コオニヤンマとオニヤンマの違い!決定的な見分け方とは?

夏の水辺で出会う、黒と黄色の縞模様が鮮やかな大型のトンボ。

多くの人がそれを「オニヤンマ」だと思いますが、もしかしたら「コオニヤンマ」かもしれません。名前に「コ(小)」と付くため「オニヤンマの小さい版?」と思いきや、コオニヤンマは「サナエトンボ科」、オニヤンマは「オニヤンマ科」と、分類学上まったく異なるグループのトンボなのです。

最大の違いは「複眼」。

オニヤンマは左右の複眼が頭部中央で接していますが、コオニヤンマの複眼は完全に離れています。この記事を読めば、その決定的な見分け方から、生態、生息環境の違いまでスッキリと理解できます。

【3秒で押さえる要点】

  • 分類:オニヤンマは「オニヤンマ科」、コオニヤンマは「サナエトンボ科」で、全く別の仲間です。
  • 目(複眼):オニヤンマの複眼は中央で接している(または一点で触れる)のに対し、コオニヤンマの複眼は左右で完全に離れています。これが最大の見分け方です。
  • 生態:オニヤンマは暗い小川や林縁で縄張りを往復飛翔(パトロール)することが多いですが、コオニヤンマは開けた河川を好み、よく石や枝に止まります。
「コオニヤンマ」と「オニヤンマ」の主な違い
項目コオニヤンマオニヤンマ
分類トンボ目・不均翅亜目・サナエトンボ科トンボ目・不均翅亜目・オニヤンマ科
サイズ区分・体長大型(70〜90mm程度)日本最大級(80〜110mm程度)
形態的特徴(複眼)左右の複眼が完全に離れている左右の複眼が頭部中央で一点で接する(または近接)
形態的特徴(体色)黒地に鮮やかな黄色の模様。黄色味が強い。黒地に緑がかった黄色の縞模様。
行動・生態(飛翔)川の上を直線的に飛ぶ。よく石や枝に止まる縄張りを往復飛翔(パトロール)。あまり止まらない。
生息域・分布比較的開けた中〜大規模河川の中流域。森林に囲まれた小川、渓流、湿地。
幼虫(ヤゴ)平たいウチワ型。川底の砂礫に潜る。大型で毛深い。小川の泥底に潜む。
危険性・衛生毒はなく、人を刺さない。捕獲時に稀に噛むことがあるが、害はほぼない。

形態・見た目とサイズの違い

【要点】

最大の見分けポイントは「目」です。オニヤンマの目は頭の中央でくっついていますが、コオニヤンマの目は左右に完全に離れています。大きさはオニヤンマが日本最大で、コオニヤンマも大型ですが一回り小さいです。体色はコオニヤンマの方が黄色味が鮮やかです。

「コオニヤンマ(小鬼蜻蜓)」という名前から「オニヤンマ(鬼蜻蜓)」の小型版だと思われがちですが、実際は分類が異なります。

最大かつ最も確実な見分け方は「複眼の位置」です。
オニヤンマは、左右の巨大な複眼が頭のてっぺんで一点で接しているか、非常に近接しています。頭部全体がほぼ目、といった印象です。
一方、コオニヤンマは「サナエトンボ科」の特徴を色濃く持っており、左右の複眼は完全に離れています。頭部を正面から見ると、目の間に明確な「額」があるのがわかります。

次に分かりやすいのが「大きさ」です。
オニヤンマは、オスで全長80〜100mm、メスは90〜110mmにも達する、日本最大のトンボです。その迫力はまさに「鬼」の名にふさわしいです。
コオニヤンマも全長70〜90mmと日本最大級のサナエトンボであり非常に大型ですが、平均するとオニヤンマよりは一回り小さいです。「小鬼」という名前がついていますが、決して小さなトンボではありません。

体色も微妙に異なります。どちらも黒地に黄色の縞模様ですが、オニヤンマの黄色はやや緑がかっているのに対し、コオニヤンマの黄色はより鮮やかで、黄色味が強い傾向があります。

行動・生態・ライフサイクルの違い

【要点】

オニヤンマは「パトロール飛翔」が特徴で、縄張り内の一定区間を執拗に往復し、あまり止まりません。コオニヤンマも川の上を飛びますが、比較的頻繁に川の中の石や岸辺の枝などに止まって休みます

彼らの飛び方や行動パターンは、その分類の違いをよく表しています。

オニヤンマのオスは、強い縄張り意識を持ちます。お気に入りの小川や林道の上など、一定の区間を往復し続ける「パトロール飛翔」を行うことで知られています。食事(他の昆虫の捕食)も飛びながら行い、なかなか止まりません。メスは水辺の泥や砂地にホバリングしながら産卵します。

コオニヤンマは、サナエトンボ科らしく、比較的よく「止まる」習性があります。川の上空を直線的に力強く飛翔しますが、疲れると川の中の突き出た石の上や、岸辺の植物の先端などに翅(はね)を水平に広げて止まります。オニヤンマがあまり止まらないのと比べると、この「止まる」行動は大きな違いです。

幼虫(ヤゴ)の姿も全く異なります。オニヤンマのヤゴは大型で毛深く、小川の泥底に潜んで数年かけて成長します。一方、コオニヤンマのヤゴは平たくウチワのような独特の形状をしており、川底の砂礫(されき)の中に潜り込んで獲物を待ち伏せします。

生息域・分布・環境適応の違い

【要点】

オニヤンマは森林に囲まれた暗い小川や渓流、湿地を好みます。一方、コオニヤンマはより開けた中〜大規模な河川の中流域を主な生息地としており、好む環境が異なります。

オニヤンマとコオニヤンマは、同じ水辺のハンターでありながら、好む環境(生息域)が異なります。

オニヤンマは、比較的薄暗い環境を好み、森林に囲まれた小川や渓流、湧き水のある湿地などに生息します。ヤゴが泥底に潜む必要があるため、流れが緩やかで底に泥が溜まる場所が必要です。

コオニヤンマは、オニヤンマよりも開けた明るい環境を好みます。中小規模から大規模な河川の中流域、特に流れが速く、川底が砂礫(砂や小石)の場所を主な生息地としています。これは、ヤゴが砂礫に潜って生活する生態に適応しているためです。

もしあなたが山間の薄暗い小川で巨大なトンボを見たらオニヤンマの可能性が高く、日当たりの良い大きな川の河原で石に止まっているのを見たらコオニヤンマの可能性が高い、と言えます。

危険性・衛生・法規制の違い

【要点】

どちらのトンボも毒は持っておらず、人を刺すこともありません。彼らは昆虫を捕食するハンターであり、人間にとっての害は基本的にありません。ただし、捕まえようとすると稀に強力なアゴで噛みつくことがありますが、怪我をするほどではありません。

夏の大型昆虫ということで危険性を心配するかもしれませんが、オニヤンマもコオニヤンマも、人間にとっては全く無害な昆虫です。

どちらもスズメバチのような毒針は持っておらず、人を刺すことはありません。彼らの武器は強力なアゴ(大腮)ですが、これはあくまで他の昆虫を捕食するためのものです。
素手で無理に捕まえようとすると、防衛のために稀に噛みつかれることがありますが、皮膚が切れるほどの力はなく、少し痛い程度です。

衛生面での問題も特にありません。法規制の面でも、どちらも日本全国に広く分布する普通種であり、環境省のレッドリストなどでも特に指定の対象とはなっておらず、採集が禁止されているわけではありません。(ただし、地域の条例などで採集が制限されている場所は除きます)。

文化・歴史・人との関わりの違い

【要点】

分類学上は全く別種ですが、どちらも「オニヤンマ(鬼蜻蜓)」「コオニヤンマ(小鬼蜻蜓)」と名付けられているように、古くからその強そうな外見が「鬼」になぞらえられてきました。この外見の類似は、異なる系統が似た生態的地位に適応した「収斂進化」の一例と考えられます。

オニヤンマとコオニヤンマの最も興味深い点は、その「名前」と「分類」のギャップでしょう。

オニヤンマは「鬼蜻蜓」、コオニヤンマは「小鬼蜻蜓」。どちらも、その大きさと黒黄の縞模様、力強い飛翔から、日本の伝承における「鬼」のイメージ(鬼のパンツの虎柄など)が重ね合わされています。

しかし、前述の通り、彼らは生物学的には遠い関係です。オニヤンマはオニヤンマ科、コオニヤンマはサナエトンボ科。系統が異なるにも関わらず、大型の捕食性トンボという同じ生態的地位(ニッチ)に適応した結果、似たような大型の体と警告色(黒と黄色の模様)を持つに至ったと考えられます。これは「収斂進化(しゅうれんしんか)」の一例と言えるかもしれません。

コオニヤンマが「小鬼」と名付けられたのは、オニヤンマ(鬼)に非常によく似ているが、それよりは少し小さい、という意味合いが込められているのでしょう。

「コオニヤンマ」と「オニヤンマ」の共通点

【要点】

分類は異なりますが、どちらも日本を代表する大型のトンボであり、成虫も幼虫(ヤゴ)も肉食性です。また、黒地に黄色の縞模様という、よく似た警戒色(または標識模様)を持っている点が最大の共通点です。

分類学的には「科」レベルで異なりますが、もちろん共通点も多くあります。

  1. 大型のトンボであること:どちらも日本のトンボの中では最大級の大きさを誇ります。
  2. 外見(色):黒い体に黄色の縞模様という、非常によく似た体色を持っています。
  3. 生態的地位:どちらも成虫は空中で他の昆虫を捕食し、幼虫(ヤゴ)は水中で水生昆虫などを捕食する、それぞれの環境における「トッププレデター」です。
  4. 不均翅亜目(トンボ):どちらもトンボ目の中でも、翅を閉じずに水平に広げて止まる「不均翅亜目(ふきんしあもく)」に属します。(イトトンボなどは均翅亜目)

川辺のハンター、コオニヤンマとの出会い(体験談)

子供の頃、僕にとって「オニヤンマ」は憧れのトンボでした。家の近所の小川をパトロールする姿は、まさに王者の風格。しかし、素早すぎて捕まえられたことは一度もありませんでした。

そんなある夏の日、家族で少し大きな川へ遊びに行った時のことです。河原の石の上で、見慣れない大きなトンボが休んでいるのを見つけました。
「オニヤンマだ!」
僕は大興奮で網を構え、そっと近づきました。オニヤンマが止まっているなんて珍しい、と思ったのです。

慎重に網を振り下ろし、見事捕獲に成功。網の中を覗き込んで、僕は「あれ?」と首を傾げました。
確かに黒と黄色の縞模様で巨大なのですが、目が緑色で、しかも左右に離れています。僕の知っているオニヤンマ(複眼がくっついている)とは明らかに違います。そして、オニヤンマよりも黄色が鮮やかで、なんだか「カチッ」とした印象でした。

家に帰って図鑑で調べ、それが「コオニヤンマ」という、サナEトンボの仲間であることを知りました。「コオニ(小鬼)」という名前なのに、こんなに大きいことにも驚きました。あの時、「止まっていた」というオニヤンマらしくない行動と、「目が離れている」という決定的な違いに気づいた瞬間が、僕がトンボの分類の面白さに目覚めた原体験です。

「コオニヤンマ」と「オニヤンマ」に関するよくある質問

Q: コオニヤンマはオニヤンマの子供(小さいやつ)ですか?

A: いいえ、違います。「コ(小)」と付きますが、オニヤンマとは分類が異なる「サナエトンボ科」の別種のトンボです。コオニヤンマも成虫で7〜9cmになる大型のトンボです。

Q: 目が離れていればコオニヤンマ、くっついていればオニヤンマ、で合っていますか?

A: はい、それが最も確実な見分け方です。オニヤンマ(オニヤンマ科)やヤンマ科(ギンヤンマなど)は複眼が頭部で接していますが、コオニヤンマ(サナエトンボ科)は複眼が左右に離れています。

Q: オニヤンマの虫除けグッズ(オニヤンマ君など)は、コオニヤンマにも効きますか?

A: オニヤンマの虫除けグッズは、オニヤンマがアブやハチなどを捕食することから、「天敵」と認識させて虫を寄せ付けないという理論に基づいています。コオニヤンマも同じような大型の捕食者であるため、アブなどが天敵として認識すれば、理論上は同様の効果が期待できる可能性はありますが、科学的な実証データは限定的です。

Q: 飛ぶ速さはどちらが速いですか?

A: どちらも非常に速く飛ぶトンボですが、一般的にオニヤンマのパトロール飛翔は時速40km以上、トップスピードは時速70kmに達するとも言われ、日本最速の昆虫の一つとされています。コオニヤンマも直線飛行は速いですが、オニヤンマほどの最高速度は出ないと考えられます。

「コオニヤンマ」と「オニヤンマ」の違いのまとめ

名前も見た目も似ているコオニヤンマとオニヤンマですが、実は全く異なる系統のトンボでした。

  1. 分類が違う:オニヤンマは「オニヤンマ科」、コオニヤンマは「サナエトンボ科」。
  2. 決定的な見分け方(目):オニヤンマは目が「接する」、コオニヤンマは目が「離れる」。
  3. 生態が違う:オニヤンマは「パトロール飛翔」であまり止まらない。コオニヤンマは「石などに止まる」。
  4. 生息地が違う:オニヤンマは「暗い小川」、コオニヤンマは「開けた大河川」。

今度、黒と黄色の大型トンボを見かけたら、ぜひ「目」と「止まり方」に注目してみてください。それが鬼なのか、小鬼なのか、見分けられると夏の自然観察がもっと楽しくなりますね。他の生物その他の記事で、さらなる違いの世界を探検してみてください。