「益々ご清栄のこととお慶び申し上げます」「寒さが益々厳しくなりますが…」
ビジネス文書や手紙の挨拶でよく見かける「ますます」という言葉。漢字で書くとき、「益々」と「増々」、どちらを使えばいいか迷った経験はありませんか?
読み方は同じでも、漢字が違うと意味も違うのか気になりますよね。実はこの二つの言葉、「程度」がさらに進むのか、「数量」がさらに増えるのかで使い分けるのが本来の形なんです。この記事を読めば、「益々」と「増々」の本来の意味の違いから、現代での一般的な使われ方、公用文でのルールまでスッキリ理解でき、もう迷うことはありません。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「益々」と「増々」の最も重要な違い
基本的には、物事の程度や度合いが一層進む場合は「益々」、物事の数量や規模がさらに増える場合は「増々」と使い分けるのが本来の形です。ただし、現代では「増々」はあまり使われず、「益々」が両方の意味で広く使われたり、ひらがなで「ますます」と書かれるのが一般的です。
まず、結論からお伝えしますね。
「益々」と「増々」の本来の意味合いを中心とした、最も重要な違いを以下の表にまとめました。
| 項目 | 益々(ますます) | 増々(ますます) |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 以前よりも程度・度合いがいっそう進むさま。いよいよ。さらに。 | 以前よりも数量・規模がいっそう増えるさま。さらに多く。 |
| 焦点 | 程度、状態、レベルの向上・深化・悪化など。 | 数、量、大きさの増加。 |
| ニュアンス | より一層、いよいよ、さらに(質的な変化)。 | さらに多く、もっと(量的な増加)。 |
| 漢字「益」の意味 | ます。ふやす。利益。ためになる。 | ます。ふえる。ふやす。加わる。 |
| 現代での使われ方 | 一般的。程度・数量の両方の意味で広く使われる。常用漢字。 | あまり使われない。「益々」かひらがなで代用されることが多い。常用漢字だが、「増々」の形は慣例的でない。 |
簡単に言うと、寒さが「ますます」厳しくなるのは程度が進むので本来は「益々」、人口が「ますます」増えるのは数量が増えるので本来は「増々」という使い分けになります。
ただし、現代では「増々」という表記はほとんど使われず、「益々」で代用するか、ひらがなで「ますます」と書くのが一般的です。迷ったらひらがな、漢字を使うなら「益々」を選んでおけば、まず問題ないでしょう。
なぜ違う?言葉の意味とニュアンスを深掘り
「益」は満ちてあふれる様子から「利益」「さらに」といった程度が進む意味を持ちます。「増」は土(土)が積み重なる(曽)様子から「ふえる」「加わる」といった数量が増える意味を持ちます。漢字の持つ元々の意味が、「益々」(程度)と「増々」(数量)の使い分けの根拠となっています。
なぜ「益々」と「増々」で本来の意味合いが違うのか、それぞれの漢字が持つ意味を探ると、その理由が見えてきますよ。
「益々」の意味とニュアンス:「程度」が一層進む
「益」という漢字は、「水」が皿(㕣)から満ちてあふれ出る様子を表していると言われています。
そこから、「満ちる」「あふれる」という意味が転じて、「ふえる」「ます」「利益」「ためになる」といった意味を持つようになりました。さらに、「程度がさらに進む」「いよいよ」という意味合いも持つようになります。
「利益」「有益」といった言葉を考えると、単なる量の増加だけでなく、質的な向上や価値の付加といったニュアンスも感じられますね。
このため、「益々」は、物事の状態や程度、度合いが以前よりも一層進む様子を表すのに使われます。「美しさが増す」「関心が高まる」「重要になる」といった、質的な変化や程度の深化を示す文脈で使われるのが本来の形です。
「増々」の意味とニュアンス:「数量」がさらに増える
一方、「増」という漢字は、「土(つちへん)」と「曽」で構成されています。
「曽」は、蒸気を上げる蒸し器の形とも、層状に積み重なる様子とも言われ、「重なる」という意味を持ちます。「土」が重なることから、「土を盛り上げる」「加わる」「ふえる」という意味になりました。
「増加」「増量」「増員」といった言葉からも分かるように、「増」は数や量が具体的にふえることを直接的に示す漢字です。
このため、「増々」は、物事の数量や規模が以前よりも一層増える様子を表すのに使われるのが本来の形です。「人口が増える」「体重が増える」「在庫が増える」といった、量的な増加を示す文脈で使われます。
このように漢字の成り立ちを見ると、「益」が程度の深化、「増」が数量の増加という、本来のニュアンスの違いが理解しやすいですよね。
具体的な例文で使い方をマスターする
「美しさに益々磨きがかかる」(程度)、「観客が増々増える」(数量)のように使い分けるのが本来の形です。しかし、現代では数量の増加にも「益々」を使うことが多く、「観客が益々増える」も間違いとはされません。「増々」の表記自体が稀なため、迷ったら「益々」か「ますます」を使うのが無難です。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
本来の使い分けに基づいた例文と、現代での一般的な使われ方、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
「益々」を使う場面(例文)
物事の程度や状態が一層進む様子を表します。現代では数量の増加にも使われます。
- 秋が深まり、紅葉が益々美しくなってきました。(程度の深化)
- 高齢化社会が進み、介護の重要性が益々高まっている。(程度の向上)
- 先生の指導のおかげで、益々勉学に励みたいと思います。(意欲の程度の向上)
- 益々のご活躍をお祈り申し上げます。(ビジネス文書での定型句)
- 新技術の導入により、生産量が益々増加した。(本来は「増々」だが、現代では「益々」も一般的)
「増々」を使う場面(例文)
物事の数量や規模がさらに増える様子を表します。ただし、現代では使用頻度が低いです。
- イベントの評判が広まり、来場者数が増々増えている。(数量の増加)
- 食欲が旺盛で、体重が増々増加している。(数量の増加)
- 円安の影響で、輸入品の価格が増々上昇している。(数量(価格)の増加)
このように、本来は数量の増加には「増々」が適していますが、これらの例文も現代では「益々」や「ますます」で表現されることがほとんどです。
これはNG!間違えやすい使い方
「増々」を程度の深化に使うのは、本来の意味からすると不自然です。
- 【△/NG】彼女は努力を重ね、増々美しくなった。(程度なので「益々」が本来)
- 【OK】彼女は努力を重ね、益々美しくなった。(または「ますます」)
- 【△/NG】事態は増々深刻になっている。(程度なので「益々」が本来)
- 【OK】事態は益々深刻になっている。(または「ますます」)
ただし、前述の通り、現代では「増々」という表記自体が稀なため、これらの誤用を見かけることは少ないかもしれません。むしろ、本来「増々」が適切な数量増加の場面で「益々」を使うことは、現代では広く許容されています。
重要なのは、「益々」も「増々」も、**「ますます」**という副詞であり、形容詞や動詞を修飾する働きを持つということです。「益々な」「増々な」といった形容動詞のような使い方はしません。
- 【NG】彼の態度は益々だ。
- 【OK】彼の態度は益々悪くなった。
「益々」と「増々」の違いを公的な視点から解説
「益」も「増」も常用漢字です。しかし、文化庁の『公用文における漢字使用等について』では、「増増・益益」のような同じ漢字を重ねる副詞の表記は、原則としてひらがな(「ますます」)で書くことが推奨されています。ただし、「益々」は慣用が認められ、漢字表記も許容されていますが、「増々」は一般的に使われません。新聞などでも「益々」または「ますます」が使われます。
公用文や報道など、より多くの人が目にする文章での表記ルールも確認しておきましょう。
まず、「益」も「増」も「常用漢字表」に含まれている漢字です。
しかし、文化庁が示している「公用文における漢字使用等について(通知)」(平成22年)では、**副詞**の表記について、以下のような指針が示されています。
原則として、ひらがなで書く。ただし、意味の区別や慣用などを考慮して漢字で書くものもある、という考え方です。
そして、同じ漢字を重ねる形の副詞(例:「時時」「色々」「愈愈」など)については、原則ひらがな(「時々」「色々」「いよいよ」)で書くとされています。
このルールに従うと、「益益」も「増増」も、本来はひらがなで「ますます」と書くのが基本となります。
ただし、「益々」については、慣用が定着しているとして、漢字表記も広く認められています。特にビジネス文書の冒頭の挨拶「益々ご清栄のことと~」などは、漢字表記が一般的ですね。
一方で、「増々」という表記は、公用文や新聞などでは一般的に使われません。数量の増加を表す場合でも、「益々」を使うか、ひらがなで「ますます」と表記されます。
結論として、公的な文章や一般的な文章では、「ますます」とひらがなで書くか、漢字を使う場合は「益々」とするのが適切であり、「増々」は避けるべき表記と言えるでしょう。詳しくは文化庁のウェブサイト「公用文における漢字使用等について」もご参照ください。
僕がメールで「増々」と書いて少し恥ずかしかった体験談
数年前、取引先へのメールで、業績が向上していることを伝えようとした時のことです。
「貴社の売上も増々増加しているとのこと、素晴らしいですね!」
と書いたんです。その時は、「売上が増える」=「数量の増加」だから、これは「増々」を使うのが正しいはずだ!と、自信を持って書きました。
ところが、そのメールを送った後、社内の先輩にメールの書き方についてアドバイスをもらう機会があり、そのメールを見せたところ、先輩は少し苦笑いしながら言いました。
「うん、内容は良いんだけど、この『増々』って漢字、最近はほとんど見ないかなぁ。意味としては間違ってないんだろうけど、普通は『益々』を使うか、ひらがなで『ますます』って書くことが多いよ。特にビジネスメールだと、あまり使われない漢字を使うと、ちょっと古風というか、硬い印象に見えちゃうかもしれないね。」
それを聞いて、僕は少し顔が赤くなりました。正しい使い分けにこだわりすぎて、現代の一般的な慣用から外れた表記をしてしまっていたのです。良かれと思って使った漢字が、かえって相手に違和感を与えかねなかったことに気づきました。
もちろん、先輩は「間違いじゃないけどね」とフォローしてくれましたが、言葉の正しさだけでなく、その言葉が現代でどのように使われているか、相手にどう受け取られるかを意識することの重要性を学びました。
それ以来、「ますます」と書くときは、基本的にひらがなを使うか、ビジネス文書などで少し改まった雰囲気にしたい場合に「益々」を使うようにしています。「増々」の出番は、僕の中ではなくなりましたね。
「益々」と「増々」に関するよくある質問
結局、どちらを使えばいいですか? 現代では「益々」とひらがなの「ますます」どちらが推奨されますか?
現代では「増々」はほとんど使われません。本来の意味合い(程度か数量か)に関わらず、「益々」を使うか、ひらがなで「ますます」と書くのが一般的です。公用文の指針ではひらがな表記が原則とされていますが、「益々」も慣用として広く使われています。ビジネス文書など改まった場面では「益々」、それ以外や迷った場合は「ますます」とひらがなで書くのが無難でしょう。
「益々」と「いよいよ」の違いは何ですか?
「益々」は「程度が一層進む」ことを広く表しますが、「いよいよ」は、待ち望んでいたことや、ある段階がついに訪れるというニュアンスが加わります。「いよいよ明日出発だ」「いよいよ本領発揮だ」のように、期待感や最終段階といった意味合いで使われることが多いです。「益々寒くなる」とは言いますが、「いよいよ寒くなる」は少し不自然ですね。
「増々」という漢字表記は完全に間違いですか?
完全に間違いというわけではありません。辞書にも載っていますし、本来は数量の増加を示す意味で使われていました。しかし、現代の一般的な表記としてはほとんど使われず、古風な印象や、場合によっては誤字と捉えられる可能性もあります。そのため、使用は避けるのが賢明です。
「益々」と「増々」の違いのまとめ
「益々」と「増々」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 本来の意味:「益々」は程度の深化、「増々」は数量の増加。
- 漢字のイメージ:「益」は“利益・さらに”、「増」は“加わる・ふえる”。
- 現代での使い方:「増々」はほとんど使われず、「益々」が両方の意味で使われるか、ひらがな「ますます」が一般的。
- 公的な表記:原則ひらがな「ますます」。ただし「益々」は慣用として許容される。「増々」は非推奨。
本来の使い分けを知っておくことは言葉の理解を深める上で有益ですが、実際に使う際には、現代の一般的な用法に従い、「益々」か「ますます」を選ぶのがスムーズなコミュニケーションにつながりますね。
これからは自信を持って、「ますます」を表現していきましょう。言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、表記が紛らわしい言葉の違いをまとめたページもぜひご覧ください。