「死産」と「流産」。どちらも赤ちゃんを失うという、とても辛く悲しい経験を示す言葉ですね。この二つの言葉の最も重要な違いは、実は妊娠週数にあります。この記事を読めば、医学的・法律的な定義の違いや、それぞれの状況での使い分け、必要な手続きの違いなどが明確に理解でき、もう言葉の使い分けで迷うことはありません。当事者の方にとっても、周りの方にとっても、正しい知識は心のケアにつながるはずです。それでは、まず最も重要な違いから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「死産」と「流産」の最も重要な違い
「死産」と「流産」の最も大きな違いは妊娠週数です。「流産」は妊娠22週未満、「死産」は妊娠12週(法律上の定義)または22週(医学的な慣例)以降の死児の出産を指します。特に妊娠22週が大きな境目となり、医学的・法律的な対応が変わります。
まず、結論として「死産」と「流産」の最も重要な違いを表にまとめました。この点を押さえることが理解の第一歩ですね。
項目 | 流産 | 死産 |
---|---|---|
基本的な意味 | 妊娠が早い段階で中断すること | ある程度の週数以降に亡くなった赤ちゃんを出産すること |
時期(医学的な定義) | 妊娠22週未満 | 妊娠22週以降(※) |
時期(法律上の定義) | ー(法律上の明確な定義はない) | 妊娠12週(85日)以降 |
公的手続き | 基本的に不要(※手術した場合などは診断書が必要な場合あり) | 死産届の提出、埋葬許可証の取得が必要 |
戸籍への記載 | なし | なし(死産届は提出するが戸籍には記載されない) |
健康保険の出産育児一時金 | 対象外(※手術費などは医療保険適用の場合あり) | 妊娠12週以降であれば対象 |
※医学的には、妊娠12週から22週未満を「後期流産」と呼ぶこともありますが、一般的には22週未満を「流産」、22週以降を「死産」として扱うことが多いです。法律上は12週以降が死産となります。
一番大切なのは、妊娠22週という週数が、医学的にも法律的な手続きにおいても大きな境目になるという点でしょう。
なぜ違う?「死産」と「流産」の医学的な定義と時期
医学的には、胎児が母体の外で生存できる可能性が出てくる妊娠22週を境に、「流産」と「死産」を区別するのが一般的です。「流産」はそれ以前の妊娠中断、「死産」はそれ以降に亡くなった赤ちゃんを出産することです。法律上は妊娠12週以降が「死産」と定義され、死産届が必要になります。
なぜ「死産」と「流産」という異なる言葉が存在するのでしょうか。それは、妊娠週数によって、お腹の赤ちゃんの状態や、それに伴う医学的・法律的な対応が変わってくるからですね。
「流産」とは:妊娠22週未満での妊娠の中断
「流産」とは、一般的に、妊娠したにもかかわらず、赤ちゃんが早い時期に亡くなってしまい、妊娠が継続できなくなることを指します。
医学的には、妊娠22週未満での妊娠の中断と定義されています。これは、現在の医療水準では、妊娠22週未満の赤ちゃんが子宮の外で生きていくことが極めて難しいと考えられているためです。
流産は、決して珍しいことではなく、全妊娠の約15%程度に起こると言われています。その多く(約8割)は、妊娠12週未満の「早期流産」で、主な原因は赤ちゃん自身の染色体異常など、偶発的なものがほとんどです。
「死産」とは:妊娠12週以降(特に22週以降)の死児の出産
一方、「死産」は、ある程度進んだ妊娠週数で、亡くなった赤ちゃんを出産することを指します。
ここで少しややこしいのですが、定義が2つ存在しますね。
まず、法律(死産の届出に関する規程)では、妊娠12週(妊娠85日)以降の死児の出産を「死産」と定義しています。このため、妊娠12週以降に亡くなった赤ちゃんを出産した場合は、後述する「死産届」を役所に提出する必要があります。
しかし、医学的・産科的な慣例では、先ほどの流産の定義との対比で、妊娠22週以降の死児の出産を「死産」と呼ぶことが多いです。これは、妊娠22週以降になると、もし早く生まれたとしても、新生児医療の助けによって生存できる可能性が出てくるため、22週未満の流産とは区別して考えられています。
つまり、まとめると以下のようになります。
- 妊娠12週未満:流産(早期流産)
- 妊娠12週以降~22週未満:法律上は「死産」(早期死産)、医学的には「後期流産」
- 妊娠22週以降:法律上も医学上も「死産」(後期死産)
日常生活や報道などでは、多くの場合、妊娠22週以降のケースを指して「死産」という言葉が使われる傾向にありますね。
具体的な状況で考える「死産」と「流産」の使われ方
診断書や公的な手続きでは、妊娠週数に基づいた正確な用語(流産・死産)が使われます。特に妊娠12週以降の死産では死産届が必要です。周囲との会話では、相手の気持ちに配慮し、必ずしも厳密な使い分けにこだわる必要はありませんが、基本的な違いを理解しておくことは大切です。
定義の違いが分かったところで、実際の場面でどのように使い分けられるのか、またどのような点に注意が必要かを見ていきましょう。
診断や公的な手続きでの違い
医師による診断や、役所での手続きにおいては、妊娠週数に基づいた定義が重要になります。
【流産の場合(妊娠22週未満)】
- 通常、役所への特別な届出は不要です。
- ただし、流産手術(掻爬(そうは)手術など)を受けた場合、民間の医療保険の給付金請求のために診断書が必要になることがあります。
- 健康保険からの出産育児一時金は支給されません。
【死産の場合(妊娠12週以降)】
- 死産届(死胎検案書)を、死産後7日以内に役所へ提出する義務があります。これはお医者さんや助産師さんが作成してくれます。
- 死産届を提出すると、埋葬許可証が交付されます。火葬・埋葬を行うために必要です。
- 妊娠12週(85日)以降であれば、健康保険から出産育児一時金が支給されます。
- 戸籍に記載されることはありません。
このように、特に妊娠12週以降の「死産」の場合は、赤ちゃんを弔うための公的な手続きが必要になる点が大きな違いですね。
周囲とのコミュニケーションにおける配慮
家族や友人、同僚など、周りの人と流産や死産について話す際には、言葉の厳密な定義以上に、相手の気持ちへの配慮が最も重要になりますよね。
ご本人がどちらの言葉を使っているかに合わせるのが基本でしょう。
もし、妊娠12週から22週未満で、「後期流産だった」と話された場合、法律上は死産届が必要な時期ですが、あえて「それは死産ですよ」と訂正する必要はありません。「辛かったね」と、その悲しみに寄り添うことが大切です。
逆に、ご本人が「死産だった」と話されているのに、「まだ22週未満だから流産ですよね?」などと聞き返すのは、相手を深く傷つける可能性があります。絶対に避けましょう。
言葉の違いを知っておくことは、相手の状況をより深く理解し、適切な寄り添い方を見つける一助にはなりますが、それを相手に押し付けるべきではありませんね。
誤解しやすい点(NG例)
意味は通じるかもしれませんが、定義に基づくと正しくない使い方や、配慮に欠ける可能性のある例を見てみましょう。
- 【NG】妊娠10週で赤ちゃんが亡くなったので、死産届を出しました。
→妊娠12週未満は法律上の死産に該当しないため、死産届は提出できません。「流産」が適切な表現です。 - 【NG】妊娠25週で死産した友人に、「流産、大変だったね」と声をかけた。
→妊娠22週以降は医学的にも「死産」です。相手が「死産」と認識している可能性が高い状況で「流産」という言葉を使うのは、相手の経験を軽く見ていると捉えられかねません。
特に週数が明確な場合に、誤った言葉を使うことは避けたいですね。
【応用編】「早期流産」「後期流産」「早期死産」との関係は?
「流産」は妊娠12週未満の「早期流産」と12週以降22週未満の「後期流産」に分けられます。「死産」は法律上12週以降ですが、12週以降22週未満を「早期死産」、22週以降を「後期死産」と医学的に分類することもあります。日常会話では、22週未満を「流産」、22週以降を「死産」と大別することが多いです。
もう少し詳しく見ていくと、「流産」や「死産」はさらに時期によって細かく分類されることがありますね。
【流産の分類】
- 早期流産:妊娠12週未満の流産。流産の約8割を占めます。
- 後期流産:妊娠12週以降、22週未満の流産。
【死産の分類(法律・医学)】
- 早期死産:妊娠12週以降、22週未満の死産。(法律上の死産に該当、医学的には後期流産)
- 後期死産:妊娠22週以降の死産。(法律上・医学上ともに死産)
このように、妊娠12週から22週未満の期間は、「後期流産」であり、かつ法律上の「早期死産」にも該当するという、少し複雑な位置づけになります。
ただ、先ほども触れたように、一般的な会話や報道などでは、妊娠22週を境に「流産」と「死産」を使い分けることが多いと覚えておけば、大きな誤解は避けられるでしょう。
「死産」と「流産」の違いを医学的・法律的な視点から解説
医学的には、胎児が子宮外で生存可能となる妊娠22週が重要な境界です。これ以降の死児出産を「死産」と捉えます。法律(死産の届出に関する規程)では、妊娠12週以降の死児出産を「死産」と定義し、死産届の提出を義務付けています。これは人口動態統計の把握などを目的としています。
なぜ妊娠週数によって「死産」と「流産」という言葉が使い分けられ、特に法律上の手続きが変わるのでしょうか。その背景には、医学的な進歩と、公衆衛生や統計上の理由がありますね。
【医学的な視点:生存可能性の境界線】
医学的に妊娠22週が境目とされる主な理由は、胎児が子宮の外で生存できる可能性(生存境界)です。新生児医療の進歩により、以前はこの境界線が24週や28週とされていましたが、現在では22週以降であれば、集中治療によって救命できる可能性があると考えられています。
そのため、22週未満の「流産」は、残念ながら妊娠の継続が不可能になった状態、22週以降の「死産」は、本来であれば生存の可能性があった赤ちゃんが亡くなってしまった状態、というニュアンスで区別されています。もちろん、どちらも親にとっては計り知れない悲しみであることに変わりはありません。
【法律的な視点:公衆衛生と統計】
一方で、法律が妊娠12週以降を「死産」と定義し、届出を義務付けているのは、主に公衆衛生や人口動態統計の観点からです。「死産の届出に関する規程」は、死産の原因究明や予防策の検討、母子の健康管理などに役立てるための統計データ収集を目的の一つとしています。
妊娠12週という時期は、胎盤が完成に近づき、胎児の基本的な器官形成がある程度進む時期であり、それ以前の早期流産とは区別して統計的に把握する意義があると考えられています。また、この時期以降であれば、出産育児一時金の支給対象とするなど、社会的なサポートの観点からも一つの区切りとされていますね。
このように、医学的な視点と法律的な視点では、「死産」と捉える時期の定義にずれがありますが、それぞれの目的が異なるために生じている違いと言えるでしょう。より詳しい情報については、厚生労働省のウェブサイトなども参考になります。
(参考:厚生労働省:流産・死産を経験された方へ)
言葉の違いを知ることの大切さ:経験から学んだこと
僕自身、この「死産」と「流産」という言葉について、以前は明確な違いを意識していませんでした。どちらも同じように「赤ちゃんを失う悲しいこと」という大枠でしか捉えていなかったんです。
数年前、親しい友人が妊娠中期に赤ちゃんを亡くしました。彼女は「死産だった」と、静かに、しかしはっきりとした口調で僕に伝えてくれました。その時の僕は、適切な言葉が見つからず、ただただ「大変だったね」「辛かったね」と繰り返すばかりでした。
後になって、「死産」という言葉には、彼女が経験した出産の事実と、赤ちゃんへの想い、そして法律上の手続きといった、単なる「流産」という言葉では言い表せない重みがあることを知りました。もし当時の僕が、その違いを少しでも理解していたら、もっと違う寄り添い方ができたのではないか…と、今でも胸が痛みます。
彼女は、赤ちゃんのために死産届を出し、小さな骨壷を抱えて火葬場へ行きました。それは、彼女にとって、確かに存在した我が子との、短くもかけがえのない時間に対する、一つの区切りであり、弔いの儀式だったのだと思います。
「流産」と軽く言ってしまうことは、その経験の重みを矮小化してしまう危険性がある。一方で、早い週数での流産を経験した方に「死産」という言葉を使うことは、かえってその方の気持ちにそぐわないかもしれない。
この経験から、言葉の定義を知ることは、相手の経験を尊重し、その悲しみの深さを理解しようと努める第一歩なのだと学びました。知識は、時に人を傷つけることもありますが、正しく使えば、人を支え、寄り添うための大切なツールになるのだと、痛感しています。
「死産」と「流産」に関するよくある質問
「死産」と「流産」の一番の違いは何ですか?
一番の違いは妊娠週数です。医学的には妊娠22週未満が「流産」、22週以降が「死産」と区別されるのが一般的です。法律上は妊娠12週以降が「死産」と定義され、死産届の提出が必要です。
妊娠12週以降22週未満の場合は、「流産」ですか?「死産」ですか?
この期間は少し複雑で、法律上は「死産」(早期死産)に該当し、死産届が必要です。しかし、医学的には「後期流産」と呼ばれることもあります。日常会話では、ご本人が使われている言葉に合わせるのが良いでしょう。
なぜ妊娠22週が境目なのですか?
現在の医療水準において、赤ちゃんが子宮の外で生存できる可能性が出てくるのが妊娠22週以降とされているためです。これを「生存境界」といい、医学的に流産と死産を区別する大きな目安となっています。
「死産」と「流産」の違いのまとめ
「死産」と「流産」の違い、ご理解いただけたでしょうか。最後に、この記事の重要なポイントをまとめますね。
- 最も重要な違いは妊娠週数:「流産」は妊娠22週未満、「死産」は妊娠12週(法律上)または22週(医学的慣例)以降の死児の出産。
- 妊娠22週が大きな境目:胎児の生存可能性が出てくるため、医学的・法律的な扱いが変わる。
- 公的手続きの違い:妊娠12週以降の「死産」では、死産届の提出と埋葬許可証の取得が必要。出産育児一時金の対象にもなる。
- コミュニケーションでは配慮を:言葉の厳密な定義よりも、相手の気持ちに寄り添うことが最も大切。
これらの言葉は、どちらも経験された方にとっては非常に重いものです。言葉の背景にある医学的・法律的な意味合いを理解することで、より深く相手の状況に思いを寄せることができるはずです。
この記事が、あなたにとって、「死産」と「流産」という言葉への理解を深める一助となれば幸いです。