夏の雑木林や春の花畑で見かける、白い斑点を持つ黒っぽい甲虫。
「シロテンハナムグリ」と「シラホシハナムグリ」は非常によく似ていますが、実は背中の斑点のパターンと、主な食べ物(食性)が全く違います。
最大の違いは、シロテンハナムグリは「樹液」に集まる大型種であり、シラホシハナムグリは「花」に集まる小型種だということ。この記事を読めば、その決定的な見分け方から、彼らの生態の違い、そして人との関わりまでスッキリと理解できます。
【3秒で押さえる要点】
- 斑紋の違い:シロテンハナムグリは「C」の字型の白い紋が1対(計2つ)。シラホシハナムグリは小さな白い点が多数散らばっています。
- 食性の違い:シロテンハナムグリは「樹液」や熟した果実が大好き。シラホシハナムグリは「花の花粉や蜜」を食べます。
- サイズと質感:シロテン(約20〜25mm)の方が大きく、体がツルツルと光沢があります。シラホシ(約15〜20mm)は一回り小さく、微毛があり光沢が鈍いです。
| 項目 | シロテンハナムグリ | シラホシハナムグリ |
|---|---|---|
| 分類 | コウチュウ目・コガネムシ科・ハナムグリ亜科 | |
| サイズ区分・体長 | 大型(約20〜25mm) | 中型(約15〜20mm) |
| 形態的特徴(斑紋) | 前翅(鞘翅)に「C」字状の白紋が1対(計2つ) | 前翅(鞘翅)に小さな白点が多数散らばる |
| 形態的特徴(体表) | 光沢が強い(ツルツル) | 光沢が鈍い(微毛に覆われる) |
| 行動・生態(食性) | 樹液、熟した果実(モモ、ナシなど) | 花の花粉・蜜(キク科、セリ科など) |
| 主な活動時期 | 5月〜9月(主に初夏) | 4月〜7月(主に春) |
| 飛翔能力 | 飛べる(前翅を閉じて飛ぶ) | 飛べる(前翅を閉じて飛ぶ) |
| 人との関わり | 果樹園の農業害虫(果実を食害) | 花の受粉を助ける益虫(害はほぼなし) |
形態・見た目とサイズの違い
最大の違いは背中の斑点です。シロテンハナムグリは「C」の字型の白い紋が1対(計2つ)あるのに対し、シラホシハナムグリは小さな白い点が多数散らばっています。「シロテン(白点)」は大きな点、「シラホシ(白星)」は小さな星、と覚えると分かりやすいです。また、シロテンの方が一回り大きく、体表の光沢が強い(ツルツル)のに対し、シラホシは微毛があり光沢が鈍い(ビロード状)です。
昆虫採集の際、この2種を見分けるのは非常に簡単です。注目すべきは背中の模様、サイズ、そして体表の質感です。
最も決定的な違いは「斑紋」です。
シロテンハナムグリは、その名の通り「白い点」が特徴ですが、ただの点ではありません。よく見ると、左右の前翅(硬いハネ)の真ん中あたりに、「C」の字型、あるいはコンマ(、)のような形の白い紋が1対(合計2つ)だけあります。この紋は非常に明瞭です。(ただし、稀にこの紋が無い「斑紋変異」の個体も存在します)
一方、シラホシハナムグリは、「白い星」という名前の通り、背中全体に小さな白い点が多数、散らばっています。星空のように点在しているのが特徴です。
サイズ感も異なります。シロテンハナムグリは体長20〜25mmほどあり、カナブンと同じくらいの大きさで、ずんぐりとした印象を受けます。シラホシハナムグリは体長15〜20mmほどと、シロテンよりも一回り小さく、ややスリムです。
さらに、体表の質感にも違いが見られます。シロテンハナムグリは体表がツルツルしており、黒色や銅色の強い光沢を放ちます。対照的に、シラホシハナムグリは体表が細かな黄褐色の毛(微毛)に覆われており、光沢が鈍く、ビロードのような質感に見えます。
行動・生態・ライフサイクルの違い
決定的な違いは「食べ物」です。シロテンハナムグリはクヌギやコナラの「樹液」や熟した果実に集まります。カブトムシやクワガタと同じ「樹液酒場」の常連です。一方、シラホシハナムグリは名前の通り「花」を好み、花粉や蜜を食べます。活動時期もシラホシの方が早く、春(4〜6月)がピークです。
もし背中の模様が見えなくても、彼らが「どこで何をしていたか」を見れば、ほぼ確実に見分けることができます。なぜなら、成虫の主な食べ物(食性)が全く異なるからです。
シロテンハナムグリは、カブトムシ、クワガタムシ、カナブンなどと同じく、樹液が大好きです。クヌギやコナラ、ヤナギなどの雑木林の木々から染み出す樹液に集まります。また、モモやナシ、リンゴなどの熟した果実にも目がなく、その果汁を吸うために集まってきます。
一方、シラホシハナムグリは、その名に「ハナ(花)」と付く通り、花を主な活動場所としています。ハルジオン、マーガレット、ノイバラ、クリ、ミカンなど、様々な種類の花を訪れ、その花粉や蜜を食べています。彼らが樹液に来ることはほとんどありません。
活動時期にもズレがあります。シラホシハナムグリは春(4月〜6月頃)に最も多く見られます。シロテンハナムグリも5月頃から現れますが、活動のピークはもう少し遅く、夏(6月〜8月)にかけてよく見られます。
どちらの種も、幼虫時代は腐葉土や堆肥(たいひ)、朽木(くちき)の中で育ちます。見た目は典型的なコガネムシの幼虫(C字型に丸まったイモムシ状)で、腐った植物質を食べて成長します。
生息域・分布・環境適応の違い
どちらも日本全国(北海道〜九州)に広く分布する普通種です。ただし、主な活動場所が異なり、シロテンは雑木林や果樹園など樹液や果実がある場所、シラホシは草地や公園、花畑など、花が多い開けた場所でよく見られます。
シロテンハナムグリもシラホシハナムグリも、日本全国(北海道、本州、四国、九州)に広く分布しており、どちらも平地から山地まで、人家の近くでも見られる普通種です。
ただし、前述の食性の違いから、彼らが好む「ミクロな環境」は異なります。
シロテンハナムグリを探すなら、クヌギやコナラが生えている雑木林、あるいはカブトムシが集まるような公園の木々、熟した果物が落ちている果樹園の周辺が狙い目です。
シラホシハナムグリを探すなら、雑木林の林縁や、日当たりの良い草地、公園の花壇、河川敷など、花が咲いている場所が最適です。春先に白い花(ハルジオンやノイバラなど)が咲いている場所を注意深く探すと、見つけやすいでしょう。
市街地でも、公園の樹木にシロテンが、花壇にシラホシがいる、という棲み分けが観察できます。
危険性・衛生・法規制の違い
どちらも人間に直接的な害(毒、刺す、咬む)はありません。しかし、シロテンハナムグリは熟した果実を食害するため、モモやナシの農家にとっては農業害虫(果樹害虫)となります。一方、シラホシハナムグリは花粉を運ぶため、益虫としての側面が強いです。
どちらの昆虫も、人間に対して毒を持っていたり、刺したり咬んだりする危険性はまずありません。捕まえても素手で問題なく触れ合えます(ただし、捕まえると脚の爪でしがみつく力が意外と強いです)。
しかし、人間社会との関わりにおいては、その評価が異なります。
シロテンハナムグリは、樹液だけでなく熟した果実も好むため、収穫期のモモ、ナシ、リンゴ、ブドウなどの果樹園に集まり、果実を食い荒らす害虫として問題になることがあります。カナブンと共によく果樹害虫として名前が挙がります。
一方、シラホシハナムグリは、様々な花を訪れて花粉や蜜を食べる際、体に付着した花粉を別の花に運ぶため、植物の受粉を助ける「送粉者(ポリネーター)」としての役割、すなわち益虫としての側面が強いと考えられます。
法規制に関しては、どちらも普通種であり、採集や飼育に関して特に法的な規制はありません。
文化・歴史・人との関わりの違い
シロテンハナムグリは、カブトムシ採集の際によく見かける「外道(げどう)」としてお馴染みですが、その光沢や稀に現れる斑紋変異から昆虫愛好家には人気があります。シラホシハナムグリは、春先に花々を訪れる姿から、春の訪れを感じさせる昆虫の一つとして親しまれています。
昆虫愛好家や子供たちにとって、この2種の印象は少し異なります。
シロテンハナムグリは、夏のカブトムシ・クワガタ採集の際に、樹液に集まっている「お馴染みのメンバー」です。カブトムシ狙いの子供たちにとっては、カナブンと共に「外道(げどう)」(本命以外の獲物)として扱われがちですが、その美しい光沢や、稀に出現する白い斑点が無い個体(斑紋変異)などは、専門のコレクターの間で珍重されます。
シラホシハナムグリは、活動時期が春であることから、「春の訪れを告げる昆虫」の一つとして認識されています。日当たりの良い花畑で、ハチやアブに混じって花粉を食べている姿は、長閑(のどか)な春の風景の一部となっています。その名の通り「白い星」を持つことから、縁起が良い昆虫として好意的に見られることもあります。
国立科学博物館などの研究機関でも、これらの昆虫は日本の生態系を構成する重要な種として標本が収蔵・研究されています。
「シロテンハナムグリ」と「シラホシハナムグリ」の共通点
分類学上、どちらも「コガネムシ科ハナムグリ亜科」に属する甲虫の仲間です。昼行性で日中に活動し、幼虫は腐葉土や堆肥の中で育つという共通点があります。また、どちらも前翅(鞘翅)を閉じたまま後翅を広げて器用に飛ぶことができます。
実は、この2種は分類学的には非常に近い親戚です。食性や見た目は異なりますが、多くの共通点を持っています。
- 分類:どちらも同じ「コガネムシ科ハナムグリ亜科」に属する仲間です。
- 活動時間:どちらも基本的に「昼行性」で、太陽が出ている日中に活発に活動します。
- 幼虫の生態:幼虫(イモムシ状)は、腐葉土や堆肥、朽木の中など、植物質が腐植した環境で育ちます。この点はカブトムシの幼虫とも共通しています。
- 飛翔方法:成虫は、硬い前翅(鞘翅)を閉じて背中(腹部)を守ったまま、その脇から膜状の後翅(こうし)だけを広げて飛ぶ、ハナムグリ亜科に共通する器用な飛び方をします。
樹液酒場の常連と、花畑の紳士(体験談)
僕にとって、この2種の昆虫は、出会う「季節」と「場所」の記憶と強く結びついています。
シロテンハナムグリは、真夏の蒸し暑い雑木林の匂いです。カブトムシを探してクヌギの木を蹴ると、ボトボトッと落ちてくる中の一員。彼らは樹液という「酒場」で、カナブンやスズメバチ、時にはカブトムシと場所取り合戦を繰り広げる、たくましい「常連客」でした。その黒光りする体は、樹液の匂いと夏の熱気そのものです。
一方、シラホシハナムグリは、春の穏やかな日差しの匂いです。まだ肌寒い4月や5月、公園や土手の花畑で、ハルジオンやタンポポの花に静かに止まっている姿をよく見かけました。彼らは樹液酒場の連中のように慌ただしくなく、まるで紳士のように花粉を食べています。
「シロテンは樹液の荒くれ者、シラホシは花畑の紳士」。僕の中では、そんな対照的なイメージが今でも強く残っています。
「シロテンハナムグリ」と「シラホシハナムグリ」に関するよくある質問
Q: カナブンとシロテンハナムグリの違いは何ですか?
A: カナブンは全体が緑色や銅色の強い金属光沢で、背中に特徴的な白い紋はありません。シロテンハナムグリは黒っぽい体に、はっきりとした「C」の字型の白い紋が1対(計2つ)あるのが特徴です。ただし、どちらも樹液に集まります。
Q: シロテンハナムグリは飛べますか?
A: はい、飛べます。多くのコガネムシの仲間とは異なり、ハナムグリ亜科の昆虫は硬い前翅(鞘翅)を閉じたまま、その脇から後翅を広げて非常に器用に飛ぶことができます。
Q: シラホシハナムグリは害虫ですか?
A: 基本的に害虫ではありません。成虫は花の花粉や蜜を食べ、その際に受粉を助ける益虫(送粉者)としての役割が大きいです。幼虫も腐葉土を食べて分解を助けます。
Q: シロテンハナムグリの幼虫とカブトムシの幼虫の見分け方は?
A: どちらも腐葉土にいるC字型の幼虫で、見分けるのは非常に困難です。一般的に、ハナムグリ類の幼虫はカブトムシの幼虫に比べて、背中(お尻側)で這うように移動する(背這い)傾向があると言われていますが、確実な同定は専門家でも難しい場合があります。
「シロテンハナムグリ」と「シラホシハナムグリ」の違いのまとめ
同じハナムグリの仲間でも、シロテンハナムグリとシラホシハナムグリには、斑紋と食性に明確な違いがありました。
- 斑紋が違う:シロテンは「大きな白紋が1対」、シラホシは「小さな白点が多数」。
- 食性が違う:シロテンは「樹液・果実」、シラホシは「花(花粉・蜜)」。
- サイズと質感が違う:シロテンは「大型・ツルツル」、シラホシは「小型・ビロード状」。
- 人との関わりが違う:シロテンは果樹害虫の一面も、シラホシは益虫としての一面も持つ。
今度、白い斑点のある甲虫を見かけたら、それが「樹液」にいたのか、それとも「花」にいたのかを思い出してみてください。それだけで、彼らの名前がきっと分かるはずです。他の生物その他の記事も読んで、昆虫の奥深い世界をさらに探求してみませんか?