「目的達成のためには手段を選ばない」「新しい方法を試してみよう」のように、目標に向かうプロセスでよく使われる「手段」と「方法」。
どちらも「やり方」のような意味合いで使われますが、その違いを正確に説明できますか?
ビジネスプランを考えたり、問題解決策を議論したりする場面で、どちらの言葉を使うのがより適切か、迷うことがあるかもしれませんね。実はこの二つ、目的を達成するための「具体的な道具や行為」なのか、それとも「体系立てられたやり方全体」なのかという点で使い分けることができるんです。
この記事を読めば、「手段」と「方法」それぞれの言葉が持つ核心的なイメージから、具体的な使い分け、間違いやすいポイントまでスッキリ理解できます。もう、どちらを使うべきか迷うことはありません。
それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「手段」と「方法」の最も重要な違い
「手段」は目的を達成するための具体的な道具、手だて、行為を指します。一方、「方法」はその目的を達成するための体系的なやり方、手順、方式全体を指します。「手段」は「方法」を構成する要素の一つである場合が多いです。「何を使って(手段)」「どうやって(方法)」と考えると分かりやすいでしょう。
まず、結論として「手段」と「方法」の最も重要な違いを表にまとめました。この点を押さえれば、基本的な使い分けは大丈夫です。
項目 | 手段(しゅだん) | 方法(ほうほう) |
---|---|---|
中心的な意味 | 目的を達するための具体的なてだて。やり方。道具。 | 目的を達するための体系的なやり方。仕方。手順。 |
焦点 | 何を使うか。個々の具体的なアクションやツール。 | どのように行うか。全体のプロセスや手順。 |
ニュアンス | 個別の道具・行為。目的のためのステップ。 | システム・手順。体系化されたやり方。 |
関係性 | 「方法」の一部となることが多い。 | 複数の「手段」を含むことがある。 |
具体例 | 交通手段、連絡手段、法的手段、あらゆる手段を尽くす | 解決方法、効果的な方法、独自開発の方法、方法論 |
英語 | means, measure, step, way, instrument | method, way, manner, process, procedure |
一番のポイントは、「手段」が目的達成のための具体的な「道具」や「個別の行為」に焦点を当てるのに対し、「方法」が目的達成までの「全体のやり方」や「手順」に焦点を当てる点です。
例えば、目的地に行くという目的を達成するための「方法」として「公共交通機関を使う」があり、その具体的な「手段」として「電車に乗る」「バスに乗る」がある、という関係性ですね。「方法」という大きな枠組みの中に、具体的な「手段」が含まれることが多いです。
なぜ違う?言葉の成り立ちからイメージを掴む
「手段」の「手」はそのまま“手”、「段」は“きざはし・段階”で、手を使って行う具体的な段階・ステップのイメージ。「方法」の「方」は“方向・やり方”、「法」は“法則・決まり”で、目的に向かうための定められた法則や手順のイメージです。
なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いがあるのか、漢字の成り立ちを見ていくとその核心的なイメージが掴みやすくなりますよ。
「手段」の成り立ち:「手」と「段」が表す“目的のための具体的なステップ”
「手段」の「手(シュ)」は、文字通り「て」を意味し、具体的な動作や行為、道具を使うことなどを連想させます。「段(ダン)」は、「きざはし(階段)」「しな(等級)」「区切り」といった意味を持ち、物事の段階やステップを表します。
この二つが組み合わさることで、「手段」は、目的を達成するために、手を使って(あるいは具体的な道具や行為によって)踏むべき個々の「段階」や「ステップ」、「てだて」という、具体的で部分的なアクションを強くイメージさせる言葉となっています。
「方法」の成り立ち:「方」と「法」が表す“体系化されたやり方”
一方、「方法」の「方(ホウ)」は、「方向」「方角」という意味の他に、「やり方」「仕方」といった意味も持ちます。「法(ホウ)」は、元々は水が流れるように公平な基準を示す文字でしたが、そこから「おきて」「決まり」「法則」「やり方」といった意味を持つようになりました。
したがって、「方法」とは、ある目的に向かうための方向性(方)を示し、それに沿った法則や決まり(法)、つまり体系立てられた「やり方」や「手順」全体をイメージさせる言葉なのです。「手段」よりも、より全体的で、システム化されたニュアンスが強いですね。
具体的な例文で使い方をマスターする
ビジネスでは、連絡や決済のツール・やり方は「手段」(例:連絡手段としてのメール)。目標達成のためのプロセス全体や手順は「方法」(例:新しいマーケティング方法)。日常生活でも、移動のためのツールは「手段」(交通手段)、料理のレシピや手順は「方法」(調理方法)と使い分けます。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスシーンと日常会話、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
目的達成のためのツールなのか、プロセス全体なのかを意識すると分かりやすいですよ。
【OK例文:手段】
- 顧客とのコミュニケーション手段として、SNSを活用する。(ツール)
- 目標達成のためなら、合法的なあらゆる手段を講じる覚悟だ。(個別の行為)
- 最終手段として、法的措置も検討する。(具体的なアクション)
- これは目的ではなく、あくまで手段に過ぎない。(目的達成のための道具)
- 決済手段として、新たに電子マネーを導入した。(支払いツール)
【OK例文:方法】
- この問題を解決するための、より効果的な方法を考えよう。(プロセス全体)
- アンケート調査という方法で、顧客満足度を測定する。(体系的なやり方)
- 我が社独自の製造方法により、高品質を実現している。(手順・方式)
- その方法では、時間とコストがかかりすぎる。(やり方全体)
- 新しい働き方を実現するための方法を模索している。(システム・方針)
「手段」は目的達成のための具体的な「What(何を使うか)」、「方法」はその目的を達成するための「How(どのようにやるか)」に近いイメージですね。
日常会話での使い分け
日常会話でも、同じように使い分けられます。
【OK例文:手段】
- 目的地までの交通手段を調べる。(ツール:電車、バスなど)
- 彼と連絡を取る手段がない。(ツール:電話、メールなど)
- ダイエットのために運動という手段を選んだ。(個別の行為)
- もはや自力で脱出する手段は残されていない。(具体的なアクション)
【OK例文:方法】
- この料理のおいしい作り方(方法)を教えてください。(手順)
- もっと効率的な勉強方法はないだろうか。(やり方全体)
- 彼に謝る良い方法が思いつかない。(手順・アプローチ)
- 人によって考え方が違うのは当然で、様々な生きる方法がある。(生き方・スタイル)
これはNG!間違えやすい使い方
意味が通じることもありますが、より自然な表現を目指しましょう。
- 【NG】この問題を解決する手段は3つあります。(プロセス全体を指す場合)
- 【OK】この問題を解決する方法は3つあります。
- 【OK】この問題を解決する手段として、AとBとCが考えられます。(個別の手段を列挙する場合)
問題解決の「やり方全体」を指す場合は「方法」が適切です。「手段」を使う場合は、その方法を構成する具体的な選択肢(ツールやアクション)を列挙する文脈が自然です。
- 【NG】電車という方法で通勤しています。
- 【OK】電車という手段で通勤しています。
- 【OK】公共交通機関を使うという方法で通勤しています。(その手段として電車を使う)
「電車」は移動のための具体的な「道具(ツール)」なので、「手段」が適切です。「方法」を使うなら、「公共交通機関を使う」といった、より上位の概念(やり方)を指すのが自然です。
【応用編】似ている言葉「やり方」との違いは?
「やり方(やりかた)」は、「方法」とほぼ同じ意味で、物事を行う手順や仕方を指しますが、「方法」よりも口語的で、やや具体的・実践的なニュアンスを持つことがあります。「手段」とは異なり、個別の道具や行為ではなく、一連の手順や進め方を指します。
「方法」と意味が非常に近い言葉に、和語の「やり方(やりかた)」があります。この違いも理解しておくと、表現の使い分けに役立ちます。
「やり方」は、「物事を行う方法・仕方・手順」を意味し、「方法」とほぼ同義で使われることが多いです。しかし、一般的に「方法」よりも口語的(話し言葉寄り)で、より具体的・実践的な手順やノウハウを指すニュアンスで使われる傾向があります。
- 方法:体系的、原理的、やや硬い表現。(例:科学的な方法、指導方法)
- やり方:具体的、実践的、口語的。(例:仕事のやり方、いつものやり方)
「手段」とは明確に異なり、「やり方」は個別の道具やアクションではなく、一連のプロセスや手順全体を指します。
【例文:やり方】
- この機械のやり方(操作方法)を教えてください。
- 自己流のやり方では、なかなか上達しない。
- 人それぞれ、仕事のやり方は違う。
- もっと効率の良いやり方があるはずだ。
ビジネス文書など改まった場面では「方法」を使う方が適切ですが、日常会話や、具体的な手順を説明する際には「やり方」の方が自然に響くことも多いですね。
「手段」と「方法」の違いを学術的に解説
辞書的には、「手段」は「目的を達するためのてだて」、「方法」は「目的をとげるためのやり方・仕方」と定義され、前者がより道具的・具体的、後者が手順的・体系的なニュアンスを持つとされます。哲学(特に目的論・手段論)や社会学、経営学などでは、目的と手段の関係性や、方法論(メソドロジー)として、これらの概念が重要な分析対象となります。
「手段」と「方法」の違いについて、辞書や学術的な視点からはどのように捉えられているでしょうか。
多くの国語辞典では、「手段」を「ある目的を達するためのてだて。方法。やりかた。」(例:大辞林 第四版)と説明し、「方法」との類似性を示しつつも、「てだて」という道具的・具体的なニュアンスを強調しています。
一方、「方法」は「ある目的をとげるためのやり方。しかた。てだて。手段。」(例:大辞林 第四版)と説明され、こちらも「手段」との類似性を示しますが、「やり方」「仕方」という手順的・体系的なニュアンスが中心に置かれています。
哲学や社会学、経営学などの分野では、「目的と手段」の関係性が重要なテーマとして扱われます。ここでは、「手段」が目的を達成するために用いられる道具や行為であり、目的そのものと区別されるべきものとして議論されます。「手段の目的化」(本来は目的達成のための手段であったものが、それ自体が目的となってしまうこと)といった問題も指摘されます。
また、「方法論(メソドロジー)」という学問分野も存在します。これは、特定の目的(例えば科学的知識の獲得や問題解決)を達成するための、体系的な原理や手順(=方法)を探求するものです。研究方法、調査方法、教育方法など、各分野において適切な「方法」を確立し、吟味することが重視されます。
このように、学術的な文脈においても、「手段」が目的達成のための具体的な道具や行為、「方法」が目的達成のためのより体系的・原理的な手順やアプローチ、という基本的なニュアンスの違いが認識されていると言えるでしょう。
僕が企画提案で「手段」と「方法」を混同して指摘された体験談
僕も以前、クライアントへの企画提案の場で、「手段」と「方法」を混同してしまい、説明が分かりにくいと指摘された経験があります。
それは、新しいウェブプロモーションの企画を説明していた時のことでした。提案の骨子は、インフルエンサーマーケティングを活用して認知度を高める、というものでした。その説明の中で、僕は具体的な施策を列挙しながら、こう言いました。
「今回のプロモーション手段としては、まず人気YouTuberのAさんに商品レビュー動画を作成していただき、次にインスタグラマーのBさんにキャンペーン告知の投稿をお願いします。さらに…」
次々と具体的なアクションプランを説明していたのですが、途中でクライアントの担当者の方が少し困った顔で口を挟みました。
「藤吉さん、ありがとうございます。具体的な『手段』はよく分かりました。それで、今回のプロモーション全体の『方法』、つまり、これらの手段をどう組み合わせて、どのような流れで、最終的にどういう成果を目指すのか、という全体像をもう少し詳しく説明していただけますか?」
ハッとしました。僕は、個々の具体的なアクション(手段)ばかりを説明することに夢中になり、それらをどのように組み合わせ、どのような戦略(方法)で目標を達成するのか、という全体像の説明が不足していたのです。クライアントが知りたかったのは、個々の手段だけでなく、それらを束ねる「方法」=戦略だったのですね。
僕は「手段」と「方法」をほぼ同じ意味で捉え、「プロモーションのやり方=手段」と考えてしまっていました。しかし、クライアントにとっては、個々の「手段(何をするか)」だけでなく、それらを統合した「方法(どう進めるか)」が重要だったのです。
この経験から、物事を説明する際には、「手段」という具体的な要素と、「方法」という全体的な枠組みの両方を意識し、相手がどちらのレベルの情報を求めているかを見極める必要があると学びました。特に企画提案などでは、具体的な手段だけでなく、それらを体系立てて示す「方法」を明確にすることが、相手の理解と納得を得る上で不可欠なのだと痛感しました。
「手段」と「方法」に関するよくある質問
目的を達成するための具体的なツールはどちら?
「手段」です。例えば、コミュニケーションをとるための「手段」として電話やメール、移動するための「手段」として自動車や電車などが挙げられます。
問題解決のプロセス全体を指すのはどちら?
「方法」です。「問題解決の方法」や「新しい解決方法」のように、問題を解決するための一連の手順やアプローチ全体を指します。その方法の中で、具体的なアクションやツールが「手段」となります。
「あらゆる〇〇を尽くす」という場合は?
「あらゆる手段を尽くす」という形で使われるのが一般的です。これは、目的達成のために考えられる限りの具体的な行動や手だてを試す、という意味合いになります。「あらゆる方法を尽くす」と言うこともありますが、「手段」の方がより慣用的な表現です。
「手段」と「方法」の違いのまとめ
「手段」と「方法」の違い、これでしっかり使い分けられそうですね!
最後に、この記事のポイントをまとめておきましょう。
- 焦点の違い:「手段」は目的達成のための具体的な道具・行為(What)。「方法」は目的達成のための体系的なやり方・手順(How)。
- 関係性:「手段」は「方法」を構成する要素となることが多い。
- 漢字のイメージ:「手段」は“手を使って行うステップ”、「方法」は“定められた手順・法則”。
- 使い分け:具体的なツールやアクションは「手段」、全体のプロセスや手順は「方法」。
- 類義語「やり方」:「方法」と似るが、より口語的・実践的。
目的を達成するためには、適切な「方法」を選択し、その中で効果的な「手段」を組み合わせていくことが重要ですね。ビジネスシーンにおいても、この二つの言葉を的確に使い分けることで、思考が整理され、より明確なコミュニケーションが可能になります。
これからは自信を持って、「手段」と「方法」を使いこなしていきましょう。言葉の使い分けについてさらに深く知りたい方は、ビジネス関連の言葉の違いをまとめたページもぜひ参考にしてみてください。