一般的なのは「使う」?「遣う」の特別な意味と違いを比較

「道具をつかう」「気を遣う」「お金をつかう」…ひらがなで書けば同じ「つかう」ですが、漢字で書くとなると「使う」と「遣う」、どちらが正しいか迷うことはありませんか?

日常的によく目にするのは「使う」の方かもしれませんね。

実は、現代の日本語では一般的に「つかう」と読む場合は「使う」と表記するのが基本で、「遣う」が使われる場面はかなり限定されています。でも、なぜ使い分けが存在するのでしょうか?

この記事を読めば、「使う」と「遣う」の根本的な意味の違いから、漢字の成り立ち、具体的な使い分けのルール、そして公用文での扱いまで、全てがスッキリと理解できます。もう、メールや文書作成でどちらの漢字を選ぶべきか迷うことはありませんよ。

それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「使う」と「遣う」の最も重要な違い

【要点】

基本的には、一般的な「用いる」の意味では「使う」と書きます。「遣う」は、「心遣い」「気遣い」「金遣い」「無駄遣い」「言葉遣い」といった特定の慣用句や、「人を派遣する(遣わす)」などの限られた意味で使われる表記です。迷ったら「使う」を選べばまず間違いありません。

まず、結論からお伝えしますね。

「使う」と「遣う」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。

項目 使う 遣う
基本的な意味 人・物・事・金銭・時間などを、ある目的のために用いること。広範囲の「もちいる」 金銭・時間・労力・神経などを特定の目的のために費やすこと。人を特定の目的で派遣すること。
表記の優先度 一般的・優先的(常用漢字、迷ったらこちら) 限定的(特定の語、慣用句など)
主な使われ方 道具を使う、能力を使う、時間を使う、お金を使う、頭を使う、など全般 心遣い、気遣い、金遣い、無駄遣い、言葉遣い、仮名遣い、小遣い、気を遣う、人を遣わす、など
公用文での扱い 原則として「使う」に統一 「大使を遣わす」など、一部例外を除き「使う」で表記
ニュアンス 汎用的、客観的 目的意識が強い、精神的な働きかけ、送り出す

一番のポイントは、ほとんどの場合は「使う」で問題ないということです。「遣う」が登場するのは、「心遣い」や「気を遣う」のように、心や神経を働かせる場合や、「金遣い」「小遣い」のように特定の慣用句、そして「人を送り出す」といった特殊な意味合いの場面に限られます。

なぜ違う?「使う」と「遣う」の意味と漢字の成り立ち

【要点】

「使う」の「使」は“人を用いて何かをさせる”イメージが元で、広範囲な「用いる」行為を表します。「遣う」の「遣」は“しんにょう(行く)”と“音符(送る)”から成り、“人を送り出す・行かせる”が本来の意味。ここから、特定の目的のために何かを「費やす」ニュアンスが生まれました。

では、なぜ「使う」と「遣う」で意味合いや使われる場面が異なるのでしょうか?それぞれの漢字が持つ本来の意味を探ると、その理由が見えてきますよ。

「使う」の意味と「使」の成り立ち

「使う」は、人、物、事柄、時間、金銭、能力、体の一部などを、何らかの目的のために役立たせる、用いるという意味を持つ、非常に広い範囲で使われる言葉です。

「使」という漢字は、「亻(にんべん)」に「吏(り)」を組み合わせた形声文字と言われています。「吏」は役人を意味し、そこから「人を用いて何かをさせる」「仕事を与える」という意味が生まれました。これが転じて、人だけでなく物や能力など、様々なものを「用いる」という意味で広く使われるようになったと考えられます。

「遣う」の意味と「遣」の成り立ち

一方、「遣う」は、金銭・時間・労力・神経などを、特定の目的のために「費やす」、あるいは人を特定の役目や目的で「行かせる・派遣する(遣わす)」といった、より限定的な意味合いで使われます。

「遣」という漢字は、「辶(しんにょう=行く)」に、音符であり「つかわす、送る」の意味を持つ「㚘(けん)」を組み合わせた形声文字です。その成り立ちからも分かるように、本来は「人を特定の場所や目的のために行かせる、送り出す」という意味が中心でした。「派遣」や「遣唐使」などの言葉にその意味が残っていますね。

そこから派生して、特定の目的のために何か(お金、時間、心など)を「送り出す」=「費やす、消費する」という意味でも使われるようになりました。「心遣い」や「金遣い」などは、この「費やす」ニュアンスが強い例です。

「遣う」が限定的に使われる理由

「使う」が広範囲な「用いる」を意味するのに対し、「遣う」は「費やす」「派遣する」という特定のニュアンスを持つ言葉です。しかし、現代日本語では、「お金を費やす」も「時間をついやす」も、一般的には「使う」で表現することが多くなりました。

これは、「使う」の意味範囲が広がり、「遣う」が持つ意味の多くをカバーできるようになったためと考えられます。また、常用漢字を決める際や公用文の表記ルールなど、言語の標準化が進む過程で、より一般的な「使う」への統一が促された側面もあります。

その結果、「遣う」は「心遣い」「言葉遣い」のような慣用的な表現や、「遣わす」のような本来の意味合いを残す場面でのみ、限定的に使われるようになったのです。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

道具、時間、お金、能力など、ほとんどの「もちいる」場面では「使う」を用います。「気を遣う」「お小遣いを遣う」「言葉遣い」のように、心や神経を働かせたり、慣用的な表現だったりする場合に「遣う」が使われます。「神経を使う」は一般的ですが、「神経を遣う」の方が、より細やかに気を配るニュアンスが出ることがあります。

それでは、具体的な例文を通して、「使う」と「遣う」の使い分けをしっかりマスターしましょう。

「使う」の正しい使い方(ビジネス・日常)

最も広く一般的に「もちいる」意味で使われます。

【ビジネスシーン】

  • 会議でプロジェクターを使う
  • 資料作成にパソコンを使う
  • 英語の能力を使う仕事に就きたい。
  • このプロジェクトには多くの時間を使うだろう。
  • 会社の経費を使う
  • 頭を使う作業が多い。
  • 最新の技術を使う

【日常会話】

  • はさみを使う
  • スマートフォンを使う
  • 休日を趣味に使う
  • お年玉を何に使うか考える。
  • 体力を使う
  • 丁寧な言葉を使う。(※「言葉遣い」は「遣う」)

物、道具、能力、時間、お金、体の一部、言葉など、対象を選ばずに幅広く使えますね。

「遣う」の正しい使い方(限定的な場面)

特定の慣用句や、「費やす」「派遣する」のニュアンスが強い場合に限定して使われます。

  • 細やかなお心遣い、ありがとうございます。(相手の配慮・親切)
  • 彼は周囲によく気遣いができる人だ。(気を配ること)
  • そんな無駄遣いはやめなさい。(お金や物を浪費すること)
  • 彼は金遣いが荒い。(お金の使い方の様態)
  • もっと丁寧な言葉遣いを心がけなさい。(言葉の選び方・話し方)
  • 正しい仮名遣いを覚える。(仮名の表記ルール)
  • 子どもに小遣いをあげる。(自由に使えるお金)
  • 初めてのプレゼンで気を遣う。(神経をすり減らす、心配する)
  • 遠方の支店へ応援の人員を遣う(遣わす)。(人を派遣する)
  • 密偵を遣わして敵情を探る。(人を送り出す)

特に「心遣い」「気遣い」「言葉遣い」などは、「遣う」を使うのが一般的です。「心を使う」「気を使う」と言うこともありますが、「遣う」を用いた方が、よりその行為に意識が向けられているニュアンスが出ますね。

これはNG!間違えやすい使い方

基本的には「使う」で良い場面で、無理に「遣う」を使うと不自然になります。

  • 【NG】この道具を遣ってください。
  • 【OK】この道具を使ってください。

道具を「用いる」のは一般的な「使う」の用法です。

  • 【NG】時間を有効に遣う
  • 【OK】時間を有効に使う

時間を「費やす」意味合いもありますが、現代では「使う」の方が一般的です。「無駄遣い」のような特定の語を除き、単に時間を費やす場合は「使う」と書きます。

  • 【NG】資料作成に労力を遣う
  • 【OK】資料作成に労力を使う。(または「費やす」)

労力を「費やす」場合も、「使う」の方が自然です。より硬い表現なら「費やす(ついやす)」も使えます。

迷った場合は、慣用的に「遣う」と決まっている場合以外は「使う」を選ぶ、と覚えておけば、大きな間違いは避けられるでしょう。

【応用編】似ている言葉「用いる」との違いは?

【要点】

「用いる(もちいる)」も「使う」とほぼ同じ意味ですが、「使う」よりもやや改まった硬い表現です。書き言葉や公的な文書、説明書などでよく使われます。人に対して使う場合は、「登用する」というニュアンスも持ちます。

「使う」と非常によく似た言葉に「用いる(もちいる)」があります。これも使い分けを知っておくと、表現の幅が広がりますね。

「用いる」は、「使う」とほぼ同じ意味で、物事を役立たせる、道具や手段として使うことを指します。

ただし、「使う」に比べてやや改まった、硬い響きを持つ言葉です。そのため、日常会話よりも、書き言葉、特に説明書、論文、公的な文書、改まったスピーチなどで使われることが多いでしょう。

項目 使う 用いる
基本的な意味 役立たせる、道具や手段として使う(広範囲) 役立たせる、道具や手段として使う(使うより硬い表現)
ニュアンス 一般的、日常的、口語的 改まった、硬い、文語的、説明的
人に対する場合 人手や能力を利用する 人を役職に就ける、登用する

【例文】

  • この実験では、特殊な装置を用います。(←「使います」より硬い表現)
  • 彼は巧みな話術を用いて相手を説得した。(←「使って」でも良いが、やや改まった印象)
  • 古くから薬草として用いられてきた植物。(←説明的な文脈)
  • 新しい技術を製品開発に用いる
  • 部長として、有能な人材を積極的に用いたい。(=登用したい)

特に最後のように、人に対して「用いる」と言う場合は、「(役職などに)取り立てて使う、登用する」という意味合いが強くなりますね。「部長として人を使う」と言うと、単に労働力として使うニュアンスですが、「人材を用いる」と言うと、その人の能力を評価して適材適所で活用する、というポジティブな意味合いが出ます。

基本的には「使う」で問題ありませんが、より丁寧さや客観性、専門性を示したい場面では「用いる」を選ぶと良いでしょう。

「使う」と「遣う」の違いを公的な視点から解説

【要点】

文化庁の「公用文における漢字使用等について(通知)」では、分かりやすさの観点から、同音異義語の使い分けを整理し、「つかう」は原則として「使う」を用いるよう示しています。「遣う」は「心遣い」などの特定の語や「遣わす」の場合に限定されます。

「使う」と「遣う」の使い分けについては、国(文化庁)も一定の指針を示しています。

文化庁が示す「公用文における漢字使用等について」の中には、「同音の漢字による使い分け例」が示されており、行政文書などを分かりやすく書くための目安となっています。

この中で「つかう」については、以下のように示されています。

つかう
使う………用いる。費用をかける。費やす。
道具を使う。頭を使う。時間を使う。費用を使う。神経を使う。
遣う………(心遣い・気遣い・言葉遣い・金遣い・無駄遣い)。
(主に,慣用的な語として用いる。)
(例)心遣い。気遣い。言葉遣い。金遣い。無駄遣い。
(遣わす)
(例)大使を遣わす。使者を遣わす。

引用元:文化庁 | 国語施策・日本語教育 | 国語施策情報 | 内閣告示・内閣訓令 | 公用文における漢字使用等について(通知)

ここからも分かるように、公的な文書においては、原則として「使う」を用いるという方針が明確に示されていますね。「遣う」は、括弧書きで示された「心遣い」などの慣用的な語や、「遣わす」という特定の意味の場合に限定されています。

「神経を使う」も「使う」の例として挙げられていますね。

これは、細かい使い分けがかえって分かりにくさを生むことを避け、より多くの人にとって平易な文章を目指す、という公用文の考え方に基づいています。

したがって、ビジネス文書や一般的な文章を作成する際も、この指針に倣い、迷ったら「使う」と表記するのが、最も無難で分かりやすい選択と言えるでしょう。

僕がビジネスメールで「お心遣い」を「お心使い」と書いてしまった話

僕も、以前に「使う」と「遣う」の使い分けで失敗し、恥ずかしい思いをしたことがあります。

まだ社会人経験が浅かった頃、取引先の方から出張のお土産をいただいたことがありました。そのお礼のメールを送る際、感謝の気持ちを丁寧に伝えたいと思い、「結構なお品を頂戴し、恐縮しております。温かいお心使い、誠にありがとうございました。」と書いて送ってしまったんです。

自分の中では、「心を使う」=「配慮」だから「心使い」で正しいだろう、と思い込んでいました。

しばらくして、そのメールを見た上司から、こっそりと「さっきのメール見たけど、『こころづかい』は『心遣い』と書くのが一般的だよ。『心使い』でも意味は通じるかもしれないけど、慣用句としては『遣う』の方を使うんだ。覚えておくといいよ」と指摘されました。

僕はその場で顔が赤くなるのを感じました…。良かれと思って丁寧に書いたつもりが、基本的な漢字の使い分けを間違えていたなんて。特に相手への感謝を伝える場面での誤字は、失礼にあたる可能性もあり、冷や汗が出ましたね。

上司は続けて、「『使う』と『遣う』は迷いやすいけど、『気遣い』とか『言葉遣い』とか、『〇〇遣い』ってセットで使われることが多い言葉は『遣う』の方、って覚えておくと間違えにくいかもね」とアドバイスをくれました。

この経験から、意味が似ている漢字でも、慣用的にどちらを使うかが決まっている場合があることを学びました。そして、特にビジネスメールのように相手に失礼があってはならない場面では、言葉の表記に細心の注意を払う必要があると痛感しました。

それ以来、少しでも迷ったら辞書や信頼できる情報源で確認する癖がつきました。あの時の恥ずかしさが、今の僕の言葉に対する慎重さに繋がっているのかもしれません。

「使う」と「遣う」に関するよくある質問

「金遣い」「気遣い」などはなぜ「遣う」なのですか?

これらは慣用的に「遣う」が使われる表現です。「金遣い」はお金を費やす様態、「気遣い」は気を働かせる・配るというニュアンスが、「遣う」の持つ「費やす」「送り出す」という意味合いと結びついて定着したと考えられます。文化庁の指針でも、これらの慣用的な語については「遣う」を用いるとされています。

「大使を遣わす」はなぜ「遣う」なのですか?

「遣う」の本来の意味である「人を特定の目的で行かせる・派遣する」という意味で使われているためです。「遣わす(つかわす)」は「遣う」の使役形・尊敬語にあたります。この意味で「使う」を用いることはありません。

英語で「使う」「遣う」はどう表現しますか?

どちらも基本的には “use” で表現できます。文脈によって “spend” (お金や時間を費やす), “employ” (技術や方法を用いる), “dispatch” (人を派遣する) など、より具体的な動詞を使うこともあります。「気を遣う」は “be considerate”, “be thoughtful”、「心遣い」は “consideration”, “thoughtfulness” などと表現できます。

「使う」と「遣う」の違いのまとめ

「使う」と「遣う」の違い、これで迷うことはなくなりましたね!

最後に、この記事のポイントを整理しておきましょう。

  1. 基本は「使う」:一般的な「用いる」の意味では、「使う」と表記する。
  2. 「遣う」は限定的:「心遣い」「気遣い」「金遣い」「無駄遣い」「言葉遣い」「仮名遣い」「小遣い」などの慣用句や、「気を遣う」、人を派遣する(遣わす)場合に限られる。
  3. 漢字の意味:「使」は“人を用いる”、「遣」は“送り出す・費やす”イメージ。
  4. 公的ルール:公用文では、分かりやすさのため原則「使う」に統一
  5. 迷ったら「使う」を選べばまず間違いなし!

普段何気なく使っている言葉でも、漢字の成り立ちや意味の違いを知ると、より深く理解できますよね。特に日本語は同音異義語が多いので、正しい表記を意識することが、読みやすく誤解のない文章作成につながります。

これからは自信を持って「使う」と「遣う」を使い分けていきましょう。言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、漢字の使い分けに関するまとめページもぜひご覧ください。