「新興国」と「発展途上国」の違いとは?経済成長で見分けるポイント

「新興国(しんこうこく)」と「発展途上国(はってんとじょうこく)」、ニュースや新聞でよく目にするけれど、その違いを正確に説明できますか?

なんとなく経済的に成長している国かな?くらいのイメージかもしれませんね。

この二つの言葉は、国の経済的な発展段階を示す際に使われますが、「発展途上国」が経済開発の度合いが低い国々を広く指すのに対し、「新興国」はその中でも特に急速な経済成長を遂げている国々を指すという違いがあります。この記事を読めば、「新興国」と「発展途上国」の定義や使われ方、そして「後発開発途上国」との違いまでスッキリ理解でき、国際ニュースへの理解も深まりますよ。

それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「新興国」と「発展途上国」の最も重要な違い

【要点】

「発展途上国」は、先進国と比較して経済開発の水準が低い国々を指す広範なカテゴリーです。一方、「新興国」は、発展途上国の中でも、近年著しい経済成長を遂げ、国際経済における存在感を増している国々を指します。つまり、新興国は発展途上国の一部と考えることができますが、特に「成長性」に焦点が当てられた区分です。

まず、結論からお伝えしますね。

「新興国」と「発展途上国」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目 新興国 (Emerging Economies/Markets) 発展途上国 (Developing Countries/Economies)
中心的な意味 発展途上国の中でも、急速な経済成長を遂げている国々。 先進国に比べ、経済開発の水準が相対的に低い国々全般。
経済成長率 一般的に高い 国によって様々だが、新興国ほど高くはない場合が多い。停滞している国も含む
市場の魅力 高い成長性から、投資対象として注目されることが多い。 市場規模や成長性は様々。開発援助の対象となる国が多い。
範囲・関係性 発展途上国の一部。より限定的なカテゴリー。 広範なカテゴリー。新興国や後発開発途上国を含む場合がある。
代表例 BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)、VISTA、NEXT11など。 アジア、アフリカ、ラテンアメリカなどの多くの国々。
定義 明確な国際的定義はない。IMF、世界銀行、証券会社などが独自の基準で分類。 明確な国際的定義はない。国連、世界銀行、OECD/DACなどが独自の基準やリストを持つ。

重要なのは、どちらの言葉も世界共通の厳密な定義があるわけではないということです。どの国を「新興国」や「発展途上国」とするかは、文脈や分類する機関(IMF、世界銀行、証券会社など)によって異なる場合があります。

イメージとしては、「発展途上国」という大きなグループの中に、「新興国」という特に元気の良い成長株グループがある、と捉えると分かりやすいかもしれませんね。

なぜ違う?言葉の意味と成り立ちからイメージを掴む

【要点】

「新興国」は「新たに興(おこ)る国」であり、経済的な勢いや成長のダイナミズムを強調する言葉です。「発展途上国」は「発展の途上にある国」であり、先進国に至るまでのプロセスや現状の開発段階を示す、より中立的で広範な言葉です。

なぜこの二つの言葉が使い分けられるようになったのでしょうか? 言葉の意味や成り立ちを探ると、それぞれの言葉が持つニュアンスが見えてきます。

「新興国」とは:「新たに興る」経済成長が著しい国

「新興国」は、「(しん)」と「(こう)」という漢字から成り立っています。

「新」は「あたらしい」、「興」は「おこる」「さかんになる」という意味を持ちます。

つまり、「新興国」とは、「新たに勢いよく興ってきた国」というイメージを持つ言葉です。特に、経済的な側面、つまり急速な経済成長や市場の拡大に焦点が当てられています。

英語では “Emerging Economies” や “Emerging Markets” と表現され、”Emerging”(出現する、台頭する)が示すように、まさに国際経済の舞台に新たに登場し、存在感を増している国々というダイナミックなニュアンスを含んでいます。投資の世界でよく使われるのは、その成長性に注目が集まっているからですね。

「発展途上国」とは:「発展の途上にある」広範な国々

一方、「発展途上国」は、「発展(はってん)」の「途上(とじょう)」にある「(くに)」と書きます。

「発展」は「物事が進歩し、勢いが盛んになること」、「途上」は「目的へ向かう途中」を意味します。

つまり、「発展途上国」とは、経済的な発展を目指しているプロセスの途中にある国々を広く指す言葉です。かつて使われていた「後進国」や「低開発国」といった言葉が持つ上下関係や否定的な響きを避け、より中立的な立場から開発の段階を示すために使われるようになりました。

英語では “Developing Countries” や “Developing Economies” と表現されます。この言葉は、「新興国」のように必ずしも急速な成長を伴っているとは限らず、経済成長が停滞している国や、貧困などの課題を多く抱える国々も含む、非常に広範なカテゴリーを示しています。政府開発援助(ODA)の対象国リストなどでよく見られるのは、開発支援の必要性を示す文脈で使われることが多いからです。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

経済成長に焦点を当てる場合は「新興国の市場拡大」、開発支援や貧困問題に触れる場合は「発展途上国の食糧問題」のように使い分けます。「発展途上国の経済は全て停滞している」という表現は誤りであり、「新興国は先進国である」というのも間違いです。

言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。

どのような文脈で使い分けられるのか、見ていきましょう。

国際ニュースや経済レポートでの使い分け

経済成長の度合いや文脈によって使い分けられます。

【OK例文:新興国】

  • 新興国市場への投資は高いリターンが期待できる一方、リスクも伴う。
  • BRICsをはじめとする新興国の台頭により、世界経済の構造が変化している。
  • この企業は、新興国における中間層の拡大をターゲットに事業を展開している。

【OK例文:発展途上国】

  • 多くの発展途上国では、依然として貧困や飢餓が深刻な課題となっている。
  • 政府は発展途上国への経済協力(ODA)を継続する方針を示した。
  • 気候変動の影響は、インフラの脆弱な発展途上国においてより深刻である。
  • 発展途上国の中には、近年目覚ましい経済成長を遂げる新興国も含まれる。(両者を併用する例)

日常会話や学習での使い分け

広い意味では「発展途上国」、特に経済成長が著しい場合は「新興国」と使い分けると良いでしょう。

【OK例文:新興国】

  • 夏休みに訪れた東南アジアの新興国は、活気にあふれていた。
  • レポートのテーマとして、新興国のデジタル化の進展について調べる。

【OK例文:発展途上国】

  • ボランティア活動で発展途上国の子供たちの教育支援に携わった。
  • 世界にはまだ十分な医療を受けられない発展途上国がたくさんあることを学んだ。

これはNG!間違えやすい使い方

範囲や意味合いを混同すると、誤った認識につながる可能性があります。

  • 【NG】アフリカの発展途上国は、どこも経済が停滞している。
  • 【OK】アフリカには多くの発展途上国が含まれるが、中には近年高い経済成長を示す国(新興国と見なされる場合もある)もある。

「発展途上国」は非常に多様であり、すべての国の経済が停滞しているわけではありません。

  • 【NG】急速に経済成長した中国は、もはや発展途上国ではなく、先進国だ。
  • 【OK】中国は著しい経済成長を遂げた新興国の代表例だが、一人当たりGDPなどの指標では依然として発展途上国に分類されることもある。(または、先進国と発展途上国の中間に位置すると見なされることもある)

国の分類は単純ではなく、経済規模が大きい新興国であっても、一人当たり所得や国内格差などの観点から、依然として発展途上国としての側面を持つ場合があります。

【応用編】似ている言葉「後発開発途上国(LDC)」との違いは?

【要点】

「後発開発途上国(LDC)」は、発展途上国の中でも、特に開発が遅れており、経済的・社会的に脆弱な国々を指す国連の定めるカテゴリーです。所得水準、人的資源、経済的脆弱性の3つの基準に基づいて認定され、国際社会からの特別な支援の対象となります。「発展途上国」>「新興国」とは別の軸で、「発展途上国」>「後発開発途上国」という関係性になります。

「新興国」「発展途上国」と関連して、「後発開発途上国(こうはつかいはつとじょうこく)」、略して「LDC(Least Developed Countries)」という言葉も重要です。

これは、発展途上国の中でも、特に開発の遅れが深刻で、構造的な問題を抱える国々を指す、国連が定める特定のカテゴリーです。

LDCの認定は、以下の3つの基準に基づいて、国連経済社会理事会の審議を経て、国連総会の承認により決定されます。

  1. 所得基準:一人当たりの国民総所得(GNI)が低いこと。
  2. 人的資源基準:栄養不足人口の割合、5歳以下死亡率、中等教育就学率、成人識字率などの指標が低いこと。
  3. 経済的脆弱性基準:自然災害や貿易における不利な状況など、経済が外部からの影響を受けやすいこと。

これらの基準を満たす国々は、国際社会から貿易上の優遇措置や開発援助の優先的な配分など、特別な配慮を受ける対象となります。

「発展途上国」が非常に広範な国々を指すのに対し、「LDC」は明確な基準に基づいて認定された、より限定的で、かつ最も支援が必要とされる国々のグループです。「新興国」が経済成長に焦点を当てた区分であるのに対し、「LDC」は開発の遅れや脆弱性に焦点を当てた区分と言えますね。

関係性を整理すると、「発展途上国」という大きな枠組みの中に、経済成長著しい「新興国」のグループと、特に開発が遅れている「LDC」のグループが存在する、とイメージすると理解しやすいでしょう。(ただし、新興国とLDCが明確に排他的な関係にあるわけではありません)

「新興国」と「発展途上国」の違いを経済学的な視点から解説

【要点】

経済学では、国の発展段階を測る指標として、一人当たりGDPや産業構造(第一次〜第三次産業の比率)、人的資本、インフラ整備状況などが用いられます。「発展途上国」はこれらの指標が相対的に低い国々を広く指します。「新興国」は、特に工業化の進展や市場経済への移行により、高い経済成長を実現し、所得水準が中所得国のレベルに達している、または急速に近づいている国々として特徴づけられます。

経済学の観点から見ると、「新興国」と「発展途上国」は、国の経済発展の段階や特徴を示す言葉として捉えられます。

発展途上国」は、一般的に一人当たりGDP(国内総生産)やGNI(国民総所得)が低い水準にあり、産業構造としては第一次産業(農業、鉱業など)への依存度が高い傾向が見られます。また、教育や医療の水準(人的資本)が十分でなかったり、道路や電力などのインフラ整備が遅れていたりすることも特徴として挙げられます。

一方、「新興国」は、これらの発展途上国の中から、いくつかの特徴によって区別されます。最も重要なのは、持続的に高い経済成長率を達成していることです。これは多くの場合、工業化の進展(製造業の発展)や、計画経済から市場経済への移行、積極的な外国からの投資誘致などによってもたらされます。その結果、一人当たり所得が向上し、世界銀行の分類でいう「中所得国」(低中所得国または高中所得国)のレベルに達している国が多く含まれます。

また、新興国は国内市場の規模が大きく、中間所得層が増加していることも特徴です。これにより、国内消費が経済成長の新たな牽引役となることが期待されます。金融市場(株式市場や債券市場)も発展し、国際的な投資家の関心を集めるようになります(これが “Emerging Markets” と呼ばれる所以です)。

ただし、新興国といえども、国内における所得格差の拡大、急速な都市化に伴う環境問題、政治・社会制度の不安定さといった、発展途上国に共通する課題を抱えている場合も少なくありません。経済成長の段階としては先進国に近づきつつあるものの、様々な面で移行期にある国々、それが新興国と言えるでしょう。

IMF(国際通貨基金)や世界銀行は、これらの経済指標に基づいて世界各国を分類していますが、その分類名や基準は機関によって異なり、また定期的に見直されています。例えば、IMFは「先進国・地域(Advanced Economies)」「新興市場国・発展途上国(Emerging Market and Developing Economies)」といった分類を用いています。

僕が「新興国」の急成長を目の当たりにした話

数年前、仕事で東南アジアのある都市を訪れた時のことです。その国は、いわゆる「新興国」として注目されていました。空港に降り立った瞬間から、その活気に圧倒されたのを覚えています。

以前訪れたのは10年ほど前だったのですが、その時とはまるで景色が違いました。近代的な高層ビルが次々と建設され、真新しいショッピングモールには多くの人々が溢れ、街中を走る車の数も格段に増えていました。スマートフォンを片手に歩く人々の姿もごく当たり前の光景になっていて、経済成長のスピードを肌で感じましたね。

まさに「新興国」という言葉がぴったり当てはまる、エネルギッシュな雰囲気でした。

しかし、少し郊外に足を延ばしてみると、風景は一変しました。舗装されていない道路、昔ながらの市場、簡素な住まい…。都市部の華やかさとは対照的に、まだまだ開発が進んでいない地域も広がっていました。そこでは、衛生や教育、貧困といった「発展途上国」が抱える課題が、依然として残っていることを目の当たりにしました。

この経験を通して、「新興国」という言葉が持つ急成長のイメージと、「発展途上国」という言葉が内包する開発の課題、その両方が一つの国の中に混在している現実を強く感じました。

国全体としては力強く発展していても、その恩恵が隅々まで行き渡っているわけではない。都市と地方の格差、貧富の差といった問題も同時に進行している。ニュースで見る「新興国の躍進」という言葉だけでは捉えきれない、複雑な実情があるのだと気づかされました。

それ以来、これらの言葉に接する際には、その国の多様な側面を想像するようになりましたね。ひとつのラベルだけでは見えない、人々の暮らしや社会の変化にも目を向けることが大切だと感じています。

「新興国」と「発展途上国」に関するよくある質問

「新興国」と「発展途上国」、どちらの範囲が広いですか?

「発展途上国」の方が範囲は広いです。「発展途上国」は、先進国以外の経済開発が比較的遅れている国々を広く指すカテゴリーです。一方、「新興国」は、その発展途上国の中でも、特に急速な経済成長を遂げている国々を指す、より限定的なグループと考えることができます。

BRICsは「新興国」「発展途上国」どちらですか?

BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)は、「新興国」の代表例として挙げられます。これらの国々は2000年代以降、著しい経済成長を遂げ、世界経済における存在感を高めました。同時に、これらの国々は依然として一人当たり所得や国内格差などの面で課題も抱えており、広い意味では「発展途上国」のカテゴリーに含まれると考えることもできます。文脈によって使い分けられることがあります。

日本はどちらに分類されますか?

日本は、経済協力開発機構(OECD)の加盟国であり、IMFや世界銀行などの国際機関からも「先進国」(または「高所得国」)に分類されています。「新興国」や「発展途上国」には該当しません。

なぜ明確な定義がないのですか?

国の経済状況や発展段階は非常に多様であり、どこで線を引くかが難しいためです。また、経済成長率、所得水準、産業構造、市場規模、政治的安定性など、どの指標を重視するかによって分類が変わってきます。さらに、国の状況は常に変化しており、固定的な定義を設けることが困難な側面もあります。そのため、各機関や研究者が、それぞれの目的や分析の視点に応じて独自の基準で分類しているのが現状です。

「新興国」と「発展途上国」の違いのまとめ

「新興国」と「発展途上国」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 範囲の違い:「発展途上国」は広く経済開発が遅れた国々、「新興国」はその中でも急成長中の国々。
  2. 焦点の違い:「発展途上国」は開発段階、「新興国」は経済成長性や市場の魅力に焦点。
  3. 関係性:新興国は発展途上国の一部とみなされることが多い。
  4. 定義:どちらも明確な国際的定義はなく、文脈や機関により分類が異なる。
  5. 似た言葉:「後発開発途上国(LDC)」は発展途上国の中でも特に開発が遅れた国連のカテゴリー。

これらの言葉は、世界の国々を理解する上で便利な分類ですが、それぞれの国が持つ多様性や変化にも目を向けることが大切ですね。ニュースやレポートを読む際に、これらの違いを意識することで、より深く国際情勢を読み解くことができるでしょう。

言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、社会・関係の言葉の違いをまとめたページもぜひご覧ください。