「務める」と「勤める」、どちらも「つとめる」と読む同音異義語ですが、その使い分けに迷った経験はありませんか?
結論から言うと、役割や任務を果たすのが「務める」、会社などの組織に所属して働くのが「勤める」です。
この記事を読めば、それぞれの言葉の核心的なイメージから具体的な使い分け、さらには似た言葉「努める」との違いまでスッキリと理解でき、もう二度と迷うことはありません。
それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「務める」と「勤める」の最も重要な違い
基本的には「役割」に焦点を当てるなら「務める」、「所属」に焦点を当てるなら「勤める」と覚えるのが簡単です。この2つの言葉は意味が明確に違うため、公用文でも使い分けが推奨されています。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。
これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
項目 | 務める | 勤める |
---|---|---|
中心的な意味 | 役目・任務・職務を果たすこと | 組織に所属して勤務・労働すること |
焦点 | 役割・任務 | 所属・勤務先 |
英語のイメージ | serve as, act as, play the role of | work for, be employed at |
具体例 | 議長を務める、司会を務める | 会社に勤める、市役所に勤める |
一番大切なポイントは、その人が担っている「役割」について話しているのか、それとも「所属している場所」について話しているのかを意識することですね。
例えば、「A社の社長」という一人の人物がいたとします。
彼が「社長という役割」を果たすことに焦点を当てるなら「社長を務める」、彼が「A社という組織」に身を置いていることに焦点を当てるなら「A社に勤める」となるわけです。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「務める」の「務」は矛(ほこ)を持って任務を果たすイメージです。一方、「勤める」の「勤」は力を尽くしてコツコツと働くイメージを持つと、意味の違いが分かりやすくなります。
なぜこの二つの言葉に意味の違いが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
言葉の語源を知ると、単なる暗記ではなく、イメージで覚えられるので忘れにくくなりますよね。
「務める」の成り立ち:「矛」を持って任務を果たすイメージ
「務」という漢字は、「矛(ほこ)」と「力」を合わせたものではなく、象形文字では「手にごつごつした武器を持って、敵を討つ」様子を表していました。
そこから転じて、困難な状況でも果たすべき「役目」や「任務」という意味を持つようになりました。
「任務」や「職務」といった言葉に「務」が使われていることからも、その核心的なイメージが掴みやすいでしょう。
つまり、「務める」とは、ある特定のポジションや役割を責任をもって引き受け、それを遂行するという状態を表している、と考えると分かりやすいですね。
「勤める」の成り立ち:力を尽くしてコツコツ働くイメージ
一方、「勤」という漢字は、もともと「堇(きん)」という粘土や粘り強い性質を表す文字と、「力」を組み合わせた形声文字です。
これは、粘り強く、力を尽くしてコツコツと働く様子を表しています。
「勤労」や「出勤」という言葉を考えるとイメージしやすいかもしれませんね。
このことから、「勤める」には、給料をもらって組織の一員として労働力を提供する、つまり「勤務する」というニュアンスが含まれるんですね。
「どこで働いているか」という所属先を明確にする場合にぴったりの言葉です。
具体的な例文で使い方をマスターする
「部長の職を務める」のように役割を指すのが「務める」、「〇〇株式会社に勤める」のように所属先を指すのが「勤める」です。この基本を押さえれば、ビジネスでも日常でも迷いません。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
ビジネスシーンでは、役職や役割を話す場面と、勤務先を話す場面がはっきりと分かれるので、意識しやすいかもしれません。
【OK例文:務める】
- 彼はプロジェクトリーダーを務めている。
- 私が本日の会議の議長を務めさせていただきます。
- 彼女は長年、その会社の監査役を務め上げた。
- 重要な交渉役を務めることになり、身が引き締まる思いだ。
【OK例文:勤める】
- 私はIT企業に勤めています。
- 彼は昨年まで銀行に勤めていたが、今年から独立した。
- 姉は地方公務員として市役所に勤めている。
- 来年から〇〇株式会社に勤めることになりました。
このように、役職や役割には「務める」、会社や組織には「勤める」を使うのが基本ルールです。
日常会話での使い分け
日常会話でも、考え方は同じです。
会社組織だけでなく、地域や学校の活動などにも当てはめてみましょう。
【OK例文:務める】
- 今年はPTAの会長を務めています。
- 彼は自治会の会計係を務めてくれた。
- 結婚式で友人代表のスピーチ役を務めた。
【OK例文:勤める】
- 近所のスーパーにパートとして勤めている。
- 息子は大学卒業後、地元の工場に勤めている。
これはNG!間違えやすい使い方
意味は通じることが多いですが、厳密には正しくない使い方を見てみましょう。
特に「務める」と「勤める」を取り違えると、少し違和感のある文章になってしまいます。
- 【NG】私は〇〇株式会社を務めています。
- 【OK】私は〇〇株式会社に勤めています。
会社は所属する場所なので、「勤める」が適切です。「会社を務める」と言うと、まるで会社そのものが一つの役割であるかのような、奇妙な響きに聞こえますよね。
- 【NG】彼は議長に勤めている。
- 【OK】彼は議長を務めている。
議長は役職・役割なので、「務める」を使います。「議長に勤めている」と言うと、議長という勤務先があるかのように聞こえてしまい、不自然です。
【応用編】似ている言葉「努める」との違いは?
「努める(つとめる)」は、「努力する」「力を尽くす」という意味合いで使います。「務める」「勤める」が状態を表すのに対し、「努める」は意識的な行動や心がけを表すのが大きな違いです。
「つとめる」と読む言葉には、もう一つ「努める」がありますよね。
これも混同しやすいので、違いをしっかり押さえておきましょう。
「努める」の「努」は、「努力」の「努」です。
つまり、「目標達成のために努力する」「意識して頑張る」といった意味合いで使われます。
言葉 | 意味 | 例文 |
---|---|---|
務める | 役割・任務を果たす | 議長を務める。 |
勤める | 組織に所属して働く | 会社に勤める。 |
努める | 努力する・心がける | 問題の解決に努める。 |
「務める」や「勤める」が比較的客観的な状態を表すのに対し、「努める」は本人の意志や心がけといった内面的な行動を表す、と考えると分かりやすいでしょう。
例えば、「会社の発展に努める」や「常に冷静であるように努めた」のように使います。
「務める」と「勤める」の違いを公的な視点から解説
文化庁の指針では、「務める」と「勤める」は意味が異なるため、書き分けが必要な同音異義語として扱われています。公用文などでは、文脈に応じて正しく使い分けることが求められます。
実は、「配布」と「配付」のように、公用文ではどちらか一方に表記を統一するよう推奨されている同音異義語があります。
では、「務める」と「勤める」はどうなのでしょうか?
結論から言うと、この2つの言葉は意味が明確に異なるため、公用文でも書き分けが必要とされています。
文化庁が示す「公用文における漢字使用等について」の資料の中でも、「務める」と「勤める」はそれぞれ別の意味を持つ言葉として例示されています。
これは、行政の文章などを国民にとって分かりやすくするためのルールですが、そこでも「役割」と「所属」というそれぞれの核心的な意味は区別すべき重要なポイントだと考えられているわけですね。
したがって、ビジネス文書や公的な書類を作成する際には、文脈に応じてこの2つの言葉を正しく使い分けることが、より正確なコミュニケーションにつながると言えるでしょう。
より詳しくは文化庁のウェブサイトなどでご確認いただけます。
僕が「部長に務める」と書いて赤面した新人時代の体験談
僕も新人時代、この「務める」と「勤める」で恥ずかしい思いをしたことがあるんです。
メーカーに入社して半年ほど経った頃、取引先への提出資料で、自社の上司を紹介する一文を書く機会がありました。
少しでも気の利いた文章を書きたい、という思いが空回りしたんでしょうね。
僕は「弊社で部長に務める〇〇は、」と書いてしまったんです。「部長という役職を『務めている』のだから、これで完璧だ!」と思い込んでいました。
自信満々で提出した僕の草稿を見た先輩は、苦笑しながらこう教えてくれました。
「気持ちは分かるけど、少し違和感があるかな。『部長を務める』なら自然だけど、『部長に務める』だとちょっと変だね。シンプルに『弊社で部長として勤める〇〇』とか、『弊社で部長を務める〇〇』とするのが一般的だよ」と。
その時、僕はハッとしました。「務める」は「~を」という目的語を取る動詞であり、「勤める」は「~に」という所属場所を示す助詞と一緒に使うのが基本だと、頭では分かっていたのに、実践では全く意識できていなかったのです。
上司は優しく指摘してくれましたが、言葉の形だけでなく、助詞との繋がりまで考えられていなかった自分が恥ずかしく、顔がカッと熱くなったのを今でも覚えています。
この経験から、言葉を使うときは、意味の違いだけでなく、文法的な繋がりや響きの自然さまでイメージすることが何よりも大切だと学びました。それ以来、一つひとつの言葉の背景をより深く意識するクセがついたように思います。
「務める」と「勤める」に関するよくある質問
アルバイトやパートの場合は「務める」「勤める」どちらを使いますか?
雇用形態にかかわらず、組織に所属して働く場合は「勤める」を使います。例えば、「カフェでアルバイトとして勤めています」のように表現するのが一般的です。
「兼務する」はなぜ「務める」の漢字を使うのですか?
「兼務」は、二つ以上の「任務」や「職務」を兼ねることを意味するためです。焦点が「役割」にあるので、「務」の字が使われます。例えば、「営業部長と人事部長を兼務する」のように使います。
どうしても使い分けに迷ったら、どうすれば良いですか?
「~という役割を果たす」と言い換えられるなら「務める」、「~という場所で働く」と言い換えられるなら「勤める」と考えてみてください。それでも迷う場合は、文脈をより具体的にすることで、どちらが適切か見えてくることが多いです。
「務める」と「勤める」の違いのまとめ
「務める」と「勤める」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
言葉の使い分けは、最初は少し難しく感じるかもしれませんが、一度イメージを掴んでしまえば簡単です。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は焦点で使い分け:特定の「役割・任務」に焦点を当てるなら務める。
- 所属先が重要なら:会社などの「組織・勤務先」に焦点を当てるなら勤める。
- 似た言葉に注意:「努力する」という意志を表す場合は努めるを使う。
言葉の背景にある漢字のイメージを掴むと、機械的な暗記ではなく、感覚的に使い分けられるようになります。
これからは自信を持って、的確な言葉を選んでいきましょう。