「不法行為」と「犯罪」、どちらも何か「悪いこと」を指す言葉のようですが、その違いを正確に説明できますか?
ニュースや日常会話でも耳にする機会がありますが、「訴えられる」話と「逮捕される」話、どう関係しているのか混乱してしまうかもしれませんね。
実はこの二つ、誰に対して責任を負うのか、そしてその結果どうなるのかという点で根本的に異なります。「不法行為」は個人間の損害賠償(民事)に関わる問題であり、「犯罪」は国に対する処罰(刑事)に関わる問題なのです。
この記事を読めば、「不法行為」と「犯罪」の明確な違い、具体例、そして両者の関係性までスッキリ理解できます。もう、これらの言葉の使い方や意味合いで迷うことはありません。
それでは、まず二つの最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「不法行為」と「犯罪」の最も重要な違い
「不法行為」は民事上の問題であり、他人の権利を侵害したことによる損害賠償責任を指します。一方、「犯罪」は刑事上の問題であり、社会のルール(法律)を破ったことに対する国からの刑罰を指します。一つの行為が両方に該当することもあります。
まず、結論として「不法行為」と「犯罪」の最も重要な違いを以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な区別はバッチリです。
項目 | 不法行為(ふほうこうい) | 犯罪(はんざい) |
---|---|---|
法的根拠 | 主に民法 | 主に刑法、その他刑事罰規定のある法律 |
目的 | 被害者の損害の回復(金銭による賠償) | 行為者への制裁・処罰、社会秩序の維持 |
責任の種類 | 民事責任(損害賠償責任) | 刑事責任(懲役、罰金などの刑罰) |
誰に対する責任か | 被害者(個人・法人) | 国・社会全体 |
問題を追及する人 | 被害者(またはその代理人) | 主に検察官(国家機関) |
代表的な結果 | 損害賠償金の支払い命令 | 懲役刑、禁錮刑、罰金刑など |
故意・過失の要件 | 故意または過失によって発生 | 原則として故意が必要(過失犯は例外規定) |
一番大切なポイントは、「不法行為」は個人と個人の間のトラブル(民事)、「犯罪」は個人と国(社会)の間の問題(刑事)であるという点ですね。
例えば、誰かを殴って怪我をさせた場合、被害者から治療費などを請求されるのが「不法行為」に基づく損害賠償、警察に逮捕され裁判で罰を受けるのが「犯罪」(傷害罪)に基づく刑罰、というように、一つの行為が両方の側面を持つことがあります。
なぜ違う?言葉の定義と目的からイメージを掴む
「不法行為」は、個人の権利(生命、身体、財産など)を守り、侵害された場合に金銭で元の状態に近づけることを目指す民法の制度です。「犯罪」は、社会の安全や秩序を守るために、やってはいけない行為とその罰を定めた刑法の制度です。目的が異なるため、定義や要件、結果も異なります。
なぜこの二つの言葉が区別されるのか、それぞれの定義と法的な目的を知ると、その違いがより深く理解できますよ。
「不法行為」とは:個人の権利侵害に対する損害賠償
「不法行為」とは、わざと(故意)またはうっかり(過失)によって、他人の権利や法律上保護される利益を侵害し、損害を与える行為のことを指します。
これは民法で定められており、その主な目的は、被害者が受けた損害を金銭的に評価し、加害者にその賠償をさせることで、被害者を元の状態に可能な限り近づける(損害の回復・填補)ことにあります。
あくまで個人(または法人)間の問題であり、国が直接介入して罰を与えることはありません。
被害を受けた側が、加害者に対して「損害賠償請求」という形で訴えを起こし、裁判所が賠償額などを決定するのが一般的な流れです。
重要なのは、「過失」、つまり「うっかり」でも成立する点です。わざとでなくても、不注意によって誰かに損害を与えてしまえば、不法行為責任を問われる可能性があるわけですね。
「犯罪」とは:社会のルール違反に対する刑罰
一方、「犯罪」とは、国の法律(主に刑法)によって「してはいけない」と定められ、違反した場合に刑罰が科される行為のことを指します。
犯罪を定める主な目的は、人を殺してはいけない、物を盗んではいけないといった社会の基本的なルールを定め、それを破った者に対して国が罰(懲役、罰金など)を与えることで、社会の秩序や安全を維持することにあります。
これは個人間の問題ではなく、社会全体のルールに対する違反とみなされるため、被害者の訴えがなくても、警察や検察といった国家機関が捜査し、起訴(裁判にかけること)します。
原則として、犯罪が成立するためには「故意」、つまり「わざと」その行為を行ったという意思が必要です。「過失」によって罰せられるのは、業務上過失致死傷罪(自動車事故など)のように、法律で特別に定められている例外的な場合に限られます。この点が不法行為との大きな違いの一つですね。
具体的な事例で使い方をマスターする
例えば、横領は会社の資金を私的に流用する「犯罪」であり、会社に対する「不法行為」でもあります。一方、単なる契約違反による損害は「債務不履行」であり不法行為にはなる可能性がありますが、通常は犯罪ではありません。交通事故で人に怪我をさせると、過失運転致傷という「犯罪」になり、被害者への損害賠償という「不法行為」責任も負います。
言葉の違いは、具体的な事例で確認するのが一番分かりやすいですよね。ビジネスシーンと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
会社に関連するトラブルでも、民事と刑事の区別は重要です。
【事例1:両方に該当する可能性】
- 経理担当者が会社の資金を横領した場合:
- 会社に対する不法行為(損害賠償請求の対象)
- 業務上横領罪という犯罪(刑事罰の対象)
- 競合他社の営業秘密を不正に取得し、自社製品に利用した場合:
- 競合他社に対する不法行為(損害賠償請求の対象)
- 不正競争防止法違反という犯罪(刑事罰の対象となる可能性)
【事例2:主に不法行為(または契約不履行)の問題】
- 納品された商品に欠陥があり、取引先が損害を被った場合:
- 取引先に対する債務不履行または不法行為(損害賠償請求の対象)
- 通常、犯罪には該当しない
- 根拠なくSNSで取引先の信用を傷つける情報を流した場合:
- 取引先に対する名誉毀損による不法行為(損害賠償請求の対象)
- 内容によっては名誉毀損罪という犯罪にも該当しうる
このように、一つの行為が民事上の責任と刑事上の責任の両方を生じさせることがありますね。
日常での使い分け
私たちの身近な出来事でも、「不法行為」と「犯罪」は関わってきます。
【事例1:両方に該当する可能性】
- 自動車を運転中に不注意で歩行者に衝突し、怪我をさせた場合:
- 歩行者に対する不法行為(治療費、慰謝料などの損害賠償請求の対象)
- 過失運転致傷罪という犯罪(刑事罰の対象)
- 隣家の窓ガラスを石で故意に割った場合:
- 隣人に対する不法行為(修理費などの損害賠償請求の対象)
- 器物損壊罪という犯罪(刑事罰の対象)
- SNSで特定の人を名指しして誹謗中傷した場合:
- 相手に対する名誉毀損・侮辱による不法行為(慰謝料請求の対象)
- 名誉毀損罪や侮辱罪という犯罪(刑事罰の対象)
【事例2:主に不法行為の問題】
- 飼い犬が散歩中に通行人に噛みつき、怪我をさせた場合(飼い主の管理不足):
- 通行人に対する不法行為(治療費などの損害賠償請求の対象)
- 通常、犯罪には該当しない(ただし、自治体の条例違反等に問われる可能性はあります)
- マンションの上階からの水漏れで、下の階の家財が損害を受けた場合(上階住人の過失):
- 下の階の住人に対する不法行為(損害賠償請求の対象)
- 通常、犯罪には該当しない
これはNG!間違えやすい使い方
意味合いを取り違えると、話が噛み合わなくなる可能性があります。
- 【NG】「お金を返してくれない友人に対して、犯罪だ!と警察に訴えた。」
- 【意図】 友人との金銭貸借トラブルは、基本的に民事上の問題(契約不履行)です。詐欺の意図があったなど特別な事情がない限り、警察が介入する「犯罪」とはみなされにくいです。この場合は、民事訴訟で返還請求をするのが筋となります。不法行為に該当する可能性はありますが、まずは契約の問題ですね。
- 【NG】「信号無視で捕まった。これは重大な不法行為だ。」
- 【意図】 信号無視は道路交通法違反という「犯罪」(または行政罰の対象)です。誰かに直接的な損害を与えていなければ、通常「不法行為」として損害賠償を請求されることはありません(事故を起こせば別ですが)。罰金は刑罰(または行政罰)であり、損害賠償ではありません。
このように、民事と刑事の区別を意識することが大切ですね。
【応用編】似ている言葉「債務不履行」との違いは?
「債務不履行(さいむふりこう)」は、契約内容が守られないことによって生じる民事上の責任です。契約関係がない他人への権利侵害である「不法行為」とは、責任が発生する原因(契約違反か、契約外の権利侵害か)が異なります。ただし、結果として損害賠償責任が生じる点は共通しています。
「不法行為」と混同しやすい民事上の責任に「債務不履行」があります。これも押さえておきましょう。
「債務不履行」とは、契約によって約束された義務(債務)が、約束通りに果たされないことを指します。
例えば、商品を売買する契約を結んだのに、売主が商品を期日までに引き渡さない、買主が代金を支払わない、といったケースが典型例です。
「不法行為」との大きな違いは、「債務不履行」は当事者間に契約関係があることが前提となる点です。
一方で、「不法行為」は、契約関係がない他人同士の間でも、権利侵害があれば成立します(例:交通事故)。
どちらも、相手に損害を与えた場合に損害賠償責任が発生するという点は共通していますが、責任を追及するための法律上の根拠や、時効(権利を主張できる期間)などに違いがあります。
契約関係に基づくトラブルなのか、それ以外の権利侵害なのか、という発生原因に注目すると区別しやすいでしょう。
「不法行為」と「犯罪」の違いを法的な視点から解説
法的な観点からは、「不法行為」は私法(民法)の領域であり、私人間の権利・利益の調整と損害の公平な分担を目的とします。一方、「犯罪」は公法(刑法)の領域であり、国家が社会秩序維持のために特定の行為を禁止し、違反者に刑罰という公権力を行使するものです。両者は目的と主体が根本的に異なります。
もう少し専門的な視点から、「不法行為」と「犯罪」の違いを見てみましょう。法律の世界では、大きく「私法(しほう)」と「公法(こうほう)」という区分があります。
私法は、私人(個人や会社など)相互の関係を規律する法であり、民法がその代表です。「不法行為」は、この民法の中に定められた制度であり、ある私人が他の私人の権利を侵害した場合に、その損害をどう回復するか、という私人間の利害調整を目的としています。国家は基本的に、当事者間の争いを解決するためのルールと場(裁判所)を提供する役割を担います。
公法は、国や地方公共団体と私人との関係や、国家機関相互の関係を規律する法であり、刑法や憲法、行政法などが含まれます。「犯罪」は、この公法の一部である刑法(およびその他の法律の罰則規定)によって定められています。これは、社会全体の秩序や利益を守るために、国家が特定の行為を禁止し、違反した者に対して刑罰という公的な制裁を加えることを目的としています。ここでは、国家が、私人に対して権力的に関与する形になります。
つまり、「不法行為」は横の関係(私人 vs 私人)、「犯罪」は縦の関係(国家 vs 私人)とイメージすると、その根本的な違いが理解しやすいかもしれませんね。
この目的の違いから、責任の有無を判断する基準(故意・過失の要件の違いなど)や、手続きを進める主体(被害者か検察官か)、最終的な結果(損害賠償か刑罰か)が異なってくるわけです。
僕が交通事故で学んだ「不法行為」と「犯罪」の関係
僕がまだ運転免許を取りたての大学生だった頃、自転車との接触事故を起こしてしまった経験があります。幸い、相手の方の怪我は軽く、自転車の修理が必要な程度でした。
事故直後、警察官が来て現場の状況を確認し、調書を作成しました。その際、警察官から「過失運転傷害にあたる可能性があるので、後日、検察庁から連絡があるかもしれません」と言われ、僕は「犯罪者になってしまうのか…」と、とても不安になったのを覚えています。
同時に、相手の方からは自転車の修理代と治療費を請求されました。これは当然のことと思い、すぐに保険会社に連絡して対応をお願いしました。
数週間後、検察庁から呼び出しがあり、事情聴取を受けました。結果として、怪我が軽微であったこと、深く反省していたことなどから起訴猶予(起訴を見送ること)となり、刑事罰を受けることはありませんでした。
一方で、相手の方への賠償は保険会社を通じて行われました。この時、僕は一つの事故が、「犯罪」(刑事)の問題と、「不法行為」(民事)の問題の二つの側面を持つことを身をもって学びました。
警察や検察が関わるのは「犯罪」の部分であり、罰金や懲役といった刑罰に関わる手続き。相手の方との修理代や治療費の話は「不法行為」の部分であり、損害賠償に関わる手続き。この二つは、目的も手続きも全く別物なのだと理解したのです。
刑事手続きで不起訴になったからといって、民事上の損害賠償責任がなくなるわけではない。逆に、民事で賠償金を支払ったからといって、刑事罰が必ず軽くなるわけでもない(情状酌量の要素にはなり得ますが)。この経験は、法律の仕組みをリアルに感じる、少し苦い、けれど貴重な学びとなりましたね。
「不法行為」と「犯罪」に関するよくある質問
すべての犯罪は不法行為にもなりますか?
多くの場合、犯罪行為は同時に被害者の権利を侵害するため、不法行為にも該当します(例:傷害罪、窃盗罪、詐欺罪など)。しかし、必ずしも全ての犯罪が不法行為になるとは限りません。例えば、特定の被害者がいない犯罪(例:公務執行妨害、偽証罪の一部)や、損害が発生しない犯罪(未遂罪の一部など)は、不法行為としての損害賠償責任が生じない場合があります。
犯罪にならなくても、不法行為として訴えられることはありますか?
はい、あります。不法行為は「過失」でも成立しますが、犯罪は原則として「故意」が必要です。そのため、刑事事件として「故意」が認められず犯罪不成立(不起訴や無罪)となっても、民事上の「過失」が認められれば、不法行為として損害賠償責任を負うケースは少なくありません。交通事故などが典型例です。
損害賠償金と罰金は何が違うのですか?
損害賠償金は、不法行為(民事)によって被害者が被った損害を回復するために、加害者が被害者に対して支払うお金です。その額は、実際の損害額(治療費、修理費、慰謝料など)に基づいて算定されます。一方、罰金は、犯罪(刑事)に対する刑罰の一種として、加害者が国に対して支払うお金です。その額は、法律で定められた範囲内で、裁判官が事案の悪質性などを考慮して決定します。支払先も目的も全く異なります。
「不法行為」と「犯罪」の違いのまとめ
「不法行為」と「犯罪」の違い、そしてその関係性について、スッキリ整理できたでしょうか。
最後に、この記事の重要なポイントをまとめておきますね。
- 基本は分野の違い:「不法行為」は民事(個人間の損害賠償)、「犯罪」は刑事(国からの刑罰)。
- 目的の違い:「不法行為」は被害者の損害回復、「犯罪」は加害者の処罰と社会秩序維持。
- 責任と結果の違い:「不法行為」は損害賠償責任(お金を払う)、「犯罪」は刑事責任(刑罰を受ける)。
- 故意・過失の違い:「不法行為」は過失でも成立するが、「犯罪」は原則として故意が必要。
- 一つの行為が両方に該当することも:例として交通事故や暴行などが挙げられます。
これらの違いを理解しておくことは、法律ニュースを正しく理解したり、万が一トラブルに巻き込まれたりした場合にも役立つはずです。
法律や制度に関する言葉の違いについてさらに知りたい方は、法律・制度の言葉の違いをまとめたページもぜひご参照ください。