「未だに忘れられない」「今だに解決していない」のように、過去から現在まで状態が続いていることを表す「いまだに」。
この言葉を漢字で書くとき、「未だに」と「今だに」、どちらを使うのが正しいのか迷ったことはありませんか? 読み方が同じだけに、つい混同してしまいがちですよね。
結論から言うと、現代の日本語表記の基準では「未だに」を使うのが正解とされています。「今だに」は、意味合いから連想された慣用的な表記、あるいは誤りと考えられることが多いのです。
この記事を読けば、「未だに」と「今だに」の漢字の意味の違いから、なぜ「未だに」が正しいとされるのか、公的な基準や具体的な使い分けまでスッキリ理解できます。もう、どちらの表記を使うべきか悩むことはありません。
それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「未だに」と「今だに」の最も重要な違い
「未だに」が本来の正しい表記であり、一般的です。「未」は「まだ~ない」という意味を持ち、「(過去のある時点から)今になってもまだ(その状態である)」というニュアンスを表します。一方、「今だに」は「今」という字面から連想された慣用的な表記、または誤りとされ、公用文や多くの辞書、表記ガイドでは「未だに」を使うよう推奨されています。
まず、結論として「未だに」と「今だに」の最も重要な違いを表にまとめました。
項目 | 未だに(いまだに) | 今だに(いまだに) |
---|---|---|
表記の正当性 | 本来の正しい表記。一般的・標準的。 | 慣用的表記、または誤りとされることが多い。 |
漢字の意味 | 未:「まだ~ない」 | 今:「いま、現在」 |
言葉の意味 | 今になってもまだ。依然として。 | (「未だに」と同じ) |
公的な扱い・辞書 | 推奨される表記。多くの辞書はこちらを本項目とする。 | 非推奨、または誤りとする見解が多い。 |
ニュアンス | (ある状態が終わるべきなのに)まだ続いている。依然として変わらない。 | (字面から)今この時点でも、という現在を強調する意図で使われることがある?(本来の用法ではない) |
推奨される使い方 | 常にこちらを使うのが無難。 | 一般的な文章、特にフォーマルな場面では避けるべき。 |
一番重要なのは、「未だに」が辞書的にも、公的な表記の基準(新聞、公用文など)から見ても、正しいとされる表記である点です。「今だに」は、「今でも」という意味合いから「今」の字が使われるようになったと考えられますが、本来の語源や標準的な表記ではありません。
基本的には「未だに」を使う、と覚えておけば間違いありません。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「未だ(いまだ)」は漢文訓読に由来し、「未」は木の枝が伸びきっていない様から「まだ~ない」を表します。「未だに」で「今になってもまだ~ない(終わらない、実現しない)」という状態の継続を示すのが本来の形です。「今」は現在の時点を示すため、「今だに」は意味からの連想表記と考えられます。
なぜ「未だに」が本来の表記とされるのか。それぞれの漢字が持つ意味や言葉の成り立ちを探ると、その理由が見えてきます。
「未だに」の成り立ち:「未」が表す“まだ~ない”状態の継続
「未だに」の「未(ミ/いまだ、まだ)」という漢字は、木の枝が短く、まだ十分に伸びていない様子を描いた象形文字です。そこから、「まだ~ない」「いまだ~ず」といった、否定や未完了を表す意味を持つようになりました。「未来」「未定」「未満」などの言葉に使われますね。
「未だ(いまだ)」は、この「未」を訓読みにした言葉で、漢文訓読(漢文を日本語として読む方法)に由来します。「未(いま)だ〜ず」の形で「まだ〜しない」という意味で使われてきました。
これに助詞「に」が付いた「未だに」は、「(過去のある時点から続いて)今になってもまだ(〜ない、〜のままである)」という意味を表します。期待される変化や完了が「まだ」起こっていない、という継続の状態を示すのに、「未」の字が持つ「まだ~ない」という意味がぴったり合致するのです。
「今だに」の成り立ち:「今」が表す“現在”の強調?(慣用的な表記)
一方、「今だに」で使われる「今(コン・キン/いま)」は、「ちょうどその時」「現在」を直接的に示す漢字です。
「いまだに」という言葉が持つ「今でもなお」という意味合いから、「今」という漢字が連想され、「今だに」という表記が使われるようになったと考えられます。特に、「今になってもまだ」の「今」を強調したい場合に、意識的あるいは無意識的に使われるのかもしれません。
しかし、これはあくまで意味からの類推による慣用的な表記であり、「未だ」という言葉の成り立ちから見ると、本来の表記ではないとされています。辞書によっては「今だに」を誤りとしていたり、あるいは「『未だに』に同じ」と説明するに留めていたりします。
語源や本来の表記を考えると、「未だに」を使うのが自然であり、正しいと言えるでしょう。
具体的な例文で使い方をマスターする
「(過去から)今になってもまだ続いている」という状況を表す場合は、常に「未だに」を使うのが適切です(例:未だに返事がない、未だに信じられない)。「今だに」は一般的な文章やフォーマルな場面では避け、原則として「未だに」に統一しましょう。
言葉の違いをしっかり掴むには、具体的な例文を見るのが一番です。
推奨される「未だに」の使い方と、非推奨とされる「今だに」が使われがちな場面を見ていきましょう。
「未だに」を使う具体的なケース(一般的・推奨)
過去から現在まで状態が継続しており、多くの場合「まだ終わっていない」「まだ変わらない」というニュアンスを含みます。
【OK例文:未だに】
- 彼からの返事は、未だにありません。(まだ来ていない)
- あの感動的な光景は、未だに忘れられない。(まだ覚えている)
- 事件の真相は、未だに解明されていない。(まだ分かっていない)
- 彼は未だに独身らしい。(まだ結婚していない)
- 子供の頃の夢を、未だに追い続けている。(まだ諦めていない)
- この地域では、未だに古い慣習が残っている。(まだ続いている)
- なぜあんなことをしたのか、未だに理解できない。(まだ分からない)
このように、あらゆる「いまだに」の場面で「未だに」を使うのが標準的であり、適切です。
「今だに」を使う具体的なケース(限定的・非推奨)
「今だに」は慣用的な表記、あるいは誤りとされることが多いため、積極的に使うべきではありません。もし見かけるとしたら、以下のような文脈で、「今」を強調したい意図があるのかもしれませんが、「未だに」で十分に表現可能です。
【△/NG例文:今だに】(「未だに」と書くべき)
- あれから10年も経つのに、今だに昨日のことのように思い出される。(=未だに)
- 最新技術が次々登場する中で、今だに旧式の機械を使い続けている。(=未だに)
- 彼はもう大人なのに、今だに親に頼っている。(=未だに)
これらの例文も、すべて「未だに」と表記するのが一般的であり、より適切です。「今だに」を使う必要はありません。
これはNG!間違えやすい使い方
明確に誤りとなる、あるいは意味が変わってしまう使い方です。
- 【NG】まだ宿題が終わっていません。(「いまだに」ではなく「まだ」を使うべき場面)
- 【OK】未だに宿題が終わっていません。(今になってもまだ終わっていない、というニュアンス)
- 【OK】まだ宿題が終わっていません。(単に未完了の状態)
「未だに」は「まだ」と似ていますが、「(当然終わっているべきなのに)今になってもまだ」という、時間経過や期待とのギャップを強調するニュアンスがあります。単に未完了の状態を述べたい場合は「まだ」を使う方が自然なことがあります。
- 【NG】今だ、チャンスだ! (「いまだ」の別の意味)
- 【OK】今だ、チャンスだ!
「今だ(いま だ)」は、「ちょうど今がその時だ」という意味で使われる別の言葉です。「今だに(いまだに)」とは全く意味が異なります。
「未だに」と「今だに」の違いを公的な視点(辞書・表記ガイド)から解説
多くの国語辞典では「未だに」を本項目とし、「今になってもまだ」という意味を説明しています。「今だに」については、「未だに」の項目で「『今だに』と書くのは誤り」と明記するか、あるいは慣用的な表記として触れる程度です。新聞社の用字用語集(記者ハンドブックなど)や文化庁の公用文作成の指針などでも、「いまだに」は「未だに」と表記するよう定めているのが一般的です。
「未だに」と「今だに」のどちらを使うべきか、という問題について、辞書や公的な表記ガイドラインは明確な指針を示しています。
まず、多くの国語辞典(例えば『大辞林』『広辞苑』『明鏡国語辞典』など)を引くと、「いまだに【未だに】」が見出し語として立てられ、「今になってもまだ。依然として。」といった意味が説明されています。
一方、「今だに」については、
- 「未だに」の項目の中で、「『今だに』と書くのは本来誤り」などと誤用であることが明記されている。
- 独立した項目がなく、「未だに」を参照するように指示されている。
- あるいは、「今でもの意で『今だに』と書くこともある」のように、慣用的な表記として触れられている(ただし、主流ではない)。
といった扱いになっています。これは、辞書編纂の立場からも「未だに」が本来の正しい表記であると認識されていることを示しています。
さらに、新聞記事や公用文など、社会的に規範となる文章を作成する際の基準となる用字用語集(例えば、共同通信社の『記者ハンドブック』やNHKの『ことばのハンドブック』など)においても、「いまだに」は原則として「未だに」と表記するように定められています。「今だに」は使うべきではない表記、あるいは避けるべき表記として扱われています。
これは、常用漢字表の付表(具体的な使い分けの例を示すもの)などで「いまだ」の表記として「未だ」が示されていることや、言葉の成り立ち、そして社会的な慣用度などを総合的に判断した結果と考えられます。
したがって、公的な基準や主要な辞書の見解に基づけば、「未だに」を使うのが正しく、適切であると結論づけることができます。「今だに」は、個人的な文章や非常にインフォーマルな場面を除き、使用を避けるのが賢明でしょう。
僕がメールで「今だに」と書いて赤面した体験談
僕も以前、取引先へのメールでうっかり「今だに」という表記を使ってしまい、後で自分の間違いに気づいて赤面したことがあります。
それは、あるプロジェクトの納期遅延について、原因調査の進捗を報告するメールでした。原因特定に時間がかかっており、その状況を伝えようとして、僕はメールにこう書きました。
「原因究明を進めておりますが、今だに特定には至っておりません。」
自分としては、「今現在もまだ特定できていない」という状況を伝えたかったのですが、その時なぜか「今」という漢字の方がしっくりくるような気がして、「今だに」と書いてしまったのです。
メールを送信した後、しばらくしてから読み返してみて、猛烈な違和感を覚えました。「あれ? いまだにって、普通『未だに』だよな…? なんで『今』って書いたんだろう?」
すぐに辞書やネットで確認し、「今だに」が一般的ではない、あるいは誤りとされる表記であることを知りました。「うわ、ビジネスメールで間違った漢字使っちゃった…! 常識ないって思われたかも…」と、一人で勝手に焦ってしまいました。
幸い、取引先から特に指摘はありませんでしたが、ビジネス文書における表記の正確性がいかに重要かを痛感しました。特に、謝罪や状況報告など、丁寧さが求められる場面での誤字や不適切な表記は、信頼を損ねかねません。
この経験以来、特に同音異義語や意味が似ている言葉を使う際には、必ず一度立ち止まって、どちらの表記が適切か、辞書や信頼できる情報源で確認するようになりました。思い込みやその場の雰囲気で言葉を選ばず、常に正確性を意識することの大切さを学んだ出来事です。
「未だに」と「今だに」に関するよくある質問
結局、どちらの表記を使うべきですか?
「未だに」を使うべきです。これが本来の正しい表記であり、辞書や公的な表記ガイドラインでも推奨されています。一般的な文章やビジネス文書、公用文など、あらゆる場面で「未だに」を使うのが適切であり、無難です。
なぜ「今だに」という表記も見かけるのですか?
「いまだに」が持つ「今でもなお」という意味合いから、「今」という漢字が連想され、慣用的に使われるようになったと考えられます。特に口語的な表現や、個人のブログなどで見かけることがあるかもしれませんが、標準的な表記ではありません。
意味に違いはありますか?
本来の意味は同じです。どちらも「今になってもまだ(その状態が続いている)」ことを表します。ただし、「今だに」と書くことで、「今」という時点を強調したい意図が含まれる可能性はありますが、それは書き手の個人的な解釈であり、一般的な用法ではありません。
「未だに」と「今だに」の違いのまとめ
「未だに」と「今だに」の違い、これでスッキリ整理できたでしょうか?
最後に、この記事のポイントをまとめておきましょう。
- 正しい表記は「未だに」:これが本来の表記であり、辞書や公的な基準でも推奨されています。
- 「今だに」は慣用・誤り:「今」の字は意味からの連想で使われるようになったと考えられ、標準的な表記ではありません。フォーマルな場面では避けるべきです。
- 漢字の意味:「未」は「まだ~ない」という未完了・継続の意。「今」は「現在」。言葉の成り立ちからは「未だに」が自然。
- 公的な基準:新聞、公用文、多くの辞書や表記ガイドでは「未だに」に統一されています。
- 意味の違い:本来の意味は同じ。ニュアンスの違いは基本的にないが、「今だに」は現在を強調する意図で(誤って)使われる可能性も。
- 迷ったら「未だに」:どちらを使うか迷った場合は、常に「未だに」を選びましょう。
読み方が同じだけに紛らわしいですが、成り立ちや公的な基準を知れば、自信を持って「未だに」を選べますね。
特にビジネス文書やレポートなど、正確性が求められる場面では、正しい表記を心がけることが大切です。
これからは迷わず、「未だに」を使っていきましょう。言葉の使い分けについてさらに詳しく知りたい方は、表記が紛らわしい言葉の違いをまとめたページも、ぜひ参考にしてみてください。