誤用に注意!「借りる」と「貸りる」の意味と使い分け解説

「本をかりる」「お金をかりる」と言うとき、「借りる」と「貸りる」、どちらの漢字を使うべきか迷ったことはありませんか?

音は同じ「かりる」ですが、漢字が違うと意味も変わってきそうですよね。

結論から言うと、現代の標準的な日本語では「借りる」が正しく、「貸りる」という表記は基本的に誤りとされています。しかし、なぜ間違えやすいのでしょうか?

この記事を読めば、「借りる」と「貸りる」の明確な違い、なぜ「貸りる」が誤りとされるのか、その背景にある「借りる」と「貸す」の意味の違い、そして漢字の成り立ちまで、スッキリと理解できます。もう二度と表記で迷うことはありませんよ。

それでは、まず最も重要な結論から見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「借りる」と「貸りる」の最も重要な違い

【要点】

「かりる」と読む場合、正しい漢字表記は「借りる」です。「貸りる」は現代の標準語では誤りとされています。これは、「借りる(=自分が受け取る)」と「貸す(=自分が与える)」の意味の違いに基づきます。

まず、結論からお伝えしますね。

「借りる」と「貸りる」の最も重要な違いは、表記の正誤です。

項目 借りる 貸りる
表記の正誤 正しい 誤り (現代標準語として)
中心的な意味 他人の物やお金などを一時的に自分のものとして使う(後で返す)。自分が受け取る側。 - (「貸す」の連用形「貸り」+「る」という解釈は文法的に誤り)
対応する反対語 貸す
使う場面 本、お金、人手、知恵などを一時的に利用させてもらう場合全般。 基本的には使わない。(方言などに残る可能性はゼロではない)

つまり、「かりる」と表現したいときは、常に「借りる」を使うのが正解です。「貸りる」という表記は、基本的には使わないようにしましょう。

では、なぜ「貸りる」という誤りが生まれやすいのでしょうか?その理由を、言葉の意味や漢字の成り立ちから探っていきましょう。

なぜ違う?「借りる」と「貸す」の意味と漢字の成り立ち

【要点】

「借りる」は“他人から一時的に受け取る”、「貸す」は“他人へ一時的に与える”という、行為の方向性が真逆です。「借」は借りる側、「貸」は貸す側の視点を示します。「貸りる」という形は、「貸す」の活用としても正しくありません。

「貸りる」という表記がなぜ誤りなのかを理解するためには、「借りる」の反対語である「貸す」との意味の違い、そしてそれぞれの漢字が持つ意味を知ることが重要です。

「借りる」の意味と「借」の成り立ち

「借りる」は、他人の所有物(物、お金、場所など)や能力(人手、知恵など)を、一時的に自分のものとして利用し、後で元通りにして返すことを意味します。行為の主体(自分)が、相手から何かを受け取るアクションですね。

「借」という漢字は、「亻(にんべん)」に「昔」を組み合わせた形声文字です。「昔」の字源には諸説ありますが、もともとは土地の区画に関係し、そこから土地を借り受ける意味が生じたとも言われています。あるいは、「昔」を「積み重ねる」と解釈し、借りたものを返す義務が積み重なる様子を表すという説もあります。

いずれにせよ、「借」は何かを受け取り、返す責任を負うというニュアンスを含んでいます。

「貸す」の意味と「貸」の成り立ち

一方、「貸す」は、「借りる」の全く逆で、自分の所有物や能力を、一時的に他人に利用させ、後で返してもらうことを意味します。行為の主体(自分)が、相手に何かを与えるアクションです。

「貸」という漢字は、「代」と「貝」を組み合わせた形声文字です。「貝」は古代においてお金や財産を意味しました。「代」は代わりのもの、対価を意味します。つまり、「貸」は、自分の財産(貝)を、何らかの対価(代)と引き換えに(あるいは後で返してもらう約束で)相手に与える、という意味合いが元になっています。

「貸りる」はなぜ間違いなのか?

「貸りる」という表記は、「貸す」という動詞の連用形「貸り」に、動詞を作る接尾語「る」が付いた形に見えます。しかし、「貸す」は五段活用の動詞であり、その連用形は「貸し(ます)」または「貸っ(た)」です。「貸り」という活用形は存在しません。

つまり、「貸す」という言葉から「貸りる」という形は文法的に導き出せないのです。

恐らく、「借りる」と「貸す」という反対の意味を持つ言葉があり、どちらも「か(り)る」「か(す)」という音を含むため、「貸す」の方にも「る」をつけて「貸りる」という形が存在するのではないか、と類推してしまった結果生まれた誤用と考えられますね。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

「図書館で本を借りる」「同僚からペンを借りる」「銀行からお金を借りる」のように、自分が何かを受け取る場合は全て「借りる」を使います。「資料を貸りる」や「自転車を貸りてください」といった表現は誤りです。

「借りる」の正しい使い方と、「貸りる」がなぜ間違いなのかを、具体的な例文で確認しましょう。

「借りる」の正しい使い方(ビジネス・日常)

自分が何かを受け取る側になる場合は、全て「借りる」を使います。

【ビジネスシーン】

  • 会議室のプロジェクターを借りる
  • 隣の部署から人手を借りる
  • 取引先から資料を借りる
  • 銀行から事業資金を借りる
  • 皆様のお知恵を借りる

【日常会話】

  • 図書館で本を借りる
  • 友人からゲームソフトを借りる
  • ちょっとお手洗い借りてもいいですか?
  • 猫の手も借りたいほど忙しい。
  • 彼の胸を借りるつもりで試合に臨む。(実力上位の相手に練習台になってもらう)

物だけでなく、人手、知恵、場所、機会など、様々なものを一時的に利用させてもらう際に「借りる」が使われますね。

「貸りる」はNG!間違えやすい使い方

以下のような「貸りる」の表記は、現代の標準語では誤りです。

  • 【NG】参考資料を貸りる
  • 【OK】参考資料を借りる
  • 【NG】ちょっとペンを貸りてもいいですか?
  • 【OK】ちょっとペンを借りてもいいですか?
  • 【NG】自転車を貸りてください。
  • 【OK】自転車を借りてください。(相手に借りることを促す場合)
  • 【OK】自転車を貸してください。(相手に貸すことを依頼する場合)

最後の例のように、「貸してください」と混同して「貸りてください」としてしまうケースも見られますが、これも誤りです。常に「借りる」を使うようにしましょう。

【応用編】似ている言葉「借用」「賃借」との違いは?

【要点】

「借用(しゃくよう)」は「借りる」の硬い表現で、特に金銭や物品を借りる際に使われます。「賃借(ちんしゃく)」は、賃料を支払って物を借りることを意味し、不動産や物品のレンタル契約などで使われます。

「借りる」と似た意味を持つ言葉に「借用(しゃくよう)」と「賃借(ちんしゃく)」があります。これらの言葉との違いも理解しておくと、より適切な表現を選ぶ際に役立ちますよ。

「借用(しゃくよう)」

「借用」は、「借りて用いること」、つまり「借りる」と同じ意味ですが、「借りる」よりも硬い、改まった表現です。日常会話で使うことは少なく、主に契約書や公的な文書、ビジネス上のやり取りなどで使われます。

特に、金銭や物品を借りる場合に限定して使われることが多いですね。「知恵を借用する」とはあまり言いません。

  • 例文:
  • 会社の備品を一時的に借用する。
  • 契約書には、金銭借用に関する条項が記載されている。
  • 借用書に署名捺印をお願いします。

「賃借(ちんしゃく)」

「賃借」は、賃料(家賃やレンタル料など)を支払って、物や不動産などを借りることを意味します。「賃」の字が示す通り、有料であることが前提です。

不動産の賃貸借契約や、物品のリース・レンタル契約などで使われる法律用語・専門用語としての側面が強い言葉です。

  • 例文:
  • アパートの賃借契約を結ぶ。
  • コピー機はリースによる賃借物件です。
  • 土地の賃借権に関するトラブルが発生した。

「借りる」は有料・無料を問わず広く使えますが、「借用」は硬い表現、「賃借」は有料の場合に限定される、という違いがありますね。

「借りる」と「貸りる」の違いを国語学的に解説

【要点】

国語学的には、「借りる」はラ行上一段活用の動詞です。「貸す」はサ行五段活用の動詞であり、その連用形は「貸し(マス接続)」または「貸っ(タ接続)」です。「貸りる」という形は、現代日本語の標準的な動詞活用ルールから逸脱しており、規範的な用法とは認められていません。送りがなの規則からも「借りる」が正当とされます。

「借りる」と「貸りる」の違いは、単なる意味の違いだけでなく、国語学的な動詞の活用や表記のルールからも説明できます。

まず、動詞の活用を見てみましょう。

  • 借りる:ラ行上一段活用動詞
  • 未然形:借り(ない)
  • 連用形:借り(ます)
  • 終止形:借りる
  • 連体形:借りる(とき)
  • 仮定形:借りれ(ば)
  • 命令形:借りろ/借りよ
  • 貸す:サ行五段活用動詞
  • 未然形:貸さ(ない)
  • 連用形:貸し(ます)、貸し(て)、貸し(た → 促音便で 貸っ
  • 終止形:貸す
  • 連体形:貸す(とき)
  • 仮定形:貸せ(ば)
  • 命令形:貸せ

このように、「貸す」の連用形に「貸り」という形は存在しません。「借りる」の連用形「借り」と混同しやすいのかもしれませんが、活用が全く異なりますね。

また、内閣告示の「送りがなの付け方」の通則においても、活用語尾を送るのが基本ルールです。「借りる」は活用語尾が「りる」なので「借りる」と書きます。「貸す」は活用語尾が「す」なので「貸す」と書きます。この規則から見ても、「貸りる」という表記は規範的ではありません。

歴史的には、古い時代の言葉や特定の方言で「貸りる」に近い形が存在した可能性は否定できませんが、現代の共通語・標準語の文法ルールにおいては、「借りる」が唯一正しい形であると言えます。

このような文法的な背景を理解しておくと、「貸りる」がなぜ誤りとされるのか、より深く納得できるのではないでしょうか。

僕がメールで「貸りる」と書いて赤面した新人時代

僕も、社会人になりたての頃、「借りる」と「貸りる」の使い分けで恥ずかしい思いをしたことがあります。

配属された部署で、先輩に業務で使うファイル(物理的な紙のファイルです)の場所を尋ねた時のこと。先輩は「ああ、そのファイルなら今、隣の課の〇〇さんが持っていってるよ。ちょっと借りてきてくれる?」と言いました。

僕は元気よく「はい!」と返事をして、隣の課へ向かいました。そして〇〇さんに「すみません、△△(先輩の名前)から、ファイルを貸りてきてほしいと頼まれました」と言ってしまったんです…

〇〇さんは一瞬「ん?」という顔をしましたが、すぐにファイルを渡してくれました。僕は意気揚々とファイルを持って帰り、先輩に「〇〇さんからファイル、貸りてきました!」と報告しました。

すると先輩は、少し困ったような、でもちょっと笑いをこらえているような顔で言いました。

「お疲れ様。…でもさ、『借りる』だよ。『貸す』のは〇〇さんの方だからね。君は〇〇さんからファイルを『借りた』んだよ。僕の言い方も『借りてきて』だったでしょ?」

僕はその瞬間、顔から火が出るほど恥ずかしくなりました。「借りる」と「貸す」の主体を完全に混同していたんです。先輩が「借りてきて」と言った言葉を、頭の中で勝手に「貸りてきて」と変換してしまっていたんですね…。今思えば、なぜそんな間違いをしたのか不思議なくらいですが、当時は本当に焦りました。

〇〇さんも、僕の言い間違いに気づいていたけど、新人だから指摘せずにいてくれたんだな、と思うと余計に申し訳なく…。

この経験から、言葉を使うときは、その行為の主体(誰が)と方向性(誰から誰へ)をしっかり意識することが大切だと学びました。「借りる」と「貸す」はまさにその典型例ですよね。

それ以来、特にメールや文書など文字に残るコミュニケーションでは、言葉の正確性に一層気をつけるようになりました。あの時の赤面体験は、今でも忘れられない教訓です。

「借りる」と「貸りる」に関するよくある質問

なぜ「貸りる」と間違えやすいのですか?

「借りる」と「貸す」という反対の意味の言葉があり、どちらも「か」から始まるため、混同しやすいと考えられます。特に「貸してください」と「借りてください」の音が似ていることも、誤用を招く一因かもしれません。また、「貸す」の連用形が「貸し」であること、「借りる」の連用形が「借り」であることを正確に理解していないと、間違えやすいでしょう。

方言や古い言葉として「貸りる」は存在しますか?

一部の方言や、古い時代の文献などで「貸りる」という形、あるいはそれに近い表現が使われていた可能性はあります。しかし、現代の共通語・標準語としては明確に誤りとされています。日常会話やビジネス文書など、標準的な日本語を使う場面では避けるべき表記です。

英語で「借りる」はどう表現しますか?

「借りる」に相当する英語は、何を借りるかによって異なります。お金や物を(無料で)借りる場合は “borrow” を使います(例: “Can I borrow your pen?”)。場所や物を有料で借りる(賃借する)場合は “rent”(例: “rent a car”)や “lease”(長期の場合)を使います。人手や知恵を借りる場合は “ask for help” や “get advice” のように表現するのが一般的です。

「借りる」と「貸りる」の違いのまとめ

「借りる」と「貸りる」の違い、もう完璧ですね!

最後に、この記事のポイントを簡潔にまとめておきましょう。

  1. 正誤:「かりる」の正しい表記は「借りる」。「貸りる」は誤り。
  2. 意味:「借りる」は自分が受け取る側、「貸す」は自分が与える側。
  3. 理由:「貸す」は五段活用動詞で、「貸りる」という活用形は存在しない。
  4. 漢字:「借」は借りる側、「貸」は貸す側の視点。
  5. 類語:硬い表現なら「借用」、有料なら「賃借」。

「借りる」と「貸す」は、お金や物のやり取りの基本となる言葉であり、その方向性を間違えるとコミュニケーションに齟齬が生じかねません。特にビジネスシーンでは、正確な言葉遣いが信頼にも繋がりますよね。

これからは自信を持って「借りる」を使いこなしていきましょう。言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、表記が紛らわしい言葉の違いをまとめたページもぜひご覧ください。