カタツムリと貝の違い!陸と水、生息地で分かれた軟体動物の仲間

「カタツムリ」と、私たちが普段「貝」と呼んでいるもの。

一方は庭先を這い、もう一方は海や川の底にいます。全く違う生き物に見えますが、実はカタツムリは「貝」の仲間です。

最も簡単な答えは、カタツムリは「陸に住む巻貝」、私たちが一般的に「貝」と呼ぶものの多くは「水(海や淡水)に住む貝」だということです。

この記事を読めば、なぜカタツムリが貝なのか、その分類学上の位置づけから、生態、そして飼育や取り扱い上の重大な注意点(寄生虫)まで、スッキリと理解できます。

【3秒で押さえる要点】

  • 分類:カタツムリは軟体動物腹足綱に属する「貝」の一種です。
  • 生息地:カタツムリは陸に生息する「陸貝(りくがい)」、一般的な貝は海や淡水に生息する「水生貝」です。
  • 危険性:野生のカタツムリは寄生虫(広東住血線虫)を持つ可能性があり、触ったら必ず手を洗う必要があります。
「カタツムリ(陸貝)」と「一般的な貝(水生貝)」の主な違い
項目カタツムリ(陸生の巻貝)一般的な貝(水生の巻貝・二枚貝)
分類軟体動物門 腹足綱(巻貝)軟体動物門 腹足綱(巻貝)または二枚貝綱など
生息地陸上(森林、庭、公園など湿った場所)水中(海、川、湖、砂浜など)
呼吸方法外套膜が変化)による空気呼吸エラ(鰓)による水中呼吸
主な仲間マイマイ、アフリカマイマイ、ナメクジ(殻が退化)サザエ、アワビ(巻貝)、アサリ、ホタテ(二枚貝)
危険性寄生虫(広東住血線虫)の可能性貝毒、食中毒(ノロウイルスなど)の可能性
飼育・取り扱い飼育可。野生個体は寄生虫に厳重注意。食用(砂抜き等)または観賞用(水槽飼育)。

見た目とサイズの違い(「貝」の多様性)

【要点】

「貝」という言葉は非常に幅広く、カタツムリやサザエなどの「巻貝」と、アサリやホタテなどの「二枚貝」を大きく含みます。カタツムリは、その中の「巻貝」が陸上生活に適応した姿であり、目や触角が発達しています。

まず、「貝」という言葉が指す範囲を整理する必要があります。「貝」とは、一般的に硬い貝殻を持つ軟体動物の総称です。
この「貝」には、大きく分けて2つのグループがあります。

  1. 腹足綱(ふくそくこう)=巻貝の仲間:殻が巻いているグループ。サザエ、アワビ、タニシ、そしてカタツムリが含まれます。
  2. 二枚貝綱(にまいがいこう)=二枚貝の仲間:2枚の殻が蝶番(ちょうつがい)で繋がっているグループ。アサリ、ハマグリ、ホタテ、シジミなどが含まれます。

つまり、カタツムリは「貝」の中でも「巻貝」の仲間に分類されます。
カタツムリの見た目は、私たちがよく知るアサリやホタテ(二枚貝)とは全く異なりますが、サザエやタニシ(同じ巻貝)と比べると、殻を背負って這う姿はよく似ています。

カタツムリが他の多くの貝と決定的に違うのは、陸上で生活するために進化した点です。
水中で暮らす貝と違い、カタツムリは空気中で活動するために、よく発達した2対の触角を持っています。長い方の先端には「目」があり、短い方で匂いなどを感じ取ります。
また、陸上で体を支え、乾燥から身を守るために、殻は比較的薄く軽量化し、粘液を分泌する能力が発達したと考えられています。

生態・行動・生息域の違い(陸と水)

【要点】

最大の違いは生息域と呼吸方法です。カタツムリは湿った陸地に住み、「肺」(外套膜が変化したもの)で空気呼吸をします。一方、アサリやサザエなど水生の貝は、海や淡水に住み、「エラ」で水中呼吸をします。

カタツムリが「貝」の主流派(水生貝)と袂を分かった最大のポイントは、生息地とそれに伴う呼吸方法です。

カタツムリ(陸貝)は、森林の落ち葉の下、庭の植木鉢の裏、公園のブロック塀など、湿度の高い陸地を好みます。彼らは私たち人間と同じように、空気中の酸素を取り込む必要があります。そのため、エラではなく、「(はい)」と呼ばれる器官で呼吸します。この肺は、殻の入り口付近にある外套膜(がいとうまく)というヒダが変化したものです。

一方、一般的な貝(水生貝)は、海(サザエ、アサリ、ホタテなど)や、川・湖(タニシ、シジミなど)といった水中で生活しています。彼らは水に溶け込んだ酸素を取り込むため、「エラ(鰓)」で呼吸します。

この生息地の違いは、食性にも影響を与えます。
カタツムリは、植物の若葉、コケ、菌類(キノコ)などを食べます。驚くべきことに、殻の材料となるカルシウムを補給するために、コンクリートの壁を舐めることもあります。
水生貝の食性は多様で、アサリやホタテ(二枚貝)は水中のプランクトンを濾(こ)し取って食べ、サザエやアワビ(巻貝)は岩に付着した藻類を削り取って食べます。

寿命・健康リスク・寄生虫の違い

【要点】

カタツムリの寿命は数年〜10年程度。野生個体は寄生虫(広東住血線虫)を持つ危険性があり、絶対に生で触ったり食べたりしてはいけません。水生の貝も種類により寿命は様々で、貝毒や食中毒のリスクがあります。

カタツムリの寿命は種類によりますが、飼育下では数年から、長いものでは10年以上生きることもあります。
しかし、カタツムリとの関わりで最も注意すべきは健康リスク、特に「寄生虫」です。

厚生労働省によると、野生のカタツムリやナメクジ類には「広東住血線虫(かんとんじゅうけつせんちゅう)」という寄生虫がいる可能性があり、これが人間に感染すると、髄膜炎(ずいまくえん)などの重篤な症状を引き起こすことがあります。 絶対に生で食べたり、触った手で口や目をこすったりしてはいけません。

一方、水生の貝(特に食用の二枚貝)のリスクは、「貝毒(かいどく)」や「食中毒」です。
貝毒は、貝が有毒なプランクトンを食べることによって体内に蓄積される毒で、麻痺や下痢を引き起こします。 また、カキなどではノロウイルスによる食中毒も知られています。どちらも加熱によってリスクを減らすことができますが、カタツムリの寄生虫とは異なる種類の危険性です。

「カタツムリ」と「貝」の共通点

【要点】

カタツムリも貝も、どちらも「軟体動物門」に属する生物です。体を覆う「外套膜」という器官で自ら「貝殻」を作ること、多くが「歯舌(しぜつ)」というヤスリ状の歯を持つことなどが共通しています。

これほど違う両者ですが、生物学的なルーツは同じです。
最大の共通点は、どちらも「軟体動物門(なんたいどうぶつもん)」という大きなグループに属していることです。
軟体動物は、柔らかい体を持つ生物の集まりで、カタツムリやアサリのほか、イカやタコ、ナメクジ、クリオネなども含まれます。

その中で、カタツムリと一般的な貝類は、

  1. 貝殻を持つこと:体を守るための炭酸カルシウムを主成分とする硬い殻を持っています(ナメクジやイカのように退化している種もいます)。
  2. 外套膜(がいとうまく)を持つこと:この外套膜と呼ばれるヒダ状の器官が、貝殻を分泌して作り出します。
  3. 歯舌(しぜつ)を持つこと:二枚貝を除く巻貝の仲間(カタツムリを含む)は、歯舌というヤスリのような歯を持ち、これでエサを削り取って食べます。

という共通の特徴を持っています。カタツムリは紛れもなく「貝」の一員なのです。

分類学上の関係と進化の歴史

【要点】

カタツムリは「貝」の中でも「巻貝(腹足綱)」の仲間に含まれます。「貝」とは軟体動物門のうち、主に貝殻を持つ種の総称です。カタツムリは、水中にいた巻貝の祖先が、陸上生活に適応して進化したグループ(陸貝)です。

「貝」という言葉は、生物学的な分類名(界・門・綱・目・科・属・種)ではなく、軟体動物門の中で貝殻を持つグループの総称として使われることが多いです。

カタツムリの分類学上の位置づけは以下の通りです。

  • 界:動物界
  • 門:軟体動物門
  • 綱:腹足綱(巻貝の仲間)
  • (広義のグループ):陸貝(陸上に生息する腹足綱のうち、殻を持つものの総称)

国立科学博物館などの研究によると、カタツムリの祖先は、海や淡水に住む巻貝でした。 彼らがなぜ陸上に進出したのか、その理由は定かではありませんが、水中での捕食者から逃れるため、あるいは陸上の豊富な植物質という新しいエサ場を求めたため、などと考えられています。

陸上への進出は、とてつもない大革命でした。最大の課題は「呼吸」と「乾燥」です。
彼らはエラ呼吸をやめ、外套膜を変化させて空気呼吸ができる「肺」を獲得しました。そして、乾燥から身を守るために、粘液を分泌して体を潤し、活動しない時は殻の中に閉じこもる(殻蓋(からぶた)を持つ種もいます)という戦略を身につけたのです。
カタツムリは、貝類というグループから陸上という新天地に進出した、偉大な冒険者の一族と言えます。

飼育・取り扱いの注意点(寄生虫)

【要点】

カタツムリはペットとして飼育可能ですが、野生個体の取り扱いは厳重注意。寄生虫(広東住血線虫)のリスクがあるため、触ったら必ず石鹸で手を洗いましょう。水生の貝(淡水貝など)を飼育する場合も、水質管理や他の生物との混泳に注意が必要です。

カタツムリは、そのユニークな姿や動きから、ペットとして飼育されることもあります。
飼育自体は比較的容易で、湿らせた土を敷いたケースに、隠れ家となる落ち葉や枝を入れ、ニンジンやキャベツ、リンゴなどの野菜・果物を与えます。殻の形成のために、卵の殻やイカの甲(カトルボーン)など、カルシウム源も必要です。

しかし、飼育の際に最も重要な注意点が、前述した寄生虫のリスクです。
特に野生のカタツムリを捕まえてきて飼育する場合、広東住血線虫を持っている可能性があります。飼育ケースを掃除したり、カタツムリに触れたりした後は、必ず石鹸で徹底的に手を洗ってください。 小さな子供がいる家庭では、誤って口に入れたりしないよう、厳重な管理が求められます。

一方、アサリやシジミなどの水生の貝は、食用として一時的に飼育(砂抜き)されることが多いですが、水槽で観賞用の貝(淡水性のイシマキガイなど)を飼育することもあります。この場合は、水質の管理や、エサとなる藻類のバランス、他の魚との相性などに注意が必要です。

雨上がりのヒーロー、その正体は

僕が子供の頃、雨上がりの日は宝探しの時間でした。ブロック塀やアジサイの葉に現れる、ツノを出してゆっくりと進むカタツムリを見つけるのが大好きだったのです。彼らは僕にとって、雨の日だけ会える不思議なヒーローのようでした。

ある日、図鑑を読んでいて衝撃を受けました。「カタツムリは貝のなかま」
「え?貝って、海にいて、お味噌汁に入っているアサリじゃないの?」
庭を這うヒーローと、食卓に並ぶアサリが親戚だなんて、子供心に到底信じられませんでした。

しかし、大人になってその「違い」を知ると、見方が変わりました。
カタツムリは、アサリ(二枚貝)とは遠い親戚ですが、サザエ(巻貝)とは近縁です。そして、彼ら巻貝の仲間の一部が、大昔に海や川から陸上へと進出し、肺呼吸を身につけ、乾燥と戦いながら生き抜いてきた末裔なのだと。

そう思って雨上がりのカタツムリを改めて見ると、かつてのヒーローとは違う、尊敬の念が湧いてきます。彼は、大昔に海から未知の大地へと大冒険を遂げた、勇敢な一族の生き残りなのですから。

「カタツムリ」と「貝」に関するよくある質問

Q: カタツムリの殻を取ったらナメクジになりますか?

A: いいえ、なりません。ナメクジはカタツムリと同じ陸生の巻貝の仲間ですが、進化の過程で殻が退化、あるいは消失したグループです。カタツムリは殻と内臓が繋がっており、殻を無理やり取ると死んでしまいます。

Q: カタツムリの寄生虫はどれくらい危険ですか?

A: 非常に危険です。広東住血線虫は、人体に入ると脳や脊髄に移動し、好酸球性髄膜炎という重い病気を引き起こす可能性があります。 死亡例や重い後遺症が残るケースも報告されているため、野生のカタツムリやナメクジには絶対に素手で触れず、触った場合は必ず手を洗うことが重要です。

Q: 貝殻がないイカやタコも貝の仲間ですか?

A: はい、驚くべきことにイカやタコも「軟体動物門」に属する貝の仲間です(頭足綱に分類されます)。彼らの祖先も殻を持っていましたが、より速く泳ぐために進化の過程で殻が退化したり、体内(イカの甲など)に取り込まれたりしました。

Q: 「アフリカマイマイ」とは何ですか?

A: 世界最大のカタツムリの一種で、非常に繁殖力が強い外来種です。農作物への食害が深刻で、広東住血線虫の中間宿主としても知られています。日本では生態系被害防止外来種に指定されており、許可なく飼育・運搬・輸入することが禁止されています。

「カタツムリ」と「貝」の違いのまとめ

「カタツムリ」と「貝」の違い、それは「違うもの」ではなく、「カタツムリは貝という大きなグループの一部」というのが答えでした。

  1. カタツムリは貝の一種:軟体動物門の腹足綱(巻貝)に属します。
  2. 生息地の違い:カタツムリは「陸貝」、アサリやサザエは「水生貝」です。
  3. 呼吸の違い:カタツムリは「肺呼吸」、水生貝は「エラ呼吸」です。
  4. 最大の注意点:野生のカタツムリは危険な寄生虫を持つ可能性があり、取り扱いに厳重な注意が必要です。

身近な生き物ですが、正しい知識を持って接することが大切ですね。他の生物その他に関する違いについても、ぜひ他の記事をご覧ください。

参考文献(公的一次情報)