感情が「たかぶる」とき、「高ぶる」と「昂る」、どちらの漢字を使うべきか迷ったことはありませんか?
この二つの言葉は意味が似ていますが、ニュアンスや使われる場面には違いがあります。特に、「昂る」は常用漢字ではないため、公的な文書などでは注意が必要です。
この記事を読めば、「高ぶる」と「昂る」の意味の違いから、漢字の成り立ち、具体的な使い分け、さらには類義語との比較まで、深く理解できます。もう迷うことなく、自信を持って二つの「たかぶる」を使い分けられるようになりますよ。
それでは、まずは二つの言葉の最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「高ぶる」と「昂る」の最も重要な違い
「高ぶる」は感情や気持ちが高まる様子全般に使い、特に得意になる、おごりたかぶる意味合いも持ちます。一方、「昂る」は精神的な高揚感や意気込み、勢いの高まりを強調する際に使います。ただし「昂」は常用漢字ではないため、公的な場面では「高ぶる」かひらがな表記が推奨されます。
まず、結論からお伝えしますね。「高ぶる」と「昂る」の主な違いを以下の表にまとめました。
項目 | 高ぶる | 昂る |
---|---|---|
基本的な意味 | 感情や気分が高まる。得意になる。 | 感情や気分、神経が高まる。勢いが盛んになる。 |
ニュアンス | 感情の高まり全般。おごり高ぶる、威張る意味も含む。 | 精神的な高揚感、意気込み、気分の盛り上がり、勢いの強さを強調。 |
使われる場面 | 幅広い感情の高まり(喜び、怒り、期待など)。得意になる、尊大になる場合。 | 期待、興奮、闘争心など、精神的な高まりや意欲が前面に出る場面。議論などが白熱する場面。 |
常用漢字 | 〇(常用漢字) | ×(常用漢字外) |
公的な使用 | 推奨される。 | 「高ぶる」またはひらがな「たかぶる」に書き換え推奨。 |
最も重要なポイントは、「昂」が常用漢字ではないということです。そのため、新聞や公文書などでは一般的に「高ぶる」か、ひらがなで「たかぶる」と表記されます。迷ったら「高ぶる」を使うか、ひらがなで書くのが無難でしょう。
とはいえ、「昂る」が持つ独特のニュアンスを表現したい場面もありますよね。次に、それぞれの漢字の成り立ちから、そのイメージの違いを探ってみましょう。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「高」は物理的な高さから転じて、程度や気分の高まりを表します。「昂」は日が昇る様子から、精神的な高揚や勢いの増大を意味します。この成り立ちの違いが、二つの言葉のニュアンスの違いを生んでいます。
漢字の成り立ちを知ると、言葉の持つイメージがより鮮明になりますよね。「高ぶる」と「昂る」の違いも、それぞれの漢字のルーツを探ることで、その核心が見えてきます。
「高ぶる」の成り立ち:「高」が表す物理的な高さと気分の高揚
「高」という漢字は、高い建物を象った象形文字です。門のある高い建物の形から、「たかい」という意味が生まれました。
物理的な高さだけでなく、程度が高いことや、身分が高いこと、そして気分が高まることも表します。「高揚」「高校」「高級」などの熟語からも、そのイメージが掴めますね。
「高ぶる」は、この「高」が持つ「程度や気分が高まる」という意味合いから来ています。感情が通常の状態よりも上にあるイメージですね。また、「おごり高ぶる」「高慢」のように、地位や能力を過信して尊大になるという意味も「高」のイメージから派生しています。
「昂る」の成り立ち:「昂」が表す精神的な高まりと勢い
一方、「昂」は「日」と「卬(ゴウ)」を組み合わせた形声文字です。「卬」は人がひざまずいて上を仰ぎ見る様子を表し、「高くあがる」という意味を持ちます。
これに「日」を組み合わせることで、太陽が高く昇る様子を表し、「あがる」「たかい」「たかぶる」という意味になりました。「昂進(こうしん:物価などがあがること)」「昂然(こうぜん:意気があがるさま)」といった言葉にも、その勢いよく上がるイメージが現れています。
このことから、「昂る」は、単に気分が高まるだけでなく、精神的な高揚感、意気込み、気勢といった、内面から湧き上がるような勢いの高まりを特に強く表現する言葉なんですね。
具体的な例文で使い方をマスターする
期待で胸が「高ぶる」、勝利への意気込みで気持ちが「昂る」のように使い分けます。「高ぶる」は「おごり高ぶる」の意味もある点に注意。「昂る」は常用漢字ではないため、ビジネス文書などでは「高ぶる」かひらがなを使うのが適切です。
意味や成り立ちの違いがわかったところで、具体的な例文を通して使い方を確認していきましょう。ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきます。
ビジネスシーンでの使い分け
ビジネスシーンでは、特に「昂る」の使用には注意が必要です。常用漢字外のため、公的な文書や一般的なメールでは「高ぶる」かひらがな表記にするのが望ましいでしょう。ただし、小説や個人のブログなど、表現の自由度が高い場面では意図的に使うこともあります。
【OK例文:高ぶる】
- 新しいプロジェクトへの期待に胸が高ぶっている。
- 昇進の知らせを聞いて、興奮が高ぶるのを抑えきれなかった。
- 彼は少し成功したからといって、高ぶった態度をとるようになった。(=おごり高ぶる)
【OK例文:昂る】(※使用場面に注意)
- 重要なプレゼンテーションを前にして、彼の意気は昂っていた。
- 議論が白熱し、互いの主張がぶつかり合う中で感情が昂った。
- 目標達成への強い思いが、彼の心を昂らせた。
「高ぶる」は幅広い感情の高まりに使えますが、「昂る」は特に意気込みや精神的な高揚感を強調したいときに使うと効果的ですね。
日常会話での使い分け
日常会話では、常用漢字かどうかを過度に気にする必要はありませんが、基本的な意味合いの違いは意識すると良いでしょう。
【OK例文:高ぶる】
- 明日の遠足が楽しみで、気持ちが高ぶって眠れない。
- 好きなアーティストのライブを前に、期待が高ぶる。
- 彼はテストで満点を取って、少し高ぶっているようだ。(=得意になっている)
【OK例文:昂る】
- 試合開始直前、選手たちの闘志が昂るのを感じた。
- 応援するチームの逆転劇に、観客たちの興奮は最高潮に昂った。
- 彼の情熱的な演説に、聴衆の心は昂った。
これはNG!間違えやすい使い方
意味合いを取り違えると、不自然な表現になることがあります。
- 【NG】彼はライバルに勝って、すっかり昂っている。(得意になっている、おごっている意味では「高ぶる」が適切)
- 【OK】彼はライバルに勝って、すっかり高ぶっている。
「昂る」には「おごる、得意になる」という意味は基本的にありません。その場合は「高ぶる」を使いましょう。
- 【NG】神経が昂って眠れない。(神経が過敏になっている、興奮している状態は「高ぶる」が一般的)
- 【OK】神経が高ぶって眠れない。
「神経が昂る」という表現も間違いではありませんが、「神経が高ぶる」の方がより一般的に使われます。「昂る」は意気込みや勢いの高まりを表すことが多いです。
【応用編】似ている言葉「興奮する」との違いは?
「興奮する」は、刺激を受けて感情が激しく高まることを指し、「高ぶる」「昂る」よりも一時的で表面的な感情の揺れ動きを表すことが多いです。「高ぶる」「昂る」はより内面的な感情の高まりや持続的な状態を含むことがあります。
「高ぶる」「昂る」と似た意味を持つ言葉に「興奮する」がありますね。これらの違いは何でしょうか。
「興奮する」は、何らかの刺激を受けて、感情や神経が激しくたかぶることを意味します。「試合を見て興奮する」「興奮して眠れない」のように使いますね。
「高ぶる」「昂る」との違いは、以下の点にあります。
- 原因:「興奮する」は外部からの刺激が原因であることが多いですが、「高ぶる」「昂る」は内面的な感情や意気込みの高まりを表すことが多いです。
- 持続性:「興奮する」は比較的一時的な感情の高ぶりを指すことが多いのに対し、「高ぶる」「昂る」はもう少し持続的な状態を表すこともあります(例:「期待が高ぶる」「意気が昂る」)。
- ニュアンス:「興奮する」は感情が揺さぶられる様子に焦点がありますが、「高ぶる」は感情が高まること全般、「昂る」は精神的な高揚感や勢いをより強調します。
例えば、「試合を前にして選手たちの気持ちが昂る」とは言いますが、「選手たちの気持ちが興奮する」とはあまり言いませんね。気持ちが高まり、意気が上がるニュアンスは「昂る」が適しています。
「高ぶる」と「昂る」の違いを公的な視点から解説
「昂」は常用漢字表に含まれていないため、公用文や新聞など、広く一般に向けた文章では使用が推奨されません。文化庁の指針に基づき、「高ぶる」またはひらがな表記の「たかぶる」に書き換えるのが一般的です。これは、読みやすさや分かりやすさを優先するための措置です。
「高ぶる」と「昂る」の使い分けにおいて、非常に重要なのが「常用漢字」という視点です。
常用漢字とは、法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安として定められたものです。
そして、「昂」という漢字は、この常用漢字表に含まれていません。
文化庁は、「公用文における漢字使用等について」という指針の中で、常用漢字表にない漢字(表外字)は、原則として使用せず、常用漢字表にある同音の漢字に書き換えるか、仮名書きにするよう推奨しています。
この指針に基づくと、「昂る」は以下のように書き換えることになります。
- 昂る → 高ぶる
- 昂る → たかぶる
実際に、新聞記事や官公庁の文書では、「昂る」という表記はほとんど見られず、「高ぶる」か「たかぶる」が使われています。これは、特定の漢字を知らない人でも意味が分かるように、読みやすさ・分かりやすさを優先するという考え方に基づいています。
もちろん、小説や詩、個人の文章など、表現の自由度が求められる場面では、常用漢字外の漢字を使うこともあります。「昂る」が持つ独特のニュアンスを伝えたい場合には、あえて「昂る」と表記することもあるでしょう。
しかし、ビジネス文書やレポート、多くの人に読まれることを想定した文章では、常用漢字である「高ぶる」を使うか、ひらがなで「たかぶる」と書くのが適切と言えますね。
詳しくは文化庁のウェブサイトなどでご確認いただけます。
僕がプレゼンで「昂る」気持ちを経験した話
僕が社会人になりたての頃、大きなプロジェクトの最終プレゼンテーションを任されたことがありました。何週間も準備に没頭し、これで会社の未来が決まるかもしれない、そんなプレッシャーと期待が入り混じった状態でしたね。
プレゼン当日、会場に向かう電車の中で、資料を何度も見返しながら、心臓がドキドキしていました。不安はもちろんありましたが、それ以上に「やってやるぞ!」という強い気持ちが内側から湧き上がってくるのを感じたんです。
会場に着き、役員たちが並ぶ重々しい雰囲気の中で、自分の番を待つ間、その気持ちはさらに強くなりました。失敗したらどうしよう、という考えは消え、むしろ「この日のために準備してきたんだ、絶対に成功させる」という確信に近い感情が心を占めていました。手は少し震えていましたが、それは恐怖からではなく、武者震いに近い感覚でしたね。
まさに、あの時の感覚が「昂る」だったんだなと、今になって思います。単なる緊張や興奮(高ぶり)とは違う、目標に向かう強い意志や意気込みが伴った精神的な高揚感。あの「昂り」があったからこそ、プレッシャーを乗り越えて、自分でも驚くほど落ち着いて、情熱的にプレゼンができたのだと思います。
結果、プロジェクトは承認され、大きな達成感を得られました。あの時の「昂る」感覚は、単に気分が高まる「高ぶる」という言葉では表現しきれない、特別な経験として僕の中に残っています。
「高ぶる」と「昂る」に関するよくある質問
Q1:「高ぶる」と「昂る」、結局どちらを使うのが一般的ですか?
A1:一般的には「高ぶる」の方が広く使われます。「高」が常用漢字であり、感情の高まり全般を表せるためです。「昂る」は常用漢字外のため、新聞や公文書では避けられ、「高ぶる」かひらがなで表記されます。
Q2:怒りの感情が高まる場合はどちらを使いますか?
A2:どちらも使えますが、ニュアンスが異なります。「怒りに感情が高ぶる」は一般的な表現です。「怒りに感情が昂る」とすると、抑えきれないほどの激しい怒りや、怒りによる気勢の高まりを強調するニュアンスになります。
Q3:小説などで「昂る」が使われているのはなぜですか?
A3:小説など文学的な表現では、常用漢字に縛られず、言葉の持つ微妙なニュアンスを重視して漢字を選ぶことがあります。「昂る」が持つ精神的な高揚感や勢いを表現するために、あえて使われることがあります。
「高ぶる」と「昂る」の違いのまとめ
「高ぶる」と「昂る」の違い、ご理解いただけたでしょうか?最後にポイントをまとめますね。
- 意味の範囲:「高ぶる」は感情の高まり全般と「おごり」の意味も含む。「昂る」は精神的な高揚感や勢いの高まりを特に指す。
- 漢字のイメージ:「高」は物理的な高さや程度の高まり。「昂」は日が昇るような勢いのある高まり。
- 常用漢字:「高」は常用漢字、「昂」は常用漢字外。
- 使い分け:公的な場面や迷ったときは「高ぶる」かひらがな「たかぶる」。精神的な高揚や意気を強調したい表現では、文脈により「昂る」も可(ただし常用漢字外である点に留意)。
特に常用漢字かどうかは、文章を書く上で重要な判断基準になりますね。言葉のニュアンスの違いを理解しつつ、場面に応じて適切な表記を選んでいきましょう。