「始める」と「初める」の違いとは?意味と使い分けを解説

何か新しいことをスタートするとき、「始める」と「初める」、どちらの漢字を使えばいいか迷ったことはありませんか?

読み方は同じ「はじめる」ですが、見た目が似ているだけに、使い分けが気になりますよね。

結論から言うと、現代の一般的な文章では「始める」を使うのが正解です。「初める」が使われる場面は、実は非常に限られています。

この記事を読めば、「始める」と「初める」の根本的な意味の違いから、なぜ「始める」が一般的に使われるのか、そして「初める」がどのような場合にのみ使われるのかが、例文と共にスッキリと理解できます。もう、どちらを使うべきか迷うことはありません。

それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「始める」と「初める」の最も重要な違い

【要点】

現代日本語の標準的な表記は「始める」です。「初める」は常用漢字表にない読み方であり、古風な表現や、「~し初める」という特定の複合動詞でしか基本的に使われません。迷ったら「始める」を選べば間違いありません。

まず、結論として「始める」と「初める」の最も重要な違いを表にまとめました。

項目 始める(はじめる) 初める(はじめる)
中心的な意味 物事を起こす。物事が起こる。スタートする。 (古風)物事を起こす。初めて行う。(現代では主に複合動詞の一部として)
公的な扱い 常用漢字表に示された標準的な表記・読み方。 常用漢字表にはない読み方(表外読み)。
使われる場面 現代のあらゆる場面。話し言葉、書き言葉問わず一般的。 古風な文学作品、和歌など。現代では主に「~し初める」の形(例:咲き初める)。
ニュアンス 物事の開始全般を表すニュートラルな言葉。 「初めて~する」という初期・初度のニュアンス。古風な響き。
推奨される使い方 常にこちらを使うのが無難。 意図的に古風な表現を使いたい場合や、「~し初める」の形以外では避けるべき
英語 begin, start, initiate begin (archaic), start doing something for the first time

一番重要なのは、公的な基準である常用漢字表では「始める」という表記と読み方しか認められていないという点です。そのため、学校教育や新聞、公用文などでは「始める」に統一されており、これが現代日本語の標準となっています。

「初める」は、特別な意図がない限り、使う必要がない、あるいは避けるべき表記と考えて良いでしょう。

なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む

【要点】

「始」は“女性”と“台”を組み合わせ、物事の「はじまり」を表します。一方、「初」は“衣服”と“刀”を組み合わせ、布を裁ち「はじめる」ことから「最初」や「初めて」を意味します。ここから、「始める」が一般的な開始、「初める」が“初めて”のニュアンスを持つことが分かります。

なぜ「始める」が一般的で、「初める」が限定的なのか。それぞれの漢字が持つ元々の意味を探ると、その背景にあるイメージが見えてきますよ。

「始める」の成り立ち:「始」が表す“物事のはじまり”のイメージ

「始」という漢字は、「女」と「台(音符シ)」を組み合わせた形声文字です。女性がお腹に子を宿すことが物事の「はじまり」である、あるいは、女性が物事の始まりに重要な役割を果たしたことから、「はじめる」「はじまり」という意味を持つようになったと言われています。(※成り立ちには諸説あります)

このことから、「始」は、生命の誕生のように、物事が新たに起こること、スタートすること全般を示す、根源的な「はじまり」のイメージを持つ漢字です。「開始」「始業」などの言葉にも使われますね。

「初める」の成り立ち:「初」が表す“最初・初めて”のイメージ

一方、「初」という漢字は、「衣(ころもへん)」と「刀(りっとう)」を組み合わせた会意文字です。これは、衣服を作るために、刀(刃物)で布を初めて裁断する様子を表しています。

この「布を裁ち『はじめる』」ことから、「はじめ」「最初」「初めて」という意味を持つようになりました。「初心者」「初雪」「初恋」などの言葉からも、「一番目」「物事の最初」というニュアンスが強く感じられますね。

つまり、「初」が持つ「はじめる」の意味は、「初めて行う」「物事の一番最初の段階」というニュアンスに限定されるのです。これが、「始める」ほど広範囲に使われない理由の一つと考えられます。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

現代では、あらゆる「はじめる」に「始める」を使います(例:仕事を始める、勉強を始める)。「初める」は、古文や和歌、あるいは「咲き初める」「言い初める」といった複合動詞で使われる程度です。

言葉の違いをしっかり掴むには、具体的な例文を見るのが一番です。

現代における「始める」と、限定的に使われる「初める」の用例を見ていきましょう。

「始める」を使う具体的なケース

現代日本語では、何かをスタートする、あるいは物事がスタートするという意味では、基本的に全て「始める」を使います。

【OK例文:始める】

  • 明日から新しい仕事を始める
  • 会議を始めます
  • そろそろ夕食の準備を始めよう
  • 彼が英語の勉強を始めたのは最近だ。
  • 雨が降り始めた
  • このプロジェクトは来月から始まる予定です。
  • 話せば長くなるから、どこから始めようか。

動作、状態、事象など、あらゆる「はじまり」に対して使うことができますね。

「初める」を使う具体的なケース(現代では限定的)

「初める」は、現代の一般的な文章で単独で使われることは、ほぼありません。主に以下のような限定的な場面で見られます。

【OK例文:初める】

  • 古文・和歌などで:「梅の花、咲き初める(さきそめる)岡辺(おかべ)に…」(万葉集など、古風な表現として)
  • 複合動詞の一部として:
    • 桜の花が咲き初める(さきそめる)。(=咲き始める)
    • 二人はお互いの気持ちを言い初める(いいそめる)。(=言い始める)
    • 幼い子が言葉を覚え初める(おぼえそめる)。(=覚え始める)
    • 秋になり、木の葉が色づき初める(いろづきそめる)。(=色づき始める)

このように、「~し初める(そめる)」という形で、「~し始める」と同じ意味を表す複合動詞として使われるのが、現代における主な用法です。この場合も、「~し始める」と書くのが一般的であり、「~し初める」はやや文学的、あるいは古風な響きを持ちます。

単独で「初める」と使うのは、現代では誤りとされる可能性が高いので注意が必要です。

これはNG!間違えやすい使い方

現代の感覚では不自然、あるいは誤りとされる可能性が高い使い方です。

  • 【NG】今日から日記を初めます
  • 【OK】今日から日記を始めます

日常的な動作の開始には「始める」を使います。「初めて日記を書く」という意味合いを込めたとしても、「初める」を使うのは不自然です。

  • 【NG】この機械を初めから操作するのは難しい。
  • 【OK】この機械を始めから操作するのは難しい。
  • 【OK】この機械を最初から操作するのは難しい。

「物事のスタート地点から」という意味では「始めから」を使います。「初め」は名詞として「最初」という意味を持ちますが、動詞「初める」とは異なります。

  • 【NG】彼とは初めまして
  • 【OK】彼とははじめまして
  • 【OK】彼とは初めまして。(漢字でも可だが、ひらがなが一般的)

挨拶の「はじめまして」は、「始める」「初める」とは成り立ちが異なります。通常ひらがなで書かれますが、漢字を当てるなら「初」が使われることが多いです。

【応用編】似ている言葉「開始」「着手」との違いは?

【要点】

「開始(かいし)」は「始める」の漢語表現で、より改まった場面やフォーマルな文章で使われます。「着手(ちゃくしゅ)」は仕事や作業などに取り掛かることを意味し、「始める」よりも具体的な行動の開始を示すニュアンスがあります。

「はじめる」と似た意味を持つ言葉に「開始(かいし)」や「着手(ちゃくしゅ)」があります。これらの使い分けも覚えておくと便利です。

  • 開始(かいし):「始めること」「始まること」を意味する漢語表現です。「始める」とほぼ同じ意味ですが、より改まった響きがあり、会議の開始、サービスの開始、試合開始など、公的な場面やフォーマルな文章でよく使われます。
    (例:会議の開始時間、サービスの開始、捜査を開始する)
  • 着手(ちゃくしゅ):仕事や作業などに取り掛かること、手をつけることを意味します。「始める」よりも、具体的な行動や作業のスタートを示すニュアンスが強い言葉です。
    (例:プロジェクトに着手する、執筆に着手する、早期着手が望まれる)

日常的な場面では「始める」を使うのが最も一般的ですが、状況に応じて「開始」や「着手」を使うことで、より的確なニュアンスを伝えることができますね。

「始める」と「初める」の違いを公的な視点(常用漢字)から解説

【要点】

文化庁が定める「常用漢字表」では、「始」の訓読みに「はじめる・はじまる」が、「初」の訓読みに「はじめる」は含まれていません。これは、「初める」が標準的な日本語の表記・読み方ではないことを示しています。公用文や学校教育、新聞などでは「始める」に統一されています。

「始める」と「初める」の使い分けについて、最も明確な根拠となるのが、日本の公的な漢字使用の基準である「常用漢字表」です。

常用漢字表は、内閣告示として示されており、法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安となるものです。

この常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)を見ると、それぞれの漢字の「音訓」欄には以下のように記載されています。

  • :【音】 【訓】はじめる、はじまる
  • :【音】ショ 【訓】はつ、うい、はじめ、そめる

ご覧の通り、「」には訓読みとして「はじめる」が明記されていますが、「」の訓読みには「はじめる」は含まれていません。(「そめる」は「~し初める」の「そめる」に当たります)

これは、「初める(はじめる)」という読み方・表記が、現代日本語の標準的な使い方として認められていないことを意味します。これを「表外読み」と言います。

そのため、学校教育で教わる漢字の読み方としても、「初」を「はじめる」と読むことはありません。新聞やテレビなどのメディア、役所が作成する公用文などでも、特別な意図がない限り「始める」という表記に統一されています。

この公的な基準があるため、一般的な文章においては「始める」を使うのが正しい、または適切であると判断できるわけですね。詳しくは文化庁の常用漢字表に関するページなどでご確認いただけます。

僕がビジネスメールで「初める」と書いてしまった体験談

僕も以前、クライアントへのメールでうっかり「初める」を使ってしまい、後で冷や汗をかいた経験があります。

それは、新しいプロジェクトのキックオフに関する連絡メールでした。プロジェクトの開始を知らせる重要なメールだったので、少しでも丁寧で、かつ意気込みが伝わるように…と考えたつもりだったのですが、なぜかその時、「初めての試み」というニュアンスを込めたくて、「初める」という漢字が頭に浮かんでしまったのです。

そして、メール本文にこう書いてしまいました。

「さて、いよいよ来週月曜日より、本プロジェクトを初めさせていただきたく存じます。」

送信ボタンを押した直後、ふと猛烈な違和感に襲われました。「あれ?『はじめる』って、普通『始める』だよな…? なんで『初める』って書いたんだっけ?」

慌てて調べてみると、案の定、「初める」は常用漢字表にない読み方で、一般的には使われない表記であることを知りました。しかも、「~し初める」ならまだしも、単独で「初める」と使うのは誤りだと。

「うわー、やってしまった…! クライアントに『この担当者、基本的な漢字も知らないのか?』って思われたらどうしよう…」

幸い、クライアントから特に指摘はありませんでしたが、自分の知識不足と確認不足が招いたミスに、しばらく落ち込みました。丁寧さを意識するあまり、かえって不自然で誤った表現を使ってしまうことがあるのだと痛感しましたね。

この経験以来、特にビジネス文書では、常用漢字表に基づいた標準的な表記を使うこと、そして少しでも迷ったら必ず辞書や信頼できる情報源で確認することを徹底するようになりました。皆さんも、特に「初」という漢字を使うときは、「始める」との違いを思い出してくださいね。

「始める」と「初める」に関するよくある質問

「初めて~する」と言いたいときは「初める」を使いますか?

いいえ、使いません。「初めて~する」という場合でも、動詞としては「始める」を使います(例:「初めてピアノの練習を始める」)。「初」という漢字自体に「初めて」の意味はありますが、動詞「はじめる」の表記としては「始める」が標準です。「初める」は主に古語や「~し初める」の形で使われます。

ビジネス文書や公用文ではどちらを使うべきですか?

必ず「始める」を使ってください。「初める」は常用漢字表にない読み方・表記であるため、公的な文書やビジネス文書で使用するのは不適切です。「始める」が唯一の正しい表記となります。

なぜ「初める」はあまり使われないのですか?

常用漢字表に「初」の訓読みとして「はじめる」が含まれていない(表外読みである)ため、現代日本語の標準的な表記・読み方ではないからです。学校教育やメディアでも「始める」に統一されているため、日常的に「初める」を目にする機会がほとんどなく、使われなくなっていきました。ただし、「咲き初める」のような複合動詞の一部としては、文学的な表現などで残っています。

「始める」と「初める」の違いのまとめ

「始める」と「初める」の違い、これで迷うことはなくなりましたね!

最後に、この記事のポイントをまとめておきましょう。

  1. 標準表記は「始める」:現代の一般的な文章では、常に「始める」を使うのが正しく、適切です。
  2. 「初める」は限定的:「初める」は常用漢字表にない読み方(表外読み)であり、古風な表現や「~しめる(そめる)」という複合動詞の一部としてしか、ほぼ使われません。
  3. 漢字のイメージ:「始」は物事のスタート全般、「初」は「初めて」「最初」のニュアンスが強いですが、動詞「はじめる」の表記としては区別されません。
  4. 公的な基準:常用漢字表で「始める(はじめる)」のみが示されているため、公用文や教育、メディアでは「始める」に統一されています。
  5. 迷ったら「始める」:どちらを使うか迷った場合は、必ず「始める」を選びましょう。

普段、何気なく使っている言葉でも、漢字一つで意味合いや適切さが変わることがありますね。「はじめる」という基本的な動詞だからこそ、正しい表記である「始める」を自信を持って使えるようにしておきましょう。

言葉の使い分けについてさらに詳しく知りたい方は、表記が紛らわしい言葉の違いをまとめたページも、ぜひ参考にしてみてください。