「employ」と「hire」。
どちらも日本語では「雇う」と訳されることが多いですが、英語では明確なニュアンスの違いがあります。あなたは自信を持って使い分けられていますか?
「新しいスタッフを雇った」と言うとき、どちらを使うのが自然でしょう? 会社が多くの従業員を「雇用している」状態は? 実は、「採用するという一時的な行為」なのか、「継続的な雇用関係」なのかが、使い分けの大きなポイントなんです。
この記事を読めば、「employ」と「hire」の語源的な違いから、それぞれの持つ核心的なイメージ、具体的な使い分け、さらにはネイティブスピーカーの感覚まで、もう迷うことなくスッキリ理解できます。ビジネスシーンでの英語コミュニケーションが、よりスムーズで正確になりますよ。
それではまず、この二つの単語の最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「employ」と「hire」の最も重要な違い
基本的には、「hire」は人を「採用する」という一時的な行為や、短期的に人や物を借りることを指します。一方、「employ」は、採用後の「継続的な雇用関係」や、人が会社で「働いている状態」、さらには物やスキルを「使う」ことを指します。
まず、結論からお伝えしますね。
「employ」と「hire」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。基本はこれを押さえておけば大丈夫です。
| 項目 | employ | hire |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | (人を)雇っている、雇用する、(物・能力を)使う | (人を一時的に)雇う、採用する、(物を短期間)借りる |
| 焦点 | 継続的な雇用関係、働いている状態、スキルの活用 | 採用する行為、一時的な契約(人・物) |
| 期間のニュアンス | 長期的、継続的 | 一時的、短期的、採用時点 |
| 対象 | 従業員(employee)、スキル、時間、方法など | 新しい従業員、コンサルタント、タクシー、道具など |
| 関係性 | 雇用主 (employer) と従業員 (employee) の関係性 | 採用する側とされる側、借りる側と貸す側の契約行為 |
| 日本語の感覚 | 「雇用している」「(道具などを)用いる」 | 「採用する」「(一時的に)雇う」「借りる」 |
人を会社に入れる「瞬間」や「短期契約」ならhire、入社後ずっと「働いてもらっている状態」ならemploy、とイメージすると分かりやすいですね。また、「hire」はタクシーや道具などを短期間「借りる」という意味でも使われるのが特徴です。
なぜ違う?言葉の成り立ちからイメージを掴む
「employ」はラテン語の「絡ませる、関係させる」が語源で、人と仕事を結びつける継続的な関係を示します。「hire」は古英語の「賃金を払って使う」が語源で、報酬と引き換えに一時的に労働力や物を借りる行為を示します。
この二つの言葉が似ているようで異なるニュアンスを持つ背景には、それぞれの語源が関わっています。
「employ」の成り立ち:「(能力などを)使う、関係させる」イメージ
「employ」の語源は、ラテン語の「implicare」に遡ります。これは「in-(中に)」と「plicare(折り畳む、絡ませる)」が合わさった言葉で、「巻き込む、関係させる、関与させる」といった意味合いを持っていました。
これがフランス語を経て英語に入り、「(人の能力や時間を)特定の目的のために使う」「従事させる」という意味で使われるようになりました。
この「使う」「関係させる」というニュアンスから、単に採用する行為だけでなく、雇用主と従業員が継続的に関わり合い、従業員のスキルや労働力が「使われている」状態、つまり長期的な雇用関係を示す言葉として定着したと考えられます。
「hire」の成り立ち:「報酬を払って借りる」イメージ
一方、「hire」の語源は、古英語の「hȳrian」にあります。これは「賃金を払って使う、雇う」という意味の言葉でした。
ここには、「報酬(賃金)を支払うこと」と引き換えに、「一定期間、労働力やサービス、あるいは物を利用する権利を得る」という契約的な、やや一時的なニュアンスが含まれています。
このため、「hire」は、人を新しくチームに迎え入れる「採用する」という最初の行為や、コンサルタントのような専門家を特定のプロジェクトのために「一時的に雇う」、さらにはタクシーやドレスなどを「(お金を払って短期間)借りる」といった意味で使われるようになったのです。
語源を比べると、「employ」が継続的な関係性に、「hire」が一時的な契約行為に、それぞれ重きを置いていることが見えてきますね。
具体的な例文で使い方をマスターする
「Our company employs 100 people.」のように継続雇用は「employ」。「We hired three new staff last month.」のように採用行為は「hire」。「hire a car」のように物を借りるのも「hire」です。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
それぞれの単語がどのような文脈で使われるかを見ていきましょう。
「employ」の使い方(継続的な雇用関係)
主に、人が会社などに継続的に雇われている状態や、物事が使われている状況を表します。
- Our company employs over 500 people worldwide. (当社は世界中で500人以上を雇用しています。)
- She has been employed by the firm for ten years. (彼女はその会社に10年間勤めています。)
- The factory employs advanced technology in its production line. (その工場は生産ラインに先進技術を用いています。)
- We need to employ effective strategies to achieve our goals. (目標達成のためには効果的な戦略を用いる必要がある。)
- How do you employ your free time? (あなたは自由な時間をどう使いますか?)
「be employed by ~」で「~に雇われている、勤めている」という状態を表すことが多いです。また、人だけでなく、技術や戦略、時間などを「用いる」「使う」という意味でも広く使われます。
「hire」の使い方(採用する行為、短期的な雇用)
人を新しく雇い入れる行為、短期間の雇用、あるいは物(車、道具、衣装など)を借りる際に使います。
- We plan to hire ten new engineers next year. (来年、新たに10名のエンジニアを採用する予定です。)
- They hired a consultant for the project. (彼らはそのプロジェクトのためにコンサルタントを(一時的に)雇った。)
- Did you hire him? – Yes, he starts next Monday. (彼を採用しましたか? – はい、来週月曜から勤務開始です。)
- Let’s hire a car for the weekend trip. (週末の旅行のために車を借りよう。)
- You can hire tools from the local hardware store. (地元の金物店で道具を借りることができます。)
「人を雇う」という意味では、特に採用プロセスや入社の時点に焦点が当たることが多いです。物を「借りる」意味では、イギリス英語で特によく使われます(アメリカ英語では “rent” がより一般的ですが、”hire” も使われます)。
これはNG!間違えやすい使い方
期間のニュアンスを取り違えると、不自然な響きになることがあります。
- 【NG】 My father has been hired by Sony for 20 years. (私の父はソニーに20年間採用され続けています。)→ 【◎】 My father has been employed by Sony for 20 years. (私の父はソニーに20年間勤めています。)
20年間という長期にわたる継続的な雇用関係を表すので、employ が適切です。「hire」は採用の瞬間や短期雇用を指すため、この文脈では不自然です。
- 【NG】 We decided to employ a taxi to get to the airport. (私たちは空港へ行くのにタクシーを雇用することにした。)→ 【◎】 We decided to hire a taxi to get to the airport. (私たちは空港へ行くのにタクシーを拾う/借りることにした。)
タクシーは一時的に利用するものなので、hire(または take, get)を使います。「employ」を使うと、タクシー運転手と長期的な雇用契約を結ぶかのような、奇妙な意味合いになってしまいます。
継続性があるか、一時的なものか、という点が大きな判断基準になりますね。
英語ネイティブはどう使い分ける?感覚的な違い
ネイティブは、「employ」を雇用主と従業員の間のよりフォーマルで安定した関係性、「hire」を採用というイベントや、必要に応じて外部の人や物を一時的に利用する、よりカジュアルで取引的な感覚で捉えています。
英語ネイティブスピーカーは、「employ」と「hire」をどのように感覚的に使い分けているのでしょうか?
彼らにとって「employ」は、よりフォーマルで、安定した、継続的な雇用関係を想起させる言葉のようです。”employer”(雇用主)と “employee”(従業員)という言葉にも繋がるように、単なる労働力の提供だけでなく、会社組織の一員として貢献している、というニュアンスが含まれます。また、技術や方法を「用いる」という意味合いも強く意識されています。
一方、「hire」は、もっとシンプルに「採用する」という行為そのものや、必要に応じて外部から労働力や物を調達する、やや取引的な感覚が強いようです。採用面接の結果、「We decided to hire you.(あなたを採用することに決めました)」と言うのは自然ですが、「We decided to employ you.」と言うと少し硬く、やや古風に聞こえるかもしれません。また、フリーランサーやコンサルタントなど、特定のタスクのために一時的に協力を得る場合や、車や道具を借りる場合にも気軽に使われます。
大まかに言えば、「employ」は関係性に、「hire」は行為や取引に焦点が当たっている、と感じているようです。ただし、文脈によってはどちらを使っても意味が通じる場面も少なくありません。
履歴書で赤面!「hire」を使うべき場面で「employ」と書いた体験談
僕も以前、英語の履歴書(Resume)を作成していた時に、この二つの単語の使い分けで恥ずかしい失敗をしたことがあります。
職務経歴のセクションで、過去にプロジェクトベースで契約していたフリーランスのデザイナーについて説明する必要がありました。チームに新しいデザイナーが必要になり、数ヶ月間の特定のプロジェクトのために外部から採用した、という状況です。
当時の僕は、「雇ったんだから employ だろう」と単純に考え、”Employed a freelance designer for the new product launch project.” と書いてしまったんです。継続的な雇用ではないのに…。
その履歴書をネイティブの友人にチェックしてもらったところ、真っ先に指摘されたのがその部分でした。「プロジェクトのために一時的に雇ったなら、”Hired a freelance designer” の方が自然だよ。”Employed” だと、まるで正社員として長期間雇っていたみたいに聞こえる可能性があるからね」と。
言われてみればその通りで、顔が赤くなるのを感じました。日本語の「雇う」という一つの言葉に引きずられて、英語の持つ「継続性」と「一時性」のニュアンスの違いを全く考慮できていなかったのです。
特に履歴書のようなフォーマルな文書では、言葉の選び方一つで与える印象が大きく変わってしまいます。この経験を通じて、単語の意味だけでなく、それが使われる期間や状況のニュアンスまでしっかり理解することの重要性を痛感しました。それ以来、「employ」と「hire」を使う前には、必ず「これは長期的な関係か? それとも一時的な契約か?」と一呼吸置いて考えるようになりました。
「employ」と「hire」に関するよくある質問
Q1: アルバイトやパートタイムの雇用はどちらを使いますか?
A1: どちらも使えますが、ニュアンスが異なります。新しくアルバイトを「採用する」行為を指す場合は「hire a part-time worker」が一般的です。一方、その人がアルバイトとして「働いている状態」を指す場合は「be employed part-time」や「work part-time」のように表現することが多いです。「Our shop employs several part-time students.」のように、継続的に雇用している状態を示すなら employ も使えます。
Q2: 契約社員の場合はどうですか?
A2: これも同様です。契約社員を「採用する」時点では「hire someone on a contract basis」と言えます。契約期間中「雇用されている」状態を表すなら「be employed on a contract basis」となります。「継続的な雇用関係」ではあるものの、期間が限定されているため、文脈によっては hire のニュアンスが残ることもあります。
Q3: “rent” と “hire” の違いは何ですか?(物を借りる場合)
A3: 物を借りる場合、「hire」はイギリス英語で、「rent」はアメリカ英語でより一般的に使われます。ただし、アメリカ英語でもフォーマルな場面や特定の物(例:hire a hall ホールを借りる)では hire が使われることもあります。期間としては、hire は比較的短期、rent は短期から長期まで幅広く使われる傾向があります。
「employ」と「hire」の違いのまとめ
「employ」と「hire」の違い、これで使い分けに自信が持てたでしょうか?
最後に、この記事のポイントをまとめておきましょう。
- 核心イメージ:employ は継続的な雇用関係・使う、hire は採用行為・一時的な雇用・借りる。
- 焦点:employ は関係性・状態、hire は行為・契約。
- 期間:employ は長期的、hire は一時的または採用時点。
- 語源:employ は「関係させる」、hire は「賃金を払って使う」。
- 物のレンタル:「物を借りる」意味で使えるのは hire のみ(主にイギリス英語)。
この二つの単語は、特にビジネスシーンでのコミュニケーションにおいて頻繁に登場します。それぞれのニュアンスをしっかり理解し、文脈に合わせて的確に使い分けることで、よりスムーズで誤解のないやり取りが可能になりますね。
言葉の使い分けって、知れば知るほど面白いですよね。もし他のカタカナ語や外来語の使い分けにも興味があれば、カタカナ語・外来語の違いまとめページも、ぜひ参考にしてみてください!