どっちを使う?「称える」と「讃える」の微妙な違いと例文

「健闘をたたえる」「功績をたたえる」…

誰かの行動や成果を褒めるときに使う「たたえる」という言葉。漢字で書くとき、「称える」と「讃える」、どちらを使うべきか迷った経験はありませんか?

読み方は同じでも、漢字が違うということは、やはり意味やニュアンスに違いがあるはずですよね。実はこの二つの言葉、一般的な評価か、心からの賛美かという点で使い分けられるんです。この記事を読めば、「称える」と「讃える」それぞれの意味や漢字の成り立ち、具体的な使い分け、さらには常用漢字としての扱いまでスッキリ理解できます。もう迷うことはありません。

それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「称える」と「讃える」の最も重要な違い

【要点】

基本的には、「称える」は広く一般的に人や行為を褒める場合に使い、「讃える」は特に素晴らしい功績や徳などを心から賛美する場合に使います。「称える」は評価、「讃える」は賛美と覚えるのが簡単です。現代では「称える」を使うのが一般的です。

まず、結論からお伝えしますね。

「称える」と「讃える」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目 称える(たたえる) 讃える(たたえる)
中心的な意味 声に出して褒める。評価する。評判を口にする。名付ける。 非常に素晴らしいものとして褒めちぎる。賛美する。神仏などを褒めあげる。
ニュアンス 一般的、客観的な評価、賞賛。 特別、心からの賛美、深い敬意。宗教的な意味合いを含むことも。
対象 人、行為、努力、勇気、功績など広範囲 特に優れた功績、徳、偉業、芸術作品、神仏など。
漢字の成り立ち 「称」=はかり、釣り合う、口に出す 「讃」=ほめる、たすける、すすめる
常用漢字 常用漢字 常用漢字表外字(表外漢字)
現代での使われ方 一般的に使われる。公用文や新聞などでもこちらが使われることが多い。 特定の功績や徳を強調したい場合に使われることがある。文学的、宗教的な文脈。
英語(近い表現) Praise, Commend, Honor, Applaud Extol, Glorify, Laud, Admire greatly

一番大切なポイントは、「讃える」は「称える」よりも、より強い賛美や敬意の気持ちを表すという点ですね。そして、現代の一般的な文章では、常用漢字である「称える」を使うのが無難である、ということです。

「讃える」は少し特別な、あるいは改まった響きを持つ言葉と言えるでしょう。

なぜ違う?言葉の意味と漢字の成り立ちからイメージを掴む

【要点】

「称える」の「称」は、重さをはかるように物事を評価し口に出すことを意味します。「讃える」の「讃」は、言葉で褒め称え、賛同し助けることを意味し、より心からの賛美のニュアンスを持ちます。

なぜこの二つの「たたえる」にニュアンスの違いが生まれるのか、それぞれの漢字が持つ本来の意味や成り立ちを知ると、その理由がより深く理解できますよ。

「称える」の意味:声に出して褒める、評価する

「称える」に使われる「称」という漢字は、成り立ちとして「禾(のぎへん)」と「爪(つめ)」、「冉(ぜん)」を組み合わせた形声文字と考えられています。「禾」は穀物、「爪」は手、「冉」は重さをはかる天秤の象形とされ、全体として手で穀物を天秤にかける様子を表していると言われます。

そこから、「重さをはかる」「釣り合う」という意味が生まれ、さらに転じて「値踏みする」「評価する」、そして「口に出して言う」「褒める」「名付ける」といった意味を持つようになりました。「名称(めいしょう)」や「称号(しょうごう)」、「称賛(しょうさん)」といった言葉からも、評価したり、名を呼んだりするニュアンスが感じ取れますね。

つまり、「称える」とは、物事や人の価値を評価し、それを声に出して褒める、あるいは良い評判を口にする、という比較的客観的な「評価」や「言及」のニュアンスを持つ言葉なのです。

「讃える」の意味:素晴らしいと賛美する、褒めちぎる

一方、「讃える」に使われる「讃」という漢字は、「言(ごんべん)」と「賛(さん)」を組み合わせた形声文字です。「言」はもちろん言葉を意味し、「賛」は「二人の人が前に進み出る」様子から、「たすける」「すすめる」「同意する」といった意味を持ちます。

この二つが合わさることで、「讃」は言葉で褒める、賛成して助ける、功績などを褒めちぎる、神仏などを褒めあげる(賛美する)といった意味を持つようになりました。「賛辞(さんじ)」や「礼讃(らいさん)」といった言葉を思い浮かべると、心からの賞賛や、時には宗教的な賛美のイメージが湧くのではないでしょうか。

したがって、「讃える」とは、単に評価するだけでなく、対象の素晴らしさを認め、心から賛同し、言葉を尽くして褒めあげる、賛美するという、より強い感情や敬意のこもった表現なのです。「称える」よりも主観的で、深い感動や尊敬の念が込められることが多いと言えますね。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

一般的な賞賛、例えば「彼の勇気ある行動を称える」やスポーツでの「健闘を称える」は「称える」が適切です。一方、歴史的偉業や神の徳など、特に崇高なものを賛美する場合は「偉業を讃える」「神を讃える歌」のように「讃える」を使うことがあります。

言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。

どのような場面で「称える」と「讃える」が使われるのか、見ていきましょう。

「称える」を使う場面

人やその行為、努力などを評価し、褒める一般的な場面で広く使われます。現代では「たたえる」はこちらの漢字を使うのが主流です。

  • 彼の長年にわたる地域への貢献を称え、感謝状が贈られた。
  • 最後まで諦めずに戦った両チームの健闘を称えたい。
  • その勇気ある行動は、多くの人々から称えられている。
  • 彼女の努力が実を結んだことを心から称えます。
  • 人々は彼の功績を称え、記念碑を建てた。
  • ノーベル賞は、人類に貢献した人物を称える賞だ。

比較的客観的な評価や、一般的な賞賛の場面で使われていますね。

「讃える」を使う場面

特に素晴らしい功績や偉業、崇高な精神、芸術作品などを、深い敬意や感動をもって賛美するときに使われます。やや文語的、あるいは強調したい場面で使われることが多いです。

  • 人々は英雄の偉業を讃え、歌い継いだ。
  • その画家が残した数々の名作は、今も多くの人に讃えられている。
  • 彼の自己犠牲の精神は、後世まで讃えられるべきだろう。
  • 教会では、神の栄光を讃える賛美歌が歌われた。
  • この詩は、故郷の美しい自然を讃えたものである。

「偉業」「名作」「精神」「神」など、対象がより特別で、賛美の気持ちが強い場面で使われる傾向があります。

これはNG!間違えやすい使い方

文脈によっては違和感が生じる可能性がある使い方を見てみましょう。

  • 【△】子供がテストで良い点を取ったので讃えた
  • 【OK】子供がテストで良い点を取ったので称えた。(または「褒めた」)

日常的な出来事に対して「讃える」を使うと、少し大げさに聞こえる可能性があります。「称える」や、より一般的な「褒める」を使う方が自然でしょう。

  • 【△】会議での彼の的確な指摘を讃えたい
  • 【OK】会議での彼の的確な指摘を称えたい。(または「評価したい」「賞賛したい」)

ビジネスシーンでの一般的な評価や賞賛には、「称える」の方が適しています。「讃える」を使うと、やや過剰な賛美と受け取られるかもしれません。

ただし、文脈や表現したい気持ちの強さによっては、「讃える」を使うことが間違いとは言い切れません。しかし、一般的な場面では「称える」を使う方が無難と言えるでしょう。

【応用編】似ている言葉「褒める」「賛美する」との違いは?

【要点】

「褒める」は「称える」とほぼ同義で、最も一般的に使われる言葉です。「賛美する」は「讃える」とほぼ同義で、特に神仏や崇高なものを褒め称える際に使われます。「称える」「讃える」はやや硬い表現です。

「称える」「讃える」と似た意味を持つ言葉に、「褒める(ほめる)」や「賛美する(さんびする)」がありますね。これらの言葉とのニュアンスの違いも理解しておきましょう。

「褒める」との違い

「褒める」は、人や物事の良い点を取り上げて評価する、賞賛するという意味で、最も一般的に使われる言葉です。「称える」と非常に意味が近く、多くの場面で言い換えが可能です。

  • 子供の努力を褒める。(=称える)
  • 彼の勇気を褒める。(=称える)

「称える」は「褒める」よりもやや改まった、硬い響きを持つ場合があります。日常会話では「褒める」の方が使われる頻度が高いでしょう。また、「称える」には「称号を与える」のように、公の場で評価を示すニュアンスが含まれることもあります。

「賛美する」との違い

「賛美する」は、対象の素晴らしさを熱心に褒め称えるという意味で、「讃える」と非常に意味が近いです。特に、神や仏、英雄、自然の偉大さなど、崇高な対象に対して使われることが多い言葉です。

  • 神の愛を賛美する。(=讃える)
  • 生命の輝きを賛美する歌。(=讃える歌)

「讃える」も同様の対象に使えますが、「賛美する」の方がより宗教的、あるいは詩的な響きが強いかもしれません。「讃える」は、偉大な功績や芸術作品など、もう少し広い範囲の対象にも使うことができます。

言葉のニュアンスの強さや一般性で言うと、以下のような関係性がイメージできるかもしれません。

一般的・日常的:「褒める」≒「称える」

強い賛美・特別:「讃える」≒「賛美する」

(ただし、「称える」は「讃える」の意味合いを含む場合もあり、「賛美する」は宗教的・詩的ニュアンスが強い)

「称える」と「讃える」の違いを常用漢字・公用文の視点から解説

【要点】

「称」は常用漢字ですが、「讃」は常用漢字表外字です。そのため、公用文や新聞など、常用漢字の使用を原則とする場面では、「たたえる」は原則として「称える」と表記されます。「讃える」の使用は限定的です。

「称える」と「讃える」の使い分けを考える上で、常用漢字のルールも重要なポイントになります。

現在、日本の公的な文書(法律、官公庁の書類など)や新聞、放送など(いわゆる公用文やメディア)では、原則として「常用漢字表」に掲載されている漢字を使用することになっています。

ここで確認すると、

  • 「称」:常用漢字表に含まれています。(音訓:ショウ、たたえる、となえる、はかる)
  • 「讃」:常用漢字表に含まれていません(表外字)。

このルールに基づくと、公用文や新聞などで「たたえる」と書く場合には、常用漢字である「称える」を使うのが原則となります。「讃える」は使えないか、あるいは使う場合でもルビ(ふりがな)を振るなどの配慮が必要になることが多いです。

文化庁のウェブサイトなどでも、公用文における漢字使用の指針が示されており、同様の考え方を確認できます。

もちろん、個人の文章や文学作品などでは、表現したいニュアンスに応じて常用漢字表外の漢字(表外字)を使うことは自由です。しかし、ビジネス文書や多くの人に読まれることを想定した文章においては、常用漢字である「称える」を使う方が、より一般的で分かりやすい表記と言えるでしょう。

迷った場合は「称える」を選んでおけば、表記上の問題はまず起こらない、と考えて良いですね。

僕が表彰スピーチで混同してしまった「称える」と「讃える」の体験談

僕も以前、会社の表彰式でスピーチを頼まれた際、「称える」と「讃える」のどちらを使うべきか迷い、結果的に少し場違いな表現をしてしまった苦い経験があります。

同期の社員が、長年の地道な努力が認められ、社内の技術改善提案で社長賞を受賞することになりました。彼は決して派手なタイプではありませんでしたが、コツコツと業務改善に取り組む真面目な人柄で、皆から尊敬されていました。僕は彼と親しかったこともあり、代表して祝辞を述べることになったのです。

スピーチ原稿を考える中で、彼の功績を最大限に表現したいという気持ちが強くなりました。「普通の『称える』じゃ物足りない、彼の努力はもっと素晴らしいものだ!」と思い込み、「讃える」という言葉を使うことにしたのです。

そして迎えた表彰式当日。僕は少し緊張しながらも、用意した原稿を読み上げました。

「…彼のこの度の偉大な功績と、長年にわたる真摯な努力に対し、心からの敬意を表し、ここに深く讃えたいと思います!」

言い終えた瞬間、会場がほんの一瞬、わずかに「…?」という空気になったような気がしました。もちろん、拍手は起こりましたが、どこか僕の言葉だけが浮いているような、妙な違和感があったのです。

式典の後、僕の隣に座っていた先輩がそっと耳打ちしてくれました。

「スピーチ良かったけど、最後の『讃える』は少し大げさだったかもな。彼の功績は素晴らしいけど、社内の表彰で使うには『称える』の方が一般的で自然だったかもしれない。『讃える』だと、なんだか歴史上の偉人か神様みたいに聞こえちゃったかな」

顔が赤くなるのを感じました。良かれと思って選んだ「讃える」という言葉が、その場の雰囲気や対象に対して、少し過剰な表現になってしまっていたのです。言葉の持つニュアンスや、使われるべき場面の「格」を考えずに、自分の気持ちだけで言葉を選んでしまったことが原因でした。

「称える」でも十分に彼の功績と努力への敬意は伝えられたはずです。むしろ、その方が彼の謙虚な人柄にも合っていたかもしれません。言葉の選択は、対象や状況とのバランスが重要なのだと、身をもって学びました。

それ以来、特にフォーマルな場で言葉を選ぶ際には、その言葉が持つ響きや重みを慎重に考えるようになりました。

「称える」と「讃える」に関するよくある質問

どちらの漢字を使うのが一般的ですか?

現代の日本語では、「称える」を使うのが一般的です。「称」が常用漢字であるため、公用文、新聞、放送など多くの場面で「たたえる」はこの漢字で表記されます。迷った場合は「称える」を使うのが無難です。

神様や仏様をたたえる場合はどちらを使いますか?

宗教的な文脈で、神仏の徳や偉大さを褒めあげる場合には、「讃える」が使われることが多いです。「賛美歌」の「賛」も「讃」と同じ意味合いを持ちます。心からの深い信仰心や賛美の気持ちを表すのに適しています。

「健闘をたたえる」はどちらの漢字ですか?

スポーツの試合などで、勝敗に関わらず相手の頑張りを褒める「健闘をたたえる」の場合は、一般的に「称える」が使われます。これは、特定の偉業に対する賛美というよりは、互いの努力や奮闘ぶりを認め合い、評価するというニュアンスが強いためです。

「称える」と「讃える」の違いのまとめ

「称える」と「讃える」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 核心的な違い:「称える」は一般的な評価・賞賛、「讃える」は心からの賛美・特別な賞賛
  2. 漢字の意味:「称」は評価し口にする、「讃」は賛同し褒めちぎる。
  3. 対象:「称える」は広範囲(人、行為、努力など)、「讃える」は特に優れた功績、徳、神仏など。
  4. 常用漢字:「称」は常用漢字、「讃」は表外字
  5. 現代の用法:「称える」が一般的。「讃える」は意味を強調したい場合や、文学的・宗教的な文脈で使われる。

どちらも相手への敬意を表す美しい日本語ですが、そのニュアンスの違いと、現代における一般的な使われ方を理解することで、より適切な言葉選びができるようになりますね。特に常用漢字のルールは、多くの人が目にする文章を書く際に意識しておくと良いでしょう。

これからは自信を持って、的確な言葉を選んでいきましょう。言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、漢字の使い分けの違いをまとめたページもぜひご覧ください。