「コンサルティング」と「コンサルタント」、どちらもビジネスシーンで当たり前のように使われる言葉ですよね。
「コンサルタントに依頼する」や「コンサルティングファーム」など、耳にする機会は多いですが、いざ「この二つの違いを説明して」と言われると、明確に答えるのは難しいかもしれません。
実はこの二つの言葉、「専門的なアドバイスをする行為(サービス)」なのか、「その行為を行う人(専門家)」なのかという、決定的な違いがあるんです。
この記事を読めば、「コンサルティング」と「コンサルタント」それぞれの意味や語源、具体的な使い分け、さらには「コンサル」という略語がどちらを指すのかまでスッキリ理解できます。もうビジネスシーンで迷うことはありません。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「コンサルティング」と「コンサルタント」の最も重要な違い
基本的には、企業などの課題解決のための助言や指導を行う「行為・サービス」が「コンサルティング」、その行為を行う「人・専門家」が「コンサルタント」です。「コンサルティング」が「何をするか(What)」、「コンサルタント」が「誰がするか(Who)」を示します。
まず、結論からお伝えしますね。
「コンサルティング」と「コンサルタント」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | コンサルティング (Consulting) | コンサルタント (Consultant) |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | (専門家による)助言、指導、相談、課題解決の行為・サービス | 助言、指導、相談、課題解決を行う人・専門家 |
| 品詞(英語) | 名詞(動名詞・現在分詞)、形容詞 | 名詞 |
| 役割 | 「何」を提供するのか(例:戦略コンサルティング) | 「誰」が提供するのか(例:戦略コンサルタント) |
| 例 | ・経営コンサルティングを受ける ・ITコンサルティング会社 |
・優秀なコンサルタント ・コンサルタントに相談する |
| 略語「コンサル」 | 文脈によりどちらも指す(例:「コンサル業界」) | 文脈によりどちらも指す(例:「あのコンサル」) |
一番大切なポイントは、「コンサルティング」が「こと(行為)」を指し、「コンサルタント」が「ひと(人)」を指す、という点です。
「コンサルタント」が「コンサルティング」というサービスを提供することで報酬を得る、という関係性ですね。
なぜ違う?言葉の成り立ち(語源)からイメージを掴む
どちらも「consult(相談する)」という動詞が語源です。「consult」に「-ing(~すること)」が付けば「コンサルティング(相談する行為)」に、「-ant(~する人)」が付けば「コンサルタント(相談する人)」となり、語尾によって役割の違いが明確に示されています。
この二つの言葉がなぜ「行為」と「人」という違いを持つのか、それぞれの言葉の成り立ちを探ると、その理由は非常に明快ですよ。
「コンサルティング」の成り立ち:「相談すること」(行為・サービス)
「コンサルティング(consulting)」は、英語の動詞「consult(コンサルト)」の現在分詞または動名詞です。
「consult」の語源は、ラテン語の「consultare(コンスルターレ)」で、「共に(con-)」「熟慮する、相談する」といった意味合いを持ちます。
これに、動作や行為を表す「-ing」が付くことで、「相談すること」「助言すること」という、専門的なアドバイスの「行為」そのものや、「サービス」を指す名詞として使われるようになりました。
「コンサルタント」の成り立ち:「相談する人」(専門家)
一方、「コンサルタント(consultant)」も、同じく動詞「consult」から派生した言葉です。
「consult」に、「~する人」「~するもの」といった行為者を表す接尾辞「-ant」が付いています。(「assistant(アシスタント)」や「participant(参加者)」の「-ant」と同じですね)
つまり、「consultant」は文字通り「相談に応じる人」「助言する人」、すなわち「専門家」を指す名詞なのです。
具体的な例文で使い方をマスターする
「コンサルティング(サービス)を依頼する」とは言いますが、「コンサルタント(人)を依頼する」とはあまり言いません(「コンサルタントに依頼する」ならOK)。「優秀なコンサルタント(人)だ」とは言いますが、「優秀なコンサルティングだ」は不自然です(「素晴らしいコンサルティングだ」ならOK)。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。特にビジネスシーンでの使い方、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
「行為」なのか「人」なのかを意識すれば、間違えることはありません。
【OK例文:コンサルティング】(行為・サービス)
- 来期に向けて、外部に経営コンサルティングを依頼することを決定した。
- A社は、DX推進のためのITコンサルティングで高い実績を持っている。
- コンサルティングファームへの就職を目指している。
- このプロジェクトでは、人事制度のコンサルティングが中心となる。
「経営」や「IT」といった分野と結びつき、「〜コンサルティング」というサービス名として使われることが多いですね。
【OK例文:コンサルタント】(人・専門家)
- 昨日お会いしたコンサルタントは、業界知識が非常に豊富だった。
- 優秀なコンサルタントを確保することが、プロジェクト成功の鍵だ。
- フリーランスのコンサルタントとして独立した。
- 何か問題があれば、すぐに担当のコンサルタントにご相談ください。
「優秀な」「担当の」といった言葉が付くことからも、「人」を指していることが明確にわかります。
これはNG!間違えやすい使い方
「行為」と「人」を取り違えると、不自然な日本語になってしまいます。
- 【NG】 新しいプロジェクトのために、外部からコンサルティングを雇った。
- 【OK】 新しいプロジェクトのために、外部からコンサルタントを雇った。
- 【OK】 新しいプロジェクトのために、外部のコンサルティング(サービス)を利用した。
「雇う」対象は「人」なので、「コンサルタント」が適切です。「コンサルティング」という「行為」を雇うことはできませんね。
- 【NG】 彼は非常に優秀なコンサルティングだ。
- 【OK】 彼は非常に優秀なコンサルタントだ。
「彼」という人物を評価しているので、「コンサルタント」を使います。「優秀なコンサルティング」と言うと、「彼が提供した助言(行為)が優秀だった」という意味にはなりますが、「彼=コンサルティング」とは言えません。
- 【NG】 私は将来、コンサルティングになりたい。
- 【OK】 私は将来、コンサルタントになりたい。
「なりたい」のは「職業」や「人」なので、「コンサルタント」ですね。「コンサルティング(行為)になりたい」では意味が通りません。
【応用編】似ている言葉「マーケティング」と「マーケター」の違いは?
「コンサルティング」と「コンサルタント」の関係は、「マーケティング(Marketing)」と「マーケター(Marketer)」の関係と同じです。「マーケティング」が市場活動という「行為」を指すのに対し、「マーケター」はその活動を行う「専門家(人)」を指します。
「コンサルティング(-ing)」と「コンサルタント(-ant)」の関係は、英語の他の多くの言葉にも当てはまります。
非常に分かりやすい例が、「マーケティング(Marketing)」と「マーケター(Marketer)」です。
- マーケティング (Marketing):市場(Market)における活動(-ing)、つまり「市場活動」や「販売戦略」といった「行為」や「分野」を指します。
- マーケター (Marketer):市場活動を行う「人(-er)」、つまり「マーケティング専門家」を指します。
このように、「-ing」が「行為」を、「-ant」や「-er」が「人」を示すというパターンを覚えておくと、他のカタカナ語を理解する上でも非常に役立ちますね。
「コンサルティング」と「コンサルタント」の違いを専門家(経営)視点で解説
経営視点では、「コンサルティング」は外部の専門知識(リソース)を活用する経営手法・サービスそのものを指します。一方、「コンサルタント」は、そのサービスを提供する「人」という資源です。企業は「コンサルティング」というサービスを購入し、その品質は「コンサルタント」のスキルや知見に大きく依存します。したがって、経営者は「どのコンサルティング(手法)を導入するか」と同時に「どのコンサルタント(人物)に依頼するか」を評価する必要があります。
経営者や人事戦略の専門家の視点から見ると、「コンサルティング」と「コンサルタント」は、経営資源の活用において明確に区別される概念です。
「コンサルティング」は、企業が内部に持たない、あるいは不足している高度な専門知識、客観的な視点、あるいは問題解決のためのノウハウを、外部から導入するための「経営手法」または「専門サービス(役務)」として捉えられます。企業は、特定の経営課題(例:コスト削減、新規事業立案、組織改革)を解決するために、「コンサルティング」という無形のサービスを購入(契約)します。
一方、「コンサルタント」は、そのコンサルティングサービスを実際に提供する「人」という経営資源(外部リソース)です。コンサルティングというサービスの品質は、担当するコンサルタント個人のスキル、経験、分析力、コミュニケーション能力、そして倫理観に大きく左右されます。
したがって、企業がコンサルティングファームを選定する際、経営者は「どのようなコンサルティング(サービス内容や方法論)を提供してくれるか」を評価すると同時に、「どのようなコンサルタント(人物)が担当してくれるのか」を厳しく評価する必要があります。優れた「コンサルタント」による質の高い「コンサルティング」こそが、企業の課題解決と成長に寄与するのです。
僕が「コンサルティングになりたい」と言ってしまった新人時代の体験談
これは僕がまだ社会人になりたての頃、大きなプロジェクトで外部のコンサルタントの方々とご一緒した時の話です。
そのプロジェクトは非常にハードでしたが、担当のコンサルタントの方が本当に優秀で、複雑な問題を次々と整理し、的確な解決策を示していく姿に、僕はすっかり魅了されてしまいました。「なんて格好いい仕事なんだ!」と。
ある日の打ち上げの席で、その憧れのコンサルタントのAさんと話す機会がありました。僕は緊張しながらも、興奮気味に自分の思いを伝えたんです。
「Aさんの仕事ぶり、本当にすごいです!僕も、いつかAさんみたいに優秀なコンサルティングになりたいです!」
…言ってしまった後、Aさんが一瞬「ん?」と不思議そうな顔をしたのに気づきました。しかし、Aさんはすぐに笑顔になり、優しくこう言ってくれました。
「ありがとう。でも、惜しいな。『コンサルティング』は僕らがやっている『仕事(行為)』のこと。君がなりたいのは、仕事をする『人』、つまり『コンサルタント』だね。でも、気持ちは伝わったよ。ぜひ頑張って」
顔から火が出るほど恥ずかしかったですね…。憧れの人を前にして、一番基本的な言葉を間違えてしまったのですから。「なりたい」のは「人(コンサルタント)」なのに、「行為(コンサルティング)になりたい」と言ってしまったわけです。
似ているカタカナ語は、勢いで使うと本質的な意味を取り違えてしまう。この恥ずかしい経験から、言葉の定義、特に「行為」を指すのか「人」を指すのかといった基本的な違いを、日頃から意識するようになりました。あの時のAさんの優しい訂正がなければ、今でも無意識に間違った使い方をしていたかもしれません。
「コンサルティング」と「コンサルタント」に関するよくある質問
Q. 「コンサル」と略す場合、どちらの意味になりますか?
A. 文脈によります。どちらの意味でも使われます。
・「あのコンサル、優秀だね」→ 人(コンサルタント)
・「うちの会社、コンサル入れたらしいよ」→ サービス(コンサルティング)
・「コンサル業界に就職したい」→ 業界(コンサルティング業界)
・「外注コンサルに頼む」→ 人(コンサルタント)
前後の文脈から判断する必要がありますね。
Q. 「コンサルティング」はサービス業ですか?
A. はい、その通りです。専門的な知識やノウハウという無形の価値(サービス)を提供し、対価を得るため、サービス業(特に専門サービス業やBtoBサービス業)に分類されます。
Q. 「コンサルタント」の具体的な仕事内容は何ですか?
A. クライアント企業から依頼を受け、その経営上の課題や問題を分析し、専門的な知見から解決策(ソリューション)を提案・助言(コンサルティング)することです。分野によって、「戦略コンサルタント」「ITコンサルタント」「人事コンサルタント」「財務コンサルタント」など、専門領域が分かれています。
「コンサルティング」と「コンサルタント」の違いのまとめ
「コンサルティング」と「コンサルタント」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 核心的な違い:「コンサルティング」は専門的な助言という「行為・サービス」。
- 核心的な違い:「コンサルタント」はその行為を行う「人・専門家」。
- 語源:どちらも「consult(相談する)」から。-ing(~すること)と -ant(~する人)の違い。
- 使い分け:「~を依頼する」のは「コンサルティング」、「~に依頼する」「~になる」のは「コンサルタント」。
- 略語「コンサル」:文脈に応じて「行為」と「人」の両方を指すので注意。
この「行為(-ing)」と「人(-ant / -er)」の違いは、他の多くのカタカナ語にも当てはまる便利なパターンです。
ビジネスシーンで当たり前に使われる言葉だからこそ、その基本的な意味をしっかり押さえ、自信を持って正しく使い分けていきましょう。カタカナ語・外来語の使い分けについてさらに知りたい方は、カタカナ語・外来語の違いをまとめたページもぜひご覧ください。