「趣旨」と「主旨」、どちらも「しゅし」と読むので、文章を書くときにどちらを使うべきか迷ってしまうこと、ありますよね。
実はこの2つの言葉、話や文章の「全体的な目的」を指すか、「中心となる一点」を指すかで明確に使い分けられるんです。
この記事を読めば、それぞれの言葉が持つ核心的なイメージから具体的な使い分け、さらには公的なルールまでスッキリと理解でき、もう二度と迷うことはありません。
それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「趣旨」と「主旨」の最も重要な違い
基本的には全体の目的・狙いなら「趣旨」、話の中心・要点なら「主旨」と覚えるのが簡単です。どちらを使うか迷う場面では、より広い意味を持つ「趣旨」を選ぶと文脈から外れにくいでしょう。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。
これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
項目 | 趣旨 | 主旨 |
---|---|---|
中心的な意味 | 物事を行う上での目的・狙い | 話や文章の中心・要点 |
対象 | 企画、会議、法律など、物事の全体 | 話、文章、議論などの中心部分 |
ニュアンス | 「何のために行うのか」という根本的な目的や意図 | 「一番言いたいことは何か」という中心的なメッセージ |
英語での表現 | purpose, intent, objective | main point, gist, central theme |
一番大切なポイントは、「趣旨」は物事の目的や背景全体を指し、「主旨」は話や文章の核となる一点を指すというイメージの違いですね。
このイメージを掴むために、次はそれぞれの漢字の成り立ちを詳しく見ていきましょう。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「趣旨」の「趣」は物事の“味わい”や“風情”を表し、全体の目的や意図を含みます。一方、「主旨」の「主」は“中心”を意味し、最も重要な一点を指し示すイメージを持つと、違いが明確になります。
なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
「趣旨」の成り立ち:「趣」が表す“全体の目的”のイメージ
「趣旨」の「趣」という漢字は、「おもむき」とも読みますよね。
この漢字には、物事の全体から感じられる風情や味わい、物事が行われる理由や背景といった意味が含まれています。
つまり、「趣旨」とは、「何のためにこれをやるのか」という、その行為の根本にある目的や全体的な狙いを示す言葉なんです。
企画書で「企画趣旨」と書くのは、この企画が目指すゴールや背景を説明するため、と考えると分かりやすいですね。
「主旨」の成り立ち:「主」が表す“中心”のイメージ
一方、「主旨」の「主」という漢字は、「主(おも)な」「主人公」といった言葉で使われるように、「中心となるもの」を意味します。
このことから、「主旨」には、話や文章、議論などにおける最も重要なポイント、つまり「要点」や「核心」というニュアンスが生まれるんですね。
長いプレゼンテーションの後に「この話の主旨は、つまり〇〇です」と要約するのは、まさに中心点を明確にするためです。
具体的な例文で使い方をマスターする
イベントの目的を説明するなら「開催趣旨」、長い話の要点をまとめるなら「話の主旨」と使い分けるのが基本です。対象が「物事の全体」か「話の中心」かを意識しましょう。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
ビジネスシーンでは、この二つの言葉を正確に使い分けることが求められます。
【OK例文:趣旨】
- 本プロジェクトの趣旨をご説明いたします。
- 法改正の趣旨を正しく理解することが重要です。
- 会議の趣旨から外れた議論が続いている。
【OK例文:主旨】
- ご提案の主旨は理解いたしましたが、詳細を伺えますか。
- 部長がおっしゃりたい主旨は、コスト削減ということでよろしいでしょうか。
- 報告書の主旨が不明瞭で、何を伝えたいのか分かりにくい。
このように、企画や法律といった「物事全体の目的」には「趣旨」を、提案や発言といった「話の中心点」には「主旨」を使うのが基本ですね。
日常会話での使い分け
日常会話でも、考え方は同じです。
【OK例文:趣旨】
- このチャリティーイベントの趣旨に賛同し、寄付をしたい。
- 彼の質問は、会話の趣旨を理解していないようだ。
【OK例文:主旨】
- 彼の長い話の主旨が、ようやく分かった。
- 論文の主旨を一行で要約してください。
これはNG!間違えやすい使い方
意味は通じることが多いですが、厳密には正しくない使い方を見てみましょう。
- 【NG】この法律の主旨は、国民の安全を守ることにある。
- 【OK】この法律の趣旨は、国民の安全を守ることにある。
法律が制定された「目的」や「狙い」といった全体像を指すため、この場合は「趣旨」が適切です。「主旨」を使うと、法律の中の最も中心的な条文だけを指しているような、少し狭い意味に聞こえてしまいます。
【応用編】似ている言葉「要旨」との違いは?
「主旨」が話や文章の“最も重要な一点”を指すのに対し、「要旨(ようし)」は“重要な点をまとめたもの”を指します。「主旨」は一点、「要旨」は複数点を含むと覚えると分かりやすいです。
「趣旨」「主旨」と似た言葉に「要旨(ようし)」があります。
これも押さえておくと、言葉の理解がさらに深まりますよ。
「要旨」は「話や文章の要点をまとめたもの」です。
ここで、「主旨」との違いが気になりますよね。
決定的な違いは、「主旨」が中心となる一点(シングルポイント)を指すのに対し、「要旨」は複数の要点をまとめたもの(マルチポイント)という点です。
言葉 | 意味合い |
---|---|
主旨 | 話の中心となる、たった一つの核心。 |
要旨 | 話の骨子となる、複数の重要なポイントの集まり。 |
例えば、論文の冒頭にあるサマリーは「論文の要旨」ですし、会議の後に配られるまとめは「議事要旨」と呼ばれますね。
「主旨」よりも「要旨」の方が、より広く内容をカバーするイメージです。
「趣旨」と「主旨」の違いを公的な視点から解説
文化庁の指針では、同音異義語の整理が進められていますが、「趣旨」と「主旨」はそれぞれが持つ意味が明確に異なるため、統一の対象にはなっていません。そのため、公的な文書においても文脈に応じた正確な使い分けが求められます。
「配布」と「配付」のように、公用文では分かりやすさのために言葉が統一されるケースがあります。
では、「趣旨」と「主旨」はどうなのでしょうか?
文化庁が示す「公用文における漢字使用等について」などを確認すると、「趣旨」と「主旨」は、書き分けが推奨されている言葉であり、統一の対象にはなっていません。
これは、二つの言葉が持つ「全体の目的」と「中心の要点」という意味の違いが、コミュニケーションにおいて重要だと認識されているからです。
つまり、公的な文書や報道など、正確性が求められる場面ほど、この二つの言葉は意識的に使い分けられているということですね。
言葉の厳密な意味合いを大切にする文化が、ここにも表れていると言えるでしょう。詳しくは文化庁のウェブサイトなどでご確認いただけます。
僕が「主旨」を勘違いして大恥をかいた新人時代の話
僕も新人時代、この「趣旨」と「主旨」で恥ずかしい思いをしたことがあるんです。
コンサルティング会社に入社して初めて担当した、ある企業の業務改善プロジェクトでのことでした。
数週間にわたる分析を終え、僕はクライアントの役員へ向けて報告会を行いました。報告の最後に、僕は自信満々にこう締めくくったんです。
「本報告の趣旨は、現状の課題がAとBとCにあり、それぞれの解決策としてX、Y、Zを実行すべき、という点にございます!」
報告を終え、質疑応答の時間になると、クライアントの社長が静かに口を開きました。
「君の報告の主旨はよく分かった。課題が3つあって、解決策も3つあるということだね。ところで、そもそも君たちが今回、我々の業務を分析した趣旨は何だったかな?我々が目指すべきゴールについて、君の口から改めて聞かせてほしい」
その瞬間、僕は頭が真っ白になりました。
僕が「趣旨」として説明したのは、報告の「要点(要旨)」であり、社長が聞きたかったのは「そもそも、このプロジェクトの目的は何だったのか」という、より根源的な「趣旨」だったのです。
この経験から、言葉を正確に使うことは、思考を正確に整理することに他ならないと痛感しました。
それ以来、言葉の定義を曖昧にせず、その背景にある意味を深く考えるクセがついたように思います。
「趣旨」と「主旨」に関するよくある質問
「趣旨」と「主旨」、結局どちらを使えばいいですか?
話や文章の「全体の目的や狙い」を伝えたい場合は「趣旨」を、話や文章の「最も重要なポイント(要点)」を伝えたい場合は「主旨」を使います。迷ったときは、より広い意味をカバーできる「趣旨」を使うと、大きな間違いにはなりにくいでしょう。
英語で表現すると、どのような違いがありますか?
「趣旨」は “purpose”(目的)、”intent”(意図)、”objective”(目標)などに近いです。一方、「主旨」は “main point”(要点)、”gist”(要点)、”central theme”(中心的なテーマ)といった言葉が当てはまります。
「会議のしゅし」を伝える場合、どちらを使えばいいですか?
文脈によります。「この会議をなぜ開くのか」という開催目的を説明する場合は「会議の趣旨」です。一方、会議での長い議論の末、「つまり、この会議で決まったことの要点は〇〇です」とまとめる場合は「会議の主旨」となります。
「趣旨」と「主旨」の違いのまとめ
「趣旨」と「主旨」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は対象で使い分け:物事全体の目的・狙いなら「趣旨」、話や文章の中心・要点なら「主旨」。
- 漢字のイメージが鍵:「趣」は“全体の目的”、“意図”、「主」は“中心”、“一番大事な点”というイメージ。
- 公的にも使い分け推奨:文化庁の指針でも統一されておらず、文脈に応じた正確な使い分けが求められる。
同じ読み方でも、漢字一文字が違うだけで、言葉が指し示す範囲やニュアンスは大きく変わる、ということがよく分かりますよね。
これからは自信を持って、的確な言葉を選んでいきましょう。