「プロトタイプ」と「試作品」、どちらも製品開発の初期段階で作られるもの、というイメージがありますよね。
でも、デザインレビューや開発会議で、「今回のプロトタイプの目的は…」「試作品の評価結果は…」といった会話が飛び交うと、「あれ、この二つ、厳密にはどう使い分けるんだ?」と迷ってしまうことはありませんか?
実はこの二つの言葉、「機能や概念を検証する原型」なのか、「量産や評価のために試しに作った製品」なのかで、その目的とフェーズに明確な違いがあるんです。
この記事を読めば、「プロトタイプ」と「試作品」それぞれの意味や語源、具体的な使い分け、さらには「モックアップ」や「サンプル」といった類義語との違いまでスッキリ理解できます。もう開発現場でのコミュニケーションで迷うことはありません。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「プロトタイプ」と「試作品」の最も重要な違い
基本的には、機能や設計思想の検証・改善を目的とした「原型」が「プロトタイプ」、量産前の検証や市場評価のために「試しに作った製品」全般が「試作品」と覚えるのが簡単です。「プロトタイプ」は「試作品」の一種ですが、特に開発の初期段階での検証モデルを指すことが多いです。
まず、結論からお伝えしますね。
「プロトタイプ」と「試作品」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | プロトタイプ (Prototype) | 試作品 (Trial Product) |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 原型、モデル、試作機(特に機能・概念検証用) | 試しに作った製品(全般) |
| 主な目的 | 機能・操作性・設計思想の検証、フィードバック収集、仕様決定 | 量産性の検証、品質評価、耐久試験、市場テスト |
| 開発フェーズ | 企画・設計・開発の初期 | 開発初期から量産準備まで(広範) |
| 形態 | ラフな模型、動作モデル、画面遷移図、簡易実装品など | プロトタイプ、モックアップ、量産試作機(ES, CS, PS)などを含む |
| 包含関係 | 「試作品」の一種 | 「プロトタイプ」を含む、より広範な概念 |
一番大切なポイントは、「試作品」という大きな枠組みの中に、「プロトタイプ」や「モックアップ」などが含まれる、という関係性ですね。
ただし、一般的に「プロトタイプ」と言う場合は「機能や概念を検証するための初期の原型」を指し、「試作品」と言う場合は「量産化を前提としたテスト製造品」を指す、というように目的で使い分けられることが多いです。
なぜ違う?言葉の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「プロトタイプ」はギリシャ語の「protos(最初の)+ typos(型)」が語源で、「最初の型=原型」が核心。「試作品」は日本語で「試(ため)しに」「作(つく)った」「品(もの)」を意味し、試験的に製造されたもの全般を指す広い言葉です。
この二つの言葉が持つ意味の範囲やニュアンスの違いは、それぞれの言葉の成り立ちを探ることで、より深く理解することができますよ。
「プロトタイプ」の成り立ち:「原型」が語源
「プロトタイプ(prototype)」の語源は、ギリシャ語の「prōtotypon(プロトテュポン)」に遡ります。これは、「prōtos(プロートス)=最初の、原型」と、「typos(テュポス)=型、モデル、刻印」が組み合わさった言葉です。
つまり、そのものずばり「最初の型」というのが「プロトタイプ」の核心的なイメージです。製品やシステムのアイデアを具現化し、その機能、設計、操作性などが意図通りに働くかどうかを検証・改善するために作られる「原型」を指します。
「試作品」の成り立ち:「試しに作る」日本語
一方、「試作品(しさくひん)」は、日本語の「試(ため)す」+「作る」+「品物」という漢字の組み合わせからも分かる通り、「試験的に作ってみた品物」全般を指す、非常に広い概念です。
「プロトタイプ」のように機能検証のために作るものも「試作品」ですし、後述する「モックアップ」のように外観デザインを確認するために作る模型も「試作品」、さらに量産ラインでうまく作れるかテストするために製造するもの(量産試作品)も「試作品」です。
つまり、「プロトタイプ」が「何のために作るか(=機能検証)」に焦点を当てた言葉であるのに対し、「試作品」は「どのように作られたか(=試しに)」に焦点を当てた、より包括的な言葉なんですね。
具体的な例文で使い方をマスターする
開発現場では「新機能のプロトタイプ(動く模型)でユーザビリティをテストする」「金型が完成したので試作品(量産試作)を100個製造する」のように使い分けます。ITでは「画面遷移のプロトタイプ(クリックできる模型)」、量産前のテスト版を「試作品(α版、β版)」と呼ぶことがあります。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。開発現場やIT分野での使い方、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
製造業・開発現場での使い分け
製品開発のフェーズによって、言葉の使い分けが意識されます。
【OK例文:プロトタイプ】
- 3Dプリンターで新機構のプロトタイプを出力し、動作を検証した。
- このプロトタイプは、あくまで操作感を試すためのもので、デザインは未完成です。
- エンジニアが、コア機能だけを実装したラフなプロトタイプを製作した。
機能検証、動作確認、操作感のテストなど、設計の妥当性を確認するための「原型」として使われていますね。
【OK例文:試作品】
- 量産化に向けた最終試作品が完成し、耐久試験が開始された。
- 新しい金型で作った試作品をチェックし、精度の問題を洗い出す。
- 顧客に評価してもらうため、いくつかの試作品(デザインモックや機能モデル)を送付した。
- この試作品は、あくまで外観を確認するためのもので、動きません。(=モックアップ)
量産テスト、耐久試験、顧客評価など、より製品版に近い段階や、試しに作られた様々な段階のモデルを指して「試作品」が使われています。
IT・ソフトウェア開発での使い分け
IT分野では「プロトタイプ」が非常に重要な役割を果たします。
【OK例文:プロトタイプ】
- Figma(デザインツール)を使って、クリックできる画面プロトタイプを作成した。
- ペーパープロトタイプ(紙芝居のようなもの)で、ユーザーの操作フローに問題がないか検証した。
- このプロトタイプは、実際のデータベースには接続されていません。
画面遷移や操作フローの検証など、実際にコーディングする前に設計の妥当性を確認するための「動く模型」として「プロトタイプ」が使われます。
【OK例文:試作品】
- 関係者限定で配布するアルファ版は、一種の試作品と言える。
- 一般公開前のベータ版(試作品)で、ユーザーからのフィードバックを募集する。
ソフトウェア開発の文脈で「試作品」という言葉が使われることは「プロトタイプ」に比べて少ないかもしれませんが、アルファ版やベータ版のように、テストや評価を目的として提供されるバージョンは、広義の「試作品」に該当しますね。
これはNG!間違えやすい使い方
意味の範囲や目的を混同すると、誤解を招くことがあります。
- 【NG】 量産ラインで製造した最初の100個を「プロトタイプ」と呼ぶ。
- 【OK】 量産ラインで製造した最初の100個を「試作品(量産試作品、初期ロット)」と呼ぶ。
「プロトタイプ」は通常、量産ラインで作られる前の、設計・機能検証モデルを指します。量産ラインでのテスト品は「試作品」や「量産試作(PS: Production Sample)」などと呼ぶのが適切です。
- 【NG】 新製品の試作品(コンセプト検証用の模型)が、デザイン賞を受賞した。
- 【OK】 新製品のプロトタイプ(コンセプト検証用の模型)が、デザイン賞を受賞した。
コンセプト検証用の模型は、まさに「プロトタイプ」の役割です。「試作品」でも間違いではありませんが、「プロトタイプ」と言った方が、その目的や初期段階のモデルであることが明確に伝わります。
【応用編】似ている言葉「モックアップ」「サンプル」との違いは?
「モックアップ」は見た目(デザイン)を検証するための実物大模型で、機能は重視しません。「サンプル」は「見本」であり、品質やデザインを確認するための代表的な一個を指します。「プロトタイプ」は機能検証、「試作品」は量産検証、「モックアップ」は外観検証、「サンプル」は見本、と目的が異なります。
「プロトタイプ」や「試作品」と関連して、「モックアップ」や「サンプル」という言葉もよく使われます。これらの違いも明確にしておきましょう。
「モックアップ(Mockup)」との違い
「モックアップ」は、主に外観(デザイン、色、形、サイズ感)を確認・検証するために作られる、実物大(または原寸)の模型を指します。
「プロトタイプ」が「機能・動作」を検証するのに対し、「モックアップ」は「見た目」を検証するのが主な目的です。そのため、モックアップは実際には動作しないことが多いです。(例:スマートフォンの外側だけを忠実に再現した模型)
ただし、IT分野では、Webサイトやアプリの完成イメージ(見た目)を忠実に再現したデザインカンプを「モックアップ」と呼ぶこともあります。これも広義の「試作品」の一種ですね。
「サンプル(Sample)」との違い
「サンプル」は、「見本」「標本」を意味します。製品全体の代表として、あるいは製品の一部として、品質、色、質感、デザインなどを確認してもらうために提示・配布されるものです。
「試作品」が量産可能かどうかをテストするために作られるのに対し、「サンプル」は既に量産されている(または量産が決定している)製品の「見本」として使われることが多いです。(例:化粧品の試供品、生地のサンプル帳)
製造業の開発フェーズで使われるES (Engineering Sample), CS (Commercial Sample), PS (Production Sample) といった「サンプル」は、「試作品」としての性格を強く持ちます。
「プロトタイプ」と「試作品」の違いを製造業の専門家視点で解説
製造業の専門家は、「プロトタイプ」を設計・開発フェーズにおける「機能・概念検証モデル」と厳密に定義します。一方、「試作品」は「生産準備・製造フェーズ」で用いられる言葉として区別します。試作(Trial Production)には多くの段階があり、プロトタイプもその初期段階の試作品に含まれますが、一般に「試作品」と言う場合、量産化に向けた製造テスト品(ES, CS, PSサンプルなど)を指すことが多いです。
製造業の開発・生産現場の専門家の視点から見ると、「プロトタイプ」と「試作品」は、開発プロセスにおける異なるフェーズと目的を示す言葉として、より厳密に使い分けられます。
「プロトタイプ」は、主に「設計・開発フェーズ」で使われます。設計者が頭の中にあるアイデアや設計図が、意図した通りに機能するか、操作性はどうか、基本的な概念が成立するかを検証するために作られる「原型」です。素材や製造方法は最終製品と異なることも多く、3Dプリンターや手作業で1個か数個だけ作られることも珍しくありません。目的はあくまで「設計の検証と改善」です。
一方、「試作品」という言葉は、より広く「試しに作るもの」全般を指しますが、製造現場では特に「生産準備・製造フェーズ」での検証モデルを指して使われることが多いです。製品開発は一般的に、以下のような段階的な試作フェーズを経ます。
- EVT (Engineering Verification Test) / ES (Engineering Sample):設計検証段階。設計図通りに機能するかを検証する試作品。プロトタイプに近い段階です。
- DVT (Design Verification Test) / CS (Commercial Sample):設計・デザイン検証段階。量産に近い部品や工程で作り、デザインや機能、信頼性などを総合的に検証する試作品。
- PVT (Production Verification Test) / PS (Production Sample):生産・量産検証段階。実際の量産ラインを使い、定められた品質とコスト、スピードで製造できるかを最終検証するための試作品。
このように、専門的には「試作品」は複数の段階を含みます。「プロトタイプ」は主にEVT段階に近い設計検証のための「試作品」と言えますが、一般的に「試作品」と言うと、DVTやPVT段階の、より量産に近いモデルを指すことが多いのです。
したがって、専門家は「どの段階の、何のための試作品なのか」を明確にするために、「プロトタイプ」「モックアップ」「ESサンプル」「量産試作品」といった言葉を厳密に使い分けています。
僕が「プロトタイプ」のつもりで「試作品」を依頼して失敗した体験談
これは僕がまだWebディレクターとして駆け出しだった頃、アプリ開発のプロジェクトで起こった認識のズレの話です。
新しいアプリの企画が通り、僕はエンジニアチームに「来週のクライアント定例までに、この機能のプロトタイプを作ってください!」と依頼しました。
僕の頭の中にあったのは、FigmaやAdobe XDのようなデザインツールで作った、見た目と画面遷移だけが確認できる「クリックできるモックアップ」でした。クライアントに「こんな感じで動きますよ」とイメージを掴んでもらうための、いわば「見た目検証用プロトタイプ」のつもりだったんです。
そして定例前日。エンジニアリーダーのBさんから「できました!」と連絡が。見せてもらうと、それは簡易的ではあるものの、実際にデータが登録でき、ロジックが動く「簡易実装版」でした。
僕は「すごい!もう動くんですね!」と喜んだ半面、「あれ?デザインはまだ仮のままだ…」と少し戸惑いました。一方、Bさんは「はい、言われた通り、機能検証できるプロトタイプとして、ロジック部分を組み込んでおきました。デザイン適用はこれからですよね?」と。
ここで認識のズレが発覚しました。僕は「見た目・遷移の検証」が目的のプロトタイプを、エンジニアのBさんは「機能・ロジックの検証」が目的のプロトタイプを想像していたのです。
Bさんからすれば、それは立派な「プロトタイプ」であり、開発初期の「試作品」でした。しかし、僕がクライアントに見せたかったのは、デザインが当たった状態の「モックアップに近いプロトタイプ」…。結局、その定例では機能面は説明できましたが、デザインイメージは別途説明する必要があり、少しチグハグなプレゼンになってしまいました。
この経験から、「プロトタイプ」という言葉が指す範囲は広く、人によって解釈が異なることを痛感しました。「何のための(機能検証?外観検証?遷移検証?)」プロトタイプなのか、その目的とレベル感(どこまで作るか)を具体的に共有しないと、大きな手戻りや認識のズレが発生するのだと学びました。それ以来、「クリックできるモックアップレベルで」とか「データベースと連携する機能検証プロトタイプを」のように、必ず目的とレベル感を添えて依頼するようにしています。
「プロトタイプ」と「試作品」に関するよくある質問
Q. 結局、「試作品」は「プロトタイプ」を含むのですか?
A. はい、広義には「試作品(試しに作る製品)」が「プロトタイプ(機能検証の原型)」を含みます。プロトタイプは、数ある試作品の中でも、特に開発の初期段階で作られる、機能や概念を検証するためのモデルを指すことが多いです。文脈によっては、「試作品」が量産前のテスト品のみを指し、「プロトタイプ」と区別されることもあります。
Q. ソフトウェア開発の「プロトタイピング」とは何ですか?
A. ソフトウェア開発における「プロトタイピング」とは、開発の早い段階で簡易的な動作モデル(プロトタイプ)を作成し、それをユーザーやクライアントに見せてフィードバックを得る、というサイクルを繰り返す開発手法のことです。実際に動くもの(あるいは動くように見えるもの)を早期に共有することで、仕様の認識ズレを防ぎ、手戻りを減らす目的で行われます。
Q. 「モックアップ」と「プロトタイプ」が混同されます。
A. 伝統的には、「モックアップ」は外観・デザイン(見た目)の検証が目的で、機能は持たない模型を指し、「プロトタイプ」は機能・動作の検証が目的で、実際に動く模型を指す、と区別されます。しかし、現代のWeb・アプリ開発では、Figmaなどのツールで見た目を忠実に再現し、かつ画面遷移(クリックで動く)も可能な「プロトタイプ」を作ることが多く、両者の境界は曖昧になりつつあります。「クリックできるモックアップ」や「インタラクティブプロトタイプ」などと呼ばれることもありますね。
「プロトタイプ」と「試作品」の違いのまとめ
「プロトタイプ」と「試作品」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 核心的な違いは目的とフェーズ:「プロトタイプ」は主に設計・開発初期の「機能・概念検証」が目的の「原型」。「試作品」は量産準備フェーズでの「製造・品質検証」なども含む、「試しに作った製品」全般を指す広い言葉。
- 包含関係:「プロトタイプ」は、「試作品」という大きなカテゴリに含まれる初期段階のモデル。
- 語源イメージ:「プロトタイプ」は「最初の型」、「試作品」は「試しに作った品」。
- IT分野でのプロトタイプ:画面遷移や操作フローを検証するための「動く模型」(モックアップに近いものも含む)を指すことが多い。
- 類義語との違い:「モックアップ」は外観・見た目の検証が目的(機能なし)、「サンプル」は品質や色を確認するための「見本」。
- コミュニケーションの注意点:単に「プロトタイプ」と言うだけでは認識ズレの可能性あり。「何のための」「どのレベルの」プロトタイプかを具体的に共有することが重要。
これらの違いを理解しておけば、開発プロジェクトや制作の現場で、より正確なコミュニケーションが取れるようになりますね。
言葉の定義をチームで揃えておくことが、スムーズなプロジェクト進行の鍵となります。自信を持って使い分けていきましょう。カタカナ語・外来語の使い分けについてさらに知りたい方は、カタカナ語・外来語の違いをまとめたページもぜひご覧ください。