「キリギリス」と「ウマオイ」、どちらも夏の草むらでよく見かける緑色の昆虫ですね。
姿はそっくりですが、実は鳴き声、活動時間、そして顔の形が全く異なります。
最も簡単な答えは、キリギリスが「ギース、チョン!」と日中に鳴くのに対し、ウマオイは「スィーー、チョン!」と夜間に鳴くことです。
この記事を読めば、その姿と音色の違い、生態や見分け方までスッキリと理解できますよ。
【3秒で押さえる要点】
- 鳴き声と時間:キリギリスは日中に「ギース、チョン!」。ウマオイは夜間に「スィーー、チョン!」(スイッチョン)と聞こえます。
- 顔の形:キリギリスは顔が丸い。ウマオイは顔が前方に尖っている(円錐頭)。
- 食性:キリギリスは草食寄りの雑食(植物の葉など)。ウマオイは肉食寄りの雑食(小さな昆虫など)。
| 項目 | キリギリス | ウマオイ |
|---|---|---|
| 分類 | バッタ目(直翅類) キリギリス科 キリギリス亜科 | バッタ目(直翅類) キリギリス科 ツユムシ亜科 |
| サイズ(体長) | 約35〜45mm(翅端まで) | 約30〜40mm(体長)、翅端まで含めると50mm超 |
| 体色 | 緑色型が一般的。褐色型も存在する。 | 緑色型がほとんど。 |
| 形態(顔) | 丸みを帯びた顔。 | 前方に鋭く尖る(円錐頭)。 |
| 鳴き声(オス) | 「ギース、チョン!」(またはチョン、ギース) | 「スィーー、チョン!」(スイッチョン) |
| 活動時間 | 昼行性(主に日中に鳴く) | 夜行性(主に夜間に鳴く) |
| 食性 | 草食傾向の雑食(イネ科植物、昆虫など) | 肉食傾向の雑食(小型昆虫、植物の花や実など) |
| 生息場所 | 日当たりの良い開けた草むら(河川敷、畑) | やや湿った背の高い草むら(林縁、湿地周辺) |
| 危険性 | 無害。ただしアゴの力が強く噛む。 | 無害。ただしアゴの力が強く噛む(肉食寄り)。 |
形態・見た目とサイズの違い
キリギリスは顔が丸く、体色は緑色型と褐色型がいます。一方、ウマオイは顔が円錐状に尖っているのが最大の特徴で、体色はほぼ緑色型のみです。
夏の草むらで緑色のバッタのような虫を見つけたら、まず「顔」に注目してください。
キリギリス(ヒガシキリギリスやニシキリギリスを指します)は、体長40mm前後。体色は鮮やかな緑色型がメジャーですが、生息環境によっては茶色い褐色型も珍しくありません。彼らの顔は、他のバッタやコオロギのように丸みを帯びています。全体的にがっしりとしていて、特に後ろ脚(ジャンプするための脚)が太く発達しています。
一方、ウマオイ(ハタケノウマオイなど)の最大の特徴は、そのユニークな頭部です。顔が前方に鋭く尖っており、「円錐頭(えんすいとう)」と呼ばれます。この尖った顔つきが、キリギリスとの最も簡単な見分け方です。体色はほとんどが緑色型で、キリギリスよりもスリムで華奢な印象を受けます。体長は30-40mm程度ですが、翅(はね)が非常に長く、全体としては大きく見えることもあります。
どちらも体長の2倍以上にもなる非常に長い触角を持っていますが、見分けるなら「顔が丸いか、尖っているか」が一番確実です。
行動・生態・ライフサイクルの違い
決定的な違いは「鳴き声」と「活動時間」です。キリギリスは昼行性で、日中に「ギース、チョン!」と力強く鳴きます。ウマオイは夜行性で、夜間に「スィーー、チョン!(スイッチョン)」と鳴き続けます。
姿が見えなくても、彼らの「歌声」と「時間帯」で完璧に見分けることができます。
キリギリスは、典型的な昼行性の昆虫です。真夏の太陽が照りつける日中、草むらで「ギース、チョン!」または「チョン、ギース!」と、鋭く力強い声で鳴きます。「ギース」という音で翅をこすり上げ、「チョン」で翅を閉じる、その一連の動作で音を出しています。
一方、ウマオイは完全な夜行性です。日中は草の葉の裏や根元に静かに隠れていますが、日が沈むと活動を開始します。オスの鳴き声は「スィーー、チョン!」という二部構成です。この「スィー」という前奏部分が、馬子(まご)が馬を追う(叱る)時の「(待ての)スィー」という声に、続く「チョン!」が「(行けの)チョン(鞭の音)」に似ていることから、「馬追い(ウマオイ)」と名付けられました。この鳴き声が、私たちには「スイッチョン」と聞こえることも多いですね。
実は、食性も微妙に異なります。どちらも雑食性ですが、キリギリスはイネ科植物の葉や穂などを好む草食傾向の雑食です。対照的に、ウマオイはアブラムシや小バエ、他の小さな昆虫を捕らえて食べる肉食傾向の雑食です。このため、ウマオイは鋭いアゴを持っています。
生息域・分布・環境適応の違い
キリギリスは日当たりの良い開けた草原や河川敷、畑の周辺を好みます。ウマオイはキリギリスよりもやや湿り気があり、背の高い草が密生する茂みや林縁を好む傾向があります。
どちらも草むらに生息する昆虫ですが、好む環境が少し違います。
キリギリスは、その活動時間(昼行性)からもわかるように、日当たりと風通しの良い、開けた草むらが大好きです。河川敷の土手、日当たりの良い草原、畑のあぜ道など、餌となるイネ科植物が多い場所が主な住処です。
ウマオイは、夜行性であるため、日中の乾燥や高温を避ける必要があります。そのため、キリギリスのような開けた場所よりも、やや湿度が保たれた、背の高い草が密生する茂みや、林の縁(林縁部)を好みます。夜になると、そうした茂みの中の草の葉の上などに出てきて鳴き始めます。
分布域はどちらも広く、キリギリスはヒガシキリギリス(関東以北)とニシキリギリス(近畿以西)に棲み分けられています。ウマオイも北海道から九州まで広く分布しています。
危険性・衛生・法規制の違い
どちらも毒針などは持っておらず、人間への危険性はありません。ただし、両種ともアゴの力が強いため、素手で掴もうとすると防御のために強く噛まれることがあります。特に肉食傾向のウマオイは鋭いので注意が必要です。
クツワムシやスズメバチのように、その危険性が心配されることはありません。キリギリスもウマオイも、人間に危害を加える毒針は持っておらず、衛生上の問題を引き起こすこともありません。
ただし、捕獲しようとする際には注意が必要です。どちらの種も、植物を噛み切ったり、獲物を捕らえたりするための強力な大アゴを持っています。不用意に素手で掴もうとすると、驚いて防御のために強く噛みつかれることがあります。特にウマオイは肉食傾向が強いため、そのアゴは鋭く、噛まれると出血することもあります。
法的な規制(外来種指定や採集禁止など)は特にありません。どちらも日本の里山を構成する身近な昆虫です。
文化・歴史・人との関わりの違い
キリギリスは「ギース、チョン!」の鳴き声が機(はた)を織る音に似ていることから、古くは「機織り虫(はたおりむし)」と呼ばれました。ウマオイは「スィーー、チョン!」が馬を追う掛け声に似ていることから「馬追い(うまおい)」と名付けられました。どちらも鳴く虫として古くから親しまれています。
どちらも、その特徴的な鳴き声から、ユニークな和名が付けられています。
キリギリスの「ギース、チョン!」という鳴き声は、昔の人々には機(はた)を織る音(昔話『鶴の恩返し』に出てくるような機織り機の「ギーッ、チョン」という音)のように聞こえました。そのため、古くは「機織り虫(はたおりむし)」という風流な名前で呼ばれていました。「キリギリス」という名前自体も、その鳴き声を擬音語化したものとされています。
ウマオイの名前の由来は、前述の通りです。「スィーー、チョン!」という鳴き声が、馬子(まご)が馬を追う(叱咤する)時の「(待ての)スィー」と「(行けの)チョン(鞭の音)」という掛け声に似ていることから、「馬追い(うまおい)」と名付けられました。
どちらも江戸時代には、スズムシやマツムシと同様に、その鳴き声を楽しむために「虫売り」によって売買され、虫かごに入れて飼育される文化がありました。夏の終わりから秋にかけて鳴く虫として、日本の文化に深く根付いています。
「キリギリス」と「ウマオイ」の共通点
見た目や生態は異なりますが、どちらもバッタやコオロギと同じ「直翅類(ちょくしるい)」であり、さらに「キリギリス科」に属する近縁な昆虫です。オスが前翅をこすり合わせて鳴くこと、長い触角を持つこと、メスが土中に産卵管を刺して卵を産むことなどが共通しています。
違いの多い両者ですが、生物学的には非常に近い仲間であり、多くの共通点があります。
- 分類:どちらもバッタ目(直翅類)キリギリス科に属します。(キリギリスはキリギリス亜科、ウマオイはツユムシ亜科に分かれます)
- 形態:非常に長い触角(体長よりも長い)を持っています。
- 産卵:メスは腹部の先に剣(つるぎ)のような長い産卵管を持ち、これを土の中に刺して卵を産みます。
- 発音の仕組み:どちらもオスだけが鳴き、左右の前翅(まえばね)をこすり合わせることで音を出します。
- ライフサイクル:どちらも卵の状態で冬を越し、春に孵化し、夏に成虫になります。成虫は秋の終わりと共に寿命を迎えます。
体験談:夏の草むら、鳴き声の主はどっち?
僕にとって、キリギリスとウマオイは「昼のヒーロー」と「夜の忍者」のような存在でした。
夏休みの日中、祖父の家の裏にある河川敷の草むらは、まさにキリギリスの独壇場でした。「ギース、チョン!ギース、チョン!」と、太陽に向かって高らかに鳴り響く声。その声の主を探して草むらをかき分けると、鮮やかな緑色で丸い顔の「キリギリス」が、立派な後ろ脚でピョーンと逃げていく。それを捕まえるのは、夏の最高の遊びでした。
一方、夜。同じ草むらが静まり返ると、今度はどこからともなく「スィーー、チョン!」「スィーー、チョン!」という、細く、しかしよく通る声が聞こえてきます。昼間のあの力強い声とは全く違う、どこか涼しげでミステリアスな音色。
懐中電灯を持って音のする茂みを照らすと、いました。葉の上で、顔がツンと尖った緑色の虫が、体を震わせながら鳴いていたのです。それがウマオイでした。昼間はあれほどキリギリスがいたのに、夜になると主役が交代する。同じ緑色の仲間でも、顔の形も、鳴く時間も、声も全く違うという事実に、子供ながらに自然界の棲み分けの精巧さに感動したのを覚えています。
「キリギリス」と「ウマオイ」に関するよくある質問
Q: 結局、「スイッチョン」と鳴くのはウマオイですか?
A: はい、一般的に「ウマオイ」の鳴き声が「スィーー、チョン!」であり、これが「スイッチョン」と聞きなされる(擬音語として表現される)ことが多いです。
Q: キリギリスとウマオイは、どちらがうるさいですか?
A: 鳴き声の大きさ(音量)だけで言えば、クツワムシ(ガチャガチャ)には及びませんが、どちらも非常に大きな声で鳴きます。キリギリスは日中に響き渡る力強い声、ウマオイは夜間に響く甲高い声、といった特徴があります。
Q: ウマオイは肉食なんですか?
A: 肉食傾向の強い雑食性です。植物の花や実なども食べますが、アブラムシや小型のハエ、ガの幼虫など、自分より小さな昆虫を捕食することが多いです。キリギリスも雑食ですが、ウマオイよりは植物食の傾向が強いです。
Q: 刺しますか?危険ですか?
A: どちらも毒針は持っておらず、刺すことはありません。メスの産卵管は卵を産むためのもので、武器ではありません。ただし、アゴの力が強いため、素手で強く掴むと噛まれることがありますので、観察する際は優しく扱いましょう。
「キリギリス」と「ウマオイ」の違いのまとめ
キリギリスとウマオイ、どちらも日本の夏を代表するキリギリス科の昆虫ですが、その違いは非常に明確でした。
- 活動時間と鳴き声が違う:キリギリスは日中に「ギース、チョン!」。ウマオイは夜間に「スィーー、チョン!(スイッチョン)」。
- 顔の形が違う:キリギリスは「丸い顔」。ウマオイは「尖った顔(円錐頭)」。
- 体色が違う:キリギリスは「緑色型と褐色型」がいる。ウマオイは「ほぼ緑色型」のみ。
- 食性が違う:キリギリスは「草食寄り」、ウマオイは「肉食寄り」の雑食。
これからは草むらから音が聞こえてきたら、それが昼なのか夜なのか、どんな音色なのかに耳を澄ましてみてください。音の主がどちらなのか、きっと見分けられるはずです。彼らの生態系での役割(ウマオイは害虫も食べる)も理解しつつ、夏の昆虫観察を楽しみたいですね。他の「生物その他」の仲間たちの違いについても、ぜひ他の記事をご覧ください。
参考文献(公的一次情報)
- 環境省「自然環境・生物多様性」 – 日本の昆虫の生態情報について
- 国立科学博物館「かはく」 – 昆虫の分類や標本情報について