「労う(ねぎらう)」と「いたわる」。
どちらも相手への思いやりを示す温かい言葉ですが、そのニュアンスや使うべき場面には違いがありますよね。あなたは、この二つの言葉を自信を持って使い分けられていますか?
頑張った部下にかける言葉は?体調が悪そうな同僚にかける言葉は…?と迷うこともあるかもしれません。実はこの二つの言葉、相手の「努力や働き」に注目するのか、相手の「状態や心身」に注目するのかという点で、使い分けのポイントがあるんです。
この記事を読めば、「労う」と「いたわる」のそれぞれの意味や語源、具体的な使い分け、さらには目上の人への使い方や類語との違いまでスッキリ理解できます。あなたのコミュニケーションが、より相手の心に寄り添うものになるはずですよ。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「労う」と「いたわる」の最も重要な違い
基本的には、相手の努力や功績に対して感謝や慰労を示すのが「労う」、相手の体調や状況を気遣い、大切に扱うのが「いたわる」と覚えるのが簡単です。「労う」は働きに、「いたわる」は状態に焦点を当てます。
まず、結論からお伝えしますね。
「労う」と「いたわる」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | 労う(ねぎらう) | いたわる(労る) |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 努力や骨折りに対して、感謝し、慰めること。 | 弱い立場の人や病人などを大切に扱い、気を配ること。物を大事にする意味も。 |
| 焦点 | 相手の行為・努力・功績。 | 相手の状態・心身・立場。物。 |
| 目的 | 感謝、慰労、評価。 | 配慮、保護、慰安、養生。 |
| 対象 | 主に目下や同等の立場の人(頑張った人)。 | 病人、老人、子供、動物、植物、物など、配慮が必要な対象。目上の人にも心情として使う場合あり。 |
| ニュアンス | 上から下へ、というニュアンスを含むことがある。 | 優しさ、思いやり、慈しみ。 |
| 漢字 | 労う | 労る(「労わる」とも書く) |
一番大切なポイントは、「労う」は頑張りへの感謝、「いたわる」は相手の状態への配慮という点ですね。
プロジェクトを終えた部下には「労い」の言葉を、体調が悪そうな同僚には「いたわり」の言葉をかけるのが自然、というわけです。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「労う」の「労」は労働や努力を示し、功績を讃える意味合い。「いたわる」は「労」という漢字も使いますが、「甚(いた)し+張る」が語源ともされ、弱った状態を気遣う意味合いが中心です。
なぜこの二つの言葉に違いが生まれるのか、漢字の成り立ちや語源を探ると、その根本的なイメージが見えてきますよ。
「労う」の成り立ち:「労」が表す“働きへの感謝”のイメージ
「労う(ねぎらう)」は、「労」という漢字が使われています。
この「労」は、「労働」「勤労」「苦労」といった言葉からも分かるように、「働くこと」「骨を折ること」「努力すること」といった意味を持っています。
そして「労う」という言葉自体は、古くは神様への奉仕に対して感謝し、供物や言葉で報いるといった意味合いで使われていたようです。そこから転じて、人の努力や働き、苦労に対して、感謝の気持ちを表し、慰め、報いるという意味になりました。
つまり、「労う」の根底には、相手の「労力」に対する感謝と評価の気持ちがあるんですね。
「いたわる」の成り立ち:「労る」と「労わる」から見る“心身への配慮”のイメージ
一方、「いたわる」は、漢字では「労る」と書きます。「労わる」と送り仮名をつけることもありますね。
「労う」と同じ「労」という字が使われていますが、語源については異なる説があります。
有力な説の一つは、「甚(いた)し(程度がはなはだしい)」と「張る(気が張る、意地を張る)」が組み合わさった「いたはる」が元で、これが病気になる、体が弱るといった意味になり、そこから「病人の世話をする」「気を配る」という意味に転じたというものです。
また、「労」の字自体にも、「つかれる」「病気になる」という意味があります。そこから、「労る」は疲れたり弱ったりしている対象を大切に扱い、心身を休ませるように配慮するという意味合いを持つようになったとも考えられます。
どちらの説にしても、「いたわる」の核心には、相手の弱った状態や、配慮が必要な状態(病人、老人、子供など)に対する優しさや思いやりがあると言えるでしょう。また、物が傷まないように大切に扱うという意味にも繋がります。
同じ「労」という漢字を使いながらも、「労う」が相手の「働き(プラスの側面)」に焦点を当てるのに対し、「いたわる」は相手の「弱った状態(マイナスの側面、あるいは配慮が必要な状態)」に焦点を当てているのが、面白い違いですね。
具体的な例文で使い方をマスターする
部下の成功を称えるのは「労う」、病気の同僚を気遣うのは「いたわる」です。目上の人に「ご苦労様」の意味で「労う」を使うのは失礼にあたることがあります。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
相手の状況や立場によって使い分けることが大切です。
【OK例文:労う】
- プロジェクトを成功させた部下の努力を労い、食事に連れて行った。
- 遠方への出張から戻った同僚に「お疲れ様」と労いの言葉をかけた。
- 社長が、年末の挨拶で社員一年間の働きを労った。
- 「君の頑張りは評価しているよ」と上司が部下を労った。
【OK例文:いたわる】
- 風邪気味の同僚に「無理しないでね」といたわる言葉をかけた。
- 徹夜続きで疲れている後輩の健康をいたわった。
- 失敗して落ち込んでいる部下を、励ますというよりは優しくいたわってあげたい。
- 長年使ってきた会社の備品を、感謝の気持ちを込めていたわりながら手入れした。
「労う」は、相手の達成したことや努力に対して使われていますね。一方、「いたわる」は、相手の体調や精神状態を気遣う場面で使われています。備品(物)に対しても使えるのが特徴です。
注意点として、「労う」は基本的に目上から目下へ、あるいは同等の立場の人に対して使う言葉です。部下が上司に対して「部長の働きを労います」と言うのは失礼にあたる可能性が高いので注意しましょう。(詳しくはFAQで後述します)
日常会話での使い分け
身近な人や物に対して、自然な気持ちを表す言葉として使われます。
【OK例文:労う】
- 家事を頑張ってくれた妻(夫)を労い、週末は外食することにした。
- 運動会で一生懸命走った子供を労って、頭を撫でてあげた。
- ボランティア活動に参加した友人たちの労を労った。
【OK例文:いたわる】
- 病気の祖母をいたわり、そばで話を聞いてあげた。
- 泣いている子供を優しく抱きしめ、いたわってあげた。
- 傷ついた野良猫をいたわり、動物病院へ連れて行った。
- お気に入りの革靴を、長く使えるようにいたわりながら磨いた。
日常会話でも、「労う」は相手の頑張りに対して、「いたわる」は相手の状態や存在そのものへの配慮として使われているのがわかりますね。特に「いたわる」は、子供や動物、物など、守ってあげたい、大切にしたいという気持ちが強く表れます。
これはNG!間違えやすい使い方
状況に合わない言葉を選ぶと、相手に違和感を与えたり、失礼になったりすることがあります。
- 【NG】病気で休んでいる友人の頑張りを労った。
- 【OK】病気で休んでいる友人をいたわった。
病気で頑張れない状態の人に対して「労う」を使うのは不適切です。相手の体調を気遣う「いたわる」が正しい使い方ですね。「早く良くなってね」という気持ちが伝わります。
- 【NG】定年退職する上司を労った。
- 【OK】定年退職する上司の長年の功績に感謝の言葉を述べた。(あるいは、状況によっては「いたわる」気持ちを持つことも)
前述の通り、部下が上司を「労う」のは基本的に失礼とされます。「ご苦労様でした」という気持ちは、「感謝」の言葉で伝えるのが適切です。もし、長年働き続けた上司の健康を気遣う気持ちがあれば、心の中で「いたわる」気持ちを持つのは自然なことです。
- 【NG】壊れたパソコンを労った。
- 【OK】壊れたパソコンだが、長年使ってきたのでいたわる気持ちで修理に出した。
- 【OK】長年頑張ってくれたパソコンに感謝した。
物は「労う」対象ではありません。大切に扱う、という意味で「いたわる」は使えますが、壊れたことに対して「労う」のは意味が通りませんね。「感謝する」という表現の方が自然かもしれません。
【応用編】似ている言葉「慰める」との違いは?
「慰める(なぐさめる)」は、相手の悲しみや苦しみ、寂しさといったネガティブな感情に寄り添い、それを和らげようとする行為です。「労う」は感謝、「いたわる」は配慮が中心ですが、「慰める」は相手の心の痛みを癒すことに焦点があります。
「労う」や「いたわる」と似た状況で使われそうな言葉に「慰める(なぐさめる)」があります。この違いも理解しておくと、より細やかな感情表現ができますよ。
「慰める」は、悲しんだり、苦しんだり、寂しがったりしている人の気持ちを落ち着かせ、心を安らかにするように働きかけることを意味します。
「労う」が相手の努力や働きへの「感謝・慰労」であり、「いたわる」が相手の状態への「配慮・保護」であるのに対し、「慰める」は相手が抱えている「悲しみ」「苦しみ」「寂しさ」といったネガティブな感情そのものに焦点を当て、それを和らげようとする行為です。
例えば、
- 試験に落ちて落ち込んでいる友人を慰める。
- 失恋して泣いている妹を慰める。
- ペットを亡くして悲しんでいる子供を慰める。
といった使い方になります。
もちろん、頑張った結果が報われずに落ち込んでいる人を「労い」つつ「慰める」こともありますし、病気で辛い思いをしている人を「いたわり」ながら「慰める」こともあります。しかし、言葉の中心的な意味合いとして、「慰める」は相手の心の痛みに寄り添うニュアンスが最も強いと言えるでしょう。
「労う」と「いたわる」の違いを心理・言語学的に解説
心理学的には、「労う」は達成感や承認欲求に関連し、「いたわる」は共感や思いやり、保護欲求に関連します。言語学的には、両語とも「労」を語源に持つ可能性がありますが、「いたわる」は「甚(いた)し」からの派生説もあり、意味が分化してきたと考えられます。
「労う」と「いたわる」の違いは、心理学的、言語学的な観点からも考察することができます。
心理学的な観点から見ると、「労う」という行為は、相手の達成感や自己肯定感を高め、承認欲求を満たす効果があると考えられます。努力が認められ、感謝されることで、人は報われたと感じ、次のモチベーションにつながります。これは、社会的な報酬(褒め言葉、感謝、評価など)が行動を強化するという学習理論の側面も持っていますね。
一方、「いたわる」という行為は、共感(Empathy)や思いやり(Compassion)といった感情と深く結びついています。相手の苦痛や弱さを理解し、それを和らげよう、守ろうとする気持ちの表れです。特に、自分より弱い立場にある対象(子供、病人、動物など)に対しては、保護欲求のような本能的な感情も関係しているかもしれません。
言語学的な観点から見ると、前述の通り、「労う」は「労働」「苦労」の「労」から派生し、努力に対する報奨・慰安の意味合いが明確です。
「いたわる」も「労る」と書くことから、「労」との関連が指摘されますが、「甚(いた)し+張る」という語源説も有力です。もし後者が正しければ、「労う」とは全く異なる語源を持つことになります。仮に「労」が共通の語源だとしても、「労」自体が持つ「骨を折る」意味と「疲れる、病む」意味から、それぞれ「労う(働きを評価する)」と「いたわる(弱った状態を気遣う)」へと意味が分化していったと考えることができます。
言葉の意味が歴史の中で変化し、細分化していく過程が、この二つの言葉の違いにも表れていると言えるでしょう。日本語の豊かさを感じさせる一例ですね。
僕が「労う」つもりが「いたわる」べきだった失敗談
あれは、僕がまだチームリーダーになりたての頃の話です。部署内で大きなプレゼンがあり、後輩のB君が資料作成の中心メンバーとして、連日遅くまで頑張ってくれていました。
プレゼンは無事に成功し、クライアントからも高い評価を得ることができました。僕はリーダーとして、B君の頑張りをみんなの前で称えたいと思い、翌日の朝礼で「B君、昨日のプレゼン資料、本当に素晴らしかった。連日の頑張りに感謝する。ご苦労様!」と、彼を労う言葉をかけました。
ところが、B君の反応は思ったより鈍く、笑顔もありません。「ありがとうございます…」と力なく答えるだけでした。僕は「あれ?もっと喜んでくれると思ったのに…」と少し拍子抜けしたのを覚えています。
その日の午後、別の同僚から「B君、昨日から体調が悪そうだよ。プレゼン前も無理してたみたいだし…」と聞かされました。そこで初めて、僕は自分の言葉が的外れだったことに気づいたのです。
B君は、確かにプレゼン成功のために多大な貢献をしてくれましたが、その代償として心身ともに疲れ切っていたのかもしれません。彼がその時必要としていたのは、功績を称える「労い」の言葉以上に、彼の体調や頑張りすぎた状態を気遣う「いたわり」の言葉だったのではないでしょうか。
「プレゼン、大変だったね。よく頑張ったけど、少し顔色が悪いみたいだ。今日は無理せず、早めに休んでね」
もし、そんな風に声をかけていたら、B君はもっと安心して、自分の頑張りが報われたと感じてくれたかもしれません。
この経験から、僕は相手を評価したり感謝したりする前に、まず相手の状態をよく観察し、その状況に合った言葉を選ぶことの大切さを学びました。「労う」と「いたわる」は、どちらも相手を思う気持ちから出る言葉ですが、その焦点を間違えると、せっかくの思いやりが相手に響かないどころか、時には負担に感じさせてしまうことすらあるのだと痛感した出来事でした。
「労う」と「いたわる」に関するよくある質問
目上の人に「労う」や「いたわる」を使ってもいいですか?
「労う」は、基本的に目上から目下、または同等の立場の人に対して使う言葉です。部下が上司に「ご苦労様です」の意味で使うのは失礼にあたるとされています。感謝の気持ちは「ありがとうございます」などで伝えましょう。「いたわる」は、相手の状態を気遣う気持ちなので、目上の人に対して心の中で「いたわる」気持ちを持つことは自然ですが、言葉として直接「〇〇部長をいたわる」のように使うのは、相手を弱い立場と見ているような印象を与えかねず、避けた方が無難です。「お体をお大事になさってください」「ご無理なさらないでください」といった表現を使うのが良いでしょう。
ペットや物に対しても使えますか?
「いたわる」は使えます。「労う」は使えません。「労う」は相手の意思を持った努力や働きに対して使う言葉なので、動物や物には適用されません。「いたわる」は、弱い存在や大切にすべき対象への配慮を示す言葉なので、「老犬をいたわる」「古い道具をいたわる」のように使うことができます。
英語ではそれぞれ何と言いますか?
「労う」に近い表現としては、”appreciate someone’s efforts”(誰かの努力に感謝する)、”reward someone for their hard work”(誰かの頑張りに報いる)、”thank someone for their trouble”(誰かの骨折りに感謝する)などがあります。「いたわる」に近い表現としては、”care for”(世話をする、気遣う)、”be kind to”(親切にする)、”look after”(面倒を見る)、”treat gently”(優しく扱う)などが状況に応じて使えます。
「労う」と「いたわる」の違いのまとめ
「労う」と「いたわる」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 焦点の違い:「労う」は相手の行為・努力・功績に焦点を当て、感謝や慰労を示す。「いたわる」は相手の状態・心身・立場に焦点を当て、配慮や保護を示す。
- 漢字と語源:「労う」は「労(働き)」に感謝する意。「いたわる(労る)」は「労(疲れ・病)」を気遣う意、または「甚し+張る」から派生した言葉とも。
- 対象の違い:「労う」は主に目下や同等の頑張った人。「いたわる」は配慮が必要な対象(病人、老人、子供、動物、物など)。
- 目上の人への使用:「労う」は基本的にNG。「いたわる」も直接的な表現は避け、「お大事に」などの言葉を選ぶ。
- 「慰める」との違い:「慰める」は相手の悲しみや苦しみといった感情に寄り添う点に違いがある。
これらの違いを理解し、相手の状況や立場、そして自分の気持ちに最も合った言葉を選ぶことで、あなたの思いやりがより深く伝わるはずです。温かいコミュニケーションのために、ぜひ意識してみてくださいね。
言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、漢字の使い分けの違いをまとめたページもぜひご覧ください。