「上げる」と「挙げる」の違いとは?物理的な移動か具体例かで解説

「あげる」という言葉を使うとき、「上げる」と「挙げる」、どちらの漢字を使うべきか迷ったことはありませんか?

どちらも「あげる」と読みますが、意味や使える場面が異なります。この違いを理解しないまま使ってしまうと、意図が正確に伝わらなかったり、幼稚な印象を与えてしまったりするかもしれません。

実は、物理的に物を上に移動させたり、程度やレベルを高めたりする場合は「上げる」、具体的な行動を示したり、例を示したりする場合は「挙げる」と使い分けるのが基本です。このシンプルな違いを押さえるだけで、迷うことは格段に減るはずです。

この記事では、「上げる」と「挙げる」の核心的な意味の違いから、漢字の成り立ち、具体的な使い分け、さらには似ている「揚げる」との違いまで、分かりやすく解説していきます。これを読めば、ビジネス文書でも日常会話でも、自信を持って適切な漢字を選べるようになりますよ。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「上げる」と「挙げる」の最も重要な違い

【要点】

基本的には、物理的な上下動や程度・水準の上昇、完了などを広く示すのが「上げる」、手を挙げる、例を挙げる、式を挙げるなど、具体的な対象や行動を指して用いるのが「挙げる」です。「上げる」は意味が非常に広く、「挙げる」は特定の具体的な行為や対象に使われると覚えるのが簡単です。

まず、結論からお伝えしますね。

「上げる」と「挙げる」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目 上げる (あげる) 挙げる (あげる)
中心的な意味 ①物を上へ移動させる。
②程度・段階・順位などを高める
③声などを出す。
④成果などを出す。
⑤中に入れる、収納する。
⑥(補助動詞)動作の完了など。
手をあげる
例などを具体的に示す
③推薦・推挙する。
④儀式を行う。
⑤捕らえる、検挙する。
⑥全力や国全体などを示す。
ニュアンス 上下動、上昇、向上、発生、完了など広範囲 持ち上げる動作、例示、推薦、実行、逮捕など特定の具体的行為
対象・使われ方 位置、温度、成績、声、利益、荷物、雨、完成など非常に多様。 手、実例、候補者、結婚式、祝杯、犯人、国、兵など限定的。
使い分けのヒント 物理的な上下、抽象的なレベルアップ。迷ったらこちら?(※ただし注意が必要) 手、例、式、犯人、国・兵などがキーワード。

「上げる」の意味が非常に広いのに対し、「挙げる」は特定の具体的な状況で使われる、という点が大きな違いですね。「挙げる」を使うべき場面(手を挙げる、例を挙げる、式を挙げる、犯人を挙げる、国を挙げて、兵を挙げる)を覚えておき、それ以外は基本的に「上げる」を使う、と考えると分かりやすいかもしれません。

なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む

【要点】

「上げる」の「上」は基準より高い位置を示す単純な図形から成り、広範な「上方向への移動・変化」を意味します。「挙げる」の「挙」は「手」と「臼(両手で持ち上げる意)」などを組み合わせ、具体的な「手で持ち上げる」動作や、そこから派生した意味(推薦、実行など)を表します。漢字の成り立ちが、意味の広さや具体性の違いを示唆しています。

なぜこの二つの「あげる」が異なる意味を持つのか、それぞれの漢字が持つ本来の意味を探ってみると、その理由がよりイメージしやすくなりますよ。

「上げる」の成り立ち:「上」へ移動させる広範なイメージ

「上げる」の「上」という漢字は、基準となる線(一)の上に点(丶)がある形を示した指事文字です。つまり、「うえ」「高い位置」という非常にシンプルで基本的な概念を表しています。

この基本的な意味から派生して、「上げる」は物理的に高い場所へ移動させることだけでなく、温度、成績、地位、評価といった抽象的な程度や段階を高めること、さらには声を出す、成果を出す、収納するなど、非常に広範囲な「上方向への移動や変化」を表す言葉として使われるようになりました。

「挙げる」の成り立ち:「手」で持ち上げる具体的な動作

一方、「挙げる」の「挙」という漢字は、「手(てへん)」と「與(興の旧字の一部、両手でものを持ち上げる様子)」が組み合わさった形声文字です。(※成り立ちには諸説あります)

元々は、手で物を持ち上げる具体的な動作を示していました。

この「持ち上げる」という具体的な動作から派生して、「手を挙げる(意思表示)」「候補者を挙げる(推薦)」「例を挙げる(提示)」「式を挙げる(実行)」「犯人を挙げる(捕らえる)」「国を挙げて(総動員)」といった、特定の対象や行動を指す、より限定的な意味で使われるようになったのです。

漢字の成り立ちからも、「上げる」が持つ意味の広範さと、「挙げる」が持つ具体的な動作や対象への限定性が感じ取れますね。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

「気温を上げる」「売上を上げる」「悲鳴を上げる」などは「上げる」。「手を挙げる」「具体例を挙げる」「結婚式を挙げる」「犯人を挙げる」などは「挙げる」です。迷ったら、「挙げる」が使われる特定のケース(手、例、式、犯人、国・兵など)に該当するかどうかで判断しましょう。

言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。

どのような場合に「上げる」を使い、どのような場合に「挙げる」を使うのか、豊富な例文で見ていきましょう。

「上げる」が適切な例文

物理的な位置の上昇、程度・段階の向上、声や音の発声、成果の創出、収納、動作の完了など、非常に幅広い意味で使われます。

  • 荷物を棚に上げる。(位置)
  • カーテンを上げる。(位置)
  • 室内の温度を上げる。(程度)
  • テストの点数を上げる。(段階)
  • 会社の知名度を上げる。(水準)
  • 役職が課長に上がる。(地位)
  • 悲鳴を上げる。(声を出す)
  • うなり声を上げる。(声を出す)
  • 会社の利益を上げる。(成果)
  • 目覚ましい成果を上げる。(成果)
  • 子供を二階に上げる。(場所に入れる)
  • 客間にお客さんを上げる。(場所に入れる)
  • タンスに布団を上げる。(収納する)
  • 雨が上がる。(天候の変化)
  • 仕事を終えて会社から上がる。(退出する)
  • 緊張して舞台に上がる。(のぼる、登場する)
  • (補助動詞)ようやくレポートを書き上げた。(完了)
  • (補助動詞)どうぞお召し上がりください。(敬意)

…など、非常に多岐にわたりますね。

「挙げる」が適切な例文

特定の対象や行動に限定して使われます。主な用法を覚えてしまうのが早道です。

  • 質問がある人は手を挙げてください。(手をあげる)
  • 賛成の方は、右手を挙げて意思表示をお願いします。(手をあげる)
  • その理由として、三つの具体例を挙げて説明します。(例をあげる)
  • 彼の功績を挙げればきりがない。(例をあげる)
  • 次期リーダーとして、〇〇さんを挙げたいと思います。(推薦する)
  • 候補者として数名の名前が挙げられた。(推薦する)
  • 教会で結婚式を挙げた。(儀式を行う)
  • 卒業式が厳粛に挙げられた。(儀式を行う)
  • 祝杯を挙げよう。(祝う行為)
  • 警察はついに犯人を挙げた。(捕らえる、検挙する)
  • 容疑者を挙げるために、聞き込み捜査が続けられた。(捕らえる、検挙する)
  • 国を挙げてオリンピックを成功させよう。(全体を動員する)
  • 全力を挙げてプロジェクトに取り組む。(全体を動員する)
  • 反乱軍が兵を挙げた。(行動を起こす)

「手を挙げる」「例を挙げる」「式を挙げる」「犯人を挙げる」「国(兵)を挙げる」の5つのパターンを覚えておくと、多くの場面で対応できますね。

これはNG!混同しやすい使い方

意味を取り違えると、不自然な表現になってしまいます。

  • 【NG】会議で意見を挙げてください。(意見は「出す」もの)
  • 【OK】会議で意見を述べてください。(または「言って」「出して」)
  • 【OK】発言したい方は手を挙げてください。

意見は「出す」ものであり、「挙げる」のは意思表示のための「手」です。

  • 【NG】彼の良い点を上げてください。(例を示す場合)
  • 【OK】彼の良い点を挙げてください。
  • 【OK】彼の評価を上げてください。(評価を高める場合)

具体的な良い点を例として示す場合は「挙げる」です。「評価(レベル)」を高めるのであれば「上げる」を使います。

  • 【NG】お神輿を挙げてください。(物理的に持ち上げる場合)
  • 【OK】お神輿を上げてください。(「担ぎ上げてください」など)
  • 【OK】祭りの成功を祈って祝杯を挙げよう。

物理的に物を持ち上げるのは「上げる」です。「挙げる」は儀式や特定の行為に使います。

【応用編】似ている言葉「揚げる」との違いは?

【要点】

「揚げる(あげる)」は、①旗や凧などを空高くあげる、②油で料理する(天ぷら、フライなど)、③船などを陸にあげる、といった特定の意味で使われます。「上げる」「挙げる」とは意味が全く異なるので注意が必要です。

「あげる」と読むもう一つの代表的な漢字に「揚げる」がありますね。これも意味が全く異なるので、混同しないようにしましょう。

「揚げる」は、主に以下の3つの意味で使われます。

  1. 空や水上など、高い所にあげる。
    • 旗を揚げる
    • 凧(たこ)を揚げる
    • 花火を揚げる
  2. 油で料理する。
    • 天ぷらを揚げる
    • 唐揚げを揚げる
    • フライを揚げる
  3. 水中のものを陸上に移す。
    • 船を陸(おか)に揚げる
    • 荷物を港に水揚げする。

このように、「揚げる」は特定の対象や状況で使われる言葉です。「上げる」や「挙げる」と意味が重なる部分はほとんどありませんので、区別は比較的しやすいでしょう。

特に料理の「揚げる」は日常生活でもよく使いますね。

「上げる」と「挙げる」の違いを言語的な視点から解説

【要点】

言語学的に見ると、「上げる」は非常に多義的な動詞であり、基本的な「上への移動」から比喩的に意味が拡張され、様々な抽象的な意味(向上、完了、発生など)を持つようになりました。一方、「挙げる」は「手で持ち上げる」という具体的な動作が核にあり、そこから意味が派生したものの、「上げる」ほど多義化せず、特定の対象や文脈に限定される傾向があります。意味の広がり方が大きく異なる点が特徴です。

「上げる」と「挙げる」の違いを、言葉の意味がどのように広がり、使い分けられてきたかという言語的な視点から見ると、その関係性がより深く理解できます。

「上げる」は、日本語の中でも特に意味の範囲が広い(多義的な)動詞の一つです。

基本的な意味である「物理的に下方から上方へ移動させる」という空間的なイメージが、様々な比喩(メタファー)によって拡張され、多種多様な意味を持つようになりました。

  • 空間 → 程度・段階:「気温を上げる」「レベルを上げる」
  • 空間 → 社会的地位:「地位が上がる」
  • 隠れていたものが現れる → 発生:「声を上げる」「悲鳴を上げる」
  • 完了・達成:「仕事を仕上げる」「成果を上げる」
  • 特定の場所へ移動:「家に上げる」「舞台に上がる」

このように、「上」という基本的な概念が、様々な抽象的な領域へと意味を広げていった結果、非常に多くの場面で使われる汎用性の高い言葉となっています。

一方、「挙げる」は、「手で持ち上げる」という具体的な身体動作が語源的な核にあります。

この核となる意味から、「手を挙げる(意思表示)」「例を挙げる(提示)」「候補者を挙げる(推薦)」「式を挙げる(実行)」「犯人を挙げる(捕らえる)」といった意味が派生しました。これらは、元の「持ち上げる」動作からやや離れた意味もありますが、それでも「上げる」ほど広範な意味の広がりは見られません。

多くの場合、特定の対象語(手、例、式、犯人など)と結びついて使われ、慣用的な表現となっていることが多いのが特徴です。

つまり、言語的な観点からは、「上げる」は基本的な意味から大きく意味が拡張した多義語であり、「挙げる」は元の具体的な意味から限定的に意味が派生し、特定の文脈で使われることが多い言葉、と捉えることができますね。この意味の広がり方の違いが、使い分けの背景にあると言えるでしょう。

僕がプレゼンで「例を上げて」と言って赤面した体験談

僕がまだ社会人になりたての頃、大事なプレゼンテーションの場で「上げる」と「挙げる」を使い間違えて、上司やクライアントの前で赤面した苦い思い出があります。

新商品の提案プレゼンで、僕は競合製品との比較データを説明していました。グラフを示しながら、自社製品の優位性をアピールする、まさに勝負どころの場面です。

そして、具体的なユーザーの声を紹介しようとした時、僕は自信満々にこう言ってしまったのです。

「では、ここで実際に本製品をご利用いただいているお客様の声をいくつか上げてみましょう!」

…その瞬間、会場の空気が少しざわついた気がしました。特に、前列に座っていた上司が、かすかに眉をひそめたのが見えました。

(あれ?何か変なこと言ったかな…?)

プレゼン自体はなんとか最後までやり遂げましたが、終わった後、上司に呼ばれました。「さっきのプレゼンだけどさ、『お客様の声を上げる』って言ってたけど、ああいう場合は『挙げる』を使うのが正しいぞ。『例を挙げる』って言うだろ?基本的なことだから、次から気をつけるように」と。

僕はその時初めて、自分の間違いに気づきました。「例」を示す場合は「挙げる」を使うのが常識だったのに、緊張もあってか、うっかり基本的な「上げる」の方を使ってしまったのです。

たった一文字の違いですが、聞き手にとっては違和感があったでしょうし、「基本的な言葉遣いも知らないのか」と思われたかもしれない…そう考えると、本当に恥ずかしくて顔から火が出る思いでした。

この経験は、どんなに内容を作り込んでも、基本的な言葉遣いを間違えると、それだけで説得力や信頼性が損なわれてしまう可能性があることを教えてくれました。

それ以来、特にプレゼンや公式な文書では、「上げる」と「挙げる」のような基本的な同音異義語の使い分けには、細心の注意を払うようにしています。あの時の赤面体験は、今でも僕の言葉選びの戒めになっていますね。

「上げる」と「挙げる」に関するよくある質問

手をあげる・挙げる、どちらが正しいですか?

意思表示や合図のために手を上にあげる動作は「手を挙げる」と書くのが一般的です。「挙手(きょしゅ)」という言葉があることからも分かりますね。物理的に腕を持ち上げる、という意味では「腕を上げる」とも言えますが、学校で発言する際や賛意を示す際などは「手を挙げる」を使います。

成果をあげる・挙げる、どちらを使いますか?

良い結果や利益などを出す、という意味では「成果を上げる」と書くのが一般的です。「上げる」が持つ「程度や水準を高める」「作り出す」といった広範な意味合いが、この文脈に適しています。「成果を挙げる」という表記も間違いではありませんが、「上げる」の方がより多く使われます。

結婚式をあげる・挙げる、どちらが適切ですか?

儀式を行う、という意味では「結婚式を挙げる」と書くのが一般的です。「挙式(きょしき)」という言葉があるように、「挙げる」には儀式を執り行うという意味があります。「結婚式を上げる」という表記も使われることがありますが、「挙げる」の方がより伝統的で正式な表現とされています。

「上げる」と「挙げる」の違いのまとめ

「上げる」と「挙げる」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 基本は意味の広さと具体性で使い分け:「上げる」は広範囲(上下動、向上、完了など)、「挙げる」は特定の具体的行為(手を挙げる、例を挙げる、式を挙げるなど)。
  2. 漢字のイメージが鍵:「上」への移動・変化が「上げる」、「手」で持ち上げる具体的動作から派生したのが「挙げる」。
  3. 「挙げる」の特定用法を覚える:「手を挙げる」「例を挙げる」「式を挙げる」「犯人を挙げる」「国・兵を挙げる」に該当しないか確認する。
  4. 「揚げる」との違いも明確に:「揚げる」は空高く、油で料理、陸揚げなど、全く意味が異なる。
  5. 迷ったら辞書で確認:意味が多岐にわたるため、自信がない場合は辞書で確認するのが確実。

「上げる」は非常に多くの意味を持つ便利な言葉ですが、だからこそ「挙げる」を使うべき特定の場面で混同しないように注意が必要ですね。特に「例を挙げる」「式を挙げる」などはビジネスシーンでもよく使う表現なので、しっかり覚えておきましょう。

これから自信を持って、「上げる」と「挙げる」を使い分け、より正確で分かりやすい日本語を目指しましょう。言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、漢字の使い分けの違いをまとめたページもぜひご覧ください。