ういろうとようかん、どちらも日本の伝統的な和菓子で、細長い「棹物菓子(さおものがし)」として形も似ていますよね。
でも、いざ口にすると、その食感や風味は全く異なります。
実は、この二つの決定的な違いは「主原料」と「製法」にあります。ういろうは米粉などを「蒸し固める」のに対し、ようかんは小豆餡を「寒天で固める」のが基本です。
この記事を読めば、ういろうとようかんの根本的な違いから、歴史的背景、さらには「蒸し羊羹」との複雑な関係までスッキリと理解できます。
それでは、二つの魅力的な和菓子の違いを詳しく見ていきましょう。
結論|ういろうとようかんの違いを一言でまとめる
ういろうとようかんの最大の違いは「主原料」と「固め方」です。ういろうは米粉や小麦粉などの穀粉を砂糖と混ぜて「蒸し固め」、もっちり・ぷるぷるした食感が特徴です。一方、ようかんは小豆餡を「寒天で固め」、ずっしり・ねっとりした食感(練羊羹の場合)が特徴です。
ういろうとようかんは、見た目こそ似ていますが、全く別の種類の和菓子と言えます。
ういろう(外郎)は、米粉や小麦粉、わらび粉などの穀粉に砂糖と水を加えて練り、型に入れて「蒸し固め」て作られます。これにより、独特のもっちり、ぷるぷるとした弾力のある食感が生まれます。
ようかん(羊羹)は、小豆餡を主原料とし、「寒天」を加えて練り上げ、冷やし固めて作られます。寒天の作用により、しっかりとした硬さや弾力があり、ずっしりと濃厚な味わいが特徴です。
この二つの違いを、比較表で見てみましょう。
| 項目 | ういろう | ようかん(練羊羹) |
|---|---|---|
| 主原料 | 米粉、小麦粉、わらび粉など | 小豆餡、砂糖 |
| 固める材料 | デンプン(米粉など)の糊化 | 寒天 |
| 製法 | 蒸す | 練り上げて冷やし固める |
| 食感 | もっちり、ぷるぷる、弾力がある | ずっしり、ねっとり、しっかり |
| 味わい | 素朴で優しい甘さ、あっさり | 濃厚で強い甘さ、小豆の風味豊か |
| 日持ち | 短い(生菓子) | 長い(練羊羹の場合) |
ういろうとようかんの定義と製法の違い
製法が決定的に違います。ういろうは、米粉などのデンプンに熱を加えて糊化(こか)させる、つまり「蒸す」ことで固めます。ようかん(練羊羹)は、寒天のゼリー化(ゲル化)作用を利用し、「冷やす」ことで固めます。
ういろうの定義と製法
ういろうは、米粉や小麦粉、わらび粉といった穀粉に、砂糖とお湯または水を加えてよく練り混ぜた生地を「蒸し器」で蒸して作られます。
これは、主原料であるデンプンに熱と水分を加えることで「糊化(こか)」させ、冷ますことでもちもちとした食感を生み出す製法です。寒天などの凝固剤は使用しません。
ようかんの定義と製法
ようかん(最も一般的な練羊羹)は、小豆から作った餡(生餡)に砂糖、水、そして寒天を加え、火にかけて練り上げます。
十分に練ったものを型(羊羹舟)に流し込み、「冷やし固める」ことで作られます。この「固める」力は、寒天のゼリー化(ゲル化)作用によるものです。ういろうのように蒸す工程はありません(※後述の蒸し羊羹を除く)。
原材料の違い|「米粉」と「小豆・寒天」
主原料が全く異なります。ういろうの主原料は米粉などの「穀粉」です。一方、ようかんの主原料は「小豆餡」と、固めるための「寒天」です。
ういろうの主原料は、米粉(うるち米)が最も一般的です。地域や店舗によっては、小麦粉やわらび粉など、他の粉がブレンドされることもあります。これにより、食感に「ぷるぷる感」が加わるなど、独自性が生まれます。
ようかんの主原料は、小豆(餡)です。これに砂糖と寒天が必須の材料として加わります。ようかん独特のずっしりとした固さと食感は、この寒天によって生み出されています。
味・食感・見た目の違いを比較
ういろうは米粉由来の素朴で優しい甘さと、もっちり・ぷるぷるした弾力のある食感が特徴です。ようかん(練羊羹)は、小豆と砂糖の濃厚でしっかりとした甘さと、寒天によるずっしり・ねっとりとした重厚な食感が特徴です。
味と香り
ういろうは、主原料が米粉であるため、素材の風味を活かした素朴で優しい甘さ、あっさりとした味わいが特徴です。黒糖、抹茶、桜、柚子など、加える風味によって香りが大きく変わります。
ようかんは、小豆餡と砂糖が主原料であるため、ガツンと濃厚でしっかりとした甘さと、小豆本来の豊かな風味を感じられます。お茶請けとして最適な和菓子ですね。
食感(もちもち vs ねっとり)
これが二つの最大の違いかもしれません。
ういろうの食感は、「もっちり」「ぷるぷる」という表現がぴったりです。米粉やわらび粉由来の独特の弾力があり、歯切れが良いのが特徴です。
ようかん(練羊羹)の食感は、「ずっしり」「ねっとり」「しっかり」としています。密度が高く、重厚感のある口当たりです。
見た目
ういろうは、米粉を蒸しているため、やや半透明感があり、みずみずしく柔らかそうな見た目をしています。
ようかん(練羊羹)は、寒天で固められているため、光沢があり、角が立った硬質で重厚な印象を与えます。
ういろうとようかんの種類
ういろうは風味(抹茶、黒糖など)で種類が変わります。ようかんには製法と水分量で主に3種類あり、「練羊羹」「水羊羹」「蒸し羊羹」に分かれます。特に「蒸し羊羹」はういろうと製法が似ていますが、主原料が餡である点が異なります。
ういろうの種類
ういろうの種類は、主に加えられる風味によって分けられます。代表的なものには以下のような種類があります。
- 白(プレーン)
- 黒糖
- 抹茶
- 小豆
- 桜
- 柚子
また、名古屋、山口、小田原、神戸など、製造する地域によっても米粉、小麦粉、わらび粉などの配合が異なり、食感や風味が変わるのも特徴です。
ようかんの種類(練羊羹・水羊羹・蒸し羊羹)
ようかんは、製法や水分量によって大きく3種類に分類されます。
- 練羊羹(ねりようかん):最も一般的で、寒天と砂糖、餡をしっかり練り上げて作られます。水分量が少なく、糖度が高いため日持ちするのが特徴です。
- 水羊羹(みずようかん):練羊羹と同じ材料ですが、寒天の量を減らし水分を多く含ませて作られます。つるんとした口当たりと、あっさりした甘さが特徴で、主に夏に食べられます(福井県など一部地域では冬に食べる文化もあります)。
- 蒸し羊羹(むしようかん):寒天を使わず、餡に小麦粉や葛粉、片栗粉などを加え、型に入れて蒸し固めたものです。
ここでややこしいのが「蒸し羊羹」の存在です。蒸し羊羹は「蒸す」という製法がういろうと共通しています。しかし、ういろうの主原料が「米粉」なのに対し、蒸し羊羹の主原料はあくまで「餡」であるという決定的な違いがあります。栗蒸し羊羹などが代表的ですね。
歴史・発祥・文化的な違い
ういろうは、室町時代に中国から伝わった「外郎(ういろう)」という薬の口直しとして添えられた菓子が起源とされます。ようかんは、元々中国の「羊の肉のスープ」でしたが、禅宗と共に日本に伝わり、肉の代わりに小豆を使って固めたものが原型とされます。
ういろうの歴史|薬の名前が由来?
ういろうの歴史は室町時代に遡ります。元(中国)の役人であった陳延祐(ちんえんゆう)が日本に亡命し、「外郎(ういろう)」という役職名を通称としました。
彼が持ち込んだ「透頂香(とうちんこう)」という薬が、咳や痰に効くとして評判になり、やがて家名から「ういろう」と呼ばれるようになりました。
お菓子の「ういろう」の起源には諸説ありますが、その薬の口直しとして添えられた米粉と黒糖を使った菓子が原型であるという説や、薬の色に似ていたからという説があります。
名古屋名物として有名になったのは比較的近代で、1964年の東海道新幹線開通時に車内販売を始めたことで、全国的な知名度が一気に高まったと言われています。
ようかんの歴史|羊のスープが起源?
ようかん(羊羹)の歴史はさらに古く、元々は中国の料理で、字の通り「羊の肉(羹=あつもの、スープ)」の煮こごり(冷ましてゼリー状に固めたもの)でした。
これが禅宗と共に日本に伝わりましたが、僧侶は肉食が禁じられていたため、羊肉の代わりに小豆や小麦粉、葛粉などを用いてスープに見立てたものが原型とされています。これが後の「蒸し羊羹」に近いものだったと考えられます。
現在のような寒天で固める「練羊羹」が作られるようになったのは、江戸時代に入ってからです。
保存方法・賞味期限の違い
ういろうは水分が多く糖度が低いため、日持ちしない「生菓子」です。一方、ようかん(練羊羹)は糖度が非常に高く水分が少ないため、保存性が高く、賞味期限が数ヶ月から1年以上と非常に長いのが特徴です。
ういろうは、米粉などを蒸して作るため水分が多く、糖度も比較的低いため、日持ちがしません。基本的には「生菓子」に分類され、賞味期限は数日から長くても1〜2週間程度が一般的です。開封後はすぐに硬くなりやすいため、早めに食べきる必要があります。
ようかん(練羊羹)は、製造工程で水分を飛ばし、大量の砂糖と寒天で固めているため、糖度が非常に高くなります。砂糖には高い防腐性があるため、練羊羹は非常に保存性が高く、未開封であれば数ヶ月から1年、商品によっては5年もの長期保存が可能なものもあります。
ただし、水羊羹や蒸し羊羹は、練羊羹に比べて水分が多く糖度が低いため、ういろうと同様に日持ちはしません。
体験談|「ういろう」と「ようかん」食べ比べの記憶
僕にとって、ういろうとようかんの違いは、食感の「軽やかさ」と「重厚さ」の違いとして記憶されています。
初めて名古屋を訪れた際、駅のお土産屋さんで色とりどりの「ういろう」が並んでいるのを見ました。白、黒(黒糖)、抹茶、桜色…。それまで「ようかんの柔らかい版?」くらいの曖昧な認識しかなかったのですが、一口食べてみて驚きました。
「もちっ、ぷるん!」
想像していたよりもずっと弾力があり、それでいて歯切れが良い。甘さも非常に控えめで、米粉の優しい風味が感じられました。これはようかんとは全く別物だ、と。いくつでも食べられそうな軽やかさがありましたね。
その帰り道、今度は有名な老舗の「ようかん」を一本買ってみました。包みを開け、切り分けるときのずっしりとした手応え。黒光りする断面。口に入れると、ねっとりとした食感と共に、小豆の濃厚な風味とガツンとした甘さが広がりました。
一切れで満足感がすごい。これは、お茶が絶対に必要だ、と。
ういろうは「弾力と優しい甘さを楽しむお菓子」、ようかんは「濃厚な甘さと小豆の風味をじっくり味わうお菓子」。この二つは似て非なる、それぞれの魅力を持つ和菓子だと実感した体験でした。
ういろうとようかんに関するよくある質問
ここでは、ういろうとようかんに関してよくある疑問にお答えします。
ういろうと「蒸し羊羹」は、結局何が違うのですか?
一番の違いは主原料です。どちらも「蒸す」という製法は共通していますが、ういろうは「米粉」などの穀粉が主原料なのに対し、蒸し羊羹は「小豆餡」が主原料です。そのため、ういろうはもちもちした食感、蒸し羊羹は小豆の風味が強い、より羊羹に近い味わいになります。
ういろうは名古屋が発祥ではないのですか?
ういろうは名古屋名物として非常に有名ですが、発祥の地には諸説あります。歴史で触れたように、薬としての「ういろう」を伝えた陳氏は博多に亡命し、その後京都で活動しました。その子孫が神奈川県の小田原市で現在も薬と菓子「ういろう」を製造販売しています。山口県や神戸市など、全国各地に名物のういろうが存在します。名古屋が有名になったのは、東海道新幹線の車内販売が大きなきっかけです。
ようかんはなぜ「羊」という漢字を使うのですか?
その起源が、中国の「羊の肉のスープ(羊羹)」にあるためです。日本に伝わった際、僧侶が肉の代わりに小豆などを使って作ったのが始まりとされ、名前だけが残ったと言われています。
まとめ|ういろうとようかん どちらを選ぶべきか?
ういろうとようかんの違い、奥深い歴史と共に楽しんでいただけたでしょうか。
どちらも日本の素晴らしい伝統菓子ですが、その個性は全く異なります。もう選ぶ際に迷うことはありませんね。
- もっちり、ぷるぷるとした食感と、素朴で優しい甘さを楽しみたい時は、ういろう。
- ずっしり、ねっとりとした濃厚な甘さと、小豆の風味をじっくり味わいたい時は、ようかん(練羊羹)。
好みやその日の気分、合わせるお茶によって使い分けてみてください。
ういろうやようかんのように、日本の伝統的な和菓子にはまだまだ奥深い世界が広がっています。他の和菓子との違いについては、「スイーツ・お菓子の違い」のまとめ記事もぜひご覧ください。
また、和菓子の歴史や分類についてさらに詳しく知りたい場合は、農林水産省の食育に関するページなども参考になりますよ。