「存じます」と「思います」の違いとは?敬語の使い分けを解説

「その件については、私も良いと思います」「その件については、私も良いと存じます」

ビジネスシーンなどで自分の意見や考えを述べるとき、「思います」と「存じます」、どちらを使うべきか迷った経験はありませんか?

どちらも「思う」という意味ですが、相手への敬意の示し方に違いがあります。実はこの二つ、相手への敬意の度合いと、敬語の種類(丁寧語か謙譲語Ⅱ/丁重語か)で使い分けるのがポイントなんです。

この記事を読めば、「存じます」と「思います」それぞれの意味と敬語としての役割、具体的な使い分けの場面、よくある誤用例まで、スッキリと理解できます。もう迷わず、状況や相手に応じて適切な言葉を選び、スマートに自分の考えを伝えられるようになりますよ。

それでは、まず最も重要な違いから詳しく見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「存じます」と「思います」の最も重要な違い

【要点】

「思います」は「思う」の丁寧語で、広く一般的に使われます。「存じます」は「思う」の謙譲語Ⅱ(丁重語)で、聞き手に対して自分の考えを丁重に述べる際に使い、より改まった表現です。

まず結論から。「存じます」と「思います」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。この点を押さえるだけで、基本的な使い分けはできるようになるでしょう。

項目 存じます(ぞんじます) 思います(おもいます)
元の動詞 存じる(思う・知るの謙譲語) 思う
敬語の種類 謙譲語Ⅱ(丁重語) 丁寧語
意味 思う、考える、知っている(自分の考えや知識を聞き手に対し丁重に述べる) 思う、考える(自分の考えを丁寧に述べる)
敬意の対象 話の聞き手 話の聞き手
丁寧さの度合い 高い(改まった表現) 普通(一般的な丁寧表現)
主な場面 目上の人、取引先、顧客など、敬意を払うべき相手。かしこまった場面。 同僚、部下、親しい間柄の相手。比較的幅広く使える。

一番の違いは、敬語の種類と丁寧さの度合いですね。

「思います」は「思う」に丁寧語の助動詞「ます」がついた形で、日常会話からビジネスシーンまで幅広く使える一般的な丁寧表現です。

一方、「存じます」は「思う」の謙譲語である「存じる」に「ます」がついた形です。ここで言う謙譲語は、自分の考えを聞き手に対してへりくだって丁重に述べる「謙譲語Ⅱ(丁重語)」に分類されます(詳しくは後述します)。そのため、「思います」よりも格段に丁寧さが増し、改まった印象を与えます。

したがって、話す相手や状況に応じて使い分ける必要があります。目上の人や取引先に対しては「存じます」、同僚や部下、あるいは自分の考えをストレートに伝えたい場面では「思います」を使うのが基本となります。

なぜ違う?言葉の成り立ちからイメージを掴む

【要点】

「存」は心にとどめておくこと、「思う」は心で感じ考えることを意味します。「存じます」は心に持っている考えを相手に差し出すような謙譲のニュアンス、「思います」は自分の考えを直接的に述べるニュアンスが、言葉の成り立ちから感じられます。

「存じます」と「思います」のニュアンスの違いは、それぞれの言葉の核となる漢字の意味を探ることで、よりイメージしやすくなりますよ。

「存じます」の成り立ち:「存」の意味

「存じます」の「存」という漢字は、「才(草の芽が出る形)」と「子(こども)」から成り立っています。子ども(子)の存在や生命力(才)を表し、「そこにある」「生きている」というのが元々の意味です。そこから、「心にとどめておく」「なくならないように保つ」という意味が生まれ、「知っている」や「考える」という意味でも使われるようになりました。「存在」「保存」「ご存じ」といった言葉がありますね。

「存じる」は、この「心にとどめておく、考える」という意味を、相手に対してへりくだって表現する言葉です。自分の心の中にある考え(存)を、相手に差し出すような、一歩引いた謙譲の姿勢が感じられます。だからこそ、丁寧で改まった印象を与えるのでしょう。

「思います」の成り立ち:「思う」の意味

「思う」という言葉は、古くは「おもふ」と書かれ、その語源には諸説ありますが、「面(おも)」「向ふ(ふ)」、つまり顔(面)がそちらに向くことから、心が対象に向かうことを意味するとも言われています。

心の中で感じたり、考えたり、判断したりする精神作用全般を表す、非常に基本的な言葉ですね。「思い」という言葉が示すように、感情的な側面も含まれます。

「思います」は、この自分の心の中で自然に生じた考えや感情を、そのまま相手に伝えるという直接的なニュアンスがあります。「存じます」のようなへりくだった姿勢というよりは、自分の考えをストレートに、しかし丁寧に述べるイメージですね。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

上司や取引先への意見表明は「~と存じます」。同僚との意見交換や自分の感想は「~と思います」。相手への質問で「~とお存じですか?」は誤り。「~とお思いですか?」または「~をご存じですか?」を使います。

言葉の違いは、具体的な使い方を例文で確認するのが一番分かりやすいですね。ビジネスシーン、日常会話、そして避けるべきNG例を見ていきましょう。

ビジネスシーンでの使い分け

相手との関係性(上司、同僚、部下、取引先など)や、場面のフォーマルさが使い分けのポイントです。

【OK例文:存じます】(目上の人、取引先、改まった場面)

  • この計画については、再検討が必要であると存じます。(上司への意見具申)
  • 御社のご提案は、大変魅力的であると存じます。(取引先への評価)
  • 会議での決定事項は、関係部署に速やかに共有すべきと存じます。(フォーマルな場での意見)
  • ご多忙とは存じますが、何卒よろしくお願い申し上げます。(定型的な丁寧表現)
  • 恐れ入りますが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか。(「知る」の謙譲語「存じる」を使った丁寧な依頼 ※この意味では「思います」は使えない)

【OK例文:思います】(同僚、部下、比較的フラットな場面、自分の感想など)

  • この進め方で問題ないと思いますが、いかがでしょうか。(同僚との相談)
  • A案の方が、より効果的だと思います。(自分の意見を明確に伝えたい時)
  • 今回の研修は、非常に有意義だったと思います。(個人の感想)
  • 彼はもう少し経験を積む必要があると思います。(部下に対する評価)

目上の人に対して常に「存じます」を使うべき、というわけではありません。自分の意見をはっきり伝えたい場合や、議論を活発にしたい場面などでは、あえて「思います」を使うことも効果的です。「存じます」を使いすぎると、かえって慇懃無礼に聞こえたり、自分の意見に自信がないように聞こえたりする可能性もあります。

日常会話での使い分け

日常会話では、「思います」を使うのが一般的です。「存じます」を使うと、非常に丁寧ですが、少し堅苦しく、他人行儀に聞こえるかもしれません。

【OK例文:存じます】(非常に丁寧な場面、特別な敬意を示す相手)

  • 先生のお考えは、素晴らしいと存じます。(恩師など、敬意を払う相手に)
  • 結構なものを頂戴し、大変ありがたく存じます。(目上の人から贈り物をもらった際など)

【OK例文:思います】(一般的な場面)

  • 明日は晴れると思いますよ。
  • この映画、すごく面白いと思います
  • 彼の言っていることは正しいと思います

親しい友人や家族に対して「存じます」を使うことは、まずないでしょう。

これはNG!間違えやすい使い方

敬語の使い方の基本を間違えると、失礼にあたる可能性があります。

  • 【NG】部長は、この件についてどうお存じですか?
  • 【OK】部長は、この件についてどうお思いですか?/部長は、この件についてご存じですか?

「存じる」は謙譲語(自分側の動作)なので、相手(部長)の動作に使うことはできません。相手の考えを尋ねる場合は、「思う」の尊敬語「お思いになる」を使います。また、「知っている」の意味で尋ねるなら、「知る」の尊敬語「ご存じ」を使います。

  • 【NG】(自分の考えを述べる際に)当然のことと存じますが、…
  • 【OK】(自分の考えを述べる際に)当然のことと思いますが、…/当然のことですが、…

「存じます」は謙譲語であり、自分の考えをへりくだって述べる言葉です。「当然のこと」のように、ある種断定的な内容に対して使うと、謙譲の意が薄れ、不自然な響きになることがあります。この場合は「思います」を使うか、「当然のことですが」のように言い切る方が自然です。

  • 【NG】(同僚に対して、軽い意見交換で)僕もそう存じます
  • 【OK】(同僚に対して、軽い意見交換で)僕もそう思います

同僚との比較的カジュアルな会話で「存じます」を使うと、過剰に丁寧で、かえって壁を作ってしまう可能性があります。相手との関係性に合わせて「思います」を使いましょう。

【応用編】似ている言葉「考えます」「所存です」との違いは?

【要点】

「考えます」は思考プロセスに、「思います」は思考の結果や感情に、「存じます」は聞き手への丁重さに焦点があります。「所存です」は「~するつもりです」という意志を改まって表明する謙譲語です。

自分の思考や意向を表す言葉は、「思います」「存じます」以外にもあります。似た表現との使い分けも確認しておきましょう。

「考えます」との違い

「考えます」は、「思う」と同様に思考を表しますが、より論理的・客観的な思考プロセスや結論を示すニュアンスがあります。「思います」が感情や直感を含むこともあるのに対し、「考えます」はより理性的な判断を伝える場面に適しています。

  • 思います:良いアイデアだと思います。(感想・直感を含む)
  • 考えます:いくつかの案を比較検討し、B案が最適だと考えます。(論理的判断)
  • 存じます:本件については、再考の必要があると存じます。(聞き手への丁重な意見表明)

丁寧さの度合いは「考えます < 思います < 存じます」となります。(「考えます」も「思います」も丁寧語)

「所存です(しょぞんです)」との違い

「所存です」は、「~するつもりです」「~と考えております」という自分の意志や意向を、改まって丁寧に表明する際に使う謙譲語Ⅱ(丁重語)です。「思う内容」そのものよりも、「~するつもりだ」という未来への意志を伝えることに重点があります。

  • 存じます:貴社のお役に立てれば幸いと存じます。(現在の考え・希望)
  • 所存です:今後とも、貴社のお役に立てるよう尽力していく所存です。(未来への意志・決意)

「存じます」が現在の考えを丁重に述べるのに対し、「所存です」は今後の行動への決意を丁重に述べる、という違いがあります。

「存じます」と「思います」の違いを敬語の種類から解説

【要点】

「思います」は丁寧語で、聞き手への一般的な敬意を示します。「存じます」は謙譲語Ⅱ(丁重語)で、自分の考えを聞き手に対してへりくだって丁重に述べることで、より高い敬意を示します。動作が向かう相手を高める謙譲語Ⅰとは異なります。

「結論」でも触れましたが、「存じます」と「思います」の使い分けを理解する上で、敬語の種類、特に「謙譲語Ⅱ(丁重語)」の概念が鍵となります。文化庁の『敬語の指針』に基づき、もう少し詳しく見ていきましょう。

敬語の基本:尊敬語・謙譲語・丁寧語

敬語は、相手や話題の人物への敬意を示すために言葉遣いを変化させるもので、基本的には以下の3種類(または5種類)に分類されます。

  • 尊敬語:相手側の動作・状態などを高めて敬意を表す。(例:いらっしゃる、召し上がる)
  • 謙譲語:自分側の動作などをへりくだって、相手や聞き手への敬意を表す。(例:申し上げる、拝見する)
  • 丁寧語:言葉遣いを丁寧にして聞き手への敬意を表す。(例:です、ます、ございます)

謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱ(丁重語)の違い

『敬語の指針』では、謙譲語をさらに二つに分類しています。

  • 謙譲語Ⅰ:自分側の動作が向かう先の相手を高める。(例:「先生に申し上げる」→先生を高める)
  • 謙譲語Ⅱ(丁重語):自分側の動作を、話の聞き手に対して丁重に述べる。(例:「私が申します」→聞き手に対して丁重に言う)

謙譲語Ⅰは動作の対象(先生)への敬意、謙譲語Ⅱは聞き手への敬意を表す、という違いがあります。

「存じます」は謙譲語Ⅱ(丁重語)

この分類で考えると、「思います」と「存じます」は以下のように整理できます。

  • 「思います」:「思う」+丁寧語の助動詞「ます」。分類としては丁寧語です。聞き手に対して、自分の考えを丁寧に伝えます。
  • 「存じます」:「思う(知る)」の謙譲語「存じる」+丁寧語の助動詞「ます」。この「存じる」は、自分の考えや知識を聞き手に対して丁重に述べる謙譲語Ⅱ(丁重語)です。

「存じます」を使うことで、自分の考えをへりくだり、聞き手に対する敬意をより高く示すことができるわけですね。動作が向かう先の相手(例えば、意見の対象となる計画など)を高めているわけではない、という点がポイントです。

この敬語の分類を理解することで、「思います」と「存じます」のどちらがより適切か、場面に応じて判断しやすくなるはずです。

僕が「存じます」を多用して、距離を作ってしまった新人時代

敬語って、使えば使うほど丁寧になる、というものでもないんですよね…。僕も新人時代、とにかく丁寧に話そうと意識するあまり、「存じます」を使いすぎて失敗したことがあります。

初めて上司と取引先に同行訪問した時のこと。僕はガチガチに緊張していました。失礼があってはいけない、とにかく丁寧な言葉遣いをしなければ、とそればかり考えていました。

打ち合わせの中で、先方が僕にも意見を求めてくださる場面がありました。僕は練習していた通り、そして最大限の敬意を払うつもりで、こう答えました。

「はい、その点につきましては、私個人といたしましては、A案が良いのではないかと存じます。理由といたしましては…と存じます。従いまして、B案よりはA案を推奨したいと存じます。」

…今思い返すと、赤面モノです。「存じます」を連発しすぎですよね。しかも、まだ新人ペーペーの意見です。

その場は特に何も指摘されませんでしたが、帰り道、上司からやんわりと注意を受けました。

「さっきの意見、内容は良かったけど、ちょっと『存じます』が多すぎたかな。丁寧なのはいいけど、ああ連発されると、かえって慇懃無礼に聞こえたり、自分の意見に自信がないように聞こえたりすることもあるんだよ。特に自分の考えをしっかり伝えたいときは、『~と思います』の方がストレートに伝わることもある。場面によって使い分けるのが大事だよ」と。

上司の言葉に、僕はハッとしました。丁寧さを意識するあまり、言葉の持つ本来のニュアンスや、相手に与える印象まで考えが及んでいなかったのです。「存じます」は確かに丁寧ですが、使いすぎると相手との間に壁を作ってしまう、あるいは自分の意志が弱く見えてしまう可能性があるのだと気づきました。

敬語は、単なる丁寧さの表現ではなく、相手との適切な距離感を築くためのツールでもある。この経験を通して、TPOに応じた言葉選びの重要性を痛感しました。それ以来、相手や場面に合わせて「思います」と「存じます」を意識して使い分けるように心がけています。

「存じます」と「思います」に関するよくある質問

Q1: 「~と存じ上げます」という表現は正しいですか?

A1: 「存じ上げる」は「知っている」の謙譲語Ⅰで、知っている対象(人など)を高める言葉です(例:「先生のお名前はかねてより存じ上げております」)。「思う」の意味で「~と存じ上げます」と言うのは誤りです。自分の考えを述べる場合は「~と存じます」を使いましょう。

Q2: 「~かと存じます」と断定を避ける言い方は、自信がないように聞こえませんか?

A2: 「~かと存じます」は、自分の意見を断定せずに、可能性の一つとして控えめに提示する表現です。確かに、場面によってはやや自信なさげに聞こえる可能性もあります。しかし、目上の人に対して意見具申をする際など、相手への配慮を示すために、あえて断定を避ける場合に使われることも多い、有効な敬語表現の一つです。状況に応じて、「~と存じます」と使い分けると良いでしょう。

Q3: 目上の人に「どう思いますか?」と聞くのは失礼ですか?

A3: 「思いますか?」は丁寧語ですが、相手によっては少し直接的すぎると感じられる可能性があります。より丁寧に尋ねる場合は、「思う」の尊敬語「お思いになる」を使って「どのようにお思いになりますか?」や、「考える」の尊敬語「お考えになる」を使って「どのようにお考えでしょうか?」、あるいは単に「いかがでしょうか?」と尋ねるのがより適切でしょう。

「存じます」と「思います」の違いのまとめ

「存じます」と「思います」、それぞれの言葉が持つ敬意の度合いやニュアンス、そして使い分けについて、深くご理解いただけたでしょうか?

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 敬語の種類が違う:「存じます」は謙譲語Ⅱ(丁重語)、「思います」は丁寧語。
  2. 丁寧さの度合い:「存じます」の方が「思います」より格段に丁寧で改まった表現。
  3. 使い分けの基本:相手(目上か同僚か等)や場面(フォーマルかカジュアルか)に応じて使い分ける。
  4. 「存じます」は聞き手への敬意:自分の考えをへりくだって丁重に述べることで、聞き手への敬意を示す。
  5. 多用は注意:「存じます」の使いすぎは、慇懃無礼や自信のなさに見える可能性も。時には「思います」でストレートに伝えることも大切。

敬語は、相手への敬意を示すための大切な言葉ですが、形だけにとらわれず、その言葉が持つニュアンスや相手に与える印象まで考えて使うことが、真のコミュニケーション能力と言えるでしょう。

「存じます」と「思います」を適切に使い分けることで、あなたの考えがよりスムーズに、そして好意的に相手に伝わるはずです。敬語の使い分けについて、さらに他の言葉も知りたい場合は、敬語の違いをまとめたページもぜひ参考にしてみてくださいね。