ニュースでよく聞く「送致」と「送検」の違いと正しい使い分け

「送致」と「送検」、ニュースなどで容疑者が逮捕された後の報道でよく聞く言葉ですよね。

「また送検されたってニュースで見たけど、『送致』とは何が違うんだろう…?」なんて疑問に思ったことはありませんか?

実はこの二つ、指し示す範囲と、法律上の正式な用語かどうかに違いがあるんです。この記事を読めば、その違いが明確になり、ニュースの理解が深まるだけでなく、いざという時に(使う場面は少ないかもしれませんが!)自信を持って言葉を選べるようになりますよ。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「送致」と「送検」の最も重要な違い

【要点】

「送致」は捜査機関が事件を検察官または家庭裁判所に送る法律用語です。一方、「送検」は送致のうち、特に検察官へ送る場合に使われる俗称・報道用語であり、法律上の正式な言葉ではありません。少年事件は家庭裁判所へ送致されるため、「送検」とは通常言いません。

まず、結論からお伝えしますね。

「送致」と「送検」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目 送致(そうち) 送検(そうけん)
中心的な意味 捜査機関(警察など)が捜査した事件を、次の機関に送ること。 送致のうち、特に検察官に事件を送ること。
送る先 検察官 または 家庭裁判所 検察官
法的根拠 刑事訴訟法、少年法などに規定された法律用語 法律上の規定はなく、「検察官送致」を略した俗称・報道用語
主な使われ方 法律文書、捜査実務、少年事件の報道など 主に成人の刑事事件に関するニュース報道など
ポイント より広い概念。少年事件は家裁送致が基本。 「送致」の一部を指す、より狭い概念。

簡単に言うと、「送致」という大きな手続きの中に、「検察官への送致(=送検)」と「家庭裁判所への送致」があるイメージですね。

ニュースで「送検」と報道されている場合は、「ああ、警察の捜査が終わって、事件が検察官に引き継がれたんだな」と理解すればOKです。

なぜ違う?言葉の意味と法律上の根拠から違いを理解する

【要点】

「送致」は刑事訴訟法や少年法に定められた正式な手続きで、検察官または家庭裁判所へ事件を送る行為です。「送検」は「検察官送致」を略した俗称で、主に報道で使われます。法律用語ではない点に注意が必要です。

では、もう少し詳しく、それぞれの言葉の意味と背景を見ていきましょう。なぜこのような違いが生まれたのかを知ると、より深く理解できますよ。

「送致」とは?法律上の手続き全体を指す言葉

「送致」は、法律で定められた正式な手続きを指す言葉です。

警察などの捜査機関(司法警察職員)が犯罪の捜査を行った場合、原則として、その事件に関する書類や証拠物などを次の段階の機関へ送る必要があります。この「送る手続き」全体を「送致」と呼びます。

送る先は、事件の種類や被疑者の年齢によって異なります。

  • 成人の刑事事件の場合:原則として検察官に送致されます。これは、起訴するかどうか(裁判にかけるかどうか)を判断するのが検察官の役割だからです。刑事訴訟法 第246条に定められています。
  • 少年事件(20歳未満)の場合:原則として家庭裁判所に送致されます。少年事件は、刑事処分よりも更生を重視するため、家庭裁判所が調査・審判を行うのが基本だからです。これは少年法 第41条や第42条に基づきます。

このように、「送致」は検察官へ送る場合も、家庭裁判所へ送る場合も含む、より広い意味を持つ法律用語なんですね。

「送検」とは?「検察官送致」の略称・報道用語

一方、「送検」は、法律の条文には出てこない言葉です。

これは、「送致」の中でも、特に「検察官へ送致すること」を指す場合に、一般的に使われるようになった言葉です。「検察官送致」を略して「送検」と呼んでいるわけですね。

主にニュース報道などで、警察から検察へ事件が引き継がれたことを分かりやすく伝えるために使われています。

「送検」という言葉を聞いたら、「検察官に事件が送られたんだな」と理解すれば良いでしょう。ただし、あくまで俗称・報道用語であり、正式な法律用語ではない、という点は覚えておきたいですね。

なぜ「送検」という言葉が使われるのか?

法律用語としては「送致」が正しいのに、なぜ報道などでは「送検」がよく使われるのでしょうか?

考えられる理由としては、以下の点が挙げられます。

  • 分かりやすさ:成人の刑事事件の多くは検察官に送致されます。「検察官に送る」ことを端的に示す「送検」の方が、一般の人にとって手続きの流れをイメージしやすいからでしょう。
  • 字数の短さ:新聞の見出しなど、限られた文字数で情報を伝える必要がある場合に、「検察官送致」よりも短い「送検」の方が使いやすいためと考えられます。
  • 慣習:報道機関などで長年使われてきた慣習として定着している側面もあるでしょう。

ただし、少年事件が家庭裁判所に送られる場合は、「家裁送致」とは言いますが、「送検」とは言わないのが一般的です。これも、「送検=検察官へ送る」というイメージが定着しているからですね。

具体的な流れで使い方をマスターする(逮捕からの手続き例)

【要点】

成人の事件では、警察が逮捕・捜査した後、検察官へ「送致(=送検)」します。その後、検察官が捜査し起訴・不起訴を決定します。少年事件では、警察や検察の捜査後、原則として家庭裁判所へ「送致」され、少年審判などの手続きに進みます。

言葉の違いを理解するために、逮捕されてから事件がどのように進むのか、具体的な手続きの流れの中で「送致」や「送検」がどの段階で使われるかを見てみましょう。

成人の刑事事件の場合:「送検」が使われる場面

成人の場合、おおむね以下のような流れで手続きが進みます。

  1. 逮捕:警察官などが被疑者を逮捕します。
  2. 警察による捜査・取調べ:逮捕から48時間以内に、警察は被疑者を釈放するか、検察官に事件を送致(=送検)するかを決めます。
  3. 送致(送検):警察から検察官へ、被疑者の身柄、捜査書類、証拠物などが引き継がれます。この段階が「送検」と呼ばれる部分です。
  4. 検察官による取調べ・勾留請求:検察官は、送致を受けてから24時間以内に、被疑者を釈放するか、裁判官に勾留(身柄拘束を続けること)を請求するかを決めます。
  5. 勾留・検察官による捜査:勾留が認められると、原則10日間(延長を含め最大20日間)、検察官は捜査を続けます。
  6. 起訴・不起訴の決定:検察官は捜査の結果を踏まえ、被疑者を起訴(裁判にかける)するか、不起訴(裁判にかけない)にするかを最終的に決定します。

このように、成人の事件では、警察の捜査段階から検察官の捜査段階へ移行する手続きが「送致(送検)」にあたります。ニュースで「〇〇容疑者が送検されました」と報道されるのは、主にこの②から③への移行段階を指しているわけですね。

少年事件の場合:「送検」ではなく「送致」

一方、少年(20歳未満)が事件を起こした場合、手続きの流れは成人とは異なります。

  1. 逮捕・警察による捜査・取調べ:成人と同様に行われる場合があります。
  2. 送致:
    • 警察が捜査した場合、一定の重大犯罪を除き、原則として事件を家庭裁判所に送致します(少年法第41条)。ただし、捜査の結果、罰金以下の刑に当たる犯罪と判断された場合などは検察官に送致されることもあります。
    • 検察官が捜査した場合(警察から送致を受けた場合を含む)も、捜査の結果、犯罪の嫌疑があると判断すれば、原則として事件を家庭裁判所に送致します(少年法第42条)。
  3. 家庭裁判所による調査・審判:家庭裁判所は、少年の性格、環境、事件の原因などを調査し、少年審判を開いて、保護処分(少年院送致、保護観察など)や不処分、あるいは検察官送致(成人同様の刑事裁判にかけるべきと判断した場合)などを決定します。

少年事件では、多くの場合、最終的な判断を下すのは家庭裁判所であり、事件は検察官ではなく家庭裁判所に送られます。そのため、「検察官送致」を意味する「送検」という言葉は通常使われず、「家裁送致」または単に「送致」と表現されるのが一般的です。

この違いを知っておくと、ニュース報道で「送致」と「送検」が使い分けられている理由がよく分かりますね。

【応用編】似ている言葉「送付」との違いは?

【要点】

「送付」は、物や書類などを“送り届ける”という一般的な行為を指します。一方、「送致」「送検」は、法律に基づき、捜査機関から検察官や家庭裁判所へ事件そのものを引き継ぐという、特定の法的手続きを指す言葉です。対象や目的が全く異なります。

「送致」「送検」と似た響きの言葉に「送付(そうふ)」があります。これも混同しないように違いを明確にしておきましょう。

「送付」は、物や書類などを特定の人や場所に送り届けることを意味する一般的な言葉です。

  • 例:「請求書を取引先に送付する」
  • 例:「会議資料をメールで送付します」
  • 例:「応募書類を郵送にて送付してください」

手紙を送る、荷物を送る、メールを送るなど、日常的にもビジネスシーンでも幅広く使われますね。物理的に物を送る場合だけでなく、電子データを送る場合にも使えます。

一方、「送致」や「送検」は、これまで見てきたように、刑事手続きにおいて、捜査機関が事件の書類や証拠物、場合によっては被疑者の身柄を、検察官や家庭裁判所といった次の機関に引き継ぐという、特定の法的な手続きを指す言葉です。

単に書類を送るだけでなく、事件そのものの管轄を移すという、より重い意味合いを持っています。

「送付」は一般的な「送る」行為、「送致」「送検」は特定の法律手続き、と覚えておけば間違うことはないでしょう。

「送致」と「送検」の違いを法律の専門家視点で解説

【要点】

法律専門家は、刑事訴訟法第246条や少年法第41条・第42条に基づき、「送致」を正式な法律用語として使用します。「送検」はあくまで俗称であり、法的な文書や議論で用いられることはありません。手続きの正確性を期すため、法律家は厳密に「検察官送致」「家庭裁判所送致」と使い分けます。

法律の専門家、例えば弁護士や検察官、裁判官などは、「送致」と「送検」をどのように捉え、使い分けているのでしょうか。

結論から言うと、法律の専門家は原則として「送致」という言葉を使い、「送検」という言葉は使いません

なぜなら、「送致」は刑事訴訟法や少年法といった法律に明確に規定された手続きの名称だからです。法的な正確性が求められる場面では、法律に基づいた正式な用語を用いるのが当然ですよね。

具体的には、以下のような条文が根拠となります。

  • 刑事訴訟法 第246条(司法警察員から検察官への送致)
    「司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。(以下略)」
    (※司法警察員とは、主に警察官のことです)
  • 少年法 第41条(司法警察員の送致)
    「司法警察員は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、罰金以下の刑にあたる犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、これを検察官に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも、家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは、事件を家庭裁判所に送致しなければならない。(以下略)」
  • 少年法 第42条(検察官の送致)
    「検察官は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、第四十五条第五号本文に規定する場合を除いて、これを家庭裁判所に送致しなければならない。(以下略)」

これらの条文を見ても、「送検」という言葉は一切出てきません。常に「送致」が使われていますね。

法律家同士の会話や、裁判所・検察庁に提出する書類などでは、「検察官送致(けんさつかんそうち)」や「家庭裁判所送致(かていさいばんしょそうち)」といった形で、送致先を明確にして使われるのが一般的です。「送検」という略称を使うことは、まずありません。

これは、手続きの正確性を期すためであり、また、少年事件のように送致先が家庭裁判所の場合もあるため、誤解を避けるという意味合いもあります。

つまり、法律の専門家にとって、「送致」は必須の法律用語であり、「送検」は一般向けの分かりやすさを優先した俗称に過ぎない、という位置づけなのです。この視点の違いを知っておくことも、二つの言葉を理解する上で役立つでしょう。

より詳しくは、e-Gov法令検索などで実際の条文を確認してみるのも良い勉強になりますね。

ニュース報道で見かける「送検」の裏側にある手続きの流れ

僕がライターとして駆け出しの頃、警察担当の記者クラブに少しだけ出入りしていた時期がありました。

毎日のように「送検」という言葉を耳にし、原稿にも書いていたのですが、正直なところ、その法的な意味合いや「送致」との違いを深く理解していませんでした。「警察から検察に引き渡されること」くらいの認識でしたね。

ある日、少年事件の取材で、ベテランの記者さんと話す機会がありました。その少年は家庭裁判所に送致される見込みだったのですが、僕がうっかり「明日は送検ですかね?」と尋ねてしまったんです。

すると、その記者さんは穏やかに、でもはっきりとこう教えてくれました。

「いや、少年事件だから『家裁送致』だよ。『送検』は検察に送る時のマスコミ用語だからね。言葉は正確に使わないと、事実関係を誤って伝えてしまうことになる。特に我々報道に携わる者は、その重みを常に意識しないといけないんだ」

ドキッとしましたね。普段何気なく使っている「送検」という言葉が、実は法律用語ではなく、使い方を間違えると誤解を生む可能性がある、ということを初めて具体的に意識させられました。

ニュースで「送検」と聞くと、単に「悪いことをした人が次の段階に進んだ」という印象だけを受けがちですが、その裏には刑事訴訟法や少年法に則った厳密な手続きが存在します。

警察官が48時間という限られた時間の中で捜査資料をまとめ、検察官が24時間以内に勾留請求の判断をし…といった、目に見えない多くの人々の動きと法的な判断が積み重なっているわけです。

「送検」という短い言葉の裏側にある、こうした法的手続きの流れや、「送致」という本来の法律用語の存在を知ってからは、ニュースの見方が少し変わりました。

単なる言葉の違いとしてだけでなく、その言葉が使われる背景や文脈を理解することの大切さを学んだ経験でした。

「送致」と「送検」に関するよくある質問

少年事件でも「送検」と言いますか?

いいえ、通常は言いません。少年事件は原則として家庭裁判所に送られるため、「家庭裁判所送致」または単に「送致」と表現されます。「送検」は検察官に送る場合に使われる俗称・報道用語です。

「送致」と「送検」、どちらを使うべきですか?

法律上の手続きを正確に表現したい場合や、少年事件について話す場合は「送致」を使うのが適切です。一般的なニュース報道の内容について話す場合や、成人の事件で検察官に送られたことを端的に示したい場合は「送検」を使っても差し支えありませんが、俗称であることを理解しておくと良いでしょう。迷った場合は、より広い意味を持つ「送致」を使うのが無難です。

書類だけを送る場合も「送致」「送検」と言いますか?

はい、言います。「送致」は、被疑者の身柄だけでなく、事件に関する書類や証拠物を送る手続きも含まれます(刑事訴訟法第246条参照)。したがって、被疑者が逮捕されていない在宅事件であっても、捜査が終了すれば書類や証拠物が検察官に「送致(送検)」されます。これを俗に「書類送検」と呼びます。

「送致」と「送検」の違いのまとめ

「送致」と「送検」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 「送致」は法律用語、「送検」は俗称・報道用語:「送致」は検察官または家庭裁判所へ事件を送る正式な手続き。「送検」は「検察官送致」の略。
  2. 対象範囲が違う:「送致」は検察官・家裁の両方を含む広い概念。「送検」は検察官への送致のみを指す狭い概念。
  3. 少年事件は「送致」:少年事件は原則として家庭裁判所に送られるため、「送検」とは言わず「家裁送致」または「送致」を使う。
  4. ニュースの「送検」は警察→検察への移行:成人の刑事事件で、警察の捜査段階から検察官の捜査段階へ事件が引き継がれることを指す。
  5. 「送付」とは全く別物:「送付」は一般的な書類送付などを指し、法的手続きではない。

法律用語と報道で使われる俗称の違いを理解しておくと、ニュースの背景にある法的な手続きの流れがより正確に見えてきますよね。

これであなたも「送致」と「送検」の違いについて、自信を持って説明できるようになったはずです。法律や制度に関する言葉は難しいものも多いですが、一つ一つ正確に理解していくと面白いですよ。さらに他の法律・制度関連の言葉の違いについて知りたくなったら、法律・制度の言葉の違いまとめページもぜひ覗いてみてくださいね。