ひっつき虫「オナモミ」と「センダングサ」の違いとは?

秋の野山や空き地を歩くと、服にびっしりと付いてくる厄介なヤツら、「ひっつき虫(くっつき虫)」。

その中でも特に有名な「オナモミ」と、チクチク刺さる「センダングサ」は、見た目もひっつく仕組みも全く異なる植物。この記事を読めば、あなたの服にくっついた犯人がどちらなのか、そしてどう対処すればいいかが一目瞭然です。

【3秒で押さえる要点】

  • オナモミ:イガグリ型」。トゲトゲの果胞(かほう)が丸ごと服にくっつく。大きくて目立つが、比較的取りやすい。
  • センダングサ:ヤリ型」。トゲ(冠毛)のついた細長いタネが、服の繊維に突き刺さる。小さく無数にくっつき、取るのが非常に厄介。
  • 仕組みの違い:オナモミは「カギ爪」で引っ掛け、センダングサは「モリ(銛)」のように突き刺さる。
「オナモミ」と「センダングサ」の主な違い
項目オナモミ(オオオナモミなど)センダングサ(コセンダングサなど)
分類・系統キク科 オナモミ属キク科 センダングサ属
実(タネ)の形状トゲのある球〜卵形(イガグリ型)果胞(かほう)数mm〜1.5cmほどの細長い棒状の痩果(そうか)
ひっつく仕組み実全体を覆う総苞片(そうほうへん)のカギ爪が繊維に引っかかるタネの先端にある数本のトゲ(冠毛が繊維に突き刺さる
ひっつき方ゴロッとした塊が「面的」にくっつくタネが1本1本バラバラに「点的」に突き刺さる
服からの取りやすさ比較的取りやすい(大きい)非常に取りにくい(細かく刺さる)
法規制・保全オオオナモミは要注意外来生物(生態系被害防止外来種リスト)コセンダングサ、アメリカセンダングサ等は要注意外来生物
人との関わり昔は「ひっつき虫遊び」の定番だった靴下などに刺さると痛く、厄介者として認識される

形態・見た目とサイズの違い(ひっつく「実」の形状)

【要点】

最大の違いは実(タネ)の形状です。オナモミは長さ1〜2cmほどのトゲトゲした「イガグリ型」の塊です。一方、センダングサは長さ1cm前後の「細長いヤリ型」のタネが特徴です。

服にくっついた「ひっつき虫」がどちらなのか見分けるのは簡単です。その「形」に注目してください。

「オナモミ」(近年よく見られるのはオオオナモミ)の実は、全体がトゲトゲした球形〜卵形をしています。まさに「小さなイガグリ」といった風貌で、大きさは1cm〜2.5cmほどの塊(かたまり)です。この塊は「果胞(かほう)」と呼ばれ、硬い殻の中に通常2つのタネが入っています。服にくっつく時は、この塊が丸ごとゴロっと付着します。

一方、「センダングサ」(特に都市部で猛威を振るうコセンダングサなど)の実は、全く形が違います。こちらは長さ1cm前後の、細長い「ヤリ」や「針」のような形状をしています。タンポポの綿毛を想像してほしいのですが、あの綿毛の部分が硬いトゲになったような姿です。これを痩果(そうか)と呼びます。服にくっつく時は、この細長いタネが1本1本バラバラになって、繊維に突き刺さります。

行動・生態・ライフサイクルの違い(ひっつく仕組みと繁殖戦略)

【要点】

ひっつく仕組み(戦略)が根本的に異なります。オナモミは実全体のカギ爪で動物の毛や服に「引っかかる」戦略です。センダングサはタネの先端にあるトゲ(冠毛)を「突き刺す」戦略で、より確実に運んでもらおうとします。

見た目が違う両者ですが、動物や人にくっついてタネを運んでもらう「ひっつき虫」としての戦略も大きく異なります。

オナモミの戦略は「引っかける(フック式)」です。
イガグリ状の果胞の表面には、先端がカギ爪状に曲がったトゲ(総苞片)がびっしり生えています。これが動物の毛や人間の服の繊維(特にセーターやフリースなど)にガッチリと引っかかります。このカギ爪の仕組みは非常に強力で、あのマジックテープ(面ファスナー)が開発されるヒントになったほどです。

対照的に、センダングサの戦略は「突き刺す(スピア式)」です。
細長いタネの先端には、2〜4本の「冠毛(かんもう)」と呼ばれるトゲがあります。このトゲには「返し」がついており、一度繊維に刺さると抜けにくい構造になっています。まるで漁に使う「モリ(銛)」のようです。靴下やズボンの裾にチクチクと刺さるあの感覚は、まさにこのトゲが原因です。

どちらも一年草で、秋に実(タネ)をつけ、冬には枯れてしまいます。オナモミの果胞は水に浮くこともできるため、水流によっても分布を広げることがあります。

生息域・分布・環境適応の違い

【要点】

どちらも日本全国の道端、空き地、河川敷など、日当たりの良い場所に生息する雑草です。特に近年は、北米原産の「オオオナモミ」や「コセンダングサ」「アメリカセンダングサ」など、外来種の勢力が非常に強くなっています。

オナモミもセンダングサも、私たちが普段生活する身近な場所で見られます。
どちらも日当たりの良い場所を好み、道端、空き地、畑、河川敷、土手など、人間の生活圏に広く分布しています。

実は、私たちが現在「オナモミ」として認識しているものの多くは、在来種のオナモミではなく、北米原産の「オオオナモミ」や「イガオナモミ」であることが多いです。環境省によると、在来種のオナモミは激減しており、オオオナモミなどの外来種に取って代わられています。

センダングサも同様です。秋に黄色い花を咲かせる「センダングサ」は在来種ですが、都市部でよく見かける、白い花びら(舌状花)がなく黄色い中心部(筒状花)だけの「コセンダングサ」や、大きな黄色い花が咲く「アメリカセンダングサ」は、いずれも外来種です。
彼らは非常に繁殖力が強く、日本の生態系に影響を与えています。

危険性・衛生・法規制の違い(服から取る方法と注意点)

【要点】

どちらも毒はありませんが、センダングサのトゲは皮膚に刺さるとチクチク痛むことがあります。オオオナモミやコセンダングサは要注意外来生物に指定されています。服から取る際は、オナモミは手で、センダングサは粘着テープを使うのが効率的です。

まず、どちらの植物にも毒はありませんので、触れても危険はありません。
ただし、センダングサのタネは先端が鋭く、靴下を貫通して皮膚に刺さるとチクチクとした痛みを感じることがあります。犬や猫などのペットの毛に絡みつくと、皮膚炎の原因になる可能性もあるため注意が必要です。

服についてしまった時の「取りやすさ」には、天と地ほどの差があります。
オナモミは塊でくっついているため、一つ一つ手でつまんで取ることができます。多少面倒ですが、被害は比較的軽微です。
問題はセンダングサです。これは本当に厄介です。繊維に深く突き刺さった無数のタネを手で取ろうとすると、指先に刺さる上に、途中で折れてトゲだけが残ることも。
センダングサが大量にくっついた場合は、ガムテープや粘着カーペットクリーナー(コロコロ)を使って、繊維ごと引き剥がすように取るのが最も効率的です。

法規制に関しては、前述の通り、在来のオナモミは減少傾向にありますが、オオオナモミやコセンダングサ、アメリカセンダングサなどは、環境省の「生態系被害防止外来種リスト」に含まれる要注意外来生物です。生態系への影響が懸念されるため、自宅の庭などで見つけた場合は、タネをつける前に駆除することが望ましいとされています。

文化・歴史・人との関わりの違い

【要点】

オナモミは、そのイガグリ状の見た目から、昔の子供たちにとっては「投げ合って遊ぶ」ための道具でもありました。一方、センダングサは、その厄介さから主に「雑草」として認識されています。

「ひっつき虫」としての知名度や人との関わり方にも違いがあります。
オナモミは、その大きさと特徴的な形から、古くから子供たちの「遊び道具」として親しまれてきました。服にくっつく性質を利用して、友達の背中にこっそり投げつけて遊んだ経験がある人も多いのではないでしょうか。その形状から「泥棒草」や「ひっつきもっつき」など、様々な愛称(俗称)で呼ばれてきました。

一方、センダングサ(特にコセンダングサ)は、遊び道具になることは稀です。むしろ、その細かく鋭いトゲが服やペットの毛に無数に突き刺さるため、「厄介な雑草」「取り除くのが大変なひっつき虫」としての認識が圧倒的に強いです。

どちらも植物の生存戦略としては大成功を収めていますが、人間からの「愛され度」には大きな差があるようです。

「オナモミ」と「センダングサ」の共通点

【要点】

どちらもキク科の一年草であり、動物や人の衣服にくっつくことでタネを遠くへ運ぶ「ひっつき虫(くっつき虫)」である点が最大の共通点です。また、日当たりの良い空き地や道端を好む雑草でもあります。

全く異なる見た目と戦略を持つ両者ですが、もちろん共通点もあります。

  1. 分類:どちらも「キク科」の植物です。オナモミはオナモミ属、センダングサはセンダングサ属に分類されます。
  2. 繁殖戦略:動物や人間に付着してタネを運んでもらう「ひっつき虫(動物付着種子)」であること。これが最大の共通点です。
  3. 生態:どちらも日当たりの良い場所を好む一年草(いちねんそう)です。秋にタネをつけ、冬には枯れてしまいます。
  4. 外来種問題:どちらの属にも繁殖力の強い外来種(オオオナモミ、コセンダングサ等)が含まれており、在来の生態系に影響を与えています。

絶望のセーターと靴下(体験談)

僕が「ひっつき虫」の違いを心底思い知ったのは、秋の河川敷を散歩した日のことです。

その日、僕はウールのお気に入りのセーターと、普通のスポーツソックスを履いていました。茂みに入ったつもりはなくても、草むらを少し横切っただけ。
ふと気づくと、セーターの袖にはゴルフボール大のトゲトゲした塊、「オナモミ」が10個ほどくっついていました。「あー、やられた」と思いましたが、まあ手で取ればいいや、と比較的楽観的でした。

本当の絶望は、足元で起こっていました。
靴下、特にくるぶしから上の部分が、黒い「何か」でびっしりと覆われていたのです。
「なんだこれ!?」とよく見ると、それは無数の「センダングサ」のタネでした。もはや黒い靴下を履いているかのように、繊維の奥深くまでヤリ状のタネが突き刺さっています。
手で取ろうとすると、指先に「チクッ!」と痛みが走ります。引っ張っても「返し」が効いて抜けません。

結局、オナモミはその場で5分ほどで取り除けましたが、センダングサに覆われた靴下は、帰宅後に粘着テープとピンセットを駆使しても完全には取りきれず、泣く泣く捨てることになりました。
オナモミは「面倒なヤツ」、センダングサは「絶望をくれるヤツ」。これが僕の体験から得た最大の違いです。

「ひっつき虫」に関するよくある質問

Q: ひっつき虫(くっつき虫)って何種類くらいあるの?

A: 「ひっつき虫」は植物のタネの運び方による俗称なので、分類学上のグループではありません。オナモミやセンダングサ(キク科)のほか、カギ爪でくっつくヌスビトハギ(マメ科)、粘液でくっつくメヒシバ(イネ科)、衣服の繊維に絡まるイノコズチ(ヒユ科)など、その種類は非常に多岐にわたります。

Q: オナモミやセンダングサは外来種なの?

A: どちらにも在来種と外来種が存在します。在来の「オナモミ」は現在非常に少なくなっており、私たちがよく目にするのは北米原産の「オオオナモミ」や「イガオナモミ」であることが多いです。同様に、「センダングサ」の仲間も「コセンダングサ」や「アメリカセンダングサ」といった外来種が優勢になっています。

Q: 服についたひっつき虫を簡単にとる方法は?

A: オナモミのような大きな塊は、手で一つずつ取るのが確実です。センダングサやイノコズチのような細かく刺さるタイプは、粘着テープ(ガムテープや布テープが強力)や粘着カーペットクリーナー(コロコロ)を押し付けて剥がすのが最も効率的です。ただし、フリースやセーターなど、繊維の奥に入り込むと完全除去は困難な場合があります。

「オナモミ」と「センダングサ」の違いのまとめ

秋の厄介者「ひっつき虫」の代表格、オナモミとセンダングサ。その違いは、見た目も戦略も対照的でした。

  1. 見た目:オナモミは「イガグリ型」の塊、センダングサは「ヤリ型」の細いタネ。
  2. 仕組み:オナモミは「カギ爪」で引っ掛け、センダングサは「トゲ(返し付き)」で突き刺さる。
  3. 被害:オナモミは大きくて取りやすいが、センダングサは無数に刺さって非常に取りにくい。
  4. 正体:どちらもキク科の植物だが、近年は繁殖力の強い外来種(オオオナモミやコセンダングサ)が主流。

これからの季節、草むらに入るときは、彼らの違いを思い出して、なるべく表面がツルツルした服を選ぶことをおすすめします!植物の生態や他の生物その他に関する違いについても、ぜひ他の記事をご覧ください。

参考文献(公的一次情報)