「席を譲る?席をあげる?」
「プレゼントを譲る?プレゼントをあげる?」
「譲る」と「あげる」、どちらも「与える」という意味で使われることがありますが、そのニュアンスや敬語での使い方は異なりますよね。あなたは、これらの言葉を正しく使い分けられていますか?
実は、「譲る」は権利や地位を含めて相手に渡す、「あげる」は広く物を相手に与えるという点が大きな違いです。
この記事を読めば、「譲る」と「あげる」の基本的な意味の違いから、敬語での使い分け(「差し上げる」「お譲りする」)、さらには目下の人に使う「やる」との違いまで、例文を交えてスッキリ理解できます。もう迷うことはありません。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「譲る」と「あげる」の最も重要な違い
基本的には、権利や地位、順番などを相手に渡す場合は「譲る」、物を広く与える場合は「あげる」と覚えるのが簡単です。敬語では、それぞれ謙譲語の「お譲りする」「差し上げる」を使います。
まず、結論からお伝えしますね。
「譲る」と「あげる」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | 譲る(ゆずる) | あげる |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 自分の物・地位・権利・順番などを他人に渡す、与える。相手を優先する。 | 自分の物を他人に与える。上位へ移動させる。 |
| ニュアンス | 権利移転、順位交代、相手優先の含みがある。価値のあるものを手放すイメージ。 | 一般的な「与える」行為。方向性が「下から上へ」のイメージも。 |
| 対象 | 物、席、順番、地位、財産、権利など。 | 物、プレゼント、情報など。(目上の人への動作には使いにくい) |
| 敬語 (謙譲語) | お譲りする | 差し上げる |
| 敬語 (丁寧語) | 譲ります | あげます |
大きなポイントは、「譲る」には単に物を与えるだけでなく、権利や順番、地位といったものも含めて相手に渡す、あるいは相手を優先するというニュアンスが含まれる点ですね。
一方、「あげる」はもっとシンプルに「与える」行為全般を指しますが、目上の人への行為には使いにくく、代わりに謙譲語の「差し上げる」を使います。
「譲る」「あげる」それぞれの意味
「譲る」は自分の所有物や地位、権利などを他人に与える、または他人に先を越させる意味です。「あげる」は物を他人に与える、物事を上位へ移動させる、物事を終えるといった意味があります。
なぜこの二つの言葉に違いが生まれるのか、それぞれの意味をもう少し詳しく見ていきましょう。
「譲る」が持つ「権利や地位を渡す」ニュアンス
「譲る」という言葉には、主に以下のような意味があります。
- 自分の所有している物・地位・権利・財産などを、他人に渡す。与える。「家督を譲る」「財産を譲る」
- 席や道、順番などを、他の人に使わせたり先に行かせたりするために、自分は退いたり後になったりする。「席を譲る」「道を譲る」
- 自分の主張や考えを曲げて、他人の意見に従う。譲歩する。「一歩も譲らない」
- 後日にする。延期する。「会見を明日に譲る」
共通しているのは、自分の持っている何か(物、権利、順番、主張など)を手放して相手に渡したり、相手を優先したりするというニュアンスですね。単に物をあげるというよりは、もう少し重みのある行為や、相手への配慮が含まれることが多いです。
「あげる」が持つ「広く与える」ニュアンス
一方、「あげる(上げる・挙げる)」には非常に多くの意味がありますが、「与える」に関連する主な意味は以下の通りです。
- 自分の所有物を他の人に与える。「プレゼントをあげる」「お小遣いをあげる」
- 物事を低い所から高い所へ移す。位置・程度・地位・序列などを高くする。「旗をあげる」「二階へあげる」「昇進して係長にあげる」
- 物事をすっかり終える。「宿題をあげてから遊びに行く」
- (補助動詞として)他の動詞について、動作が完了する意を表す。「作りあげる」
- (補助動詞として)他の動詞について、相手への行為であることを表す(やや敬意が低い)。「読んであげる」「教えてあげる」
①の意味が「譲る」と似ていますが、「あげる」はより一般的な「与える」行為を指します。また、②のように物理的・抽象的に「上へ」という方向性を持つのが特徴的です。
⑤の補助動詞としての用法は便利ですが、使い方によっては恩着せがましく聞こえることもあるため、特に目上の人に対しては避けるべき表現ですね。
具体的な例文で使い方をマスターする
電車で席を渡すのは「譲る」、友人に誕生日プレゼントを渡すのは「あげる」が適切です。「おもちゃを譲る/あげる」のように、どちらも使える場合もありますが、ニュアンスが異なります。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
「譲る」と「あげる」が使われる典型的な場面と、少し注意が必要な場面を見ていきましょう。
「譲る」を使う場面(例文)
権利や順番、相手への配慮が感じられる場面ですね。
- 電車でお年寄りに席を譲った。
- 混雑した道で対向車に道を譲った。
- 彼は弟に社長の座を譲った。
- この絵画は祖父から譲り受けたものです。(受け身の形)
- どうしても欲しいというので、安く譲ってあげた。(「あげる」と組み合わせることも)
- これ以上は一歩も譲れない。(主張を曲げない意味)
「あげる」を使う場面(例文)
物を気軽に与える場面や、位置・状態を上げる場面で使われます。
- 妹の誕生日に本をあげた。
- 子どもにお菓子をあげた。
- 分からないというから、答えを教えてあげた。(補助動詞)
- 荷物を棚に上げた。
- 彼はついに部長の地位まで上り詰めた。(「あげる」の複合動詞)
- みんなで花火を打ち上げた。
使い分けに注意が必要な場面
どちらも使えそうだけど、ニュアンスが違う、あるいはどちらか一方がより自然な場合があります。
- 子どもが使わなくなったおもちゃを友人の子に譲った / あげた。→どちらも使えますが、「譲った」と言うと、少し価値のあるものを手放したニュアンスが出ます。「あげた」の方が気軽な印象ですね。
- (電話で)「恐れ入りますが、担当の者に代わっていただけますでしょうか」
「はい、ただいま代わります / △譲ります」→電話を代わるのは順番や権利を渡す「譲る」に近い気もしますが、一般的には「代わる」を使います。「譲る」だと少し不自然に聞こえるかもしれません。 - 席を譲る / ×あげる→座る権利を相手に渡す、相手を優先するという意味合いが強いので「譲る」が適切です。「あげる」は物をあげるような印象になり、不自然です。
迷ったときは、「譲る」が持つ「権利・順番・地位・相手優先」のニュアンスに当てはまるか考えてみると良いでしょう。
敬語での使い分け:「差し上げる」「お譲りする」
「あげる」の謙譲語は「差し上げる」、「譲る」の謙譲語は「お譲りする」です。どちらも自分がへりくだることで相手を高める表現ですが、元の動詞のニュアンスを引き継ぎます。
ビジネスシーンなど、敬語を使う場面では、「譲る」と「あげる」をそれぞれ適切な謙譲語に言い換える必要があります。
謙譲語は、自分の行為をへりくだって表現することで、相手への敬意を示す言葉ですね。
「あげる」の謙譲語「差し上げる」の使い方
「あげる」の謙譲語は「差し上げる」です。「あげる」と同様に、物などを相手に与える行為に使いますが、相手への敬意が込められます。
- 先生に旅行のお土産を差し上げました。
- 部長がお好きだと伺ったので、この本を差し上げます。
- 何かお手伝いできることがあれば、(私が)して差し上げます。(補助動詞「てあげる」の謙譲語)
注意点として、「差し上げる」は自分の行為にしか使えません。尊敬語ではないので、「部長が資料を差し上げました」のような使い方は間違いです。また、相手によっては「差し上げる」でも恩着せがましく聞こえる場合があるので、文脈に注意しましょう。
「譲る」の謙譲語「お譲りする」の使い方
「譲る」の謙譲語は「お譲りする」です。「ご(お)~する」という謙譲語の形ですね。「譲る」が持つ「権利や地位、順番などを渡す、相手を優先する」というニュアンスを含んだ上で、相手への敬意を示します。
- 会長の席は、〇〇様にお譲りいたします。
- この件につきましては、担当の者に席をお譲りして(=代わって)説明させます。
- 先ほどお話しした資料ですが、もしご入用でしたらお譲りします。
こちらも「差し上げる」と同様に、自分の行為にしか使えません。
目下の人に使う「やる」について
「あげる」と似た言葉に「やる」があります。「やる」は、「あげる」と同じく「与える」という意味ですが、与える相手が自分と同等か、目下の人・動物・植物などの場合に使われます。
- 弟に古着をやった。
- 犬にエサをやった。
- 花に水をやった。
目上の人に使うのは失礼にあたりますし、同僚や友人など親しい間柄でも「あげる」を使う方が一般的で丁寧な印象になります。「やる」は少しぞんざいな響きがあるので、ビジネスシーンでは基本的に使いません。
僕が「譲る」と「あげる」で混乱した体験談
僕も以前、クライアントとのやり取りで「譲る」と「あげる」の使い分けに悩んだことがあります。
あるプロジェクトで作成した資料データについて、他の部署の方からも「参考にしたいので欲しい」という依頼がありました。そのデータをメールで送る際、文面にどう書くべきか迷ったんです。
「資料データをお譲りします」だと、なんだか大げさな感じがする。「資料データを差し上げます」だと、物を与える感じでしっくりくるけど、データという無形のものを「あげる」でいいのだろうか…?と考え込んでしまいました。
結局、その時は「資料データをお送りします」という無難な表現を選びました。でも、後で調べてみると、データのような無形のものでも、相手に与える場合は「あげる」や、敬語なら「差し上げる」を使うのが一般的だと知りました。「譲る」だと、やはり「権利」や「所有権」を渡すような重いニュアンスが出てしまうんですね。
この経験から、言葉の基本的な意味だけでなく、それが指し示す対象(有形か無形か)や、行為の「重さ」も考慮して使い分ける必要があると学びました。特に敬語を使う場面では、相手に失礼がないよう、より慎重な言葉選びが大切だと実感しましたね。
「譲る」と「あげる」に関するよくある質問
ここでは、「譲る」と「あげる」に関するよくある疑問について、Q&A形式でお答えします。
Q1: 目上の人に「〇〇してあげます」と言うのは失礼ですか?
A1: はい、基本的に失礼にあたります。「~てあげる」は、相手への行為を表しますが、やや恩着せがましいニュアンスがあり、敬意も低いため、目上の人には使いません。代わりに「~て差し上げます」(謙譲語)を使うか、「お手伝いしましょうか?」「私がいたします」のように別の表現を使いましょう。
Q2: 「席を譲ってください」とお願いするのは失礼ですか?
A2: 状況によりますが、直接的に「譲ってください」と言うのは、相手に強制するような印象を与えかねません。特に見知らぬ相手には、「恐れ入りますが、こちらの席をお譲りいただけないでしょうか?」のように、依頼・疑問形にするのが丁寧です。相手への配慮を示すことが大切ですね。
Q3: 「譲り受ける」と「もらう」の違いは何ですか?
A3: 「譲り受ける」は、「譲る」の受け身で、物や権利、地位などを正式に受け取る、引き継ぐという意味合いが強いです。「もらう」は、広く物を受け取る一般的な表現です。例えば、「家宝を譲り受ける」とは言いますが、「家宝をもらう」と言うと少し軽い印象になりますね。
「譲る」と「あげる」の違いのまとめ
「譲る」と「あげる」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は対象とニュアンス:「譲る」は物・権利・地位・順番などを相手に渡す、または相手を優先するニュアンス。「あげる」は広く物を相手に与える一般的な行為。
- 敬語の使い分け:「あげる」の謙譲語は「差し上げる」、「譲る」の謙譲語は「お譲りする」。どちらも自分の行為に使う。
- 「やる」との違い:「やる」は同等以下の相手(人、動物、植物)に与える場合に使い、目上の人には使わない。
- 迷ったら「譲る」のニュアンスを確認:「権利移転」「順番交代」「相手優先」といった「譲る」特有のニュアンスがあるか考えると判断しやすい。
言葉の持つ微妙なニュアンスを理解することで、相手や状況に合わせた適切な表現ができるようになりますね。特に敬語は、相手への敬意を示す大切なツールです。
これから自信を持って、「譲る」と「あげる」、そして「差し上げる」「お譲りする」を使い分けていきましょう。敬語の使い分けについてさらに知りたい方は、敬語関連の言葉の違いをまとめたページもぜひご覧ください。