「所用」と「諸用」の違いとは?一つの用事か複数かで解説

「所用(しょよう)」と「諸用(しょよう)」、どちらも同じ読み方で、意味も似ているため、使い分けに迷うことがありますよね。

特にビジネスシーンで、欠席連絡や理由を伝える際に、「あれ、どっちの漢字だったかな?」と手が止まってしまう方もいるのではないでしょうか。

実は、こなすべき用事が「一つ」なのか「複数」なのか、これが使い分けの大きなポイントなんです。この違いを理解すれば、もう迷うことはありません。

この記事では、「所用」と「諸用」の核心的な意味の違いから、漢字の成り立ち、具体的な使い分け、そして「用事」などの類語との比較まで、分かりやすく解説していきます。これを読めば、あなたの日本語表現がより正確になり、ビジネスコミュニケーションもスムーズになりますよ。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「所用」と「諸用」の最も重要な違い

【要点】

基本的には、特定の(主に一つの)しなければならない用事を指すのが「所用」、いろいろな、複数の用事をまとめて指すのが「諸用」です。「所用」は具体的な一つの用事、「諸用」は複数の雑多な用事、というイメージを持つと分かりやすいでしょう。

まず、結論からお伝えしますね。

「所用」と「諸用」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目 所用 (しょよう) 諸用 (しょよう)
中心的な意味 しなければならない用事。多くは一つの特定の用事を指す。 いろいろな用事。複数の雑多な用事。
用事の数 主に一つ(または中心となる一つの用事) 複数
ニュアンス 決まった用事、特定の目的。 あれこれ、様々な用事。
使われる場面 欠席・遅刻・早退の理由を具体的に述べずに伝える場合など。 複数の用事で忙しい状況をまとめて表現する場合など。
丁寧さ 一般的・やや丁寧。 一般的・やや丁寧。(ただし、「諸々の用事」を意味するため、相手によっては少し曖昧に聞こえる可能性も)

一番のポイントは、用事が一つなら「所用」、複数なら「諸用」と使い分けることです。

ただし、ビジネスシーンなどで理由を具体的に言いたくない場合、「所用のため」と表現することが慣習的に多くなっていますね。

なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む

【要点】

「所用」の「所」は“場所”や“こと”を指し、特定の用事を意味します。「諸用」の「諸」は“もろもろ、多くの”を意味し、複数の用事を示唆します。「用」はどちらも“すべきこと”。漢字の意味を知れば、用事の数が使い分けの鍵であることが明確になります。

なぜこの二つの言葉が異なる意味を持つのか、それぞれの漢字が持つ意味を探ってみると、その理由がよりイメージしやすくなりますよ。

「所用」の成り立ち:「所」定の「用」事

「所用」の「所」という漢字は、「場所」「ところ」という意味の他に、「~すること」「~するもの」といった意味も持っています。「所有(しょゆう)」や「所属(しょぞく)」などの言葉にも使われますね。

「用」は、「用いる(もちいる)」の他に、「すべきこと」「つとめ」「目的」といった意味があります。「用事(ようじ)」や「用件(ようけん)」と同じですね。

この二つが組み合わさることで、「所用」は、(特定の)しなければならないこと・用事、という意味合いが生まれます。多くの場合、一つの具体的な用事を念頭に置いて使われる言葉です。

「諸用」の成り立ち:「諸」々の「用」事

一方、「諸用」の「諸」という漢字は、「諸君(しょくん)」「諸国(しょこく)」「諸説(しょせつ)」のように、「もろもろの」「多くの」「いろいろな」という意味を持っています。

「用」は「所用」と同じく、「すべきこと」です。

したがって、「諸用」は、いろいろな(諸)すべきこと・用事、つまり、複数の雑多な用事をまとめて指す言葉になるのです。

漢字の意味からも、「所用」が単数の用事、「諸用」が複数の用事を指すという違いが明確に分かりますね。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

ビジネスで欠席理由を伝える際は「所用のため」が一般的です。「諸用のため」は複数の用事がある場合に使い、「諸事が重なり」のように表現することもできます。日常で「今日は諸用が多くて忙しい」のように使います。「一つの用事」に「諸用」を使うのは誤りです。

言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。

ビジネスシーンや日常生活で、どのように使い分けられるのか見ていきましょう。

用事の数を意識すれば、迷うことは少ないはずです。

ビジネスシーンでの使い分け

欠席連絡や理由説明などで使われることが多いです。

【OK例文:所用】

  • 誠に勝手ながら、明日は所用のため、午後から休暇をいただきます。(具体的な理由は伏せるが、主に一つの用事を想定)
  • 本日の会議は、所用により欠席させていただきます。
  • 所用で外出しておりましたが、ただ今戻りました。
  • 急な所用が入り、明日のアポイントメントをキャンセルさせていただけますでしょうか。

【OK例文:諸用】

  • 本日は諸用が立て込んでおり、終日不在となります。(複数の用事があるニュアンス)
  • 諸用のため、本日のご連絡が遅くなり申し訳ありません。
  • 年末は何かと諸用が多く、忙しい時期だ。
  • 彼は諸用で席を外しております。

ビジネスシーンでは、具体的な理由を述べずに欠席などを伝える際、「所用のため」が慣例的に使われることが多いです。たとえ用事が複数あったとしても、「所用」で済ませることが一般的です。「諸用のため」も間違いではありませんが、「あれこれと用事が重なって」というニュアンスを伝えたい場合に使うと良いでしょう。

日常会話での使い分け

日常生活でも、用事の数によって使い分けられます。

【OK例文:所用】

  • ちょっと所用で出かけてきます。(一つの用事を想定)
  • 明日は所用があるので、同窓会には行けません。
  • 大事な所用を思い出したので、先に失礼します。

【OK例文:諸用】

  • 週末は諸用があって、ゆっくり休めなかった。(あれこれ用事があった)
  • 引っ越しの前後は、手続きなどの諸用に追われる。
  • 今日は銀行に行ったり買い物したりと諸用が多くて疲れた。

日常会話では、「諸用」も比較的使いやすいですね。「あれこれやることがあって」という状況を簡潔に表現できます。

これはNG!混同しやすい使い方

用事の数と表現が食い違うと、不自然な印象になります。

  • 【NG】明日は役所に住民票を取りに行くという諸用があります。(用事は一つ)
  • 【OK】明日は役所に住民票を取りに行くという所用があります。
  • 【OK】明日は役所に行ったり銀行に行ったりと諸用があります。(用事は複数)

一つの具体的な用事を指す場合に「諸用」を使うのは誤りです。

  • 【NG】所用が多くて、なかなか連絡できませんでした。(用事は複数)
  • 【OK】諸用が多くて、なかなか連絡できませんでした。
  • 【OK】所用が長引いてしまい、連絡できませんでした。(一つの用事が長引いた場合)

複数の用事で忙しかった状況を「所用が多くて」と表現するのは不自然です。「諸用が多くて」または「諸事が重なり」などが適切でしょう。

【応用編】似ている言葉「用事」「用件」との違いは?

【要点】

「用事」は日常的なすべきこと全般を指す最も一般的な言葉です。「用件」は連絡や訪問の目的となる具体的な内容を指します。「所用」「諸用」は「用事」の一種で、やや改まった表現です。「所用」「諸用」が理由をぼかすのに対し、「用件」は内容を明確にする際に使われます。

「所用」「諸用」と関連して、「用事(ようじ)」や「用件(ようけん)」という言葉もよく使われますね。これらの違いも整理しておきましょう。

言葉 意味 ニュアンス・使われ方 例文
所用 しなければならない用事(主に一つ) やや改まった表現。理由をぼかす場合にも使う。 所用のため欠席します。
諸用 いろいろな用事(複数) やや改まった表現。複数の用事をまとめて言う。 諸用が立て込んでいる。
用事 しなければならないこと。用。 最も一般的・日常的な表現。公私問わない。 用事を済ませる。急な用事ができた。
用件 連絡・訪問などの目的となる事柄。 目的・内容に焦点。ビジネスで多用。 ご用件は何でしょうか。用件のみ承ります。
  • 用事(ようじ)最も一般的で広い意味を持つ言葉です。しなければならないこと全般を指し、公的なものから私的なものまで、大小さまざまな「やること」に使えます。(例:ちょっと用事がある、大事な用事)
  • 用件(ようけん):連絡したり、訪問したりする際の目的となる具体的な事柄を指します。ビジネスシーンで「ご用件は何でしょうか?」と尋ねる場合や、「用件のみお伝えします」のように、伝えるべき内容そのものを示す際に使われます。

「所用」「諸用」は、「用事」を少し改まって表現した言い方、と考えることができますね。特に「所用」は、具体的な「用事」の内容を伏せたい場合に便利な言葉として定着しています。

一方、「用件」は、「用事」の中でも特に伝えるべき「内容」や「目的」に焦点を当てた言葉と言えるでしょう。

「所用」と「諸用」の違いをビジネス文書の観点から解説

【要点】

ビジネス文書、特に欠席・遅刻・早退などの連絡においては、「所用のため」が最も一般的で無難な表現とされています。これは、具体的な理由を詳細に述べる必要がない(あるいは述べたくない)場合に、相手に失礼なく、かつ簡潔に伝えるための慣用的な表現だからです。「諸用のため」も間違いではありませんが、やや曖昧さが強調されるため、「所用」ほどは使われません。

ビジネス文書、特にメールや社内連絡などで欠席、遅刻、早退などの理由を伝える際に、「所用」と「諸用」のどちらを使うべきか、という点は気になるところですよね。

結論から言うと、「所用のため」を使うのが最も一般的で、無難な選択とされています。

理由はいくつか考えられます。

  1. 簡潔さ:「所用」は主に一つの用事を指しますが、具体的な内容は問いません。そのため、「理由は詳しく述べませんが、何かやるべきことがあります」という意味を簡潔に伝えられます。
  2. 慣用表現:長年のビジネス慣習として、「所用のため」が定型的な欠席理由として広く使われ、受け入れられています。
  3. 詮索の回避:「私用のため」と書くとプライベートな用事を連想させますが、「所用」は公私を問わないニュアンスがあり、相手に余計な詮索をさせにくいという側面もあります。(ただし、「私用」との厳密な区別は曖昧です)

では、「諸用のため」はビジネス文書では使えないのでしょうか?

間違いではありませんし、使っても問題ありません。実際に複数の用事が重なっている場合には、「諸用のため」の方が事実に即していると言えます。あるいは、「諸事が重なり」のような表現も使われます。

ただし、「諸用」は「いろいろな用事」を意味するため、「所用」に比べてやや曖昧さが増す印象を与える可能性はあります。「あれこれと細々した用事がたくさんあって…」というニュアンスに受け取られるかもしれません。

どちらを使うべきか迷う場合は、慣例に従って「所用のため」としておくのが、最もスムーズで誤解も少ないでしょう。

もちろん、相手との関係性や状況によっては、具体的な理由(例:「通院のため」「子供の学校行事のため」など)を伝えた方が良い場合もありますので、ケースバイケースで判断することが大切ですね。

僕が「諸用」を安易に使って、上司に突っ込まれた体験談

僕がまだ新人だった頃、会議の欠席連絡で「諸用」という言葉を使い、上司から少し皮肉めいたツッコミを受けたことがあります。

ある日、どうしても外せない私的な用事が二つ(友人の見舞いと、役所での手続き)重なってしまい、午後の定例会議を欠席せざるを得なくなりました。事前に上司に口頭で「すみません、明日の午後は私用で休ませてください」と伝えて許可は得ていました。

そして、会議の参加者全員に欠席を伝えるメールを送る際、僕は「理由は詳しく書かない方がいいかな」と考え、こう書いたのです。

「明日の定例会議ですが、諸用のため欠席させていただきます。申し訳ございません。」

自分としては、「用事が複数あるから『諸用』が正しい!」と思って、自信を持って送りました。

すると、数分後、僕の席にやってきた上司が、ニヤリとしながらこう言いました。「おい、明日のメール見たぞ。『諸用』って、ずいぶん忙しそうじゃないか。まあ、昨日の今日でそんなに『諸々の用事』が急に発生するのも珍しいな。しっかり休めよ」と。

僕は一瞬、何のことか分かりませんでした。しかし、上司の言葉のニュアンスから、(あ、昨日『私用』って言ってたのに、メールで『諸用』って書いたから、なんか言い訳がましく聞こえたのかな…?)と察しました。

上司は続けて、「まあ、別に『諸用』が間違いってわけじゃないけどさ、普通は『所用』でいいんだよ。理由は一つでも複数でも、詳しく言わないなら『所用』って書くのが一般的だ。なんか『諸用』って書くと、あれもこれも理由をつけて休みます、みたいに聞こえなくもないからな」と、やんわりと教えてくれました。

僕は赤面しました。言葉の正確さにこだわったつもりが、かえって不自然で、言い訳がましい印象を与えてしまっていたのです。ビジネスにおける慣習的な表現を知らなかったための失敗でした。

この経験から、言葉の辞書的な意味だけでなく、実際のコミュニケーションの中でどのように使われ、受け取られるのかを知ることの重要性を学びました。特にビジネスシーンでは、一般的な慣例に従う方がスムーズな場合もあるのだと、身をもって知った出来事でした。

「所用」と「諸用」に関するよくある質問

「私用」とはどう違いますか?

「私用(しよう)」は、個人的な用事、プライベートな用事を明確に指します。「所用」は公私を問わず使えますが、「私用」は仕事とは関係のない用事に限定されます。ビジネスシーンで理由を伝える際、「私用のため」と言うとプライベートな理由であることを明示することになります。「所用」はそれを曖昧にする効果があります。

ビジネスメールで欠席理由を伝えるときはどちらを使うべきですか?

「所用のため」を使うのが最も一般的で無難です。具体的な理由を伏せつつ、相手に失礼なく伝えるための慣用的な表現として広く使われています。「諸用のため」も間違いではありませんが、「所用」ほど一般的ではありません。複数の用事があることを特に伝えたい場合や、状況によっては使われます。

結局、どう使い分けるのが一番分かりやすいですか?

「一つの用事なら所用、複数の用事なら諸用」というのが基本的な意味の違いです。ただし、ビジネス上の連絡などでは、理由をぼかす場合は慣例的に「所用」を使う、と覚えておくと良いでしょう。日常会話で「あれこれやることがあって」という状況を伝えたい場合は「諸用」が便利です。

「所用」と「諸用」の違いのまとめ

「所用」と「諸用」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 基本は用事の数で使い分け:主に一つの用事なら「所用」、複数の用事なら「諸用」。
  2. 漢字のイメージが鍵:「所」定の用事が所用、「諸」々の用事が諸用。
  3. ビジネスでの慣例:欠席理由などをぼかす際は「所用のため」が一般的。
  4. 「諸用」のニュアンス:「あれこれと用事が重なっている」状況を表現する際に使う。
  5. 類語との違い:「用事」は一般的、「用件」は目的・内容に焦点。

同じ読み方でも、漢字一文字で意味が変わるのが日本語の面白いところであり、難しいところでもありますね。特にビジネスコミュニケーションにおいては、こうした細かいニュアンスの違いを理解しておくことが、相手への配慮やスムーズな意思疎通に繋がります。

これから自信を持って、「所用」と「諸用」を使い分けていきましょう。言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、漢字の使い分けの違いをまとめたページもぜひご覧ください。