方・推奨される読み方 | 報道(特にNHKなど)、公的な文書、学術的な文脈、改まった場面 | 「世」の呉音読み「ヨ」に基づく。「輿論(よろん)」との混同を避ける意味合いも。 |
せろん | 慣用読み | 日常会話、一般的なメディア、話し言葉に近い文脈 | 「世」の漢音読み「セイ」から変化したとされる。「世代(せだい)」など他の熟語の影響も。広く浸透している。 |
ポイントは、「よろん」がよりフォーマルで推奨される読み方であり、「せろん」はカジュアルで広く使われている読み方、という点ですね。
どちらか一方が絶対的に正しく、もう一方が間違い、というわけではないのが少しややこしいところです。
なぜ「世論」には「せろん」と「よろん」の読み方があるの?
「よろん」は「世(ヨ)」の呉音読みが由来とされる伝統的な読み方です。一方「せろん」は「世(セイ)」の漢音読みが変化した慣用読みで、他の「世」を使った熟語(世代など)の影響や、「せけん」との連想から広まったと考えられています。
同じ漢字なのに、なぜ二通りの読み方が存在するのでしょうか?その背景には、漢字の音読みの歴史と、言葉の使われ方の変化があります。
本来の読み方は「よろん」?「世」の音読みの歴史
漢字には、中国から伝わった時代の違いなどによって、複数の音読みが存在することがあります。代表的なものに「呉音(ごおん)」と「漢音(かんおん)」があります。
「世」という漢字の場合:
- 呉音:ヨ (例:世間(よけん・よのなか)、世俗(よぞく))
- 漢音:セイ (例:世界(せかい)、世紀(せいき)、世代(せだい))
「世論」の「よろん」という読み方は、この呉音の「ヨ」に基づいていると考えられています。
また、後述しますが、もともと “public opinion” の訳語として使われていた「輿論」も「よろん」と読みます。この「輿論」との混同を避け、区別するために「世論」を「せろん」と読むようになった、という説もありますが、はっきりとしたことは分かっていません。
慣用読みとして定着した「せろん」
一方、「せろん」という読み方は、漢音の「セイ」が変化したもの、あるいは「世代(せだい)」や「世相(せそう)」など、「セイ」と読む他の熟語からの類推や、「世間(せけん)」との連想などによって広まった慣用読みとされています。
慣用読みとは、本来の正しい読み方ではないけれど、多くの人に使われるうちに社会的に定着した読み方のことです。
「せろん」の方が、語感として「世間一般の声」というイメージに繋がりやすいと感じる人もいるかもしれませんね。
このように、「世論」には伝統的な読み方「よろん」と、慣用的に広まった読み方「せろん」の二つが存在するようになったのです。
「せろん」と「よろん」の使い分け:現代ではどうなっている?
NHKなどの放送では「よろん」を原則としています。これは「輿論」との区別や伝統を重んじるためです。しかし、新聞や一般の会話では「せろん」も非常に多く使われています。どちらを使うかは、場面や文脈、伝えたいニュアンスによって判断するのが良いでしょう。
では、現代において「せろん」と「よろん」は、どのように使い分けられているのでしょうか?
公的な場面や報道では「よろん」が推奨
NHKなどの放送局では、原則として「世論」を「よろん」と読むように基準を定めています。
これは、伝統的な読み方を尊重することや、同じ読みの「輿論(よろん)」との区別を明確にする意図があると考えられます。
学術論文や公式な文書など、改まった場面でも「よろん」が使われる傾向がありますね。
「せろん」も広く使われる実態
しかし、実際の社会では「せろん」という読み方も非常に広く使われています。
新聞の見出しなどでは文字数の制約から「世論(よろん)」とルビを振ることが難しい場合もありますし、単純に「せろん」の方が発音しやすいと感じる人も多いのかもしれません。
日常会話では、むしろ「せろん」の方が優勢かもしれませんね。
どちらを使うべき?迷ったときの判断基準
結局のところ、どちらを使うべきか迷ったら、以下の点を考慮すると良いでしょう。
- 場面のフォーマルさ: 公的な発表や改まった文書では「よろん」を選ぶのが無難です。
- 聞き手・読み手: 相手や媒体に合わせて、より一般的な方を選ぶという考え方もあります。日常会話なら「せろん」でも全く問題ありません。
- 所属組織のルール: 会社や団体によっては、表記や読み方のルールが決まっている場合があります。
迷ったら、より伝統的で公的な場面でも通用する「よろん」を選んでおくのが安心と言えるかもしれませんね。
例文で見る「世論」の読み方
具体的な例文で、それぞれの読み方が使われる(あるいはどちらでも読める)状況を見てみましょう。
「よろん」と読むのが一般的な例文
- 内閣支持率に関する世論(よろん)調査が実施された。 (報道など)
- その法案は、世論(よろん)の強い反発を受けて修正された。(公的な文脈)
- 現代の世論(よろん)形成におけるメディアの役割は大きい。(学術的な文脈)
「せろん」と読まれることもある例文
- 最近の世論(せろん/よろん)は、その問題にかなり関心が高いようだ。(日常会話・一般的な文脈)
- 世論(せろん/よろん)を二分する議論となっている。(メディア・一般的な文脈)
- SNSでの炎上が世論(せろん/よろん)に影響を与えている。(日常会話・一般的な文脈)
このように、特に一般的な話題や日常会話に近い文脈では、「せろん」と読まれることも多いのが現状です。
【注意】「輿論(よろん)」との違い
「世論(よろん・せろん)」が世間一般の意見を指すのに対し、「輿論(よろん)」は本来、公的な議論や理性に基づいた意見を指す言葉です。漢字が異なり、「輿」は常用漢字ではありません。現代では「世論」に統一される傾向が強いですが、学術的な文脈などでは区別されることもあります。
ここで注意したいのが、「世論」と同じ「よろん」と読む「輿論」という言葉の存在です。
前回の記事テーマでもありましたが、この二つは意味が異なります。
- 世論(せろん・よろん): 社会の多数の人々の意見・考え。感情的なものを含むこともある。
- 輿論(よろん): 公の事柄について、理性的な議論を経て形成される意見。公共性・理性を重んじるニュアンス。
もともと “public opinion” の訳語としては「輿論」が先に使われ、後に「世論」という表記も広まりました。
「輿」が常用漢字ではないため、現代の新聞や公文書では「よろん」の意味であっても「世論」と表記するのが一般的です。
しかし、学術的な議論などでは、あえて「輿論」という言葉を使い、単なる多数意見ではない、熟議された公の意見というニュアンスを強調することがあります。
読み方が同じために混同しやすいですが、漢字が違い、意味合いも異なることを覚えておきましょう。
公的な見解:文化庁や放送局はどう考えている?
文化庁の常用漢字表では「世」の音読みに「セイ」「セ」の他に「ヨ」も示されています。放送では、NHKが「世論」を原則「よろん」と読む基準を示しており、これが一つの規範となっています。ただし、「せろん」も間違いではなく、社会的に広く使われている実態があります。
「世論」の読み方について、文化庁や放送局はどのような見解を示しているのでしょうか。
まず、文化庁が定める常用漢字表では、「世」の音読みとして「セイ」「セ」そして「ヨ」も示されています。つまり、「よろん」という読み方自体は、常用漢字表の範囲内であると言えます。
放送における言葉の基準としては、NHK(日本放送協会)が大きな影響力を持っています。NHK放送文化研究所のウェブサイトに掲載されている情報や、関連書籍などによると、NHKでは「世論」は原則として「よろん」と読む、という基準を設けています。
これは、先に述べたように「輿論(よろん)」との区別や、伝統的な読み方を重視する姿勢の表れと考えられます。他の多くの放送局も、このNHKの基準に準じていることが多いようです。
ただし、これはあくまで放送上の「推奨」や「原則」であり、「せろん」という読み方を完全に否定するものではありません。
実際に、新聞社によっては「せろん」も許容していたり、辞書によっては「せろん」を第一の読みとして掲載しているものもあったりと、見解が完全に統一されているわけではないのが現状です。
公的な基準としては「よろん」が推奨される傾向にあるものの、「せろん」も社会的に広く認知・使用されている、というのが実情と言えるでしょう。文化庁のウェブサイト(https://www.bunka.go.jp/)でも、言葉に関する様々な情報が公開されています。
僕が「世論」の読み方で混乱した経験
僕自身、アナウンサーを目指して勉強していた学生時代に、「世論」の読み方で頭を悩ませた経験があります。
アナウンススクールの授業で、ニュース原稿を読む練習をしていた時のことです。その日の原稿に「世論調査」という言葉が出てきました。僕は、普段聞き慣れている「せろんちょうさ」と読んだんです。
すると、先生から「うーん、惜しいね。NHKの基準では、ここは『よろんちょうさ』と読むのが基本なんだよ」と指摘を受けました。
「えっ、でも普段『せろん』って聞くことの方が多い気がしますけど…?」と食い下がると、先生は「そうだね、日常会話や新聞なんかでは『せろん』も普通に使われるし、間違いじゃない。でも、放送、特に公共放送では、より正確さや伝統を重んじて『よろん』を使うんだ。それに、『輿論』との区別もあるからね」と、丁寧に解説してくれました。
その時、言葉の「正しさ」は一つではなく、場面や文脈、準拠するルールによって変わるということを実感しました。
普段何気なく使っている言葉にも、歴史的な背景や社会的な約束事がある。それを知らずにただ「みんなが使っているから」という理由だけで言葉を選ぶのは、プロを目指す上では不十分なんだな、と。
それ以来、言葉の読み方や使い方に迷ったときは、「どちらが絶対的に正しいか」だけでなく、「どちらがこの場面に適しているか」「どのような背景があるのか」を考えるようになりました。この経験は、言葉に対する感度を高める良いきっかけになったと思っています。
「世論」の読み方に関するよくある質問
「せろん」と「よろん」、どちらの読み方が正しいのですか?
どちらも間違いではありません。「よろん」が伝統的で、放送など公的な場面で推奨される読み方ですが、「せろん」も慣用読みとして広く一般的に使われています。
ニュースでは「せろん」「よろん」どちらで読まれていますか?
NHKなど公共放送では、原則として「よろん」と読まれます。民間の放送局や新聞などでは、「せろん」と読まれたり、ルビなしで文脈に委ねられたりすることもありますが、「よろん」がより正式な読み方と認識されています。
なぜ「せろん」という読み方が広まったのですか?
「世」の漢音読み「セイ」が変化した、あるいは「世代(せだい)」など他の熟語の影響、「世間(せけん)」との連想などが理由として考えられています。「せろん」の方が「世間一般の声」というイメージに繋がりやすいと感じる人が多かったのかもしれません。明確な理由は定かではありませんが、慣用読みとして広く定着しました。
「世論」の読み方「せろん」「よろん」違いのまとめ
「世論」の二つの読み方、「せろん」と「よろん」の違いについて、ご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントを簡潔にまとめておきましょう。
- 読み方の違い:「よろん」は伝統的・推奨される読み、「せろん」は広く使われる慣用読み。
- 由来:「よろん」は「世」の呉音、「せろん」は漢音由来の慣用読みとされる。
- 現代の使い分け: 公的な場面・報道では「よろん」推奨。日常会話や一般メディアでは「せろん」も多用される。
- 迷った場合: よりフォーマルで推奨度の高い「よろん」が無難。
- 注意点: 同じ読みの「輿論(よろん)」とは漢字も意味も異なる。
言葉というものは、常に変化していくものです。「せろん」という読み方がこれだけ広く使われている現状を見ると、将来的にこちらが主流になる可能性もゼロではありませんね。
大切なのは、どちらか一方を間違いと決めつけるのではなく、それぞれの背景や使われ方を理解し、場面に応じて適切な判断ができるようになることでしょう。
これからは自信を持って「世論」という言葉に向き合ってくださいね。