「当該」と「該当」の違いとは?正しい意味と使い分けを解説

契約書や公的な書類で頻繁に目にする「当該」と「該当」。

似ているようで実は全く意味が違うこの二つの言葉、正しく使い分けられていますか?

この記事を読めば、それぞれの言葉の核心的なイメージから具体的な使い分けまで、もう二度と迷うことはありません。

結論:一覧表でわかる「当該」と「該当」の最も重要な違い

【要点】

基本的には「当該」は前に出てきた特定のものを指す指示語、「該当」は条件に当てはまることを示す言葉と覚えましょう。「その」と言い換えられれば「当該」、「当てはまる」と言い換えられれば「該当」です。

まず、ややこしい説明は抜きにして、結論からお伝えしますね。

この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目 当該(とうがい) 該当(がいとう)
中心的な意味 前に述べた、特定のものを指す(指示) ある条件・資格などに当てはまる(適合)
言い換えると? その、くだんの、問題の 当てはまる、合致する
英語のイメージ the said, the relevant applicable, corresponding
使われる場面 法律、契約書、公用文など アンケート、募集要項、手続き書類など

一番大切なポイントは、「当該」は前に出てきた何かを指しているのに対し、「該当」は特定の条件に合っているかを示している、という点ですね。

文脈がないと使えないのが「当該」、条件がないと使えないのが「該当」と考えると分かりやすいでしょう。

なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む

【要点】

「当該」の「当」は「まさにそれにあたる」という指し示すイメージ、「該当」の「該」は「条件にぴったりあてはまる」という適合のイメージを持つと、言葉の違いが感覚的に理解できます。

なぜこの二つの言葉に意味の違いが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。

「当該」の成り立ち:「当」が指し示す、まさに「それ」

「当該」の「当」という漢字には、「あたる」「あてる」という意味がありますよね。

「当人」や「当時」という言葉を考えると、「まさにその人」「まさにその時」というように、特定の対象を指し示すニュアンスがあるのがわかります。

つまり、「当該」とは「まさにそれに当たるもの」という、強い指示の意味を持っている、と考えるとスッキリするでしょう。

既に出てきた話題の中の、特定の何かをピンポイントで指すイメージですね。

「該当」の成り立ち:「該」が意味する、条件への「あてはまり」

一方、「該当」の「該」は、あまり見慣れない漢字かもしれません。

この漢字には「あてはまる」「あてはめる」といった意味があります。

「該」を使った言葉は少ないですが、「包括する」の「該」と考えると少しイメージが湧くでしょうか。

ある定められた範囲や条件に、ぴったりと当てはまる様子が「該」の核心的なイメージです。

このことから、「該当」には、提示された条件や基準に合致している、という意味が生まれるんですね。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

契約書や法律文では、指示対象を明確にする「当該」が好まれます。「条件に該当する方は…」のように、基準への適合を問う場面では「該当」が適切です。両者の混同は意味が通じなくなるため注意が必要です。

言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。

ビジネスシーンと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。

ビジネスシーンでの使い分け

客観性や明確さが求められるビジネスシーンでは、この二つの言葉の使い分けが非常に重要になります。

【OK例文:当該】

  • 甲は乙に対し、秘密情報を開示する。当該情報の管理は厳重に行うこと。(前に出た「秘密情報」を指す)
  • 先日発生したシステム障害について、当該部署の責任者にヒアリングを実施します。(前に出た「システム障害が起きた部署」を指す)

【OK例文:該当】

  • 以下の資格要件に該当する方は、応募書類をお送りください。(条件に当てはまる)
  • アンケートの質問で、該当する選択肢に丸をつけてください。(選択肢に当てはまる)

日常会話での使い分け

日常会話で「当該」を使うと少し堅苦しい印象になりますが、「該当」は比較的よく使われます。

【OK例文:当該】

  • その件については、当該担当者でないと分かりかねます。(やや硬い表現)
  • (ニュースを見て)警察は当該車両の行方を追っています。(報道などで使われる表現)

【OK例文:該当】

  • セールの割引は、これらの商品には該当しません。
  • 君の行動は、校則違反に該当する可能性があるよ。

これはNG!間違えやすい使い方

この二つを混同すると、文の意味が通じなくなってしまうことがあります。

特に注意したいのが、条件を示す文脈で「当該」を使ってしまうケースです。

  • 【NG】以下の条件に当該する方は、手を挙げてください。
  • 【OK】以下の条件に該当する方は、手を挙げてください。

前に指し示す対象がないのに「当該」は使えませんよね。

逆に、何かを指し示す場面で「該当」を使うのも不自然です。

  • 【NG】A契約書をご確認ください。該当契約書に署名をお願いします。
  • 【OK】A契約書をご確認ください。当該契約書に署名をお願いします。

これは明確な使い分けのルールなので、しっかりと覚えておきましょう。

「当該」と「該当」の違いを法律家の視点から解説

【要点】

法律や契約の世界では、一意に解釈できる明確性が極めて重要です。「当該」は、前に定義した特定の語句を正確に指し示す機能を持つため、解釈のブレを防ぐ目的で多用されます。これは法的三段論法の「あてはめ」とは異なる、純粋な指示機能です。

なぜ契約書や法律の条文では、あれほど「当該」という言葉が頻出するのでしょうか。

それは、解釈のズレをなくし、指し示す対象を一つに特定するという、非常に重要な役割を担っているからです。

例えば、契約書で最初に「本件業務」という言葉を定義したとします。

その後、契約書内で「当該業務を遂行するにあたり…」と書けば、それは必ず最初に定義した「本件業務」を指すことになり、他の業務が入り込む余地がなくなります。

もしこれを「その業務」と書いてしまうと、「どの業務?」と解釈が分かれるリスクが僅かに生じてしまうんですね。

一方、「該当」は、法律の条文を具体的な事実に「あてはめる」際に使われます。

例えば、刑法に「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する」とあり、ある人物AがBを殺したという事実があった場合、「Aの行為は殺人罪に該当する」というように使われます。

このように、「当該」は文中の指示対象を固定する役割「該当」は事実を法規にあてはめる役割、という明確な使い分けが専門的な文章ではなされているのです。

僕が「当該」と「該当」を混同して大恥をかいた体験談

僕も新人時代、この二つの言葉を混同して、恥ずかしい思いをした経験があります。

初めて取引先との業務委託契約書のドラフトを任されたときのことです。

契約内容の修正依頼をメールで送る際、「修正をお願いしたい箇所は以下の通りです」と前置きし、箇条書きで「第5条の甲の義務」と書きました。

そして、その補足として「該当箇所は、当社の業務実態に即しておりません」と書き添えたのです。

自分としては「当てはまる箇所は」くらいの軽い気持ちで使ったのですが、法務部のチェックで、上司からすぐに内線電話がかかってきました。

「この『該当箇所』って、何に該当する箇所のこと?意味がわからないよ。『当該箇所』、つまり前に示した『第5条の甲の義務』を指すなら、そう書かないと相手に意図が伝わらないし、文書として不正確だ」と。

上司は優しくも的確に、「ビジネス文書、特に契約関連では、言葉の定義が命なんだ。指示語一つで解釈が変わることもあるから、『その』とか『例の』みたいな曖昧な言葉は避けて、『当該』で正確に指し示す癖をつけなさい」と教えてくれました。

良かれと思って使った言葉が、逆にプロ意識の欠如を示してしまうと知り、顔から火が出る思いでしたね。

この経験から、言葉の正確な意味を理解し、文脈に応じて的確に使い分けることの重要性を痛感しました。

「当該」と「該当」に関するよくある質問

「当該」と「該当」、結局どちらを使えばいいですか?

文脈によります。前に出てきた特定のものを指したい場合は「当該」を使います(例:Aという事件。当該事件は…)。ある条件に当てはまるかどうかを示したい場合は「該当」を使います(例:条件に該当する方)。

法律や契約書で「当該」がやたらと多いのはなぜですか?

指し示す対象を一つに特定し、解釈が複数に分かれるのを防ぐためです。「その」や「この」といった言葉よりも厳密に対象を特定できるため、明確さが求められる法律文書や契約書で多用されます。

「該当なし」とは言いますが、「当該なし」とは言わないのはなぜですか?

「該当」は条件に当てはまるかどうかを問う言葉なので、「当てはまるものがない」という意味で「該当なし」が成立します。一方、「当該」は「その」という意味の指示語なので、「その、なし」では意味が通じないため、「当該なし」という表現は使われません。

「当該」と「該当」の違いのまとめ

「当該」と「該当」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 「当該」は指示語:前に出てきた「その」特定のものを指す。契約書などで活躍。
  2. 「該当」は適合語:条件や基準に「当てはまる」ことを示す。アンケートなどで活躍。
  3. 混同はNG:意味が通じなくなるだけでなく、ビジネスでは信頼を損なう可能性も。

漢字のイメージを掴むと、機械的な暗記ではなく、感覚的に使い分けられるようになります。

これからは自信を持って、的確な言葉を選んでいきましょう。